静電気で指先に「パチッ」と火花が飛ぶのも、雷が落ちるのも、ふだんは電気を通さない空気が、強い電圧に耐えられなくなって起きる現象です。電気を通さないはずの絶縁体が、高い電圧で急に電気を通すようになることを絶縁破壊といいます。このページでは、絶縁破壊の意味と「絶縁破壊の強さ(絶縁耐力)」の計算、材料ごとの代表的な値、気体と固体で起きるしくみ、厚さなどで値が変わる理由、試験の方法、似ている言葉との違いを、できるだけやさしく説明します。
ひとことで言うと
絶縁破壊とは
絶縁破壊は、絶縁体にかける電圧を上げていくと、ある電圧で急に電流が流れ、絶縁の性質を失う現象です(コトバンク)。このときの電圧を絶縁破壊電圧(破壊電圧)といいます(同)。
絶縁破壊の強さ(絶縁耐力)は、絶縁破壊電圧を試料の厚さで割った値で、ふつう kV/mm で表します(マイナビニュース TECH+)。厚さ1mm あたり何 kV まで耐えるか、という意味です。

出典:コトバンク、マイナビニュース TECH+、JFE テクノリサーチをもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成
たとえば JFE テクノリサーチの試験の例では、厚さ100μm(0.1mm)のポリイミドフィルムの絶縁破壊電圧が17.6kV でした。17.6 ÷ 0.1 で、絶縁破壊の強さは約176kV/mmになります(編集部の計算)。1MV/m(100万 V/m)は1kV/mm にあたります(編集部の換算)。
ただし、マイナビニュース TECH+ の記事は、絶縁破壊の強さは試料の厚さに大きく左右されるので、厚さをあわせて示すべきとしています。カタログの値を比べるときは、厚さと試験の条件をそろえて見ます(後の「値が変わる条件」)。
出典:絶縁破壊(デジタル大辞泉・世界大百科事典ほか)|コトバンク、ファインセラミックスの電気的特性(一ノ倉正人)|マイナビニュース TECH+、絶縁材料の段階昇圧法による絶縁破壊試験|JFE テクノリサーチ、絶縁耐力|ウィキペディア日本語版
身近な例:静電気の火花と雷

出典:ウィキペディア日本語版をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成
空気の絶縁破壊の強さは、およそ3kV/mm です(日本語版ウィキペディア「絶縁耐力」)。日本語版ウィキペディア「絶縁破壊」は、雲と地面の間の空気にかかる電場が約300万V/m を超えると、空気が絶縁破壊して雷になるとしています。気象庁 福岡管区気象台の広報誌「はれるんマガジン」は、雷の電圧は1億ボルトともいわれるとしています。
静電気も同じです。労働安全衛生総合研究所の技術資料は、絶縁性の高い靴などをはいていると、人の体の電位が数 kV になることがあるとしています。3kV/mm から計算すると、1mm 離れたドアノブに火花が飛ぶには、およそ3,000Vが要ります(平らな電極どうしでの目安。編集部の計算)。
小さな部品では、静電気がそのまま故障の原因になります。日本語版ウィキペディアは、MOS 型の半導体の薄い酸化膜は、人の体にたまる程度の静電気でも絶縁破壊しやすく、保護のダイオードを入れる構造に改良されたとしています(課題「静電気のトラブルを防ぎたい」)。
出典:絶縁耐力|ウィキペディア日本語版、絶縁破壊|ウィキペディア日本語版、広報誌「はれるんマガジン」2022年6月30日号(第31号)|気象庁 福岡管区気象台、技術資料 TN-71-2(静電気)|労働安全衛生総合研究所
代表的な絶縁破壊の強さ

出典:ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成
| 材料 | 絶縁破壊の強さ(kV/mm) | メモ |
|---|---|---|
| 空気 | 3.0 | 湿度などで変わる(コトバンク) |
| 窓ガラス | 9.8〜13.8 | |
| 鉱油・シリコーンオイル | 10〜15 | 水分で下がる(日鉄テックスエンジ) |
| アルミナ(セラミック) | 13.4 | |
| ネオプレンゴム | 15.7〜26.7 | |
| ポリスチレン | 19.7 | |
| PTFE(フッ素樹脂、押出成形) | 19.7 | 絶縁膜では60〜173 |
| 真空 | 20〜40 | 電界放出の上限値。電極の形で変わる |
| ホウケイ酸ガラス | 20〜40 | |
| 溶融石英 | 25〜40 | |
| ろう紙 | 40〜60 | |
| ポリエチレン | 19〜160 | 幅が大きい |
| 雲母(マイカ) | 118 |
値は日本語版ウィキペディア「絶縁耐力」の表によります(表は MV/m の単位で、同じ数値が kV/mm になります)。空気は約3kV/mm と小さく、樹脂の薄い膜や雲母は100kV/mm を超えるものがあります。同じ PTFE でも、押出成形品の19.7kV/mm に対し、絶縁膜では60〜173kV/mm と大きく違います。これは、後で説明する厚さの影響などによるものです(編集部の解説)。
表は性質の目安です。設計では、使う材料のカタログの値を、厚さ・試験の方法とあわせて確かめるようにします。油については、コトバンクはシリコーン油を約100kV/mm としていて、表の値(10〜15kV/mm)と大きく違います。油の値は、電極の形や距離、水分によって大きく変わるためと考えられます(編集部の解説)。
出典:絶縁耐力|ウィキペディア日本語版、絶縁破壊(デジタル大辞泉・世界大百科事典ほか)|コトバンク
なぜ起きるのか:気体と液体

