インバーターのヒートシンクが大きく重い。電源の効率をあと1〜2%上げないと、基準に届かない。SiC や GaN に替えれば損失が減ると聞くが、素子が高く、ゲートの回路やノイズの対策も変わるらしい――。Si の IGBT・MOSFET から SiC・GaN への置き換えでは、どの用途で、損失・周波数・部品の大きさ・コスト・設計の手間がどう変わるかを、今の素子と比べて決めることが要ります。
この記事では、今の素子で損失と発熱が減らない理由を確かめ、置き換え先の候補(ダイオードだけ SiC にするハイブリッド SiC、SiC MOSFET、GaN HEMT)を、鉄道・電動車・太陽光・サーバー電源・充電器・産業用モーターの6つの用途で比べ、ゲート駆動・短絡・ノイズ・熱の注意と、相談できる企業を紹介します。素子のしくみ・種類・データシートの見方は技術ページ「SiC・GaN のパワー半導体」で、回路方式や磁性部品まで含めた電源の効率の上げ方は「電源の変換効率を上げたい」、モーター側の損失は「モーターの損失を減らしたい」で扱っています。
今の素子(Si の IGBT・MOSFET)の課題
損失は「導通」と「スイッチング」の2つ
パワー半導体の損失は、オンのあいだに流れる電流とオン抵抗(オン電圧)で決まる導通損失と、オンとオフを切り替えるたびに電圧と電流が重なって出るスイッチング損失に分けられます。Si の IGBT は、ターンオフのあとにテール電流が流れ、ダイオードの逆回復の電流も相手の素子のターンオンの損失を増やします。Infineon は、SiC MOSFET は電子だけで電流を運ぶユニポーラの素子なので、テール電流と、逆回復に由来するターンオンの損失がないとしています。

出典:Infineon「Power devices based on silicon carbide」をもとに AI(Claude)で作成
Si の MOSFET は速く切り替えられますが、高い電圧に向きません。ロームは、スーパージャンクション(SJ)の MOSFET は一般に 900V 程度までの製品しかなく、それ以上の耐圧ではスイッチングの遅い IGBT を使う必要があった、としています。同じ 650V クラスでは、SiC MOSFET は Si の MOSFET の約100分の1、SJ-MOSFET の約10分の1のチップの大きさで同じオン抵抗にできるとしています。
周波数を上げると、部品は小さくなるが損失が増える
スイッチング損失は、1回の切り替えの損失に周波数を掛けたものです。周波数を上げると、リアクトル・コンデンサ・トランスを小さくできますが、Si の素子ではスイッチング損失が増えて発熱が大きくなります。損失の小さい素子に替えると、同じ周波数で損失と発熱を減らすか、損失をあまり増やさずに周波数を上げて部品を小さくするかを選べるようになります。

出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成
損失が減れば、冷やす部品も小さくできます。日立は、SiC のハイブリッドモジュールを使った鉄道車両用のインバーターで、Si を使ったインバーターより体積と質量を40%減らしたと発表しています(2012年)。部品の発熱そのものの抑え方(熱の逃げ道・放熱材料・冷却部品)は「小型化で部品の温度が上がる」で扱っています。
電源には、高い効率の基準がある
サーバーの電源ユニットの効率の認証 80 PLUS では、データセンター向けの 230V の冗長電源の Titanium で、負荷率50%で96%、10%の軽い負荷でも90%の効率が求められます。さらに上の Ruby は、負荷率50%で96.5%です。これだけの効率を、決まった大きさの中で出すには、素子の損失を減らすことが欠かせません。

出典:CLEAResult「80 PLUS PSU Ratings explained」をもとに AI(Claude)で作成
出典:Power devices based on silicon carbide – how to manage them at system level(CS MANTECH 2022)|Infineon、第4世代 SiC MOSFET の諸特性と回路設計の注意点|ローム、鉄道車両用推進制御システムの最新動向(三菱電機技報 2018年7月)|三菱電機、シリコン・カーバイド素子を用いて小型・軽量化を図る 耐圧1,500V級対応の鉄道車両用インバーターを開発(2012年4月16日)|日立製作所、80 PLUS PSU Ratings explained|CLEAResult
置き換え先の候補
SiC(炭化ケイ素)と GaN(窒化ガリウム)は、Si よりバンドギャップが広い半導体です。三菱電機の資料では、絶縁破壊電界が Si の約10倍で、電圧を受け止める層を薄くできるため、同じ耐圧でオン抵抗を小さくできます。SiC は熱伝導率が Si の約3倍で、熱酸化でゲートの酸化膜を作れるので、MOSFET を作りやすい材料です。

