降伏点・耐力と引張強さ

引張試験機につかんだ試験片がくびれている様子と、割れた試験片、降伏の平らな部分と最大点のある応力−ひずみ曲線を描いたイメージ(AI で生成)

針金を少し曲げて手を離すと元に戻りますが、強く曲げると曲がったままになります。さらに引っぱり続けると、やがてちぎれます。「戻らなくなり始める強さ」が降伏点(耐力)、「ちぎれる前に耐えられる最大の強さ」が引張強さです。このページでは、引張試験と応力−ひずみ曲線、降伏点が出るしくみ、0.2%耐力、くびれ、材料ごとの値、降伏比、ボルトの強度区分、強くする方法、温度の影響、硬さからの見積もり、計算例を、できるだけやさしく説明します。

目次

ひとことで言うと

降伏点・耐力と引張強さとは

日本語版ウィキペディア「降伏 (物理)」は、降伏点を、力を取り除いても元に戻らない変形(塑性変形)が始まる応力としています。降伏点がはっきり出ない材料では、代わりに「0.2%耐力」を使います(同項目・日本建設業連合会の鉄骨工事 Q&A)。

日本語版ウィキペディア「応力-ひずみ曲線」は、引張試験で応力が最大になる点の値を引張強さと呼ぶとしています。応力は「力 ÷ 断面積」で、単位は N/mm²(=MPa)です。

上から、小さな力では力を抜くと元の長さに戻る(弾性)、降伏点を超える力では力を抜いても伸びが残る(降伏・塑性)、いちばん大きな力ではくびれて切れる(破断)様子を、引っぱっているときと力を抜いたあとで並べた図
図1 引っぱる力を大きくしていくと:戻る → 戻らない → 切れる
出典:ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

ものづくりでは、「形が変わってはいけない部品は降伏点(耐力)で、壊れなければよい場面や割れやすい材料は引張強さで」考えるのが基本です(後の「設計での使い分け」で説明します)。応力とひずみの基本は 基礎知識「応力とひずみ」、かたさ(変形のしにくさ)は 基礎知識「ヤング率」で扱っています。強さとかたさは別のものです。

出典:降伏 (物理)(旧「降伏点」)|ウィキペディア日本語版、応力-ひずみ曲線|ウィキペディア日本語版、鉄骨工事Q&A A-1-1(2019年改訂)|日本建設業連合会

測り方:引張試験と応力−ひずみ曲線

軟鋼の応力−ひずみ曲線。弾性の直線のあと上降伏点の山、ほぼ一定の力で伸びる下降伏点の区間、加工硬化で一様に伸びて引張強さに達し、くびれて破断するまでを示し、下に各段階の試験片の形を並べた模式図
図2 軟鋼の引張試験:応力−ひずみ曲線と試験片の形
出典:ウィキペディア日本語版、日本規格協会をもとに AI(Claude)で作成

降伏点と引張強さは引張試験で測ります。日本語版ウィキペディア「引張試験」は、試験片を破断するまで引っぱり、引張強さ・降伏点・伸び・絞りを測る試験としています。方法は JIS Z 2241「金属材料引張試験方法」に決められていて、2022年版は、国際規格 ISO 6892-1:2019 を基に一部を変えて作られています(日本規格協会の閲覧用資料)。

同じ資料の目次には、上降伏応力 ReH・下降伏応力 ReL・耐力(オフセット法)Rp・破断伸び A・絞り Zなどの測り方が並び、試験は室温(10〜35℃)で行うとしています。試験片の形も決まっていて、丸棒(14A号など)や板(5号・14B号など)の種類があります(国土技術政策総合研究所の資料。旧 JIS Z 2201 の試験片)。

曲線の4つの区間

  • 弾性:応力とひずみが比例し、力を抜くと元に戻る(傾きがヤング率)
  • 降伏:軟鋼では、上降伏点で力が少し下がり、ほぼ一定の力のまま伸びる(下降伏点)
  • 加工硬化:伸びるほど強くなり、力が上がっていく。試験片は全体が一様に細くなる
  • くびれ:最大の力(引張強さ)を過ぎると、1か所が細くなって力が下がり、やがて切れる

