ヒステリシス(磁気・機械)

作業台の上に、銅線を巻いたリング形のフェライトコア、閉じたヒステリシスループのグラフを描いたパネル、上下に金具の付いた円筒形の防振ゴムを並べたイメージ(AI で生成)

磁石を近づけた鉄くぎは、磁石を離してもしばらく磁石のままです。ゴムを伸ばして離すと、少し温かくなります。どちらも、力を加えるときと取りのぞくときで、ものの状態が同じ道を通って戻らないことから起きます。この性質をヒステリシスといいます。このページでは、ヒステリシスの意味、磁気のヒステリシス(残留磁束密度・保磁力・鉄損)、ゴムなど機械のヒステリシス、センサーの誤差、温度調節や電子回路でわざと使うヒステリシス、測り方を、できるだけやさしく説明します。

目次

ひとことで言うと

ヒステリシスとは

ヒステリシス(履歴現象)は、加える力を最初の状態と同じに戻しても、状態が完全には戻らないことです(日本語版ウィキペディア「ヒステリシス」)。いまの入力だけでなく、それまでにどう変えてきたか(履歴)で出力が決まります。

入力を増やして減らす1往復をグラフにすると、行きと帰りの線が分かれて輪(ヒステリシスループ)になります。輪で囲まれた面積の分のエネルギーが、1周ごとに熱になるのが大事な点です(同)。

入力を横軸、出力を縦軸にとったグラフで、入力を増やすとき(オレンジ)と減らすとき(紺)で別の曲線を通って輪になり、同じ入力でも出力が2つの値をとることを示した模式図
図1 行き(増やすとき)と帰り(減らすとき)で道筋が違う
出典:ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

日本語版ウィキペディアによると、語はギリシア語の hysterēsis(不足・不備の意味)から来ていて、1890年にジェームズ・ユーイングが名づけました。磁気の研究から生まれた言葉ですが、いまは磁気・材料・機械・計測・制御のどの分野でも使う言葉です(編集部の解説)。

出典:ヒステリシス|ウィキペディア日本語版

磁気のヒステリシス:B-H ループ

横軸に磁界の強さH、縦軸に磁束密度Bをとったヒステリシスループ。初磁化曲線から飽和し、Hを0に戻しても残る残留磁束密度Br、Bを0にする逆向きの磁界の保磁力Hcを示した模式図
図2 磁気のヒステリシスループ(B-H ループ)の読み方
出典:ウィキペディア日本語版、コトバンクをもとに AI(Claude)で作成

鉄などの強磁性体にコイルで磁界 H をかけると、材料の中の磁束密度 B が増え、やがて増えなくなります(飽和)。そこから H を0に戻しても B は0に戻らず、磁界を0にしても残る磁化を残留磁化といいます(B で表した値が残留磁束密度 Br。編集部の補足)。B を0に戻すには逆向きの磁界が要り、その強さを保磁力(Hc)といいます(日本語版ウィキペディア「ヒステリシス」、コトバンク「磁気ヒステリシス」)。

日本語版ウィキペディア(保磁力)は、保磁力を「磁化された磁性体を磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の強さ」とし、単位を A/m としています。ニデックの用語集は、保磁力を強磁性体が外部の磁界で減磁せずに耐えられる指標とし、1 Oe(エルステッド)≒ 80 A/m としています。

透磁率(基礎知識 「透磁率」)は B-H 曲線の傾き、ヒステリシスは行きと帰りの曲線のずれ、と分けて覚えると整理しやすくなります(編集部の解説)。

出典:ヒステリシス|ウィキペディア日本語版、磁気ヒステリシス|コトバンク、保磁力|ウィキペディア日本語版、保磁力(モーター技術用語集)|ニデック

細いループの鉄心、太いループの永久磁石

左は軟磁性材料の細いループ(保磁力が小さく損失が小さい。電磁鋼板・パーマロイ・フェライト)、右は硬磁性材料(永久磁石)の太いループ(保磁力が大きく逆向きの磁界に強い。フェライト磁石・ネオジム磁石)を並べた模式図
図3 細いループの軟磁性材料、太いループの硬磁性材料(永久磁石)
出典:ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

日本語版ウィキペディア(保磁力)は、永久磁石には大きい保磁力が、変圧器の磁芯などには小さい保磁力が望ましいとしています。鉄心は電流の向きが変わるたびに磁化の向きを変えるので、すぐに向きを変えられる(保磁力の小さい)材料がよく、永久磁石は外からの磁界や熱で磁力を失わない(保磁力の大きい)材料がよいのです(編集部の解説)。