出典:三菱電機「SiC の物理的性質」をもとに AI(Claude)で作成

出典:サンケン電気株式会社 Sanken Electric(YouTube)
置き換え先は、ダイオードだけを SiC にする方法、トランジスタも SiC にする方法、GaN にする方法の3つに分けられます。素子そのもののしくみと、耐圧・電力による選び分けは、技術ページ「SiC・GaN のパワー半導体」で解説しています。
ダイオードだけ SiC にする(ハイブリッド SiC)
IGBT はそのままにして、組み合わせるダイオードだけを SiC のショットキーバリアダイオード(SBD)にする方法です。SBD は逆回復の電流がほとんどないので、ダイオードの損失と、相手の IGBT のターンオンの損失が減ります。三菱電機は、2012年2月から、直流750/600V の架線の鉄道の推進制御システムにハイブリッド SiC を使い、システムとして24%の省エネの効果を上げたとしています。
ゲートの回路など、IGBT まわりの設計を大きく変えずに始められるのが利点です。富士電機は、IGBT と SiC の SBD を組み合わせたハイブリッド SiC モジュール(1,200V・1,700V)を製品にしています。電源の昇圧回路でも、Si の高速ダイオードを SiC の SBD に替える使い方があります(Wave Technology)。
トランジスタも SiC にする(SiC MOSFET・フル SiC)
トランジスタも SiC の MOSFET にすると、テール電流がなくなり、スイッチング損失が大きく減ります。三菱電機は、第二世代の SiC チップを使った産業用のフル SiC モジュール(1,700V/600A)で、Si の IGBT モジュールと比べて電力損失を約72%減らし、内部のインダクタンスを約47%減の 9nHにしたとしています(2023年、同社の条件)。

出典:三菱電機技報(2018年7月)・日立製作所(2012年4月16日)・Car Watch(2023年)・三菱電機(2023年6月13日)・Infineon「Power devices based on silicon carbide」をもとに AI(Claude)で作成
公表されている数字は、システム全体の省エネ、インバーターの損失、モジュールの損失と、比べ方が例ごとに違います。自分の装置で効果を見積もるときは、同じ運転条件(電圧・電流・周波数・温度)で、今の素子と候補の損失を計算し直します。
GaN HEMT にする
GaN HEMT は、650V 級を中心に、数十W〜数kW の電源で使われています。ロームの 650V の GaN HEMT(GNP1070TC-Z)は、逆回復の電荷(Qrr)が 0nCで、ブリッジ回路で逆回復の損失が出ません。一方、ゲートの電圧の最大定格は −10〜+6V(DC)と狭く、しきい値も 1.0〜2.4V と低めです。Infineon は、600V の GaN HEMT で 2.5kW のトーテムポール PFC の評価基板を作り、広い負荷の範囲で効率 99%超を示しています。

出典:ローム「GNP1070TC-Z」・Infineon「IGL65R140D2」・Infineon「EVAL-2500W-PFC-GAN-A」・Compound Semiconductorをもとに AI(Claude)で作成

