SiC(炭化ケイ素)や GaN(窒化ガリウム)のパワー半導体は、電源やインバーターの中で電気をオン・オフする部品(トランジスタ・ダイオード)を、シリコン(Si)より性質のよい材料で作ったものです。同じ耐圧ならオン抵抗を低くでき、速く切り替えられるので、電力を変換するときの損失を減らせます。鉄道車両、電動車、データセンター、充電器などで使われています。
このページでは、SiC・GaN と、次の材料として開発が進む酸化ガリウム(Ga₂O₃)について、しくみ、種類と選び方、使う場面ごとの選び方、データシートの見方、ゲートの駆動・サージ・モジュールの寿命の注意点をまとめ、この技術を扱う企業を紹介します。
SiC・GaN のパワー半導体の企業(早見表)
| 企業 | SiC ダイオード | SiC MOSFET | GaN | 酸化 ガリウム | パワー モジュール | ゲート ドライバ | 信頼性 試験 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ロームEcoSiC・EcoGaN | ● | ● | ● | ● | ● | ||
| 新電元工業SiC-SBD・SiC-MOSFET | ● | ● | ● | ||||
| サンケン電気GaN の開発 | ● | ||||||
| FLOSFIAGaO パワーデバイス | ● | ||||||
| ノベルクリスタルテクノロジー酸化ガリウム基板 | ● | ||||||
| クオルテックパワーサイクル試験 | ● |
●は、各社の公式サイトで取り扱いを確認できた種類です(空欄は、扱っていないという意味ではありません)。サンケン電気の GaN は、横型 GaN の開発を始め、縦型 GaN の開発・量産化を進める構想として紹介されているものです。FLOSFIA はデバイス(試作)、ノベルクリスタルテクノロジーは基板・エピウエハです。クオルテックは素子を作るのではなく、試験を受託する会社です。社名を押すと、その会社の紹介へ移ります。
この技術で解決できる課題
パワー半導体は、交流を直流に、直流を別の電圧に、直流をモーター用の交流に変える回路の「スイッチ」です。スイッチで出る損失はすべて熱になるので、素子の損失が減ると、効率が上がるだけでなく、放熱器や冷却を小さくできます(編集部の解説)。

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| 課題 | この技術での解決 | 課題ページ |
|---|---|---|
| 電源の変換効率を上げたい | オン抵抗とスイッチング損失の小さい SiC・GaN の素子に替える。回路方式や磁性部品の見直しとあわせて考える | SiC・GaN などのパワー半導体 |
| モーターの損失を減らしたい | インバーターの素子の損失を減らす。モーター自体の損失(銅損・鉄損)とは分けて考える | インバーターで回転数を下げる |
| 電源・インバーターを小さくしたい | 損失が減れば冷却を小さくでき、周波数を上げればコイルやコンデンサーを小さくできる | — |
| 高速スイッチングでノイズが出る | 速く切り替える素子ほど、配線のインダクタンスでサージやリンギングが出やすい。配線・パッケージ・ゲート駆動で抑える | 基板・配線の設計 |
「—」は、まだ課題ページがないものです。「電源・インバーターを小さくしたい」の行は、編集部の解説です。
出典:化合物半導体 GaN、SiC とは|サンケン電気、第4世代 SiC MOSFET ディスクリートパッケージ 諸特性と回路設計の注意点(アプリケーションノート、2022年)|ローム
仕組み
SiC や GaN は、Si より「バンドギャップ」が大きい半導体(ワイドバンドギャップ半導体)です。三菱電機の資料の比較表では、バンドギャップは Si の 1.12eV に対して 4H-SiC が 3.26eV、GaN が 3.42eV、絶縁破壊電界は Si の 0.3MV/cm に対して SiC・GaN は 3MV/cm と約10倍です。熱伝導率は 4H-SiC が 4.9W/cmK で、Si(1.5W/cmK)の約3倍です。