区間の分け方は、日本語版ウィキペディア「降伏 (物理)」「応力-ひずみ曲線」の説明をもとに編集部がまとめたものです。

出典:引張試験|ウィキペディア日本語版、JIS Z 2241:2022 金属材料引張試験方法(閲覧用)|日本規格協会、国総研資料(引張試験片の種類)|国土技術政策総合研究所、降伏 (物理)(旧「降伏点」)|ウィキペディア日本語版、応力-ひずみ曲線|ウィキペディア日本語版

軟鋼に降伏点が出るしくみ

左は原子の並びの中の転位(┴の記号)のまわりに小さな炭素・窒素の原子が集まって動きを止めている様子、右は降伏の間に伸びた帯(リューダース帯)が試験片を端から進んでいく様子を3段で示した模式図
図3 降伏点が出るしくみと、リューダース帯
出典:ウィキペディア日本語版、Wikipedia(英語版)をもとに AI(Claude)で作成

金属が伸びるのは、結晶の中の原子の並びのずれ(転位)が動くからです。日本語版ウィキペディア「降伏 (物理)」は、転位のまわりに溶けこんだ原子が集まる(コットレル雰囲気)と転位が動きにくくなり、上降伏点でこの固着から引き離されるという説明を紹介しています(同項目はほかの説も挙げています)。英語版ウィキペディア「Yield (engineering)」は、鋼の降伏点の伸びを、炭素とコットレル雰囲気によるものとしています。

リューダース帯とストレッチャーストレイン

英語版ウィキペディア「Lüders band」は、降伏が始まると伸びた帯(リューダース帯)ができ、試験片に広がっていくとしています。低炭素鋼や Al-Mg 系の一部のアルミ合金に現れ、薄い板をプレスで深く絞ると、表面に筋の模様(ストレッチャーストレインマーク)として残ることがあります。これを防ぐため、深絞り用の板はあらかじめ軽く冷間で圧延しておきます(調質圧延)。ただし時間がたつと原子がまた転位に集まり、模様が出るようになる(時効)としています。プレス加工は技術「板金・プレス加工」を参照してください。

出典:降伏 (物理)(旧「降伏点」)|ウィキペディア日本語版、Yield (engineering)|Wikipedia(英語版)、Lüders band|Wikipedia(英語版)

降伏点がはっきりしない材料:0.2%耐力

なめらかに曲がる応力−ひずみ曲線に、最初の直線部分と同じ傾きの線をひずみ0.2%だけ右にずらして引き、交わった点の応力を0.2%耐力Rp0.2として示した模式図
図4 0.2%耐力の求め方(オフセット法)
出典:日本規格協会、日本建設業連合会、ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

アルミ合金など、軟鋼のような降伏の山が出ず、曲線がなめらかに曲がっていく材料もあります(日本語版ウィキペディア「降伏 (物理)」)。日本建設業連合会の鉄骨工事 Q&A は、降伏点がはっきりしない材料では、降伏点の代わりに耐力を使うとし、JIS Z 2241 の耐力の求め方として、オフセット法・永久伸び法・全伸び法を挙げています。特に決めがなければ、残る伸び(塑性伸び)を0.2%とします(同資料)。

オフセット法では、曲線の最初の直線部分と同じ傾きの線を、ひずみ0.2%だけずらして引き、曲線と交わる所の応力を読みます。「力を抜いたら0.2%の伸びが残る応力」という意味で、記号は Rp0.2 です(JIS Z 2241 の目次・英語版ウィキペディア「Yield (engineering)」)。長さ100mm の部品なら、0.2mm 伸びたまま戻らない応力にあたります(編集部の計算)。

出典:鉄骨工事Q&A A-1-1(2019年改訂)|日本建設業連合会、JIS Z 2241:2022 金属材料引張試験方法(閲覧用)|日本規格協会、降伏 (物理)(旧「降伏点」)|ウィキペディア日本語版、Yield (engineering)|Wikipedia(英語版)

引張強さとくびれ:公称応力と真応力

公称応力の曲線は引張強さの点を過ぎると下がり、真応力の曲線は上がり続けることを示したグラフと、くびれた試験片の模式図
図5 くびれと、公称応力・真応力
出典:ウィキペディア日本語版、Wikipedia(英語版)をもとに AI(Claude)で作成