出典:TOKYO ELECTRON DEVICE Semiconductor(YouTube)
GaN を送電側のインバーターに使ったワイヤレス給電の実証の例は、技術ページ「ワイヤレス給電」で紹介しています。
出典:SiC レクチャーシリーズ 4. SiC の物理的性質|三菱電機、鉄道車両用推進制御システムの最新動向(三菱電機技報 2018年7月)|三菱電機、ハイブリッド SiC モジュール|富士電機、SiCデバイスを使って電源を高効率化してみました|Wave Technology、産業用フル SiC パワー半導体モジュール NX タイプ サンプル提供開始(2023年6月13日)|三菱電機、耐圧1,500V級対応の鉄道車両用インバーターを開発(2012年)|日立製作所、デンソー、SiCパワー半導体を用いたインバーターを初開発 レクサスの新型「RZ」に搭載(2023年)|Car Watch、Power devices based on silicon carbide(CS MANTECH 2022)|Infineon、GNP1070TC-Z Datasheet|ローム、IGL65R140D2 Datasheet|Infineon、EVAL-2500W-PFC-GAN-A|Infineon、Transphorm and Silanna develop 65W USB-C GaN-based Design|Compound Semiconductor
用途と置き換え先の比較表
行が用途、列が置き換え先の候補です。◎は第一候補、○は有効、△は条件によって有効を表します。用途の行をクリックすると、理由と出典を書いたカードに移ります。
| 課題(症状) | ダイオードだけ SiC (ハイブリッド SiC) | SiC MOSFET (フル SiC) | GaN HEMT |
|---|---|---|---|
| A鉄道など、高い電圧・大きな電力のインバーター | ○ | ◎ | |
| B電動車の駆動インバーター | ◎ | ||
| C太陽光のパワーコンディショナー・産業用の電源 | ○ | ◎ | |
| Dサーバー・データセンターの電源(PFC・DC-DC) | △ | ○ | ◎ |
| E小型の AC アダプター・USB の充電器 | ◎ | ||
| F産業用モーターのインバーター・サーボアンプ | ○ | △ |
◎ 第一候補○ 有効△ 条件によって有効
◎・○・△の理由と出典は、下の「用途ごとの選び方」の各カードに書いています。空欄は、その用途で置き換えた例や向く理由を、公開の資料で確かめられなかった組み合わせです。記号は、メーカー・鉄道会社・研究機関が公表している情報をもとにした編集部の評価です。
用途ごとの選び方
用途(A〜F)ごとに、比べた結果、候補、置き換えるときの注意をまとめました。
鉄道など、高い電圧・大きな電力のインバーター
直流1,500V の架線の電車など、耐圧が 1,700V 以上・電流が数百A の素子を使うインバーターの損失と、床下の機器の大きさを減らしたい。
- 比べた結果
- 三菱電機は、ダイオードだけ SiC にした推進制御システム(直流750/600V の架線)で24%の省エネ、トランジスタもダイオードも SiC にしたフル SiC の推進制御システム(直流1,500V の架線、2015年1月から営業運転)で、既存のシステムより約40%の消費電力の低減を達成したとしています。日立は、1,500V 架線用の SiC ハイブリッドモジュールのインバーターで、Si と比べて体積と質量を40%、電力損失を35%減らしたと発表しました(2012年)。
- 候補
- SiC MOSFET(◎)フル SiC で消費電力約40%減の例
- ハイブリッド SiC(○)ダイオードだけ替えて省エネ24%・損失35%減の例
フル SiC の約40%は、SiC の特長に合わせて設計した主電動機と組み合わせた、システムとしての値です(三菱電機)。素子だけを替えた効果と、モーターや冷却を設計し直した効果を分けて見ます。GaN の素子は 600〜650V 級の例が多く(ローム・Infineon のデータシート)、この電圧には耐圧が足りません。
電動車の駆動インバーター
電動車(BEV)のモーターを回すインバーターの損失を減らし、電費(1kWh で走れる距離)を上げたい。
- 比べた結果
- デンソーは、同社で初めて SiC のパワー半導体を使い、レクサス RZ に載せたインバーターで、特定の走行条件で電力損失を半分以下にしたと発表しました(2023年、報道)。三菱電機の産業用のフル SiC モジュールでは、第二世代の SiC で Si の IGBT モジュールより電力損失を約72%減らしたとしています(同社の条件)。
- 候補
- SiC MOSFET(◎)電力損失を半分以下にした量産車の例
電動車の電池の電圧は 400V 級・800V 級があり、素子の耐圧(650V・1,200V)をそれに合わせて選びます。SiC は短絡に耐えられる時間が短く、ゲートの電圧の決め方も IGBT と違うので、ゲート駆動と保護の回路を作り直します(下の「置き換えるときの注意」)。
太陽光のパワーコンディショナー・産業用の電源
太陽光発電のパワーコンディショナーや、数 kW の産業用の電源の変換効率を上げ、小さくしたい。
- 比べた結果
- 三菱電機は、住宅用のパワーコンディショナーにフル SiC の IPM を使い、電力変換効率 98.0%にしました(2015年。リアクトルの低損失化などもあわせた値)。Wave Technology は、パワーコンディショナーの昇圧 DC-DC で Si のダイオードを SiC の SBD に替えると、導通損失とリカバリ損失が減り、周波数を上げてコイルを小さくできたとしています。
- 候補