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FLOSFIA は、コランダム構造の酸化ガリウム(α-Ga₂O₃)について、バンドギャップが 5.3eV、期待される絶縁破壊電界が 8MV/cm を超えるとしています。GaN などの値は、資料によって少し違うことがあります。
出典:SiC レクチャーシリーズ「4. SiC の物理的性質」(2025年1月)|三菱電機、パワーデバイス事業|FLOSFIA
電界に強いので、電圧を受け止める層を薄くできる
縦型のパワー素子では、オフのときに高い電圧を「ドリフト層」で受け止めます。三菱電機は、ユニポーラ素子の抵抗の理論的な指標(BFOM)が絶縁破壊電界の3乗に比例し、SiC の素子の抵抗は Si の 1/667 まで下げられる可能性があるとしています(理論上の指標で、実際の素子の値ではありません)。ロームは、650V クラスで同じオン抵抗にするのに、SiC MOSFET のチップは Si-MOSFET の約1/100、スーパージャンクション(SJ)MOSFET の約1/10 の大きさで済むとしています。チップが小さいと、ゲート電荷量や容量も小さくなり、スイッチングにも有利です。

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出典:SiC レクチャーシリーズ「4. SiC の物理的性質」(2025年1月)|三菱電機、第4世代 SiC MOSFET ディスクリートパッケージ 諸特性と回路設計の注意点(アプリケーションノート、2022年)|ローム
SiC は縦型、GaN は横型が多い
SiC MOSFET は、裏面のドレインから表面のソースへ、チップの厚さ方向に電流を流す縦型が中心です。GaN は、シリコン基板の上に GaN の層を作り、表面近くを横向きに電流が流れる横型が多く採用されています。サンケン電気は、横型は高圧・大電流の用途には向いていないが、オン抵抗が低く高速でスイッチングできるので、小型化が求められる用途で採用が進んでいるとしています。縦型 GaN の開発も進んでいます。

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三菱電機の比較表では、GaN は熱酸化でゲートを作れず、低抵抗の p 型も作りにくいとされています。GaN のトランジスタが MOSFET ではなく HEMT(高電子移動度トランジスタ)という構造で作られることが多いのは、このためです(後半は編集部の解説)。
出典:化合物半導体 GaN、SiC とは|サンケン電気、SiC レクチャーシリーズ「4. SiC の物理的性質」(2025年1月)|三菱電機
種類と選び方
パワー半導体は、耐圧(どの電圧まで使えるか)と、扱う電力・周波数で住み分けます。SiC・GaN の素子と、比べる相手になる Si の素子をまとめました。

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| 種類 | 形と特徴 | 数値の例(出典) | 向いている場面 | 注意 |
|---|---|---|---|---|
| SiC ショットキーバリアダイオード(SBD) | 逆回復がとても短い(超高速リカバリ) | 新電元工業:650V・1,200V を拡充 | スイッチング損失を減らし、周辺回路を小さくしたい回路(新電元工業) | Si のダイオードより価格が高い(編集部の整理) |
| SiC MOSFET | 縦型。高い耐圧でもオン抵抗が低く、速く切り替えられる | ローム:650V・750V・1,200V・1,700V の製品区分 | 10kW 以上のパワーコンディショナ・EV など(サンケン電気)、鉄道 | ゲート駆動電圧が Si より高い。短絡に耐える時間が短い製品がある |
| GaN HEMT | 横型が多い。高速スイッチング・高周波に向く | ローム EcoGaN:150V・650V | 1kW 以下の小型の電源、充電器、データセンターの電源 | ゲートの定格に余裕が少ない。高い電圧・大電流は苦手(横型) |
| 酸化ガリウム(Ga₂O₃) | SiC・GaN よりさらにバンドギャップが大きい。開発段階 | FLOSFIA:オン抵抗 0.1mΩcm²・耐圧 531V の SBD を試作 | これからの高耐圧・低損失の用途 | 量産品は限られる。熱の伝わり方などの課題がある |
| (比較)Si SJ-MOSFET・IGBT | 安く、実績が多い | SJ-MOSFET は一般に 900V 程度まで(ローム) | コストと信頼性を重視する所 | 1,700V 以上では、これまで IGBT のような素子が必要だった |
数値は各社の製品ページ・資料の値で、規格値や保証値ではありません。「注意」の一部(価格・酸化ガリウムの課題)は、公開されている解説をもとに編集部が整理したものです。酸化ガリウムの熱の課題は、FLOSFIA が熱伝導率の課題をフィルム化と放熱板への直付けで解決するとしていることによります。
出典:SiC デバイス|新電元工業、SiC パワーデバイス|ローム、ローム、ゲート耐圧8Vの150V耐圧GaN HEMTを量産(2022年3月)|EE Times Japan、ロームとNVIDIA、AIファクトリー実現に向け協業(2025年6月)|EE Times Japan、パワーデバイス事業|FLOSFIA、第4世代 SiC MOSFET ディスクリートパッケージ 諸特性と回路設計の注意点(アプリケーションノート、2022年)|ローム、化合物半導体 GaN、SiC とは|サンケン電気
まず「電圧」と「電力」で絞る