日本語版ウィキペディア「応力-ひずみ曲線」は、最大の応力を境に、試験片の一部の断面が局部的に小さくなる(くびれ、ネッキング)としています。応力は、ふつう変形する前の断面積で割った「公称応力」で表します。変形中の実際の断面積で割ったものは「真応力」で、くびれたあとも下がりません(同項目)。

つまり、引張強さのあとで曲線が下がるのは材料が弱くなったからではなく、くびれて断面が小さくなったためです。英語版ウィキペディアは、ねばりのある材料の設計には引張強さはあまり使わず、降伏点のない割れやすい材料では引張強さが大事になり、品質の管理や材料の見分けにも使うとしています。

出典:応力-ひずみ曲線|ウィキペディア日本語版、Ultimate tensile strength|Wikipedia(英語版)

材料ごとの値

SS400、SN490、SUS304、純チタン2種、A5052-H38、A6061-T6、ボルト強度区分10.9の降伏点または0.2%耐力と引張強さ、ABS系樹脂の1銘柄の引張強さを並べた横棒グラフ
図6 材料ごとの降伏点(耐力)と引張強さ
出典:日本建設業連合会、ウィキペディア日本語版、日本製鉄、鍋屋バイテック会社(NBK)、Plabaseをもとに AI(Claude)で作成
材料降伏点・耐力(N/mm²)引張強さ(N/mm²)値の種類
SS400(一般構造用圧延鋼材)245以上400〜510規格値(降伏点は厚さ16mm 以下)
SN490(建築構造用圧延鋼材)325〜445490〜610規格値
SUS304(ステンレス鋼)205以上520以上規格値
純チタン 2種215以上340〜510規格値
A5052-H38(アルミ合金)255290代表値
A6061-T6(アルミ合金)275310代表値
ボルト 強度区分10.9900(呼び)1,000(呼び)呼びの値
ABS 系樹脂(MABS)—55ある銘柄の例(ISO 527)

出典は、SS400 が日本語版ウィキペディア「SS400」(日本建設業連合会の表は、厚い板も含む降伏点の下限235〜)、SN490 が日本建設業連合会、SUS304 とチタンが日本製鉄の規格表、アルミ合金が鍋屋バイテック会社の技術資料、ボルトが同社の強度区分の資料、ABS 系は東レのトヨラック 910-X15 の物性(Plabase)です。規格値は「これ以上を保証する」最小の値、代表値は「ふつうこのくらい」の値なので、設計では規格値(最小値)を使います(編集部の解説)。

材料記号の数字は引張強さ

日本建設業連合会の鉄骨工事 Q&A は、JIS の鋼材の記号の数字(SS400 の400など)は引張強さの下限の値を表すとしています。一方、鉄筋などは降伏点(耐力)の下限の値を使うので、数字の大小だけで強さを比べにくいとも書いています。また、薄い鋼板の SPCC は引張強さを保証しない種類で、保証が要るときは記号の末尾に T を付けた SPCCT(270 N/mm² 以上)を指定します(日本製鉄の冷延鋼板カタログ)。

出典:SS400|ウィキペディア日本語版、鉄骨工事Q&A A-1-1(2019年改訂)|日本建設業連合会、NSSC SERIES 高強度オーステナイト系ステンレス鋼(規格値)|日本製鉄、チタン製品 規格表|日本製鉄、技術資料「アルミニウム合金」|鍋屋バイテック会社(NBK)、技術資料「強度区分に対する機械的性質(JIS B 1051:2000抜粋)」|鍋屋バイテック会社(NBK)、トヨラック 910-X15(東レ)の物性|Plabase、冷延鋼板カタログ|日本製鉄

降伏比:伸び始めてから切れるまでの余裕

SUS304、SS400、SN490、A6061-T6、ボルト10.9の降伏比(降伏点÷引張強さ)を39%から90%まで横棒で並べ、80%の線を引いた図
図7 材料ごとの降伏比(編集部の計算)
出典:日本製鉄、日本建設業連合会、鍋屋バイテック会社(NBK)をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

降伏比

降伏比 = 降伏点(耐力)÷ 引張強さ

降伏比が低い材料は、降伏してから切れるまでに、まだ力の余裕があります。たとえば SS400 は 245 ÷ 400 ≒ 61%、A6061-T6 は 275 ÷ 310 ≒ 89%です(規格の最小値・代表値から編集部が計算)。降伏比が高い材料は、伸び始めたらすぐ切れる力に近いので、大きく変形して知らせてくれる余裕が小さくなります(編集部の解説)。

