金属組織(フェライト・オーステナイト・マルテンサイト)

材料の実験室の机の上に、金属顕微鏡と樹脂に埋めて磨いた鋼の試料、焼入れの水槽と赤く熱した鋼の棒、拡大した金属組織の円があるイメージ(AI で生成)

鋼の材料表や熱処理の指示書には、フェライト・オーステナイト・マルテンサイトといった「組織」の名前が出てきます。金属組織は、金属をつくる小さな結晶の粒の、種類・大きさ・並び方のことです。同じ鋼でも、加熱と冷やし方で組織が変わり、硬さやねばさ、磁石につくかどうかまで変わります。このページでは、鉄の原子の並び方から始めて、状態図の読み方、焼入れでマルテンサイトができるしくみ、ステンレス鋼の分け方、組織の調べ方、組織から起きる困りごとまでを、図で順に解説します。

目次

ひとことで言うと

金属組織とは

金属は、目で見ると一様ですが、小さな結晶(結晶粒)がすき間なく集まってできています。磨いた面を腐食液で処理して顕微鏡で見ると、粒の境目や、性質のちがう部分(相)が見えてきます。この見え方を金属組織と呼びます(編集部の解説)。

鋼(鉄と炭素の合金)の主な組織は、やわらかいフェライト、高温でできるオーステナイト、鉄と炭素の化合物のセメンタイト、フェライトとセメンタイトが層になったパーライト、急冷でできる硬いマルテンサイトです(各組織の出典は下の節)。

金属組織の模式図:左に目で見ると一様な鋼の部品、中央に顕微鏡で見た結晶粒の集まり、右に1つの粒の中で原子が規則正しく並び、粒ごとに並ぶ向きがちがうようす(境目が結晶粒界)
図1 金属は、小さな結晶(結晶粒)の集まり(模式図)
出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成

上の図の右のように、1つの粒の中では原子が規則正しく並んでいますが、粒ごとに並ぶ向きがちがいます。粒と粒の境目を結晶粒界といいます。新潟県工業技術総合研究所の解説は、結晶粒の大きさは材料の強度と密接に関係し、結晶粒径は塑性加工や熱処理によって大きく変わるとしています。

出典:ディープラーニングによる金属組織の結晶粒の大きさの認識(技術トピックス)|新潟県工業技術総合研究所

鉄の原子の並び方:体心立方と面心立方

体心立方(BCC)と面心立方(FCC)の単位格子の図:BCC は立方体の角8つとまん中に1つ、FCC は角8つと6つの面のまん中に原子がある。BCC はフェライト(α鉄)で炭素はほとんど溶け込まず(最大約0.02%)磁石につく。FCC はオーステナイト(γ鉄)で炭素が最大2.14%溶け込み、磁石につかない
図2 鉄の原子の並び方は2種類:体心立方(BCC)と面心立方(FCC)
出典:ウィキペディア日本語版、MONOistをもとに AI(Claude)で作成

鉄の原子の並び方には、体心立方(BCC)と面心立方(FCC)があります。立方体の角とまん中に原子がある形が体心立方、角と6つの面のまん中にある形が面心立方です(編集部の解説)。ウィキペディア日本語版は、面心立方の鉄(γ鉄)に他の元素が溶け込んだものをオーステナイトとし、fcc 構造で非磁性体になるとしています。

並び方がちがうと、炭素の溶け込み方も変わります。MONOist の解説は、フェライトの炭素の最大固溶量を0.02%としています。一方、ウィキペディア日本語版は、オーステナイトは1147℃で最大2.14%までの炭素を固溶できるとしています。焼入れで鋼を高温に加熱するのは、炭素をオーステナイトに溶け込ませるためです(編集部の解説)。

出典:オーステナイト|ウィキペディア日本語版、鉄鋼材料の組織:鉄鋼材料の基礎知識(7)|MONOist

純鉄の温度と原子の並び方の図:室温から911℃まではα鉄(フェライト、BCC)、911℃から1392℃まではγ鉄(オーステナイト、FCC)、1392℃から1538℃まではδ鉄(BCC)、1538℃より上は液体。911℃が A3 変態、1392℃が A4 変態
図3 純鉄は、温度によって原子の並び方が変わる(変態)
出典:ウィキペディア日本語版、MONOistをもとに AI(Claude)で作成