保磁力を対数の目盛りで比べた横棒グラフ。電磁軟鉄SLCH01は64A/m、フェライト磁石(焼結)は3.9kOe(約310kA/m)、ネオジム磁石は13kOe(約1,030kA/m)、ネオジム磁石N38EHのHcJは2,387kA/m以上
図4 保磁力は材料で数千倍〜数万倍違う
出典:日本製鉄、日本電磁測器、ネオマグをもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

日本製鉄は、電磁軟鉄 SLCH01 の保磁力を64 A/m としています。日本電磁測器の資料の磁石の特性表では、保磁力(HcB)はフェライト磁石(焼結)で3.9 kOe、ネオジム磁石(NdFeB 系)で13 kOe です。kA/m に直すと約310 kA/m と約1,030 kA/m で(1 kOe = 約79.6 kA/m で編集部が換算)、鉄心の材料と永久磁石では、保磁力が数千倍から数万倍違います(SLCH01 と比べてフェライト磁石で約5,000倍、ネオジム磁石で約1万6,000倍。編集部の計算)。ネオマグの表では、耐熱グレードのネオジム磁石 N38EH の保磁力 HcJ は2,387 kA/m 以上です(課題「磁石の減磁を防ぎたい」)。

出典:保磁力|ウィキペディア日本語版、電磁鋼板の磁気特性|日本製鉄、マグ研 Vol.1|日本電磁測器、ネオジム磁石の磁気特性|ネオマグ

ヒステリシス損と鉄損

左はヒステリシスループの内側を塗り、その面積が1周で熱になるエネルギーであることを示した図。右は周波数を横軸にとり、ヒステリシス損は周波数に比例、渦電流損は周波数の2乗に比例して増えることを、50Hzで同じ大きさだった場合の例(200Hzでそれぞれ4倍と16倍)で示したグラフ
図5 ループの面積が1周ごとの損失。ヒステリシス損は周波数に比例する
出典:ウィキペディア日本語版をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

モーターや変圧器の鉄心で、磁化の向きが変わるたびに出る損失を鉄損といい、主にヒステリシス損と渦電流損に分かれます(日本語版ウィキペディア「鉄損」)。ヒステリシス損はヒステリシスループに囲まれた面積に比例し、周波数に正比例するとされ、スタインメッツの実験式 Ph = kh × f × Bm1.6(f は周波数、Bm は最大磁束密度)で表されます(同)。

渦電流損は、鉄心の中を回る電流(渦電流)による損失で、周波数の2乗と板厚の2乗に比例し、高周波になるほど渦電流損の割合が大きくなるとされます(同)。たとえば50Hz で2つの損失が同じ大きさだったとすると、200Hz ではヒステリシス損が4倍、渦電流損が16倍になります(説明のための例。同じ最大磁束密度で周波数だけを変えた場合の編集部の計算)。

日本製鉄は、鉄損を「鋼板を磁化したときに消費されるエネルギーで、小さいほど良い」としています。電磁鋼板が薄い板を絶縁して重ねてあるのは渦電流損を減らすためで(日本語版ウィキペディア「鉄損」)、ヒステリシス損を減らすには、保磁力が小さくループの細い材料を選びます(編集部の解説。課題「モーターの損失を減らしたい」)。

出典:鉄損|ウィキペディア日本語版、電磁鋼板の磁気特性|日本製鉄

機械のヒステリシス:ゴムは伸び縮みで熱を出す

横軸にひずみ、縦軸に応力をとり、ゴムを伸ばすとき(オレンジ)と戻すとき(紺)で別の曲線を通り、その間の面積が熱になることを示した図と、防振ゴムやタイヤで起きることの説明
図6 ゴムも、伸ばすときと戻すときで道が違う:面積が熱になる
出典:ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

ヒステリシスは磁気だけのものではありません。ゴムを伸ばしてから戻すと、伸ばすときより戻すときのほうが力が小さく、力と伸びのグラフは輪になります(編集部の解説)。日本語版ウィキペディア(転がり抵抗)は、ゴムは弾性と粘性の両方をもつ粘弾性体で、特に粘性は変形の運動エネルギーを熱エネルギーに換えて散らす性質が強いとしています。

同じページは、タイヤの転がり抵抗の9割程度を、ゴムが繰り返し変形するときのエネルギー損失(ヒステリシス・ロス)が占めるとしています。住友ゴム工業の資料(文部科学省)は、タイヤの転がり抵抗は自動車の燃費に約20%影響するとしています。日本ゴム協会誌の解説(横浜ゴム)は、シリカを配合したゴムは、カーボンブラックを配合したゴムより10Hz 付近の tanδ(損失正接。1回の変形で熱になる分の目安)が低く、転がり抵抗を下げられるとしています。