京都大学の木本恒暢教授は、耐圧100Vや300Vの低電圧では GaN が非常に強く、耐圧600Vの市場は、Si は低コストと信頼性、SiC は大電流対応、GaN は高速スイッチングと、それぞれが強みを発揮できる激戦区になるだろうと述べています。サンケン電気は、SiC は10kW 以上の領域(パワーコンディショナ、HEMS、EV など)で普及が拡大し、GaN は1kW 以下の電源で小型の要求が強い分野(5G 基地局の電源、USB-PD の充電器など)に広がっているとしています。
選ぶ順番の目安は、①回路にかかる電圧(耐圧)、②流す電流と電力、③スイッチング周波数(どれだけ小さくしたいか)、④コストと供給、です(編集部の整理)。
出典:「SiCの20年」京都大学 木本恒暢教授インタビュー(3/3、2025年9月29日)|EE Times Japan、化合物半導体 GaN、SiC とは|サンケン電気
ダイオードだけ SiC にする方法もある

東海道新幹線の N700S の主変換装置には、ダイオードだけを SiC にした「ハイブリッド SiC」と、トランジスタも SiC にした「フル SiC」の両方が供給されています。ニュースイッチの記事は、フル SiC の方が性能に優れるが、十分な効果が得られるとして設計はハイブリッド SiC に合わせたと伝えています。全部を一度に替えず、効果の大きい所から替える選び方もあります。
出典:次世代新幹線車に搭載された新技術、まるっと早わかり(2018年)|ニュースイッチ
使う場面ごとの選び方
同じ SiC・GaN でも、どこで使うかで、重視する性能が変わります。公開されている採用例と解説から、代表的な場面をまとめました。
| 使う場面 | よく使われる種類 | 選ぶときのポイント | 公開されている例 |
|---|---|---|---|
| 鉄道車両の主変換装置・インバーター | SiC(フル SiC・ハイブリッド SiC) | 高い電圧・大電流。小型・軽量化と冷却 | N700S、小田急1000形 |
| 電動車のモーター用インバーター | SiC MOSFET | 大電流・高効率。車載の品質 | デンソーの SiC インバーター(レクサス RZ) |
| データセンターの電源 | SiC MOSFET、GaN HEMT | 高い効率と電力密度 | ロームと NVIDIA の協業(800V の電力供給) |
| 小型の電源・充電器 | GaN HEMT | 周波数を上げて周辺部品を小さくする | 5G 基地局の電源(採用が期待される用途)、USB-PD の充電器(サンケン電気の解説) |
「よく使われる種類」と「選ぶときのポイント」は、公開されている例と解説をもとに編集部が整理したものです。
出典:次世代新幹線車に搭載された新技術、まるっと早わかり(2018年)|ニュースイッチ、フルSiCモジュールが小田急1000形の心臓部を約40%省エネに(2015年6月)|EE Times Japan、デンソー初のSiCインバーター、レクサスRZに搭載(2023年4月)|MONOist、ロームとNVIDIA、AIファクトリー実現に向け協業(2025年6月)|EE Times Japan、化合物半導体 GaN、SiC とは|サンケン電気
鉄道:小さく軽くし、省エネにする

鉄道コムによると、N700S は主変換装置に SiC 素子を採用し、走行風による冷却も全面的に採用して、主変換装置1台あたりのサイズは初期の N700系の約55%、重量は約0.6トン軽くなりました。三菱電機は、フル SiC モジュールのインバーター装置を小田急1000形で確かめ、主回路システム全体で約40%の省エネになったとしています。比較の相手は Si の GTO(ゲートターンオフサイリスタ)のインバーターを積む従来の車両で、高効率の誘導電動機や低損失のフィルタリアクトルを含むシステム全体の値です(SiC の素子だけの効果ではありません)。電力回生率は 34.1%から 52.1%に上がりました。
出典:東海道新幹線の新型車両「N700S」が落成|鉄道コム、フルSiCモジュールが小田急1000形の心臓部を約40%省エネに(2015年6月)|EE Times Japan
電動車:インバーターの損失を減らす