- SiC MOSFET(◎)フル SiC の IPM で効率 98.0%の例
- ハイブリッド SiC(○)昇圧回路のダイオードを SiC の SBD に
周波数を上げてコイルを小さくすると、周波数の高調波のノイズが出て、雑音端子電圧の試験で対策が要った例があります(Wave Technology)。EMC の試験の計画を、素子を替える段階から入れておきます。
サーバー・データセンターの電源(PFC・DC-DC)
サーバーの電源ユニットを、80 PLUS Titanium など高い効率の基準に合わせたい。
- 比べた結果
- 80 PLUS の Titanium(230V の冗長電源)は、負荷率50%で96%の効率を求めます。Infineon は、600V の GaN HEMT を使った 2.5kW のトーテムポール PFC の評価基板で、広い負荷の範囲で効率 99%超を示しています。同社は別の資料で、スーパージャンクションの Si MOSFET では、トーテムポール PFC に要る小さな逆回復の電荷と出力の電荷を満たせないとしています。ロームは、SiC MOSFET の第4世代でボディダイオードのリカバリ電流がほとんど流れず、トーテムポール PFC などで損失を大きく減らせるとしています。
- 候補
- GaN HEMT(◎)トーテムポール PFC で効率 99%超の評価基板
- SiC MOSFET(○)リカバリの小さい SiC MOSFET
- ハイブリッド SiC(△)PFC の昇圧回路のダイオードを SiC の SBD に
評価基板の効率は、電源ユニットの認証の値ではありません。高い周波数での損失は、測定器の位相の誤差で大きく違って見えることがあるので、電力計と電流センサーの帯域と位相の誤差を確かめて測ります(日置電機)。
小型の AC アダプター・USB の充電器
スマートフォンやノートパソコンの充電器を、同じ出力のまま小さくしたい。
- 比べた結果
- Transphorm と Silanna は、GaN を使った 65W の USB-C PD の充電器の設計で、ピーク効率 94.5%、ケースなしで 30 W/in³ の電力密度を示しています。一般に、スイッチングの損失が小さい GaN は周波数を上げやすく、トランスなどの部品を小さくしやすい素子です。
- 候補
- GaN HEMT(◎)65W の USB PD 充電器の設計例
GaN のゲートの電圧の最大定格は +6V(DC)程度と低く(ローム GNP1070TC-Z)、しきい値も 1〜2V 台です。ゲートのサージで壊したり、ノイズで誤ってオンしたりしないよう、ゲート駆動の IC と基板の配置を素子に合わせます。
産業用モーターのインバーター・サーボアンプ
汎用インバーターやサーボアンプの損失を減らし、強制空冷のファンをなくしたい・小さくしたい。
- 比べた結果
- Infineon は、スイッチングの速さを抑えるモーター駆動でも、部分負荷での導通損失の低減とテール電流・逆回復がないことで損失が減り、サーボドライブで同じ EMC のレベルのまま、システムの損失を最大80%減らせるとしています。長岡パワーエレクトロニクスは、GaN を使った小型・軽量のインバーターの開発の実績を公表しています。
- 候補
- SiC MOSFET(○)サーボドライブで損失を最大80%減らせるとする資料
- GaN HEMT(△)小型・軽量のインバーターの開発例
モーター駆動では、速いスイッチングがそのまま使えるとは限りません。パワーモジュールのメーカーの Vincotech は、モーター駆動には dv/dt の制限があり、SiC は遅くして使う必要があること、ケーブルが長いとモーターの端子で直流の2倍の電圧になること、軸受の電流(電食)も増えることを挙げ、制限しているのは半導体ではなくその後ろのシステムだとしています。
出典:鉄道車両用推進制御システムの最新動向|三菱電機、耐圧1,500V級対応の鉄道車両用インバーターを開発(2012年)|日立製作所、レクサスRZのSiCインバーター(2023年)|Car Watch、産業用フルSiCパワー半導体モジュール NXタイプ|三菱電機、国内住宅用パワーコンディショナ PV-Kシリーズ(三菱電機技報 2015年10月)|三菱電機、SiCデバイスを使って電源を高効率化してみました|Wave Technology、80 PLUS PSU Ratings explained|CLEAResult、EVAL-2500W-PFC-GAN-A|Infineon、第4世代 SiC MOSFET の諸特性と回路設計の注意点|ローム、SiCインバーターの実測比較|日置電機、65W USB-C GaN-based Design|Compound Semiconductor、GNP1070TC-Z Datasheet|ローム、Power devices based on silicon carbide(CS MANTECH 2022)|Infineon、受託開発|長岡パワーエレクトロニクス、SiC switches in motor drive applications|Electronic Specifier(Vincotech)
置き換えるときの注意
ゲートにかける電圧を素子に合わせる
SiC MOSFET は、IGBT と同じゲートの電圧では性能が出ないことがあります。Infineon は、1,200V の CoolSiC MOSFET(M1H)のオンの電圧を 15〜18V(産業用。車載用は 18V)とし、オフの電圧の下限は、長く使ううちのオン抵抗の増え方が初期の15%以内に収まるように決めるとしています(18V でオンにするディスクリートで、規格化した周波数 20kHz の例では −4.6〜0V。周波数で変わる)。ロームの第4世代 SiC MOSFET は、オン 15〜18V、オフ 0V を推奨しています。