日本製鉄の新日鉄技報 第387号は、1994年に JIS になった建築構造用圧延鋼材(SN 材)では、それまでの SS 材・SM 材の規定に加えて、溶接性と、耐震性のための低い降伏比・降伏点の上下限・シャルピー吸収エネルギーが決められたとしています。同じ論文は、降伏比80%以下を守りながら強い鋼を作るには引張強さも高くする必要があり、炭素などを増やすと溶接しにくくなるので、強さ・降伏比・溶接性のつり合いが大切だとしています。

出典:新構造システムの先駆けとなる降伏比緩和型高降伏点鋼板の開発(鈴木孝彦ほか、新日鉄技報 第387号、2007年)|日本製鉄、鉄骨工事Q&A A-1-1(2019年改訂)|日本建設業連合会、技術資料「アルミニウム合金」|鍋屋バイテック会社(NBK)

ボルトの強度区分「10.9」の読み方

10.9の前の数字10に100をかけた1,000 N/mm²が呼び引張強さ、後の数字0.9をかけた900 N/mm²が呼び耐力であることと、4.6・8.8・10.9・12.9の呼び引張強さと呼び降伏点・耐力の表
図8 ボルトの強度区分の読み方
出典:鍋屋バイテック会社(NBK)、三木プーリをもとに AI(Claude)で作成

鋼のボルトの頭に刻まれた「10.9」「8.8」などは、JIS B 1051 の強度区分です。鍋屋バイテック会社の技術資料の表では、前の数字×100 が呼び引張強さ、小数点の後の数字は、降伏点(耐力)が引張強さの何割かを表します(.6 は60%、.8 は80%、.9 は90%)。

強度区分呼び引張強さ(N/mm²)呼び降伏点・耐力(N/mm²)
4.6400240(下降伏点)
8.8(d ≦ 16mm)800640(0.2%耐力)
10.91,000900(0.2%耐力)
12.91,2001,080(0.2%耐力)

ただし同じ表で、10.9 の最小引張強さは1,040 N/mm² で、呼びの値と同じではありません。表では、8.8 以上は0.2%耐力で示しています。三木プーリの資料は、下降伏点 ReL が測れない場合は0.2%耐力 Rp0.2 によるとしています。強いボルトほど降伏比が高く、締めすぎると伸びが残り始めてから切れるまでの余裕が小さくなります(編集部の解説)。締め付けは課題「ねじ・ボルトがゆるむのを防ぎたい」、基礎知識「トルク」、強いボルトの遅れ破壊は課題「金属の水素脆化(遅れ破壊)を防ぎたい」を参照してください。

出典:技術資料「強度区分に対する機械的性質(JIS B 1051:2000抜粋)」|鍋屋バイテック会社(NBK)、Mechanical Properties of Steel Bolts and Screws (JIS B 1051)|三木プーリ

降伏点(耐力)を上げる方法

加工硬化(転位がからみ合う)、結晶粒を細かくする(粗い粒と細かい粒の比較)、焼入れ・焼戻し(加熱・急冷・焼戻しの温度の線)、合金・析出(原子の並びの中の小さな粒子)の4つの方法をカードにまとめた図
図9 金属の降伏点(耐力)を上げる主な方法
出典:ウィキペディア日本語版、Wikipedia(英語版)、日本製鉄をもとに AI(Claude)で作成

加工硬化

日本語版ウィキペディア「加工硬化」は、金属を塑性変形させると硬さが増す現象で、冷間加工が進むほど転位が増えて重なり合い、動きにくくなるとしています。冷間で圧延・引抜き・鍛造した材料が、焼なました材料より強いのはこのためです。そのかわり、伸びて変形できる余地は小さくなります(編集部の解説。技術「鍛造」)。

結晶粒を細かくする・合金にする・析出させる

英語版ウィキペディア「Yield (engineering)」は、結晶粒が小さいほど降伏強さが上がる(ホール・ペッチの関係 σy = σ0 + k ÷ √d)とし、ほかに、別の原子をとかし込む固溶強化、細かい粒子で転位の動きを止める析出強化を挙げています。新日鉄技報 第387号も、熱加工制御(TMCP)は組織を細かくして強くするために開発されたとしています。アルミ合金 6061 の T6 は、溶体化のあと人工的に時効させて析出強化を最大にした状態です。英語版ウィキペディア「6061 aluminium alloy」の値(T6 の最小は引張強さ290・耐力240 N/mm²、焼なましの O 材は引張強さ150以下・耐力83以下)で比べると、引張強さで約2倍、耐力で約3倍になります(編集部の計算)。