MONOist によると、デンソーとして初めての SiC インバーターがレクサス RZ に搭載され、Si のインバーターと比べて、特定の走行条件で電力損失を半分以下に抑えられるとしています。SiC のエピタキシャルウエハーはレゾナックが供給しています。
出典:デンソー初のSiCインバーター、レクサスRZに搭載(2023年4月)|MONOist
向いている条件と注意点
向いている条件
- 変換の損失を減らして、効率を上げたい
- 冷却や放熱器を小さくしたい
- スイッチング周波数を上げて、コイルやコンデンサーを小さくしたい
- 高い電圧(SiC)や、小型・高周波(GaN)の電源
注意点
- 素子の価格が Si より高い。全体のコストで比べる
- ゲートの駆動電圧・定格が Si と違う。そのまま置き換えられない
- 速く切り替わるぶん、サージ・リンギング・ノイズが出やすい
- 短絡に耐える時間が短い製品がある。保護回路を見直す
注意点の一部(価格・全体のコスト)は、編集部の整理です。
出典:ゲート駆動回路の基礎とデザインガイドライン(アプリケーションノート)|ローム、AN 24-001 SiC MOSFET モジュールの使い方(日本語版、2024年)|Semikron Danfoss、ローム、ゲート耐圧8Vの150V耐圧GaN HEMTを量産(2022年3月)|EE Times Japan
ゲートを動かす電圧が Si と違う
ロームは、一般に SiC MOSFET のゲート駆動電圧は15〜20V なので、Si-MOSFET から置き換えるときは注意が必要だとしています。Si-MOSFET は10〜15V でオン抵抗がほぼ変わらないのに対し、SiC MOSFET は15V より低いとオン抵抗が急に増えるためです。同社の SiC MOSFET の推奨は、正が15〜18V、負が0V です。GaN では、耐圧200V 以下の一般的な素子はゲート駆動電圧が5V なのに、ゲートの定格は6V が一般的で、余裕が1V しかありませんでした。ロームは独自の構造で定格を8V に上げたとしています。

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出典:ゲート駆動回路の基礎とデザインガイドライン(アプリケーションノート)|ローム、ローム、ゲート耐圧8Vの150V耐圧GaN HEMTを量産(2022年3月)|EE Times Japan
短絡に耐えられる時間が短い

Semikron Danfoss は、SiC MOSFET のチップは同じくらいの IGBT より大幅に小さく電流密度も高いので、より短いパルスで限界の温度に達し、一部の SiC MOSFET では短絡時間が 2µs までしか許容されないとしています。ゲート電圧を高くするとオン抵抗は下がりますが、短絡に耐える時間は短くなるという関係もあります。ロームは、第4世代品ではオン抵抗を下げても第3世代品と同等以上の短絡耐量の実力を確保したとしています(保証値ではない)。
出典:AN 24-001 SiC MOSFET モジュールの使い方(日本語版、2024年)|Semikron Danfoss、第4世代 SiC MOSFET ディスクリートパッケージ 諸特性と回路設計の注意点(アプリケーションノート、2022年)|ローム
データシートの見方
パワー半導体のデータシートには、耐圧、オン抵抗、スイッチング損失、ゲートの定格、短絡耐量などが並びます。どの値も、測った条件(ゲート電圧・電流・温度)とあわせて読みます。
| 項目 | 見方 |
|---|---|
| 耐圧 | 回路の最大電圧に、サージの分の余裕を見て選ぶ |
| オン抵抗 RDS(on) | ゲート電圧と接合温度で大きく変わる。使うゲート電圧・温度での値を見る |
| スイッチング損失 Eon・Eoff | 電圧・電流・ゲート抵抗・温度の条件で変わる。条件をそろえて比べる |
| ゲートの定格と推奨値 | 正・負の最大値と推奨値。メーカーと世代で違う |
| 短絡耐量 tpsc | 決まった電圧・温度で短絡に耐えられる時間。値がなければ短絡に耐えることは保証されない |
この表は、ローム・Semikron Danfoss の資料をもとに編集部が整理したものです。
出典:第4世代 SiC MOSFET ディスクリートパッケージ 諸特性と回路設計の注意点(アプリケーションノート、2022年)|ローム、AN 24-001 SiC MOSFET モジュールの使い方(日本語版、2024年)|Semikron Danfoss
オン抵抗は温度とゲート電圧で変わる
ロームは、SiC MOSFET はチャネル部の抵抗が Si-MOSFET より高いため、ゲート電圧が高いほどオン抵抗が下がり、18V 以上で少しずつ飽和するとしています。温度については、一般的な SJ-MOSFET はオン抵抗の9割以上を占めるドリフト層の抵抗が100℃上がると約2倍になり、高温でオン抵抗が大きく上がるのに対し、SiC MOSFET はドリフト層の占める割合が小さいので上昇率は低いとしています。ただし、1,200V 品はドリフト層が厚く、750V 品より温度係数が大きくなるとしています。