出典:Infineon「ゲート駆動電圧ウィンドウのガイドライン」・Infineon「IMZA120R020M1H」・ローム「第4世代 SiC MOSFET の諸特性と回路設計の注意点」・ローム「GNP1070TC-Z」をもとに AI(Claude)で作成
Infineon は、長く使ううちにゲートのしきい値が動く(ドリフトする)ことがあり、その大きさはオフの電圧・周波数・ゲートのオーバーシュートとアンダーシュートで変わるとしています。GaN は、最大定格が +6V(DC)程度のものがあり、ゲートのサージを定格の内に収める配線とゲート抵抗が要ります。使う素子のデータシートとアプリケーションノートの推奨値で、ゲートの電源とドライバーを選び直します。
短絡に耐えられる時間が短い
SiC MOSFET はチップが小さいので、短絡したときに熱がこもりやすくなります。Infineon の 1,200V の SiC MOSFET(IMZA120R020M1H)の短絡耐量は 3µs(電源電圧 800V 以下・ゲート電圧 15V・25℃ から)です。テキサス・インスツルメンツは、IGBT 用のブランキング時間(検出を始めるまで待つ時間)は SiC MOSFET の保護には長すぎ、短絡を2µs 未満で遮断するのが望ましいとしています。

出典:Infineon「IMZA120R020M1H」・Texas Instruments「SLUA863C」をもとに AI(Claude)で作成
IGBT の短絡耐量も世代や品種で違うので、今の回路の保護の時間が、新しい素子の短絡耐量に収まるかを、両方のデータシートで確かめます。
速いスイッチングは、サージとノイズを生む
速く切り替えるほど損失は減りますが、配線のインダクタンスと電流の変化の速さ(di/dt)でサージ電圧が出て、電圧の変化の速さ(dv/dt)がノイズや誤動作の原因になります。ロームは、第4世代でスイッチングが速くなったぶん、ゲートやドレインのサージに注意が要るとし、ゲート抵抗やスナバ回路での抑え方を示しています。モジュールの内部のインダクタンスを下げる(三菱電機は 9nH)、ゲートの戻りの配線を分けたケルビンソースの端子を使うのが、損失とサージを両方抑える方法です。

出典:ローム「第4世代 SiC MOSFET の諸特性と回路設計の注意点」・三菱電機(2023年6月13日)・東芝デバイス&ストレージ(2023年8月31日)・Wave Technology「SiCデバイスを使って電源を高効率化してみました」・Electronic Specifier(Vincotech)をもとに AI(Claude)で作成
東芝デバイス&ストレージは、ケルビンソースの端子のある4端子のパッケージの SiC MOSFET で、3端子の製品よりターンオン損失を約40%、ターンオフ損失を約34%減らしたとしています(同社の実測。800V・20A の条件)。装置の外へのノイズ(伝導・放射)は、フィルタ・シールド・基板の配置で抑え、EMC の試験で確かめます(技術ページ「EMC対策」)。モーターをつなぐインバーターでは、ケーブルの長さとモーターの絶縁・軸受の電流も確かめます。
損失が減っても、熱の設計は楽にならないことがある
Infineon は、SiC はチップが小さいので熱抵抗が大きく、損失は小さくても損失の密度が高くなりやすいこと、同じダイの接合のしかたではパワーサイクル耐量が Si の約3分の1にとどまることを課題に挙げています。また SiC MOSFET のボディダイオードは順方向の電圧が高い(IMZA120R020M1H で典型 3.8V)ので、ロームはデッドタイムを短くするよう勧めています。

出典:Infineon「Power devices based on silicon carbide」・Infineon「IMZA120R020M1H」・ローム「第4世代 SiC MOSFET の諸特性と回路設計の注意点」・日本スペリア社「ANP シリーズ」をもとに AI(Claude)で作成
チップの下の接合には、はんだより熱を通しやすい焼結型の銀ペーストなどが使われます(日本スペリア社)。ヒートシンクとの間は放熱シート・グリスで熱抵抗を下げ(技術ページ「放熱シート・グリス」)、空冷で足りなければ液冷にします(技術ページ「液冷」)。大電流の配線・バスバーの発熱は「大電流の配線・バスバーの発熱を抑えたい」で扱っています。
損失を正しく測ってから、効果を比べる
素子1つの損失は、ダブルパルス試験で、ターンオン・ターンオフのエネルギーを測って確かめます。装置の効率は、パワーアナライザーで入力と出力の電力を測りますが、周波数が高いと測定器の位相の誤差が効きます。日置電機は、SiC インバーターを 100kHz で測ると、測定器によってインバーターの損失が 0.17kW と 0.83kWと大きく違ったとしています。