逆に、防振ゴムや制振材は、このヒステリシスで振動のエネルギーを熱に変えて弱める部品です(編集部の解説。技術「防振ゴム・制振材」)。同じ「ゴムの中で熱になる分」が、タイヤでは燃費を悪くし、防振ゴムでは振動を止める役に立ちます。ゴムが温度で硬さを変える話は 基礎知識 「ガラス転移点」、粘る性質は 基礎知識 「粘度」も見てください。

出典:転がり抵抗|ウィキペディア日本語版、量子ビームとスーパーコンピュータの連携利用による低燃費タイヤの開発(住友ゴム工業 岸本浩通)|文部科学省、網野直也「タイヤの摩擦と転がり抵抗」日本ゴム協会誌 88巻2号(2015年)|J-STAGE、粘弾性|ウィキペディア日本語版

歯車のすき間(バックラッシ)も、行きと帰りのずれ

左は歯と歯のあいだのすき間の模式図。右は入力の角度と出力の角度のグラフで、入力を増やすときと減らすときで出力がすき間の分ずれ、平行四辺形の輪になることを示した図
図7 歯車のすき間(バックラッシ)も、行きと帰りで出力がずれるヒステリシス
出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成

歯車やねじのすき間(バックラッシ)があると、回す向きを変えた直後はすき間の分だけ出力が動きません。入力の角度と出力の角度をグラフにすると、行きと帰りで出力がずれる輪になり、これも機械のヒステリシスです。位置決めでは、戻ったときの位置ずれになります(編集部の解説。課題「減速機のバックラッシを減らしたい」)。

センサー・計測器のヒステリシス(誤差)

荷重を横軸、出力を縦軸にとり、荷重を増やすときと減らすときで出力が違い、その差の最大値をヒステリシスとすることを示した図と、定格1kNのロードセルで0.02%ROなら最大0.2N、0.2%ROなら2N、1%ROなら10Nの差になる計算例
図8 計測器のヒステリシス:荷重を増やすときと減らすときの出力の差
出典:エー・アンド・デイ、ミネベアミツミをもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

センサーのカタログにも「ヒステリシス」という項目があります。エー・アンド・デイのセンサカタログは、ヒステリシスを負荷増加時と負荷減少時の変換器出力の差の最大値とし、通常は無負荷と定格負荷を往復させて測り、定格出力の百分率(%RO)で表すとしています。同じカタログのロードセルでは、ヒステリシスは0.015 %RO から2 %RO までと、機種で100倍以上違います。ミネベアミツミの小型圧縮型ロードセル LSM-B は1 %R.O.(一部の容量は0.5 %R.O.)です。

たとえば定格1kN のロードセルなら、0.02 %RO で最大0.2N、1 %RO で最大10N の差になります(編集部の計算)。荷重を上げながら測るか、下げながら測るかで値が変わるので、精密に測るときは測る向きをそろえ、カタログのヒステリシスが必要な精度に合うかを確かめます(編集部の解説。課題「ノイズでセンサー値が乱れる」)。

出典:センサカタログ(荷重変換器・圧力変換器)|エー・アンド・デイ、小型圧縮型ロードセル LSM-*-B|ミネベアミツミ

わざと使うヒステリシス:チャタリングを防ぐ

温度調節器の ON/OFF 制御

冷却の例で、温度が20.0℃まで上がると冷却がONになり、19.0℃まで下がるとOFFになって、温度が19.0〜20.0℃のあいだを上下する様子と、冷却出力のON・OFFの帯を示した図
図9 ON/OFF 制御のヒステリシス:ON と OFF の温度に隙間をつける
出典:SMCをもとに AI(Claude)で作成

ヒステリシスは「悪者」とは限りません。SMC の温調機器の用語集は、ON/OFF 制御で温度が設定値にとても近いと、少しの温度変化で出力が ON/OFF を繰り返すチャタリングが起き、出力リレーや接続された機器に悪い影響を与えることがあるので、ON と OFF の動作に隙間を与えて制御を安定させるとし、この隙間を調整感度(ヒステリシス)と呼んでいます。

同じ用語集の例では、冷却出力の ON 点(設定値)を20.0℃、ヒステリシスを1.0℃にすると、19.0℃まで下がると冷却が OFF、20.0℃まで上がると ON になります。隙間を大きくすると切り替えの回数は減りますが、温度の上下の幅は大きくなります(編集部の解説。課題「加熱・冷却の温度むらで品質がばらつく」)。

