電池の劣化を抑えたい

リチウムイオン電池の組電池(円筒形のセル、底の冷却プレート、電池管理の基板)と、容量が少しずつ下がるグラフのイメージ

製品に組み込んだリチウムイオン電池が、仕様書の寿命より早く使えなくなる。使っていない予備の機器でも、容量が減っている。冬や急速充電のあとに劣化が進む。組電池の1本だけが早くへたる。こうした悩みは、電池の中で少しずつ進む化学反応が、温度・充電状態(SOC)・充電の電流によって速くなることから起きています。

電池の劣化を抑える方法は、温度を管理する、充電のしかたを制御する、BMS(電池管理システム)でセルをそろえる、劣化を診断して使い方を見直す、そして、長寿命の電池を選ぶ、の大きく5つです。まずは次のマトリクスで、自分の課題に近いものと、使える技術を確かめてください。

目次

課題と解決技術のマトリクス

課題(症状)温度管理(冷却・加温・均熱)充電の制御(範囲・電流・保管)BMS・セルバランス劣化診断(インピーダンス・SOH)長寿命の電池を選ぶ(LFP・LTO)
A充放電を繰り返すと、容量が早く減る○◎○◎
B使っていない(保管・待機)だけで劣化する◎◎○△
C寒いとき・急速充電のあとに劣化が進む◎◎○◎
D組電池の一部のセルだけが早く劣化し、使える容量が減る○◎○
E劣化の度合いがわからず、交換の時期を決められない○◎

◎ 第一候補○ 有効△ 条件によって有効

※記号は一般的な傾向に基づく目安です。実際に効く方法は、電池の種類(正極・負極の材料)、使う温度、充電の電流と頻度、使う SOC(充電状態)の範囲、求める寿命(年数・回数)、コストによって異なります。「長寿命の電池を選ぶ」の「△」(症状B)は、保存劣化は温度と SOC の影響が大きく、電池を替えるだけでは防げないことを示します。空欄は、その技術だけでは直接の対策になりにくいことを示します。

記号の理由と出典(17件)

マトリクスの記号ごとに、理由と出典をまとめました。出典が「編集部の解説」のものは、この記事の本文の説明をもとにした編集部の評価です。症状の記号を押すと、その症状の説明へ移ります。

症状技術記号理由出典
A温度管理(冷却・加温・均熱)○温度を下げると化学反応が遅くなり、劣化の進みが抑えられるため(A の症状カードには挙がっていない補助的な手段)JFEテクノリサーチ「リチウムイオン二次電池の寿命評価試験」
A充電の制御(範囲・電流・保管)◎使う充電状態(SOC)の幅を絞ると、充放電のたびの劣化が大きく減るため加地ほか、自動車技術会論文集 44(2)
A劣化診断(インピーダンス・SOH)○使い方に近い条件で寿命試験をして、劣化の進み方を確かめられるため(対策の効果確認)編集部の解説
A長寿命の電池を選ぶ(LFP・LTO)◎サイクル寿命の長い LTO などに替えると、繰り返しの充放電でも容量が保たれるため東芝
B温度管理(冷却・加温・均熱)◎温度が高いほど保存劣化が速く、置き場所の温度を下げるのがまず効くため加地ほか、自動車技術会論文集 44(2)
B充電の制御(範囲・電流・保管)◎SOC が高いまま置くほど劣化が速いため、満充電で置かないことが効く加地ほか、自動車技術会論文集 44(2)
B劣化診断(インピーダンス・SOH)○保管の温度・SOC を変えた試験で、何年もつかを見積もれるため編集部の解説
B長寿命の電池を選ぶ(LFP・LTO)△電池を替えても保存劣化は温度と SOC の影響が大きく、防げるのは条件が合う場合に限るため編集部の解説
C温度管理(冷却・加温・均熱)◎温度が低すぎると充電でリチウムが析出しやすく、ヒーターで温めてから充電すれば避けられるため東陽テクニカ「LIB の劣化要因」
C充電の制御(範囲・電流・保管)◎低温・大電流の充電でリチウム析出が起きるため、電流を下げるなど充電を制御すれば防げる東陽テクニカ「LIB の劣化要因」
CBMS・セルバランス○BMS がセルの温度を測り、充電の条件を決めて、低温時の充電を制御できるため編集部の解説
C長寿命の電池を選ぶ(LFP・LTO)◎LTO 負極は低温で充電しても金属リチウムが析出せず、低温・急速充電に向くため東芝
D温度管理(冷却・加温・均熱)○パック内の温度差がセルごとの劣化の差を広げるため、冷却の配置で差を小さくするのが有効編集部の解説
DBMS・セルバランス◎セルバランスで充電量をそろえないと、容量の小さいセルが組電池の使える時間を決めるためEDN Japan(アナログ・デバイセズの解説)
D劣化診断(インピーダンス・SOH)○セルごとの内部抵抗を測って、ばらつきや劣化したセルを見つけ、入れ替えを判断できるため日置電機
EBMS・セルバランス○使いながら電圧・電流・温度を記録し、BMS で SOH を推定できるため編集部の解説
E劣化診断(インピーダンス・SOH)◎交流インピーダンス法は数秒〜数分で測れ、SOH を短い時間で診断できるためJARI(中古 LIB の劣化診断方法)