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出典:第4世代 SiC MOSFET ディスクリートパッケージ 諸特性と回路設計の注意点(アプリケーションノート、2022年)|ローム、AN 24-001 SiC MOSFET モジュールの使い方(日本語版、2024年)|Semikron Danfoss
組み込み・量産・信頼性の注意
- 配線のインダクタンスを減らすサージ・リンギングを抑える。ケルビンソース端子のある素子を使う
- ゲートを守る推奨の電圧で動かし、正・負のサージと誤点弧を抑える
- 温度の上下で寿命を確かめるパワーサイクル試験などで、接合部の寿命を確かめる
速いスイッチングは、サージとノイズを生む
ロームは、ターンオフのときにドレイン・ソース間に出るサージは電流経路のインダクタンスが原因で、ドレイン・ソース間のスナバ回路や、外付けのゲート抵抗を大きくしてスイッチングを遅くする方法で減らせるとしています。また、ゲート・ソース間にも予期しない正・負のサージが出ることがあり、クランプダイオードやミラークランプなどの保護回路を挙げています。ソース端子のインダクタンスの影響を避ける「ドライバソース端子」(ケルビンソース)のある素子では、端子のない従来品(TO-247N)と比べた同社の試験(印加電圧 800V、外付けゲート抵抗 10Ω、ドレイン電流 約50A など)で、ターンオンのスイッチング損失が19〜38%小さくなりました(その分ドレイン電流のピークが大きくなるので注意としています)。

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出典:ゲート駆動回路の基礎とデザインガイドライン(アプリケーションノート)|ローム、ドライバソース端子によるスイッチング損失の改善(アプリケーションノート)|ローム
モジュールは、温度の上下でつなぎ目が疲れる
パワーモジュールでは、チップが熱くなったり冷えたりするたびに、熱膨張の違う部材のつなぎ目に応力がかかります。クオルテックは、パワーサイクル試験を、通電時間が10秒までの「ショートタイム」(主にワイヤボンドなどチップ上の評価)と、1〜3分の「ロングタイム」(チップから遠い部材にも負荷)に分けて説明しています。三菱電機は、SiC はヤング率が Si の約3倍と大きく、温度サイクルで加わる応力がモジュールの寿命を決める要因になることがあるとしています。

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三菱電機の技報(2014年)では、銀のナノ粒子を焼き固めて接合したサンプルが、はんだで接合したサンプルと比べて約5倍のパワーサイクル寿命でした(基礎評価用のサンプルで、Tjmax=175℃、ΔTj=90K のパワーサイクル試験の値)。
出典:パワーサイクル試験|クオルテック、SiC レクチャーシリーズ「4. SiC の物理的性質」(2025年1月)|三菱電機、高耐熱パワー半導体モジュールのパッケージング要素技術(三菱電機技報 Vol.88 No.5、2014年)|三菱電機
相談する前に整理すること
半導体メーカーや電源の設計会社に相談するときは、次の条件をできるだけ具体的にそろえておくと、素子や回路を絞りやすくなります。