出典:TektronixJapan(YouTube)
今の素子と候補の素子を、同じ条件・同じ測定器で比べると、置き換えの効果を見誤りません。
コストは、装置全体で比べる
Infineon は、SiC が広まる最大の障害は今も Si と比べたコストだとし、受動部品・ヒートシンクの削減や運転の電気代まで含めて、高い素子の値段を回収できるか(ティッピングポイント)で判断する考え方を示しています。素子の値段だけでなく、冷却・リアクトル・コンデンサ・筐体の大きさと、使う期間の電気代まで含めて比べます。
出典:CoolSiC MOSFET のゲート駆動電圧ウィンドウのガイドライン(AN2018-09)|Infineon、第4世代 SiC MOSFET の諸特性と回路設計の注意点|ローム、GNP1070TC-Z Datasheet|ローム、IMZA120R020M1H Datasheet|Infineon、Understanding the Short Circuit Protection for Silicon Carbide MOSFETs(SLUA863C)|Texas Instruments、産業用フルSiCパワー半導体モジュール NXタイプ(2023年)|三菱電機、スイッチング損失を低減する4端子パッケージ採用の第3世代 SiC MOSFET 発売について(2023年8月31日)|東芝デバイス&ストレージ、SiC switches in motor drive applications|Electronic Specifier(Vincotech)、Power devices based on silicon carbide(CS MANTECH 2022)|Infineon、焼結型接合材 ANP シリーズ|日本スペリア社、SiCインバーターの実測比較|日置電機
SiC・GaN への置き換えを相談できる企業
各企業が解決できる課題と技術の内容を、企業が公開している情報をもとに紹介します。素子・モジュールのメーカー、置き換えの設計を受託する会社、損失の測定器のメーカー、実装の材料のメーカーを挙げました。
富士電機株式会社|ハイブリッド SiC・All-SiC のパワーモジュール
富士電機とは
富士電機は、東京都品川区に本社事務所を置く電機メーカーです(1923年設立)。パワー半導体として、IGBT モジュールのほか、SiC を使ったモジュールやダイオードを製造・販売しています。
富士電機の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| ハイブリッド SiC モジュール | IGBT と SiC のショットキーバリアダイオード(SBD)を組み合わせた2個組のモジュール。1,200V・1,700V のクラス |
| All-SiC モジュール | SiC MOSFET を使った2個組(1,200V・1,700V)と、ハイパワーモジュール HPnC(2,300V・3,300V)。「高耐圧、低損失、高周波動作および高温動作」を特長としている |
| ほかの SiC の製品と資料 | 車載用 SiC モジュール、ディスクリートの SiC-SBD。SiC モジュールのアプリケーションマニュアル(基本コンセプトと特長・使用時の注意事項)を公開 |
同社は、SiC を使ったパワーモジュールで、大幅な省エネと搭載する製品の小型・軽量化ができるとしています。
富士電機が解決できる課題
- IGBT のインバーターの損失を、まずダイオードだけ SiC にして減らしたい
- 2,300V・3,300V など高い耐圧の大きな変換器を、SiC モジュールにしたい
- SiC モジュールを使うときの注意を、メーカーの資料で確かめたい

