ステンレスは磁石につく?(SUS304・SUS430 の違いと加工で磁性が出る理由)

ステンレスの板に磁石がつく様子と、つかない様子を並べたイメージ(AI[ChatGPT]で生成したイメージ画像)

ステンレスの流し台に磁石を当てると、くっつくものと、くっつかないものがあります。「磁石につくステンレスは偽物」「錆びやすい」という話を聞くこともありますが、これは正しくありません。ステンレスが磁石につくかどうかは、ステンレスの種類(金属組織)で決まり、同じ SUS304 でも曲げたり絞ったりした所だけ磁石につくことがあります。このページでは、磁石につくステンレスとつかないステンレスの違い、その理由になる原子の並び方、加工で磁性が出るしくみ、磁石で確かめるときの注意、非磁性が求められる使い道を、図で順に解説します。

目次

ステンレスは磁石につく?:ひとことで言うと

ステンレスと磁石

SUS430 などのフェライト系や、SUS410 などのマルテンサイト系は磁石につきます。SUS304 などのオーステナイト系は、ふつうは磁石につきません(ステンレス協会「ステンレスの概説」の表)。

ただし SUS304 でも、プレス加工などで大きく変形させた部分は磁石につくことがあります。成分は変わらないので、錆びにくさ(耐食性)も変わりません(日本製鉄「ステンレス よくあるご質問」)。

ステンレスが磁石につくかの図:SUS430などはつく、SUS304などはつかない、曲げたSUS304の角はつくことがある
図1 ステンレスが磁石につくかどうか:種類と加工で変わる
出典:ステンレス協会、日本製鉄をもとに AI(Claude)で作成

出典:ステンレスの概説|ステンレス協会、ステンレス よくあるご質問|日本製鉄

磁石につくステンレス・つかないステンレス:5つの系統

ステンレスは、金属組織によってマルテンサイト系・フェライト系・オーステナイト系・二相系(オーステナイト・フェライト系)・析出硬化系の5つに分けられます。ステンレス協会の資料では、このうち磁性「なし」はオーステナイト系だけで、ほかの4つは磁性「あり」です。

ステンレスの5つの系統と磁性の表:オーステナイト系だけ磁性なし、マルテンサイト系・フェライト系・二相系・析出硬化系は磁性あり
図2 ステンレスの5つの系統と磁性
出典:ステンレス協会をもとに AI(Claude)で作成
系統主な成分磁性代表的な鋼種(JIS)
マルテンサイト系13CrありSUS410、SUS420系
フェライト系18CrありSUS430、SUS430J1L、SUS443J1、SUS444、SUS445系
オーステナイト系18Cr-8NiなしSUS304、SUS316、SUS310S
二相系25Cr-5Ni-1.5MoありSUS329J1、SUS329J4L
析出硬化系17Cr-7Ni-1AlありSUS630、SUS631

同じ資料は、JIS の鋼板だけで60種類以上あるなかで、SUS304(18%Cr-8%Ni、18-8ステンレス)と SUS430(18%Cr)の2つが最も多く使われる代表鋼種だとしています。身の回りで「つく・つかない」が分かれるのは、主にこの2つの違いです。番号の付け方は、200番台と300番台の多くがオーステナイト系、400番台がマルテンサイト系とフェライト系、600番台が析出硬化系です(同資料)。

二相系は、オーステナイトとフェライトがまざった組織です(英語版 Wikipedia「Stainless steel」)。日本語版 Wikipedia「ステンレス鋼」は、二相系の磁性の強さはフェライトの割合で変わるが、基本的には強磁性だとしています。鋼種ごとの耐食性や選び方は、技術ページ「ステンレス鋼(SUS304・316 などの種類と選び方)」で解説しています。

出典:ステンレスの概説|ステンレス協会、Stainless steel|Wikipedia(英語版)、ステンレス鋼|Wikipedia

なぜ磁石につくか・つかないか:原子の並び方(結晶構造)

体心立方(BCC)と面心立方(FCC)の結晶構造の図:フェライト系はBCCで磁石につき、オーステナイト系はFCCでほとんどつかない
図3 体心立方(BCC)と面心立方(FCC)
出典:Wikipedia(英語版)、Wikipediaをもとに AI(Claude)で作成

