コンデンサーは、向かい合った2枚の電極の間に電気をためる部品です。電極の間に何をはさむかで、ためられる電気の量が大きく変わります。材料が電気をどれだけ「ためやすいか」を表すのが誘電率、交流でどれだけ「熱として失うか」を表すのが誘電正接(tanδ)です。このページでは、2つの意味と身近な例(コンデンサー・電子レンジ)、代表的な値、5G など高周波の基板で低い値が求められる理由、値が変わる条件、測り方を、できるだけやさしく説明します。
ひとことで言うと
誘電率・誘電正接とは
誘電率(ε)は、電気を通さない材料(誘電体)に電圧をかけたとき、材料の中で電気のかたより(分極)がどれだけ起きやすいかを表す値です。ふつうは、真空の誘電率 ε0(約8.85×10⁻¹² F/m)で割った比誘電率(εr。単位なし)で表します。コトバンクは、比誘電率を、物質の誘電率と真空の誘電率の比としています。
誘電正接(tanδ)は、交流の電圧をかけたとき、流れる電気のうち、どれだけが熱になって失われるかを表す値です。コトバンク(誘電損失)は、交流で誘電体のエネルギーの一部が熱になって散逸する現象を誘電損失とし、その大きさを tanδ で表すとしています。

出典:コトバンクをもとに AI(Claude)で作成
コトバンク(誘電率)は、コンデンサーの電極の間に誘電体を入れたときの容量は、入れないときの容量の比誘電率倍になるとしています。真空の比誘電率は1で、空気もほとんど1です(同)。基板のカタログでは、比誘電率を Dk、誘電正接を Df と書くことがあります(パナソニック インダストリーのデータシートなど)。
出典:比誘電率|コトバンク、誘電率(日本大百科全書ほか)|コトバンク、誘電損失|コトバンク、FELIOS LCP R-F705S データシート(2025年8月)|パナソニック インダストリー
なぜ電気がたまるのか:分極

出典:コトバンクをもとに AI(Claude)で作成
誘電体は電気を通しませんが、電圧をかけると、中の原子や分子の+と-が少しずつずれて並びます。これを分極といいます(編集部の解説)。ずれた電気が電極の電気を引き寄せるので、分極しやすい材料ほど、同じ電圧で多くの電気をためられる、つまり誘電率が大きくなります。
分極には、原子の中の電子がずれるもの、結晶の+イオンと-イオンがずれるもの、水のように+と-のかたよりを持つ分子(電気双極子)が向きをそろえるものがあります(編集部の解説)。コトバンク(誘電加熱)は、交流の電場の中では、この電気双極子が回転して、互いの摩擦で内部から熱が出るとしています。
出典:誘電率(日本大百科全書ほか)|コトバンク、誘電加熱|コトバンク
代表的な比誘電率

出典:コトバンク、埼玉県産業技術総合センター、パナソニック インダストリー、ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーションをもとに AI(Claude)で作成
| 材料 | 比誘電率 εr | 出典・条件 |
|---|---|---|
| 真空 | 1 | 定義(コトバンク) |
| 空気 | ほとんど1 | コトバンク |
| PTFE(フッ素樹脂)基板 | 2.62 | 埼玉県産業技術総合センター(1MHz) |
| LCP(液晶ポリマー)基板 | 2.9〜3.3 | パナソニック インダストリー(14GHz・10GHz、測り方で違う) |
| PPE 基板 | 3.5〜3.6 | 埼玉県産業技術総合センター(1MHz) |
| FR-4(ガラスエポキシ)基板 | 4.4〜4.8 | 埼玉県産業技術総合センター(1MHz、厚さで違う) |
| PTFE とセラミックの高周波基板(RO3010) | 10.2 | ロジャース社のラインナップ(10GHz) |
| 水 | 78.54(25℃) | コトバンク(化学辞典) |
| 酸化チタン磁器 | 100〜1万 | コトバンク |
表のとおり、ふつうの樹脂の基板は2〜5くらい、水は約80、セラミックには数千以上のものもあると、材料によって大きく違います。日本語版ウィキペディアは、積層セラミックコンデンサーの誘電体に使うチタン酸バリウムを、極めて高い比誘電率を持つ材料としています。小さくて容量の大きいコンデンサーには、εr の大きい材料が使われます(編集部の解説)。
出典:誘電率(日本大百科全書ほか)|コトバンク、高速デジタル信号に対応するプリント基板の開発(研究報告 第5巻、2007年)|埼玉県産業技術総合センター、FELIOS LCP R-F705S データシート(2025年8月)|パナソニック インダストリー、ロジャース社 高周波基板材料ラインナップ(2023年8月)|ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーション、チタン酸バリウム|ウィキペディア日本語版
計算例:コンデンサーの容量