出典:富士電機「All-SiC モジュール」・富士電機「ハイブリッド SiC モジュール」・富士電機「SiC モジュール アプリケーションマニュアル」をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|富士電機、All-SiC モジュール|富士電機、ハイブリッド SiC モジュール|富士電機、SiC モジュール アプリケーションマニュアル|富士電機
株式会社三社電機製作所|ワイヤボンディングを使わない SiC MOSFET モジュール
三社電機製作所とは
三社電機製作所は、電源機器とパワー半導体を作るメーカーです。パワー半導体では、SiC MOSFET のモジュールを製品化しています。
三社電機製作所の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| SiC MOSFET モジュール FCA150AC120 | 1,200V・150A の 2in1。ワイヤボンディングを使わない独自のパッケージ「Techno Block」で、パワーサイクル耐量を同社の従来品の約3倍にし、内部のインダクタンスを約2分の1にした(2019年に量産開始) |
| ゲートのしきい値と短絡 | ゲートのしきい値電圧を 4.0V(典型)と高くして、高い周波数で動かすときのノイズで誤動作しにくくした。短絡に強いこと(短絡耐量)も特長に挙げている |
| 1,700V/300A のモジュール | 2024年に、1,200V に加えて 1,700V/300A の SiC MOSFET モジュールを開発。用途は産業用インバーター・スイッチング電源・各種の高周波電源など |
FCA150AC120 は、パナソニックとの共同開発で商品化された製品で、パナソニック独自の、ダイオードの機能を内蔵した SiC MOSFET のチップ(DioMOS)を載せています(同社の発表)。
三社電機製作所が解決できる課題
- 産業用インバーター・EV 充電器・高周波電源の素子を SiC にしたい
- 温度の上下が多い使い方で、モジュールのつなぎ目の寿命を延ばしたい
- 高い周波数で動かしても、ゲートが誤動作しにくい素子がほしい

出典:三社電機製作所(2019年4月23日)・三社電機製作所(2024年)をもとに AI(Claude)で作成
出典:高信頼性と低損失を実現した1200V耐圧SiC MOSFETモジュールの量産を開始(2019年)|三社電機製作所、1700V/300A SiC-MOSFETモジュールを開発(2024年)|三社電機製作所、FCA150AC120|三社電機製作所
長岡パワーエレクトロニクス株式会社|SiC・GaN の電力変換器の受託開発と実験用の基板
長岡パワーエレクトロニクスとは
長岡パワーエレクトロニクスは、新潟県長岡市に本社を置く、パワーエレクトロニクス(電力変換)の会社です。2013年に大学発ベンチャーとして設立され、博士号を持つ5名が在籍しています。
長岡パワーエレクトロニクスの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 受託開発 | 電力変換回路の設計から基板・筐体の設計、制御まで。SiC・GaN のデバイスの駆動の実績が多く、専用の基板の設計で小型化できるとし、シミュレーションで回路と損失を解析する。100件以上の案件、30社以上との取引の実績がある |
| 開発の実績 | SiC の三相-三相マトリックスコンバーター(11kW、最高効率97%)、SiC インバーターの並列駆動(100Arms・40kVA・最大 100kHz)、GaN の 1MHz の駆動ボード、GaN の小型・軽量インバーター、EV 用急速充電器向けの電力変換器の試作など |
| 実験用の基板 | 三相 SiC インバーター回路を2つ載せた主回路基板 K24408(全ゲートに絶縁したゲート駆動回路)と、制御基板と組み合わせて AC100V で机上で実験できる開発キット S24228 |
長岡パワーエレクトロニクスが解決できる課題
- Si の変換器を SiC・GaN に替えた試作機を、設計から作ってほしい
- SiC のインバーターを、自分たちで動かして確かめる実験の環境がほしい
- 回路方式と損失を、試作の前にシミュレーションで比べたい
公開されている実績
- 総務省の研究で、首都大学東京の依頼により、85kHz 付近の磁界の生体への影響を調べる装置用の SiC インバーターを製作(同社の公表)

出典:製品紹介|長岡パワーエレクトロニクス
出典:会社概要|長岡パワーエレクトロニクス、受託開発|長岡パワーエレクトロニクス、製品紹介|長岡パワーエレクトロニクス
株式会社Wave Technology|電源の受託設計と、SiC を使った高効率化
Wave Technologyとは
Wave Technology(WTI)は、兵庫県川西市に本社を置く、半導体の周辺回路とその応用製品の開発・設計の会社です(1984年設立)。電源(パワエレ)の受託設計を行っています。
Wave Technologyの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| カスタム電源の受託設計 | 0.1W 以下の小さな電力から kW の大きな電力まで。回路・基板・機構の設計から評価までを受託し、一部だけの依頼にも対応する |
| 電源の設計の実績 | 太陽光のパワーコンディショナー用の絶縁電源(2,000W、PSFB の絶縁 DC-DC)、車載用の充電器(7,000W、インターリーブ連続モード PFC と PSFB の絶縁 DC-DC、水冷)など |
| SiC での高効率化 | パワーコンディショナーの昇圧 DC-DC で、Si のダイオードを SiC の SBD に替えると、導通損失とリカバリ損失が減って効率が上がり、周波数を上げてコイルを小さくできる。一方で、雑音端子電圧の試験で周波数の高調波が出て対策に苦労した、と同社の技術者が紹介している |
Wave Technologyが解決できる課題
- パワーコンディショナー・車載充電器の電源を、SiC で効率よく小さく設計してほしい
- SiC にして周波数を上げたら出てきたノイズを、設計で抑えたい
- 電源の設計の一部(基板だけ・評価だけ)を頼みたい