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- 回路の種類(PFC・DC-DC・インバーターなど)と、使いたい方式
- 入力・出力の電圧と電流、ピーク電流、耐圧にどれだけ余裕を見るか
- スイッチング周波数と、目標の効率
- 周囲温度、冷却の方法(自然空冷・強制空冷・水冷)、接合温度の上限
- 守るべき EMC の規格、車載・産業などの品質の要求
- 今の素子(Si)の型番と、置き換えたい理由(効率・大きさ・重さ)
- 試作と量産の数量、評価用ボードが要るか
この一覧は、公開されている解説をもとに編集部が整理したものです。
企業紹介(SiC・GaN のパワー半導体技術)
SiC・GaN・酸化ガリウムのパワー半導体を扱う企業を、得意な分野が重ならないように選びました。素子のメーカーだけでなく、次の材料の基板、信頼性の試験の受託も入れています。内容は各社の公式サイトで確認できる範囲です。各社が扱っている種類は、次の早見表のとおりです。
| 企業 | SiC ダイオード | SiC MOSFET | GaN | 酸化 ガリウム | パワー モジュール | ゲート ドライバ | 信頼性 試験 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ロームEcoSiC・EcoGaN | ● | ● | ● | ● | ● | ||
| 新電元工業SiC-SBD・SiC-MOSFET | ● | ● | ● | ||||
| サンケン電気GaN の開発 | ● | ||||||
| FLOSFIAGaO パワーデバイス | ● | ||||||
| ノベルクリスタルテクノロジー酸化ガリウム基板 | ● | ||||||
| クオルテックパワーサイクル試験 | ● |
●は、各社の公式サイトで取り扱いを確認できた種類です(空欄は、扱っていないという意味ではありません)。サンケン電気の GaN は、横型 GaN の開発を始め、縦型 GaN の開発・量産化を進める構想として紹介されているものです。FLOSFIA はデバイス(試作)、ノベルクリスタルテクノロジーは基板・エピウエハです。クオルテックは素子を作るのではなく、試験を受託する会社です。社名を押すと、その会社の紹介へ移ります。
ローム株式会社|SiC の SBD・MOSFET・モジュールから GaN まで
ロームとは
京都市右京区に本社を置き、1958年に設立された半導体メーカーです。SiC のデバイスを「EcoSiC」、GaN のデバイスを「EcoGaN」のブランドで展開しています。SiC については、ウエハ製造から製造プロセス、パッケージング、品質管理方法まで技術を独自に開発し、製造工程でも一貫生産体制を採用しているとしています。

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ロームの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| SiC(EcoSiC) | SiC ショットキーバリアダイオード、SiC MOSFET、SiC パワーモジュール、ベアダイ。製品表の耐圧区分は 650V・750V・1,200V・1,700V |
| SiC モジュール TRCDRIVE pack | トラクションインバーター向けの 2in1 モールドタイプ。第4世代 SiC MOSFET を搭載し、同社の一般的な SiC モールドタイプモジュールの1.5倍の電力密度としている |
| GaN(EcoGaN)・ゲートドライバ | GaN HEMT と GaN HEMT パワーステージ IC。SiC の駆動用・GaN 用のゲートドライバ IC もそろえる |
ロームが解決できる課題
- 電源・インバーターの損失を減らして、消費電力を下げたい
- 電動車のインバーターを小さくしたい
- Si-MOSFET から SiC に置き換えるときのゲート駆動を設計したい(アプリケーションノートを公開)
公開されている実績・用途
- 2025年6月、次世代 AI データセンターの「800V 電力供給アーキテクチャ」の開発で NVIDIA と協業すると発表(EE Times Japan)
出典:会社概要|ローム、SiC パワーデバイス|ローム、GaN パワーデバイス|ローム、ロームとNVIDIA、AIファクトリー実現に向け協業(2025年6月)|EE Times Japan
新電元工業株式会社|小型の面実装 SiC ダイオードと、サージを抑える SiC モジュール
新電元工業とは
東京都千代田区に本社を置き、1949年に設立された会社です。主な事業内容は、半導体、電装製品、電源の製造及び販売です。SiC では、ショットキバリアダイオード、MOSFET、MOSFET モジュールを扱っています。

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新電元工業の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| SiC ショットキバリアダイオード | 小型の面実装パッケージを中心に 650V と 1,200V のラインナップを拡充。超高速リカバリ(trr 低減)、高耐圧・高温動作 |
| SiC-MOSFET | IGBT の置き換えとして 650V 以上の領域で、機器や冷却ユニットの小型化に貢献するとしている。ゲート電圧の許容範囲が広く、実使用の温度領域でフラットなオン抵抗 |
| SiC-MOSFET モジュール MG074 | 同社によれば、低インダクタンス構造でサージを 50V 以上低減(比較の条件は公開されていない)、リンギングも低減。評価用デモボードを用意 |
新電元工業が解決できる課題
- スイッチング損失を減らして効率を上げたい
- インバーター・コンバーターの機器や冷却ユニットを小さくしたい
- SiC のモジュールでサージやリンギングを抑えたい
出典:会社概要・役員一覧|新電元工業、SiC デバイス|新電元工業
サンケン電気株式会社|電源の小型化に向く GaN の開発
サンケン電気とは
埼玉県新座市に本店を置き、1946年に設立された会社です。目的(事業)は、電子部品、デバイス、電子回路の製造および販売などです。パワー半導体の解説ページで、SiC と GaN の使い分けと、同社の GaN の開発の方針を紹介しています。