金属の中では、原子が決まった形で規則正しく並んでいます(結晶構造)。鉄は、常温では立方体の角とまん中に原子が並ぶ体心立方(BCC)のフェライト(α鉄)で、強磁性です。911℃をこえると、立方体の角と各面のまん中に原子が並ぶ面心立方(FCC)のオーステナイト(γ鉄)に変わります(Wikipedia「鉄」)。

ステンレスもこの並び方で分かれます。フェライト系は体心立方、オーステナイト系は面心立方、マルテンサイト系は体心立方を少し引きのばした体心正方です(英語版 Wikipedia「Stainless steel」)。フェライト系の磁性は、体心立方の結晶構造によるものだと説明されています(同)。

本来なら高温でしか現れない面心立方を、常温でも保つのがニッケルです。300番台のオーステナイト系は、ほぼニッケルを加えることでオーステナイトの組織にしています(英語版 Wikipedia「Stainless steel」)。マンガンや窒素にも、オーステナイトを保つはたらきがあります(英語版 Wikipedia「Austenitic stainless steel」)。オーステナイト系は常磁性で、強い磁場の中でもわずかしか磁化しないため、非磁性の材料として扱われます(Wikipedia「ステンレス鋼」)。

金属の組織そのものは 技術の基礎知識「金属組織(フェライト・オーステナイト・マルテンサイト)」、物の磁化のしやすさは 技術の基礎知識「透磁率」で解説しています。

出典:鉄|Wikipedia、Stainless steel|Wikipedia(英語版)、Austenitic stainless steel|Wikipedia(英語版)、ステンレス鋼|Wikipedia

SUS304 でも加工すると磁石につく理由(加工誘起マルテンサイト)

SUS304の加工誘起マルテンサイトの図:曲げ・絞りで組織の一部がマルテンサイトに変わり、加工した所が磁石につく
図4 加工誘起マルテンサイト:強く加工した所だけ磁性が出る
出典:日本製鉄、ステンレス協会、Wikipedia(英語版)、Wikipediaをもとに AI(Claude)で作成

SUS304 は、素材のままでは磁石につきません。しかし、プレス加工などで大きく変形させた部分は、磁石につくようになることがあります。加工のひずみで組織の一部がマルテンサイトに変わるためで(日本製鉄「ステンレス よくあるご質問」)、これを加工誘起マルテンサイト変態といいます。SUS304 のように変わりやすいものを「準安定オーステナイト系」と呼び、この加工誘起変態のために、加工による強化の効果が極めて大きくなります(ステンレス協会「ステンレスの概説」)。

英語版 Wikipedia「Stainless steel」は、オーステナイト系を曲げたり切ったりすると、結晶構造が変わるために縁の部分に磁性が出るとしています。シンクの角、深く絞ったカップ、ねじやばねの線材など、強く加工した所ほど磁石につきやすくなります(例は編集部の補足)。

加工しても磁石につきにくい鋼種もある

日本製鉄は、鋼種によっては大きく変形させても磁石につかないものがあり、用途に合わせて選べるとしています(日本製鉄「ステンレス よくあるご質問」)。加工した後も非磁性が必要な部品では、加工後の磁性まで仕様に書いて、材料メーカーに鋼種を相談します(この一文は編集部の補足)。

もとにもどす:固溶化熱処理

加工でできたマルテンサイトは、固溶化熱処理(溶体化処理)でもとのオーステナイトにもどせます(英語版 Wikipedia「Austenitic stainless steel」)。固溶化熱処理は、主にオーステナイト系と二相系に行う処理で、おおよそ950〜1150℃に加熱してから急冷します(Wikipedia「ステンレス鋼」)。

加工で磁性が出たときに気をつけること

SUS304 などを深く絞った直後には問題がなくても、時間がたってから割れる時期割れが起きることがあります。絞り加工で残った引張りの残留応力のもとで、加工でできたマルテンサイトが水素でもろくなる、一種の遅れ破壊とされています。マルテンサイトを抑える対策として、加工の温度を上げる、ニッケルを増やした材料を使う、などがあります(日本製鉄「ステンレス よくあるご質問」)。加工で硬くなるしくみは 技術の基礎知識「加工硬化」、加工の後に残る力は 技術の基礎知識「残留応力」で解説しています。