純鉄は、温度によって並び方が入れ替わります。ウィキペディア日本語版は、1気圧・純度100%の鉄では911〜1392℃の範囲がオーステナイトで、911℃を A3 点、1392℃を A4 点と呼ぶとしています。MONOist の解説は、912〜1394℃をオーステナイト、1394〜1538℃をデルタフェライトとし、1538℃を純鉄の融点としています(資料によって1〜2℃の差があります)。このように、温度で結晶の並び方が変わることを変態といいます(編集部の解説)。

出典:オーステナイト|ウィキペディア日本語版、鉄鋼材料の組織:鉄鋼材料の基礎知識(7)|MONOist

状態図で見る:フェライト・パーライト・セメンタイト

鉄-炭素状態図の鋼の部分の模式図:横軸は炭素の量0〜2.2%、縦軸は温度500〜1200℃。上の部分がオーステナイト、左の三角形がフェライト+オーステナイト、右がオーステナイト+セメンタイト。727℃の線の下は、炭素0.77%より少ないとフェライト+パーライト(亜共析鋼)、0.77%でパーライトだけ(共析)、多いとパーライト+セメンタイト(過共析鋼)。S45C(約0.45%)の位置と、約2.1%の鋼と鋳鉄の境目に点線
図4 鉄-炭素状態図(鋼の部分。模式図)
出典:ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

鋼の組織は、炭素の量と温度で決まります。それを1枚にまとめたのが、上の鉄-炭素状態図です(図は線の位置を簡略化した模式図)。ウィキペディア日本語版は、鋼を炭素量が0.0218〜2.14%の範囲の部分と定義し、これはフェライトとオーステナイトの最大固溶量に対応するとしています。それより多いものは鋳鉄です。

ウィキペディア日本語版の「パーライト」は、パーライトを、炭素0.77%のオーステナイトを727℃以下へゆっくり冷やしたときにできる共析組織とし、非常に薄い板状のフェライトとセメンタイトが交互に並んだ層状の組織で、冷却が速いほど層は薄くなるとしています。同じく「鋼」の項は、炭素0.77%の共析鋼はパーライトだけ、それより少ない亜共析鋼は初析フェライトとパーライト、多い過共析鋼は初析セメンタイトとパーライトからなるとしています(MONOist の解説は、共析点を炭素0.76%・727℃付近としています)。

セメンタイトは、鉄と炭素の化合物 Fe₃C です。MONOist の解説は、セメンタイトを非常に硬くて脆いとし、パーライトの層の間隔が狭いほど強度が高いとしています。機械部品によく使う S45C は炭素量0.42〜0.48%の鋼で(技術ページ「炭素鋼・合金鋼」)、状態図では亜共析鋼の位置にあります(編集部の解説)。

出典:鋼|ウィキペディア日本語版、パーライト|ウィキペディア日本語版、鉄鋼材料の組織:鉄鋼材料の基礎知識(7)|MONOist

冷やし方で組織が変わる:焼入れと焼戻し

冷やし方と組織の模式図:780〜900℃程度に加熱したオーステナイトを、ゆっくり冷やす(炉冷・空冷)とフェライト+パーライト(やわらかく、ねばい)、水や油で急に冷やす(焼入れ)とマルテンサイト(とても硬いが、もろい)。マルテンサイトを再び加熱する焼戻しで、硬さを少し下げてねばさ(靭性)を戻す
図5 同じ鋼でも、冷やし方で組織が変わる(模式図)
出典:新潟県工業技術総合研究所、ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

状態図は、ゆっくり冷やしたときの組織を表します。速く冷やすと、別の組織ができます。新潟県工業技術総合研究所の解説は、鋼の焼入れを、材料を780〜900℃程度に加熱してオーステナイトにしたあと、急冷してマルテンサイトを得る熱処理としています。同じ解説の実験では、S45C を850℃から水冷するとひげ状のマルテンサイトが、600℃で焼戻すと細かいソルバイトという組織が見られました。

急に冷やさず、中くらいの温度に保つと、ベイナイトという組織もできます。ウィキペディア日本語版は、ベイナイトはパーライトとマルテンサイトの中間的な組織で、等温保持では Ms 点(マルテンサイトができ始める温度)より上の約250〜550℃でできるとしています。

出典:実験メモ:焼入れ焼戻しを行った鋼の旧オーステナイト結晶粒界の現出(技術トピックス)|新潟県工業技術総合研究所、ベイナイト|ウィキペディア日本語版

鉄鋼の焼鈍し,焼入れ,焼戻し(YouTube の動画)
動画 鉄鋼の焼鈍し,焼入れ,焼戻し
出典:中田研究室 岐阜大学教育学部 技術教育講座(YouTube)