出典:コトバンクをもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成
平らな電極を向かい合わせたコンデンサーの容量 C は、電極の面積 S に比例し、間隔 d に反比例し、比誘電率 εr に比例します(C = ε0 × εr × S ÷ d。端の電場の広がりを無視した式。編集部の解説)。面積1cm²、間隔0.1mm のとき、真空なら約8.9pF、FR-4(εr 4.4)なら約39pF です(説明のための例。編集部の計算)。εr が大きい材料を使うか、誘電体を薄くして何層も重ねると、小さくても容量が大きくなるわけです。
誘電正接(tanδ):交流で熱になる分

出典:コトバンク、ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成
理想のコンデンサーに交流の電圧をかけると、電流は電圧よりちょうど90°進み、電気をためては返すだけで熱は出ません。コトバンク(誘電損失)は、実際の誘電体では、分極が電場の変化に追いつけずに遅れることなどで、電流と電圧の位相差が90°からずれるとしています。このずれの角 δ を損失角、その tan を誘電正接(タンデルタ)と呼び、損失は E × I × tanδ になるとしています。
日本語版ウィキペディアは、tanδ を損失電流 IR とコンデンサーの電流 Ic の比(IR ÷ Ic)とし、コンデンサーでは小さいほど良く、良好なもので0.002〜0.02(1GHz)としています。摂南大学の実験資料は、tanδ = 1 ÷ Q(Q はコンデンサーの Q 値)としています。tanδ は、複素誘電率の虚部と実部の比(εr″ ÷ εr′)でもあります(コトバンク)。
出典:誘電損失|コトバンク、誘電正接|ウィキペディア日本語版、Q メータによる誘電率・誘電正接の測定(実験資料)|摂南大学 電気電子工学科
誘電損失を使う:電子レンジと誘電加熱

出典:ウィキペディア日本語版、コトバンクをもとに AI(Claude)で作成
誘電損失は、うまく使うと「内側から温める」道具になります。日本語版ウィキペディアは、電子レンジは2,450MHz のマイクロ波を当てて、極性を持つ水の分子に直接エネルギーを与え、分子を振動・回転させて温度を上げる装置で、水を含まないガラスの容器や乾いた陶磁器は直接は温まらないとしています。2.45GHz では電場の向きが1秒に約49億回入れかわります(編集部の計算)。

出典:ピュシナー(PÜSCHNER)、コトバンクをもとに AI(Claude)で作成
ピュシナーのマイクロ波加熱の資料は、体積あたりの熱になる電力を P = 2π × f × E² × ε0 × εr × tanδ としています。周波数 f が高いほど、εr × tanδ が大きいほど、電場 E が強いほど熱が出ることがわかります。εr × tanδ は損失係数(εr″)と呼ばれます(同)。
コトバンク(誘電加熱)は、工業では木材の乾燥や接着に3〜20MHz、ビニル加工に10〜60MHz、ロープなどの繊維製品の加工に10〜40MHz を使うとしています。プラスチックの接着(高周波ウェルダー)、薬品・電気機器の乾燥、食品の加温・乾燥・殺菌などにも使われ、内部から加熱できる利点があります(同)。
出典:電子レンジ|ウィキペディア日本語版、誘電加熱|コトバンク、マイクロ波による誘電加熱の説明資料|ピュシナー(PÜSCHNER)
高周波の基板では「低誘電・低損失」が大事
電子回路やケーブルでは、同じしくみが困りものになります。高い周波数の信号を基板の線路に流すと、誘電体の中で信号のエネルギーの一部が熱になり、信号が弱まるからです。埼玉県産業技術総合センターの報告は、伝送損失=導体損失+誘電体損失とし、導体損失は周波数の平方根に、誘電体損失は周波数に比例するとしています。
同じ報告は、誘電体損失を αd = 27.3 × (f ÷ c) × √εr × tanδ(c は光の速さ)とし、誘電体損失は誘電正接と比誘電率の平方根に比例するとしています。5G やミリ波レーダーのように周波数が高くなるほど、基板の tanδ の差が信号の弱まり方に大きく効いてきます(編集部の解説)。