鋼の焼入れ・焼戻しや表面だけを強くする方法は、技術「表面硬化(窒化・浸炭・高周波焼入れ)」、課題「熱処理で歪む・割れるを減らしたい」を参照してください。

出典:加工硬化|ウィキペディア日本語版、Yield (engineering)|Wikipedia(英語版)、新構造システムの先駆けとなる降伏比緩和型高降伏点鋼板の開発(鈴木孝彦ほか、新日鉄技報 第387号、2007年)|日本製鉄、6061 aluminium alloy|Wikipedia(英語版)

温度による変化

横軸に0〜800℃、縦軸に常温の規格値に対する割合をとり、一般の鋼が約350℃で2/3に下がり、耐火鋼は600℃でも2/3以上を保つことを示した模式図
図10 温度が上がると鋼の降伏点(耐力)は下がる
出典:日本環境協会をもとに AI(Claude)で作成

金属は温度が上がると弱くなります。日本環境協会のエコマークの耐火鋼材の解説は、一般の鋼の高温での耐力は、およそ350℃で常温の規格値の2/3まで下がるとし、火災のときに建物の柱や梁に必要な耐力を下回るとしています。そこで、600℃で降伏点が常温の規格値の2/3以上になるように作った「耐火鋼」が開発され、耐火被覆を減らす・なくすのに使われています(同解説)。

高温で長い時間力がかかると、降伏点より低い応力でも少しずつ伸びていきます(基礎知識「クリープ」)。逆に低い温度では、鋼は割れやすく(脆く)なることがあり、強さとは別に「ねばり」を確かめます(基礎知識「靭性(シャルピー衝撃試験)」)。高温で使う材料は課題「高温でも使える材料にしたい」で扱っています。

出典:エコマーク商品類型 No.138 耐火鋼材【追加解説】|日本環境協会

硬さから引張強さを見積もる

横軸にビッカース硬さHV、縦軸に引張強さをとり、硬さ換算表の5つの点(HV160で515、248で785、302で950、327で1,025、382で1,215 N/mm²)と、HVの3.2倍の線を示したグラフ
図11 鋼の硬さ(HV)と引張強さの関係
出典:鍋屋バイテック会社(NBK)をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

引張試験は試験片を切り出して壊す必要がありますが、硬さなら部品の表面で測れます。鍋屋バイテック会社が載せている硬さ換算表(SAE J417)では、鋼のビッカース硬さ HV160 が引張強さ約515 N/mm²、HV302 が約950 N/mm²、HV382 が約1,215 N/mm² にあたります。鋼では、引張強さ(N/mm²)は HV のおよそ3.1〜3.2倍になります(表の値から編集部が計算)。

ただし換算はあくまで目安で、鋼以外の材料や、表面だけ硬くした部品には当てはまりません(編集部の解説)。硬さの測り方は 基礎知識「硬さ(ビッカース・ロックウェル)」を参照してください。

出典:技術資料「硬さ換算表(SAE J417)1983年改訂」|鍋屋バイテック会社(NBK)

設計での使い分けと計算例

直径10mmの丸棒(断面積約78.5mm²)について、SS400では許される力約12.8kN・伸びが残り始める約19.2kN・切れる約31.4kN、A6061-T6では約12.6kN・約18.8kN・約22.8kNを横棒で比べた計算例
図12 計算例:直径10mm の丸棒は何kN で伸び、何kN で切れる?
出典:ウィキペディア日本語版、Wikipedia(英語版)をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

軟鋼のようなねばりのある材料は降伏点を、鋳鉄のような割れやすい材料は引張強さを基準の強さにするのが基本です(編集部の解説)。許される応力(許容応力)は、基準の強さを安全率で割った値です。日本語版ウィキペディア「安全率」は、静かな荷重で壊れるのを考えるなら引張強さ、疲労なら疲労限度を基準にするとし、古いアンウィンの安全率の表(鋼の静かな荷重で3、衝撃で12 など)も紹介しています。繰り返し力がかかる部品は、基礎知識「疲労限度(S-N曲線)」で考えます。