上の動画は、岐阜大学の中田研究室が中高生向けの公開講座用に作ったものです。説明欄によると、炭素がほとんど入っていない針金と炭素の多いピアノ線で焼なまし・焼入れ・焼戻しを比べ、炭素の多いピアノ線は焼入れでマルテンサイトに変わります。日本刀や和包丁の刃の部分も、焼入れでマルテンサイトになっているとしています。

出典:鉄鋼の焼鈍し,焼入れ,焼戻し(動画の説明)|中田研究室 岐阜大学教育学部 技術教育講座(YouTube)

マルテンサイトはなぜ硬いのか

ウィキペディア日本語版は、マルテンサイトを、体心正方格子の鉄の結晶に炭素が入り込んだ固溶体で、鉄鋼材料の組織の中で最も硬く脆い組織としています。拡散が十分に起きない速さで急冷すると、炭素が逃げる間もなく結晶の一方向を押し広げて入り込み、準安定な結晶になる(無拡散変態)と説明しています。

熱処理について学ぼう!③ 焼き入れするとなぜかたくなる?(YouTube の動画)
動画 熱処理について学ぼう!③ 焼き入れするとなぜかたくなる?
出典:ヒカリものづくりチャンネル(YouTube)

硬くなる代わりに、ねばさ(靭性)は下がります。同じ項目は、マルテンサイトができると硬さが上がる一方で靭性が下がるため、焼戻しをしてから使うことが多いとしています。焼入れと焼戻しの条件の選び方は、技術ページ「熱処理」で解説しています。

炭素の多い鋼では、焼入れのあとにオーステナイトが残ることがあります(残留オーステナイト)。モノタロウの講座(仁平宣弘)は、炭素の多い工具鋼では Ms 点が200℃くらいなのに対して、マルテンサイトになり終わる Mf 点は室温より低いため、室温でもマルテンサイトとオーステナイトが混ざった組織になるとしています。

出典:マルテンサイト|ウィキペディア日本語版、残留オーステナイトの功罪とサブゼロ処理の効果(工具の熱処理・表面処理基礎講座 2-4、仁平宣弘)|モノタロウ

ステンレス鋼は組織で分ける

ステンレス鋼の組織による分類の表:オーステナイト系 SUS304(Cr約18%・Ni約8%)は磁石につかない(弱磁性)、加工や低温で一部がマルテンサイトに変わる鋼種もある。フェライト系 SUS430(Cr約17〜18%)は磁石につく。マルテンサイト系 SUS410(Cr約13%)は磁石につき焼入れで硬くできる。二相系(UNS S32205 など、Cr約25%・Ni約4.5%)、析出硬化系 SUS630(Cr約17%・Ni約4%)も磁石につく
図6 ステンレス鋼は、室温での組織で分ける
出典:ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

ステンレス鋼は、室温での組織の名前でオーステナイト系・フェライト系・マルテンサイト系・二相系(オーステナイト・フェライト系)・析出硬化系に分けられます。ウィキペディア日本語版の物性の表では、オーステナイト系の SUS304 は弱磁性(非磁性)、フェライト系の SUS430 やマルテンサイト系の SUS410 は強磁性です。磁石につかなければオーステナイト系の可能性が高い、という程度の見当はつきます。ただし、加工したオーステナイト系が弱く磁石につくこともあります(編集部の解説)。

同じ項目は、ステンレス鋼の耐食性の源はクロムで、ニッケルはオーステナイトを安定させる代表的な元素としています。また、オーステナイトの安定度が低い鋼種では、塑性加工や低温で一部のオーステナイトがマルテンサイトに変わるとしています。マルテンサイト系は、名前のとおり焼入れでマルテンサイトにして硬くして使う系統です(編集部の解説)。種類ごとの選び方は、技術ページ「ステンレス鋼」で解説しています。

出典:ステンレス鋼|ウィキペディア日本語版

金属組織の調べ方

金属組織の調べ方の流れ:1 見たい面が出るように切る、2 小さな試料は樹脂に埋める、3 紙やすりと研磨剤で鏡のような面に磨く、4 腐食液(鋼ならナイタール=硝酸+エタノール)で組織を浮き出させる、5 金属顕微鏡で結晶粒の大きさや組織の種類と割合を調べる。結晶粒の大きさは JIS G 0551 の粒度番号 G で表し、G が1増すと1mm²あたりの粒の数が2倍
図7 金属組織の見方:切って、埋めて、磨いて、腐食して、顕微鏡で見る
出典:新潟県工業技術総合研究所をもとに AI(Claude)で作成