出典:埼玉県産業技術総合センター、パナソニック インダストリー、ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーションをもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成
公表値を式に入れて10GHz で計算すると、線路1m あたりの誘電損失は、FR-4 相当(εr 4.4・tanδ 0.018)で約34dB、PTFE 系の高周波基板(εr 3.00・tanδ 0.0010)で約1.6dB です(編集部の計算。FR-4 は1MHz の値をそのまま使った目安で、導体の損失は別に加わります)。3dB で電力はおよそ半分になるので(基礎知識 「デシベル」)、FR-4 相当では10cm の線路で信号の電力が半分近くになる計算です。
低誘電・低損失の基板材料

出典:埼玉県産業技術総合センター、パナソニック インダストリー、ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーションをもとに AI(Claude)で作成
埼玉県産業技術総合センターの報告では、1MHz で FR-4 は εr 4.4〜4.8・tanδ 0.015〜0.018、PPE は εr 3.5〜3.6・tanδ 0.002、PTFE は εr 2.62・tanδ 0.0005 です。パナソニック インダストリーの LCP(液晶ポリマー)の基板材料は、14GHz で Dk 2.9・Df 0.002(10GHz の空洞共振器法では Dk 3.3)で、吸水率は0.04%とし、ミリ波レーダーのアンテナ基板などの用途を挙げています。ロジャース社の高周波基板のラインナップ(ニューメタルス)は、10GHz で PTFE とセラミックの RO3003 が εr 3.00・tanδ 0.0010、熱硬化性樹脂とセラミックの RO4003C が 3.38・0.0027 としています。
フッ素樹脂(PTFE)は、誘電率が低く損失も小さい代表的な材料です(技術「フッ素樹脂コーティング」)。ただし低損失の材料ほど、加工のしやすさや価格、銅箔との密着などで FR-4 と違う点があるので、必要な周波数と線路の長さで選びます(編集部の解説)。
出典:高速デジタル信号に対応するプリント基板の開発(研究報告 第5巻、2007年)|埼玉県産業技術総合センター、FELIOS LCP R-F705S データシート(2025年8月)|パナソニック インダストリー、ロジャース社 高周波基板材料ラインナップ(2023年8月)|ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーション
値は周波数・温度・湿度で変わる

出典:埼玉県産業技術総合センター、エレクトロニクス実装学会誌、愛媛県工業技術センター、コトバンクをもとに AI(Claude)で作成
誘電率と誘電正接は、材料ごとに1つに決まる値ではありません。JIS C 2138 は、測った値は周波数、温度、試料の水分の量のような条件によって変わるとしています。日本語版ウィキペディアも、誘電正接は周波数と湿度に大きく依存するとしています。
- 周波数:埼玉県産業技術総合センターの表では、PTFE 基板の tanδ は1MHz で0.0005、1GHz で0.0012 です。カタログの値は、測った周波数とあわせて見ます
- 温度:エレクトロニクス実装学会誌の論文は、PTFE には23℃付近に相転移があり、比誘電率が急に変わるとしています
- 湿度(吸水):愛媛県工業技術センターの報告は、温度と湿度の条件を変えると、フッ素樹脂以外の基板は比誘電率・誘電損失とも変わり、乾燥状態でいちばん小さかったとしています。水の比誘電率は約78.5(25℃)と大きいので、水を吸うと値が上がりやすいと考えられます(編集部の解説。基礎知識 「露点(と相対湿度)」)
出典:JIS C 2138:2007 電気絶縁材料-比誘電率及び誘電正接の測定方法(規格の見本)|日本規格協会、誘電正接|ウィキペディア日本語版、高速デジタル信号に対応するプリント基板の開発(研究報告 第5巻、2007年)|埼玉県産業技術総合センター、銅層形成誘電体基板のマイクロ波・ミリ波評価|エレクトロニクス実装学会誌、高周波用低損失基板材料に関する可能性試験(報告 No.45、2007年)|愛媛県工業技術センター、誘電率(日本大百科全書ほか)|コトバンク
コンデンサーの誘電体:大きな εr の弱点

出典:ウィキペディア日本語版、村田製作所をもとに AI(Claude)で作成
日本語版ウィキペディアは、セラミックコンデンサーには、酸化チタンなどを使い温度による容量の変化が直線的な低誘電率型と、チタン酸バリウムを使い大容量を取れる高誘電率型があり、高誘電率型は温度による容量の変化が大きく、かける電圧でも容量が変わるとしています。
村田製作所の FAQ は、高誘電率系(X7R など)は直流の電圧をかけると静電容量が公称値から変わる(DC バイアス特性)ことがあり、温度補償用(C0G など)にはこの特性がないとしています。εr が大きい材料は小型で大容量にできる反面、使う電圧・温度での容量を確かめて選ぶ必要があります(編集部の解説。課題「ノイズで誤作動する・EMCに通らない」)。
出典:セラミックコンデンサ|ウィキペディア日本語版、FAQ:積層セラミックコンデンサの DC バイアス特性|村田製作所
測り方