出典:ステンレス よくあるご質問|日本製鉄、ステンレスの概説|ステンレス協会、Stainless steel|Wikipedia(英語版)、Austenitic stainless steel|Wikipedia(英語版)、ステンレス鋼|Wikipedia

「磁石につく=偽物・錆びる」は誤解:磁石で確かめるときの注意

磁石でステンレスを確かめるときの考え方の図:わかるのは系統の見当まで。鋼種・耐食性・本物かどうかは磁石では決められない
図5 磁石で確かめるときの考え方(編集部まとめ)
出典:ステンレス協会、日本製鉄をもとに AI(Claude)で作成

SUS430 などのフェライト系は、もともと磁石につくステンレスで、厨房・家電・建材などに広く使われています(ステンレス協会「ステンレスの概説」)。磁石につくからといって、ステンレスでないとは言えません。

また、SUS304 が加工で磁石につくようになっても、成分は変わらないので耐食性は変わりません(日本製鉄「ステンレス よくあるご質問」)。同じ資料は、ステンレスの耐食性はめっきのような表面処理ではなく素材そのものによるので、加工や表面の傷では変わらない、ともしています。錆びにくさを決めるのは、クロムやモリブデンなどの成分と、使う環境です。錆びる原因と対策は、課題ページ「ステンレスの錆び(もらい錆・孔食)を防ぎたい」にまとめています。

磁石でわかるのは、「オーステナイト系か、それ以外か」の見当までです。加工した SUS304 はつくことがあり、鋼種(SUS304 か SUS316 か)までは決められません。鋼種を確かめるには、材料の証明書(ミルシート)や成分分析を使います(この段落は日本製鉄の説明をもとにした編集部のまとめ)。

出典:ステンレスの概説|ステンレス協会、ステンレス よくあるご質問|日本製鉄

ものづくりでどう効くか:非磁性が必要な使い道

オーステナイト系ステンレスの比透磁率の棒グラフ:1050℃で2時間焼なまし後、1.000〜1.100
図6 オーステナイト系の比透磁率(1050℃・2時間の焼なまし後)
出典:Wikipedia(英語版)をもとに AI(Claude)で作成

非磁性のオーステナイト系は、磁石や磁場の影響を避けたい所で使われます。日本語版 Wikipedia「ステンレス鋼」は、各種の検査機器、携帯電話の部品、ハードディスクドライブなどで非磁性であることが利点になるとしています。英語版 Wikipedia「Stainless steel」は、非磁性の材料が必要な例として MRI(磁気共鳴画像装置)を挙げています。

どのくらい磁化しにくいかは、比透磁率(真空を 1 としたときの磁化のしやすさ)で表します。英語版 Wikipedia「Stainless steel」は、1050℃で2時間焼なましたオーステナイト系の比透磁率として、次の値を示しています。

鋼種(EN 規格)近い JIS 鋼種(編集部の補足)比透磁率
1.4301SUS3041.011
1.4307SUS304L1.056
1.4404SUS316L1.100
1.4435SUS316L 系1.000

どれも 1 に近い値です。ただし、前の節のとおり、加工でマルテンサイトができると磁性が出るので、非磁性が条件の部品は「加工した後の状態」で確かめることが大切です(この一文は編集部の補足)。

あえて磁性を使う例・分けるときの例

反対に、磁性が必要な所では、磁石につくステンレスを使います。IH調理器に使う鍋には、磁性のあるフェライト系や普通鋼と重ね合わせたステンレスクラッド鋼が使われます。リサイクルでは、オーステナイト系は非磁性なのでほかの鉄スクラップと分けやすく、フェライト系・マルテンサイト系は磁性があるので分けにくい、とされています(いずれも Wikipedia「ステンレス鋼」)。

磁石そのものの種類と選び方は、技術ページ「永久磁石(ネオジム・フェライト・サマコバの選び方)」で解説しています。

出典:ステンレス鋼|Wikipedia、Stainless steel|Wikipedia(英語版)

出典

  1. ステンレスの概説|ステンレス協会
  2. ステンレス よくあるご質問|日本製鉄
  3. Stainless steel|Wikipedia(英語版)
  4. ステンレス鋼|Wikipedia
  5. 鉄|Wikipedia
  6. Austenitic stainless steel|Wikipedia(英語版)

※図は、出典の説明をもとに編集部がまとめた模式図です。

※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。

情報の確認日:2026年10月31日

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次