計算例:直径10mm の丸棒

直径10mm の丸棒(断面積 π × 10² ÷ 4 ≒ 78.5 mm²)を引っぱる場合を、規格の最小値で比べます(説明のための条件。安全率は1.5 とした)。

材料(最小値)許される力(降伏点 ÷ 1.5)伸びが残り始める力切れる力
SS400(降伏点245・引張強さ400)約12.8 kN約19.2 kN約31.4 kN
A6061-T6(耐力240・引張強さ290)約12.6 kN約18.8 kN約22.8 kN

SS400 の値は日本語版ウィキペディア「SS400」(厚さ16mm 以下)、A6061-T6 の最小値は英語版ウィキペディア「6061 aluminium alloy」によります。降伏で決まる「許される力」はほぼ同じでも、切れるまでの余裕は SS400 が約1.6倍、A6061-T6 は約1.2倍と大きく違います(編集部の計算)。鍋屋バイテック会社のアルミ合金の資料も、A6061 はたわみを問題にしなければ SS400 と同じくらいの許容応力がとれるとしています。かたさ(たわみやすさ)はヤング率で決まり、アルミは鋼の約3分の1なので、別に確かめます(基礎知識「ヤング率」)。

出典:安全率|ウィキペディア日本語版、SS400|ウィキペディア日本語版、6061 aluminium alloy|Wikipedia(英語版)、技術資料「アルミニウム合金」|鍋屋バイテック会社(NBK)

ものづくりでどう効くか

似ている言葉との違い

降伏点(上・下)、0.2%耐力、引張強さ、降伏比、破断伸びと絞り、真応力、硬さHVについて、何を表すかを比べた表
図13 降伏点・耐力・引張強さのまわりの言葉の早見表
出典:日本規格協会、ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

降伏点は「戻らなくなり始める応力」、引張強さは「耐えられる最大の応力」、耐力は降伏点の代わりに決めた値です。カタログの「強度」が、降伏点(耐力)なのか引張強さなのか、規格値なのか代表値なのかを確かめることが大事です(編集部の解説)。「強い(引張強さが高い)」と「かたい(ヤング率が高い)」と「ねばり強い(靭性が高い)」も、それぞれ別の性質です。

出典

  1. 降伏 (物理)(旧「降伏点」)|ウィキペディア日本語版
  2. 応力-ひずみ曲線|ウィキペディア日本語版
  3. 鉄骨工事Q&A A-1-1(2019年改訂)|日本建設業連合会
  4. 引張試験|ウィキペディア日本語版
  5. JIS Z 2241:2022 金属材料引張試験方法(閲覧用)|日本規格協会
  6. 国総研資料(引張試験片の種類)|国土技術政策総合研究所
  7. Yield (engineering)|Wikipedia(英語版)
  8. Lüders band|Wikipedia(英語版)
  9. Ultimate tensile strength|Wikipedia(英語版)
  10. SS400|ウィキペディア日本語版
  11. NSSC SERIES 高強度オーステナイト系ステンレス鋼(規格値)|日本製鉄
  12. チタン製品 規格表|日本製鉄
  13. 技術資料「アルミニウム合金」|鍋屋バイテック会社(NBK)
  14. 技術資料「強度区分に対する機械的性質(JIS B 1051:2000抜粋)」|鍋屋バイテック会社(NBK)
  15. トヨラック 910-X15(東レ)の物性|Plabase
  16. 冷延鋼板カタログ|日本製鉄
  17. 新構造システムの先駆けとなる降伏比緩和型高降伏点鋼板の開発(鈴木孝彦ほか、新日鉄技報 第387号、2007年)|日本製鉄
  18. Mechanical Properties of Steel Bolts and Screws (JIS B 1051)|三木プーリ
  19. 加工硬化|ウィキペディア日本語版
  20. 6061 aluminium alloy|Wikipedia(英語版)
  21. エコマーク商品類型 No.138 耐火鋼材【追加解説】|日本環境協会
  22. 技術資料「硬さ換算表(SAE J417)1983年改訂」|鍋屋バイテック会社(NBK)
  23. 安全率|ウィキペディア日本語版

※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。

情報の確認日:2026年10月7日

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