出典:SiCデバイスを使って電源を高効率化してみました|Wave Technology
出典:会社情報|Wave Technology、電源(パワエレ)設計サービス|Wave Technology、SiCデバイスを使って電源を高効率化してみました|Wave Technology
日置電機株式会社|SiC インバーターの損失を高い周波数まで測る
日置電機とは
日置電機は、長野県上田市に本社・工場を置く電気計測器のメーカーです。電力の効率や損失を測るパワーアナライザー・電流センサーを作っています。
日置電機の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| SiC インバーターの実測の比較 | パワーアナライザー PW8001 と他社(A社)のハイエンドの機種で、SiC インバーターをスイッチング周波数 10・20・100・200 kHz で測って比べた。100 kHz では、インバーターの損失が PW8001 で 0.17 kW、A社の機種で 0.83 kWとなり、A社の機種ではモーターの効率が100%を超えた |
| 位相の誤差 | 位相差 88° の電力を測るとき、測定器の位相の誤差が 1° あると、有効電力で約50%の誤差になるとしている。100 kHz での電流センサーの位相の誤差は、同社の CT6904A が 0.01° 以下、A社が 1.0° 以上 |
この比較は、日置電機が自社の機種と他社の機種を比べたものです。
日置電機が解決できる課題
- SiC・GaN にして周波数を上げた変換器の損失を、正しく測りたい
- インバーターとモーターの効率が100%を超えるなど、測定値がおかしい

出典:日置電機「SiCインバーターの実測比較」をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|日置電機、ハイエンドクラスのパワーアナライザーによるSiCインバーターの実測比較|日置電機
株式会社日本スペリア社|パワーモジュールのダイ接合に使う焼結型の銀ペースト
日本スペリア社とは
日本スペリア社は、大阪府吹田市に本社を置く、電子機器用の金属接合材料(はんだ・フラックス・ろう材)のメーカーです(1966年設立)。パワーモジュールの半導体のダイの接合などに使う、焼結型の銀ペーストも扱っています。
日本スペリア社の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 焼結型銀ペースト ANP シリーズ | ANP-1 は 250℃以上・300秒・10MPa 以上で焼結し、熱伝導率 330 W/m·K、せん断強度 40MPa。加圧と無加圧(5mm角以下)の両方に使える。銅を含む ANP-8 は熱伝導率 350 W/m·K。銅にも直接接合できる |
| ASTRO シリーズ | ダイアタッチ用の ASTRO-HP(330 W/m·K)、放熱の接合(TIM)用の ASTRO-LP(350 W/m·K)、加圧できないデバイス向けの無加圧の ASTRO-LN(155 W/m·K) |
| 使われる所 | パワーモジュール向けの半導体のダイのほか、パワー LED や熱電素子などの電子部品の接合 |
日本スペリア社が解決できる課題
- SiC のパワーモジュールのダイの接合を、熱を通しやすい材料にしたい
- 加圧できない部品も、焼結の材料で接合したい

出典:日本スペリア社「ANP シリーズ」・日本スペリア社「ASTRO シリーズ」をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|日本スペリア社、焼結型接合材 ANP シリーズ|日本スペリア社、焼結型接合材 ASTRO シリーズ|日本スペリア社
選ぶ前に確かめる条件
SiC・GaN への置き換えを相談する前に、次のことを整理しておくと話が早く進みます。
- 用途と電力:入力・出力の電圧、電力、電流、今の素子(Si の IGBT・MOSFET の型番と耐圧)
- 今の損失:運転のしかた(負荷率・軽い負荷の時間)、スイッチング周波数、損失の内訳(導通・スイッチング・ダイオード)
- 目的:損失と発熱を減らしたいのか、周波数を上げて部品を小さくしたいのか、効率の基準(80 PLUS など)を満たしたいのか
- 回路:ゲートの電源の電圧、ドライバー、短絡の保護の時間、基板の配置(ケルビンソースが使えるか)
- ノイズと負荷:EMC の規格、モーターまでのケーブルの長さ、モーターの絶縁と軸受
- 熱とコスト:冷却の方法(自然空冷・強制空冷・液冷)、許せる素子の値段の上がり幅、量産の数と期間
関連する課題
この課題に関係する分野・技術・製品のページ
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品・設備ではありません。
情報の確認日:2026年10月23日