出典:コトバンク、ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成
気体の中にも、宇宙線などでできたわずかなイオンや電子があります(編集部の解説)。コトバンク(百科事典マイペディア)は、気体ではイオン化した分子が電場で速くなってほかの分子にぶつかり、次々に電離を起こして、電気を運ぶ粒が一気に増えるとしています。このように電子がなだれのように増えることを電子なだれと呼びます(編集部の解説)。
気体の中で火花が飛ぶ電圧は、気体の圧力 p と電極の距離 d のかけ算(pd)で決まることが知られています。これをパッシェンの法則(1889年)といいます(日本語版ウィキペディア)。同じページは、pd が小さすぎても大きすぎても火花が飛ぶのに必要な電圧は高くなり、その間にいちばん低くなる所があるとしています。距離が短すぎたり気体が薄すぎたりすると電子が分子にぶつかる回数が足りず、逆に大きすぎると電子が十分に速くなる前にぶつかってしまうためです(編集部の解説)。
液体(絶縁油など)では、コトバンクは、気泡ができてそこから放電が始まる場合と、気体と同じように衝突電離が起きる場合があるとしています。気体と液体は、電圧を下げれば絶縁がもとにもどるのに対し、固体は基本的にもどりません(豊橋技術科学大学の研究室)。
出典:絶縁破壊(デジタル大辞泉・世界大百科事典ほか)|コトバンク、パッシェンの法則|ウィキペディア日本語版、研究内容|豊橋技術科学大学 誘電・絶縁システム工学研究室
固体の絶縁破壊と、長い時間をかけた劣化

出典:コトバンク、豊橋技術科学大学 誘電・絶縁システム工学研究室をもとに AI(Claude)で作成
コトバンクは、固体の絶縁破壊を、電流による発熱で温度が上がって起きる熱的絶縁破壊と、電気を運ぶ電子が急に増えて起きる電子的絶縁破壊に分けて説明しています。熱的破壊では、温度が上がると電流が増え、さらに温度が上がるという悪い循環になります(編集部の解説)。
部分放電とトリー
高い電圧でなくても、長く使ううちに壊れることがあります。豊橋技術科学大学の研究室は、絶縁体の中の小さなすき間などで弱い放電(部分放電)が起きるとしています。部分放電は、それだけで全体が壊れなくても、続くと少しずつ絶縁を傷め、長い時間のあとの絶縁破壊につながることがあります(編集部の解説)。同じ研究室は、高温・高湿などの条件がそろえば、高い電圧でなくても絶縁破壊が起きることがあるともしています。
コトバンクは、プラスチックの中の異物や電極の突起から、木の枝のような放電の道(トリー)が長い時間をかけて伸び、やがて絶縁破壊に至るとしています。水分が入って起きるものは水トリーと呼ばれます(同)。

出典:東京電設サービス株式会社(YouTube)
出典:絶縁破壊(デジタル大辞泉・世界大百科事典ほか)|コトバンク、研究内容|豊橋技術科学大学 誘電・絶縁システム工学研究室
値が変わる条件

出典:大阪産業技術研究所をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成
大阪産業技術研究所は、絶縁破壊の強さを左右するものとして、電極の形・材質、試料の厚さ、温度・湿度・気圧、電圧を上げる速さ、電圧の波形・周波数、周囲の媒体を挙げています(電極の形と荷重による違いは、この実験では確かめられなかったとしています)。同じ資料は、試料が厚くなると絶縁破壊の強さが下がることを実験で示し、厚さとの関係を近似式で表しています。
その近似式(シリコーンゴムは電圧を毎秒2kV、フッ素樹脂は毎秒1kV で上げた試験)で計算すると、シリコーンゴムは厚さ0.4mm で約35kV/mm、1.2mm で約19kV/mm、フッ素樹脂(テフロン)は厚さ40μm で約185kV/mm、100μm で約111kV/mm です(編集部の計算)。厚さを3倍にしても、耐えられる電圧は3倍にはならないということです。電圧を上げる速さによっても値が変わる試料があったとしています。
- 水分:日鉄テックスエンジの技術資料は、絶縁油の絶縁破壊電圧は水分などで下がり、体積抵抗率が正常でも絶縁破壊電圧が下がることがあるとしています
- すき間・異物:すき間(ボイド)があると部分放電が起き、少しずつ劣化します(豊橋技術科学大学の研究室)。樹脂で封止するときに泡を残さないのはこのためです(技術「ポッティング・コンフォーマルコーティング」)
- 電極の形:コトバンクは、電極の突起からトリーが伸びるとしています。とがった所には電場が集まりやすいためです(編集部の解説)。真空の値も電極の形で変わります(日本語版ウィキペディア)
出典:絶縁材料の評価方法の検討-絶縁破壊強さの試験条件について-(2007年)|大阪産業技術研究所、技術資料 kse-1602 絶縁油の体積抵抗率・絶縁破壊電圧|日鉄テックスエンジ、研究内容|豊橋技術科学大学 誘電・絶縁システム工学研究室、絶縁破壊(デジタル大辞泉・世界大百科事典ほか)|コトバンク、絶縁耐力|ウィキペディア日本語版
測り方:絶縁破壊試験と耐電圧試験