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サンケン電気の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| GaN の開発 | 小電流から中電流の領域をカバーする横型 GaN デバイスの開発を始めた。段階的に電力領域・用途を広げる |
| 縦型 GaN の構想 | 2030年に、大電流領域の自動車・産業機器向けのディスクリートとモジュールに載せる縦型 GaN の開発・量産化を進める構想。社外との協業で速度を重視するとしている |
サンケン電気が解決できる課題
- 電源を小さくするために、高周波でスイッチングしたい(GaN)
- SiC と GaN のどちらを使うか、用途から考えたい
出典:会社概要|サンケン電気、化合物半導体 GaN、SiC とは|サンケン電気
株式会社FLOSFIA|酸化ガリウムの「GaO パワーデバイス」
FLOSFIAとは
京都市西京区に本社・製造・研究開発拠点を置く、2011年設立の会社です。京都大学発のミスト技術をもとに、コランダム構造の酸化ガリウム(α-Ga₂O₃)を使ったパワー半導体の実用化に取り組んでいます。

FLOSFIAの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| GaO パワーデバイス | コランダム構造の酸化ガリウムを使う。Si や SiC と比べてそれぞれ 1/3400、1/10 の低損失化が期待できる材料としている |
| 低いオン抵抗の SBD | オン抵抗 0.1mΩcm² の SBD の試作に成功(同社調べで世界最小。耐圧 531V の試作品)。販売されている最新の SiC 製 SBD の 0.7mΩcm² と比べて86%低いとしている |
| MISTEPITAXY | サファイア基板の上に直径4インチの α 型酸化ガリウムの層を作る。20μm 以下のフィルム状にして、放熱板や金属に直付けし放熱性を上げる |
FLOSFIAが解決できる課題
- SiC よりさらに損失の小さいダイオードを検討したい
- 電力変換モジュールを効率化・小型化したい
出典:会社概要|FLOSFIA、パワーデバイス事業|FLOSFIA
株式会社ノベルクリスタルテクノロジー|β 型酸化ガリウムの基板とエピウエハ
ノベルクリスタルテクノロジーとは
埼玉県狭山市にある、2015年設立の会社です。タムラ製作所からのカーブアウトベンチャーで、情報通信研究機構(NICT)の技術移転ベンチャーです。事業内容は、酸化ガリウムエピタキシャル膜付基板の製造販売、単結晶およびその応用製品の製造販売、半導体およびその応用製品の製造販売です。

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ノベルクリスタルテクノロジーの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 酸化ガリウム基板 | β-Ga₂O₃ の (001) 面の基板を 2インチ/100mm と 150mm で、(010)・(011)・(110) 面などの基板を 10×15mm などで用意 |
| エピウエハ | HVPE 法と MBE 法のエピウエハ。NEDO は、同社が2021年に HVPE 法で4インチのエピウエハの開発に成功し、製造・販売していると紹介している |
ノベルクリスタルテクノロジーが解決できる課題
- 酸化ガリウムのパワー素子の研究・開発のために、基板やエピウエハを手に入れたい
公開されている実績・用途
- 2022年、大陽日酸が東京農工大学・同社と共同で、HVPE 法で6インチのウエハの上に酸化ガリウムを成膜することに成功(NEDO の発表)
出典:会社概要|ノベルクリスタルテクノロジー、基板|ノベルクリスタルテクノロジー、世界初、HVPE法で6インチウエハ上への酸化ガリウム成膜に成功(2022年3月1日)|NEDO
株式会社クオルテック|SiC・GaN の素子とモジュールのパワーサイクル試験を受託
クオルテックとは
大阪府堺市に本社を置き、1993年(平成5年)に設立された会社です。事業内容は、電子部品の不良解析・信頼性試験の受託および新技術の開発、試験装置の設計・開発・製造・販売などです。パワー半導体に大電力をかけて発熱と冷却をくり返し、接合の信頼性を確かめるパワーサイクル試験を受託しています。