新潟県工業技術総合研究所の解説は、金属組織を観察するには、金属材料を鏡面に研磨したあと、腐食液で組織を浮き出させる必要があるとし、鋼の腐食液としてナイタル(硝酸1〜5mL、エチルアルコール100mL)とピクラルを挙げています。切断や樹脂への埋め込みは、試料を扱いやすくするための一般的な準備です(編集部の解説)。

結晶粒の大きさは、JIS G 0551(鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法)で求めます。同じ研究所の別の解説は、この方法の結晶粒度番号 G を、1mm² あたりの平均の粒の数 m が m=8×2ᴳ となる値と説明し、番号が1増えるごとに粒の数が2倍になるとしています。結晶粒が細かいほど降伏応力は高くなり(ホール・ペッチの関係)、高い安全性が求められる部品では、旧オーステナイト結晶粒の大きさまで図面で指示されることがあるとしています。

出典:実験メモ:焼入れ焼戻しを行った鋼の旧オーステナイト結晶粒界の現出(技術トピックス)|新潟県工業技術総合研究所、ディープラーニングによる金属組織の結晶粒の大きさの認識(技術トピックス)|新潟県工業技術総合研究所

構造材料工学講座~溶けた鉄から強靱な鋼が生まれるまで~(YouTube の動画)
動画 構造材料工学講座~溶けた鉄から強靱な鋼が生まれるまで~
出典:材料工学チャンネル九州大学(YouTube)

組織から起きる、ものづくりの困りごと

組織の状態と困りごとの表:焼入れしたままはとても硬いがもろく、焼戻しをする。残留オーステナイトが多いと寸法が年月で変わり研削で割れやすく、サブゼロ処理(-100℃程度)でマルテンサイトに変える。結晶粒が大きいと強度・衝撃値が下がる。強度の高い鋼は水素脆化(遅れ破壊)に注意がいり、材料と処理の条件を見直す。準安定オーステナイト系は加工・低温で一部がマルテンサイトに変わる
図8 組織の状態から起きる、ものづくりの困りごと
出典:ウィキペディア日本語版、モノタロウ、新潟県工業技術総合研究所をもとに AI(Claude)で作成

組織は、ものづくりの不具合にも直結します。モノタロウの講座(仁平宣弘)は、残留オーステナイトが多いと経年変化で寸法が安定せず、研削の熱で割れやすいとし、0℃より低く冷やすサブゼロ処理で残りをマルテンサイトに変えることを紹介しています。SKD11 の測定から、−100℃程度まで冷やせば大半がマルテンサイトに変わったと推察できる、としています。

ウィキペディア日本語版の「水素脆化」は、水素の吸収による破壊を「遅れ破壊」とも呼ぶとしています。焼入れで強くした高強度の鋼ほど、水素への注意が要るといわれます(編集部の解説)。焼入れの歪み・割れ、応力腐食割れ、工具の寿命など、組織がからむ課題は下のリンクから読めます。

出典:残留オーステナイトの功罪とサブゼロ処理の効果(工具の熱処理・表面処理基礎講座 2-4、仁平宣弘)|モノタロウ、水素脆化|ウィキペディア日本語版

出典

  1. ディープラーニングによる金属組織の結晶粒の大きさの認識(技術トピックス)|新潟県工業技術総合研究所
  2. オーステナイト|ウィキペディア日本語版
  3. 鉄鋼材料の組織:鉄鋼材料の基礎知識(7)|MONOist
  4. 鋼|ウィキペディア日本語版
  5. パーライト|ウィキペディア日本語版
  6. 実験メモ:焼入れ焼戻しを行った鋼の旧オーステナイト結晶粒界の現出(技術トピックス)|新潟県工業技術総合研究所
  7. ベイナイト|ウィキペディア日本語版
  8. 鉄鋼の焼鈍し,焼入れ,焼戻し(動画の説明)|中田研究室 岐阜大学教育学部 技術教育講座(YouTube)
  9. マルテンサイト|ウィキペディア日本語版
  10. 残留オーステナイトの功罪とサブゼロ処理の効果(工具の熱処理・表面処理基礎講座 2-4、仁平宣弘)|モノタロウ
  11. ステンレス鋼|ウィキペディア日本語版
  12. 水素脆化|ウィキペディア日本語版

※図はすべて、出典の説明をもとにした模式図です。図4の状態図は線の位置を簡略化しており、実際の境界の位置とは少しずれます。図5の組織の形・大きさは実際の顕微鏡写真とは異なります。

※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。

情報の確認日:2026年10月23日

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