出典:JFE テクノリサーチをもとに AI(Claude)で作成
固体の絶縁材料の試験の規格には JIS C 2110-1 があります。JFE テクノリサーチの資料は、2つの方法を説明しています。短時間法は、一定の速さで電圧を上げ、10数秒で壊れるようにして、壊れたときの電圧を測る方法です。段階昇圧法は、短時間法で求めた値の40%ほどから始めて20秒ずつ電圧を上げ、壊れなかったいちばん高い電圧を絶縁破壊電圧とします(JIS C 2110-1 の「20秒段階昇圧試験」)。
同じ資料のポリイミドフィルムの試験では、球と平板の電極を使い、表面を伝う放電(沿面放電)を避けるために A4 の大きさの試料を使っています。絶縁油では、日鉄テックスエンジの資料によると、JIS の方法は直径12.5mm の球の電極を2.5mm 離して測り、使う前の絶縁油ではふつう80kV ほどです。
耐電圧試験:壊れないことを確かめる
パナソニックの用語辞典は、材料を壊してその電圧を測る絶縁破壊試験と、決めた電圧を決めた時間かけて、壊れないことを確かめる耐電圧試験を分けて説明しています。耐電圧試験は絶縁耐力試験とも呼ばれ、高圧の機器の工場での試験や、電気設備の工事が終わったときの検査で行います(同)。製品の安全規格の耐電圧試験の電圧の決め方は、課題「絶縁破壊を防ぎたい(絶縁距離・耐電圧の決め方)」で説明しています。

出典:HIOKIJapan(YouTube)
出典:絶縁材料の段階昇圧法による絶縁破壊試験|JFE テクノリサーチ、技術資料 kse-1602 絶縁油の体積抵抗率・絶縁破壊電圧|日鉄テックスエンジ、用語辞典「耐電圧」|パナソニック 電材&くらしエネルギー
似ている言葉との違い

出典:コトバンク、マイナビニュース TECH+、パナソニック 電材&くらしエネルギー、豊橋技術科学大学 誘電・絶縁システム工学研究室をもとに AI(Claude)で作成
絶縁抵抗は、絶縁抵抗計で直流の電圧(25〜2,000V)をかけ、漏れる電流から求める抵抗の値で、大きいほど絶縁がよい状態です(パナソニックの用語辞典)。パナソニックの用語辞典(耐電圧)は、絶縁抵抗の試験は使う電圧の数倍の電圧で抵抗を測るもので主に低圧の電路で使い、高圧の機器では抵抗の値だけでは十分でなく、耐電圧試験も必要としています。
空気の中の距離(空間距離)と、絶縁物の表面に沿った距離(沿面距離)は、基板や機器の設計で絶縁破壊を防ぐための距離です。決め方は課題「絶縁破壊を防ぎたい」で計算例とともに説明しています。また、電気のためやすさを表す誘電率と、どれだけの電圧に耐えるかを表す絶縁破壊の強さは別の性質です(基礎知識 「誘電率・誘電正接」)。
出典:用語辞典「絶縁抵抗計」|パナソニック 電材&くらしエネルギー、用語辞典「耐電圧」|パナソニック 電材&くらしエネルギー
絶縁破壊が出てくるページ
出典
- 絶縁破壊(デジタル大辞泉・世界大百科事典ほか)|コトバンク
- ファインセラミックスの電気的特性(一ノ倉正人)|マイナビニュース TECH+
- 絶縁材料の段階昇圧法による絶縁破壊試験|JFE テクノリサーチ
- 絶縁耐力|ウィキペディア日本語版
- 絶縁破壊|ウィキペディア日本語版
- 広報誌「はれるんマガジン」2022年6月30日号(第31号)|気象庁 福岡管区気象台
- 技術資料 TN-71-2(静電気)|労働安全衛生総合研究所
- パッシェンの法則|ウィキペディア日本語版
- 研究内容|豊橋技術科学大学 誘電・絶縁システム工学研究室
- 絶縁材料の評価方法の検討-絶縁破壊強さの試験条件について-(2007年)|大阪産業技術研究所
- 技術資料 kse-1602 絶縁油の体積抵抗率・絶縁破壊電圧|日鉄テックスエンジ
- 用語辞典「耐電圧」|パナソニック 電材&くらしエネルギー
- 用語辞典「絶縁抵抗計」|パナソニック 電材&くらしエネルギー
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。
情報の確認日:2026年10月30日