クオルテックの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| パワーサイクル試験 | 国内最大級規模の試験評価装置を保有し、年間250件以上の受託試験を実施、24時間365日稼働(同社)。ショートタイム・ロングタイムのモードで、チップ上の接合から遠い部材まで評価する |
| 試験の範囲 | 同時試験サンプル数 16素子/台、ON 時間 0.01〜300秒、試験電流 1素子あたり 0〜1,200A など(サンプル・条件による)。電流・電圧・ジャンクション温度・熱抵抗を記録できる |
| ノイズコントロール | GaN・SiC はスイッチングノイズでの素子破壊の危険性が高いとも言われるため、突入電流とサージ電圧を出さない試験環境を提供するとしている |
クオルテックが解決できる課題
- パワー半導体・モジュールの接合部の寿命を確かめたい
- SiC・GaN の素子を、ノイズで壊さずに信頼性試験したい
- パルス通電など、実際の動きに近い条件で評価したい
公開されている実績・用途
- パルス通電のパワーサイクル試験(TO-247 で実施)、IGBT と FWD の交互通電の試験、ΔTc パワーサイクル試験などの事例を公開している
出典:会社概要|クオルテック、パワーサイクル試験|クオルテック
使われる製品・事例
公開されている採用例には、東海道新幹線 N700S の主変換装置(ハイブリッド SiC とフル SiC)、小田急1000形のフル SiC インバーター、デンソーの SiC インバーター(レクサス RZ)、ロームと NVIDIA のデータセンター向けの電力供給の協業があります。サンケン電気は、GaN の採用が期待される用途として 5G 基地局の電源を、小型化が求められる例として USB-PD の充電器を挙げています。
出典:次世代新幹線車に搭載された新技術、まるっと早わかり(2018年)|ニュースイッチ、フルSiCモジュールが小田急1000形の心臓部を約40%省エネに(2015年6月)|EE Times Japan、デンソー初のSiCインバーター、レクサスRZに搭載(2023年4月)|MONOist、ロームとNVIDIA、AIファクトリー実現に向け協業(2025年6月)|EE Times Japan、化合物半導体 GaN、SiC とは|サンケン電気
関連する技術
SiC・GaN のパワー半導体とあわせて検討される技術です。
出典・確認日
- 化合物半導体 GaN、SiC とは|サンケン電気
- 第4世代 SiC MOSFET ディスクリートパッケージ 諸特性と回路設計の注意点(アプリケーションノート、2022年)|ローム
- SiC レクチャーシリーズ「4. SiC の物理的性質」(2025年1月)|三菱電機
- パワーデバイス事業|FLOSFIA
- SiC デバイス|新電元工業
- SiC パワーデバイス|ローム
- ローム、ゲート耐圧8Vの150V耐圧GaN HEMTを量産(2022年3月)|EE Times Japan
- ロームとNVIDIA、AIファクトリー実現に向け協業(2025年6月)|EE Times Japan
- 「SiCの20年」京都大学 木本恒暢教授インタビュー(3/3、2025年9月29日)|EE Times Japan
- 次世代新幹線車に搭載された新技術、まるっと早わかり(2018年)|ニュースイッチ
- フルSiCモジュールが小田急1000形の心臓部を約40%省エネに(2015年6月)|EE Times Japan
- デンソー初のSiCインバーター、レクサスRZに搭載(2023年4月)|MONOist
- 東海道新幹線の新型車両「N700S」が落成|鉄道コム
- ゲート駆動回路の基礎とデザインガイドライン(アプリケーションノート)|ローム
- AN 24-001 SiC MOSFET モジュールの使い方(日本語版、2024年)|Semikron Danfoss
- ドライバソース端子によるスイッチング損失の改善(アプリケーションノート)|ローム
- パワーサイクル試験|クオルテック
- 高耐熱パワー半導体モジュールのパッケージング要素技術(三菱電機技報 Vol.88 No.5、2014年)|三菱電機
- 会社概要|ローム
- GaN パワーデバイス|ローム
- 会社概要・役員一覧|新電元工業
- 会社概要|サンケン電気
- 会社概要|FLOSFIA
- 会社概要|ノベルクリスタルテクノロジー
- 基板|ノベルクリスタルテクノロジー
- 世界初、HVPE法で6インチウエハ上への酸化ガリウム成膜に成功(2022年3月1日)|NEDO
- 会社概要|クオルテック
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。図はAI(Claude)で作成した概念図です。
情報の確認日:2026年10月1日 本ページの内容は一般的な情報で、実際の性能は素子・回路・使用条件により異なります。