電子回路のシュミットトリガ

ノイズを含む入力を1つのしきい値で判定すると出力が何度も切り替わり、2つのしきい値(上を超えたらHigh、下を下回ったらLow)で判定すると出力が1回ずつしか切り替わらないことを比べた図
図10 しきい値を2つにして、ノイズでの出力のばたつきを防ぐ(シュミットトリガ)
出典:ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

電子回路ではシュミットトリガが同じ考え方です。日本語版ウィキペディア(シュミットトリガ)は、しきい値を2つ持ち、入力が高いしきい値を超えたら High、低いしきい値を下回ったら Low を出力し、その間は直前の出力を保つとし、入力が少々揺らいだ程度では出力が変化しないとしています。センサーの信号やスイッチの入力のように、しきい値の近くで揺れる信号を扱うときに使われます(同)。

出典:温調機器 用語集|SMC、シュミットトリガ|ウィキペディア日本語版

測り方

磁気はBHカーブトレーサーで試料に磁界をかけながらB-Hループを描き、ゴム・樹脂は動的粘弾性で正弦波の変形と応力の位相のずれからtanδを求め、センサーは荷重を段階的に往復させて出力の差を求めることを並べた図
図11 ヒステリシスの主な測り方
出典:日本電磁測器、JFEテクノリサーチ、エー・アンド・デイをもとに AI(Claude)で作成

磁性材料は、試料に磁界をかけながら B を測り、ヒステリシスループを描いて調べます。日本電磁測器の BH カーブトレーサーは、残留磁束密度 Br・保磁力 HcB と HcJ・最大エネルギー積 (BH)maxなどを測る装置で、電磁石を使う直流式のほか、強い磁界をかけられるパルス式もあります。JFEテクノリサーチは、電磁鋼板のヒステリシス曲線(B-H)の評価や、50〜400Hz などでの鉄損の測定を受けています。

ゴムや樹脂は、試料を正弦波で小さく繰り返し変形させ、力(応力)の波がひずみの波からどれだけずれるかを測ります(動的粘弾性測定)。ずれが大きいほど、1回の変形で熱になる分(tanδ)が大きいと読みます(編集部の解説)。センサーは、荷重を無負荷から定格まで往復させて出力の差を調べます(エー・アンド・デイ)。

出典:BH curve tracer(磁気測定器)|日本電磁測器、電磁鋼板の特性評価|JFEテクノリサーチ、センサカタログ(荷重変換器・圧力変換器)|エー・アンド・デイ

似ている言葉との違い

ヒステリシス、ヒステリシスループ、残留磁束密度Br、保磁力Hc、ヒステリシス損、渦電流損、tanδ(損失正接)、バックラッシ・不感帯の意味を1行ずつ並べた早見表
図12 ヒステリシスまわりの言葉の早見表
出典:ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

ヒステリシスは「行きと帰りの道の違い」そのもの、ヒステリシス損はそれで出る熱、保磁力と残留磁束密度は磁気のループの形を表す値です。損失や誤差を減らしたいときは輪を細く、磁石や記憶・チャタリング防止のように役立てたいときは輪を太くと考えると、ものづくりの場面で迷いにくくなります(編集部の解説)。

出典

  1. ヒステリシス|ウィキペディア日本語版
  2. 磁気ヒステリシス|コトバンク
  3. 保磁力|ウィキペディア日本語版
  4. 保磁力(モーター技術用語集)|ニデック
  5. 電磁鋼板の磁気特性|日本製鉄
  6. マグ研 Vol.1|日本電磁測器
  7. ネオジム磁石の磁気特性|ネオマグ
  8. 鉄損|ウィキペディア日本語版
  9. 転がり抵抗|ウィキペディア日本語版
  10. 量子ビームとスーパーコンピュータの連携利用による低燃費タイヤの開発(住友ゴム工業 岸本浩通)|文部科学省
  11. 網野直也「タイヤの摩擦と転がり抵抗」日本ゴム協会誌 88巻2号(2015年)|J-STAGE
  12. 粘弾性|ウィキペディア日本語版
  13. センサカタログ(荷重変換器・圧力変換器)|エー・アンド・デイ
  14. 小型圧縮型ロードセル LSM-*-B|ミネベアミツミ
  15. 温調機器 用語集|SMC
  16. シュミットトリガ|ウィキペディア日本語版
  17. BH curve tracer(磁気測定器)|日本電磁測器
  18. 電磁鋼板の特性評価|JFEテクノリサーチ

※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。

情報の確認日:2026年10月8日

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