出典:日本規格協会、大阪産業技術研究所(ORIST)、愛媛県工業技術センター、エレクトロニクス実装学会誌をもとに AI(Claude)で作成
低い周波数では、試料を2枚の電極ではさんで、容量と損失を測ります。JIS C 2138(電気絶縁材料の比誘電率と誘電正接の測り方)は、15Hz〜300MHz の範囲の測り方を決めています。摂南大学の実験資料も、Q メータで比誘電率と tanδ を求める方法を説明しています。
マイクロ波では、共振器を使う方法が多く使われます。大阪産業技術研究所(ORIST)の技術シートは、金属の空洞共振器に試料を入れ、入れる前と後の共振周波数と Q 値の変化から求める空洞共振器摂動法で、1〜20GHz で10⁻⁴程度までの誘電正接を測れるとしています。フィルムや薄い基板にはスプリットポスト誘電体共振器(愛媛県工業技術センター)、銅をつけた基板には平衡形円板共振器(エレクトロニクス実装学会誌)を使う例があります。ファインセラミックスの基板には JIS R 1641 があります。
エレクトロニクス実装学会誌の論文は、平衡形円板共振器での測定の精度を、比誘電率で1〜2%、誘電正接で10〜30%としています。tanδ はとても小さい値なので、測り方によって数値に差が出やすいことも覚えておきましょう(編集部の解説)。
出典:JIS C 2138:2007 電気絶縁材料-比誘電率及び誘電正接の測定方法(規格の見本)|日本規格協会、Q メータによる誘電率・誘電正接の測定(実験資料)|摂南大学 電気電子工学科、技術シート No.19-02 TM0n0 モード空洞共振器摂動法によるマイクロ波帯における誘電率の測定|大阪産業技術研究所(ORIST)、高周波用低損失基板材料に関する可能性試験(報告 No.45、2007年)|愛媛県工業技術センター、銅層形成誘電体基板のマイクロ波・ミリ波評価|エレクトロニクス実装学会誌、JIS R 1641:2007 ファインセラミックス基板のマイクロ波誘電特性の測定方法(規格の見本)|日本規格協会
似ている言葉との違い

出典:コトバンク、摂南大学 電気電子工学科、ピュシナー(PÜSCHNER)をもとに AI(Claude)で作成
誘電率は「電気のためやすさ」、誘電正接は「熱になる割合」で、別の性質です。どれだけ強い電圧に耐えるか(絶縁破壊の強さ)や、電気をどれだけ通さないか(絶縁抵抗)も、誘電率とは別の性質です。「誘電率が低い=絶縁性が高い」ではないことに気をつけます(編集部の解説)。熱の伝わりやすさの熱伝導率(基礎知識 「熱伝導率」)とも別の値です。
誘電率・誘電正接が出てくるページ
出典
- 比誘電率|コトバンク
- 誘電率(日本大百科全書ほか)|コトバンク
- 誘電損失|コトバンク
- FELIOS LCP R-F705S データシート(2025年8月)|パナソニック インダストリー
- 誘電加熱|コトバンク
- 高速デジタル信号に対応するプリント基板の開発(研究報告 第5巻、2007年)|埼玉県産業技術総合センター
- ロジャース社 高周波基板材料ラインナップ(2023年8月)|ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーション
- チタン酸バリウム|ウィキペディア日本語版
- 誘電正接|ウィキペディア日本語版
- Q メータによる誘電率・誘電正接の測定(実験資料)|摂南大学 電気電子工学科
- 電子レンジ|ウィキペディア日本語版
- マイクロ波による誘電加熱の説明資料|ピュシナー(PÜSCHNER)
- JIS C 2138:2007 電気絶縁材料-比誘電率及び誘電正接の測定方法(規格の見本)|日本規格協会
- 銅層形成誘電体基板のマイクロ波・ミリ波評価|エレクトロニクス実装学会誌
- 高周波用低損失基板材料に関する可能性試験(報告 No.45、2007年)|愛媛県工業技術センター
- セラミックコンデンサ|ウィキペディア日本語版
- FAQ:積層セラミックコンデンサの DC バイアス特性|村田製作所
- 技術シート No.19-02 TM0n0 モード空洞共振器摂動法によるマイクロ波帯における誘電率の測定|大阪産業技術研究所(ORIST)
- JIS R 1641:2007 ファインセラミックス基板のマイクロ波誘電特性の測定方法(規格の見本)|日本規格協会
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。
情報の確認日:2026年10月7日