課題の診断と解決策

A

充放電を繰り返すと、容量が早く減る

毎日充放電する機器で、仕様書の寿命より早く使える時間が短くなる。満充電から空になるまで使い切っている。

充電器とモーターにつないだラミネート形のリチウムイオン電池が、満充電と放電を繰り返し、負極の黒鉛の表面の被膜が厚く育っているイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
充放電のたびに、負極の表面の被膜(SEI)が少しずつ育ち、そこでリチウムが使われて容量が減ります。充電状態(SOC)を0〜100%まで大きく動かすほど、劣化は速くなります。ある実験では、SOC の変動幅が0〜100%のときの劣化速度は、変動幅20%のときの2.6〜6.4倍程度でした(加地ほか、2013)。
解決に使える技術
  • 充電の制御使う SOC の幅を絞り、満充電・空の状態を避ける
  • 長寿命の電池を選ぶサイクル寿命の長いリン酸鉄系(LFP)やチタン酸リチウム(LTO)を使う
  • 劣化診断使い方に近い条件で寿命試験をし、劣化の進み方を確かめる
選ぶときの注意

SOC の幅を絞ると、1回の充電で使える容量は減ります。必要な容量に余裕を持たせた電池を選ぶ必要があり、大きさ・重さ・コストとの兼ね合いになります。

B

使っていない(保管・待機)だけで劣化する

予備の機器や、待機時間の長い蓄電池が、ほとんど使っていないのに容量が減っている。倉庫や屋外の盤の中に置いている。

日の当たる屋外の盤の中で使わずに置いた電池が、高い温度の中で少しずつ劣化し、負極の表面の被膜が育っているイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
電池は、使わなくても時間とともに劣化します(保存劣化、カレンダー劣化)。温度が高いほど、また満充電に近い状態で置くほど速く進みます。ある実験では、25℃から50℃に上がると、保存劣化の速さがおよそ5倍になりました(加地ほか、2013)。
解決に使える技術
  • 温度管理置き場所・筐体の温度を下げる。熱源から離す
  • 充電の制御満充電のまま置かない。保管の SOC を下げる
  • 劣化診断保管の温度・SOC を変えた試験で、何年もつかを見積もる
選ぶときの注意

保管の SOC を下げすぎると、自己放電で過放電になるおそれがあります。下げる量と、補充電の間隔は電池メーカーの仕様書で確かめます。

C

寒いとき・急速充電のあとに劣化が進む

冬の屋外や冷凍倉庫で使う機器、急速充電をくり返す機器で、容量の減りが速い。低温で充電すると、急に性能が落ちることがある。

冷凍倉庫で急速充電している電池の中で、負極の黒鉛の表面に金属のリチウムが樹の枝のように出ているイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
低温や大きな電流で充電すると、リチウムイオンが負極(黒鉛)の中に入りきれず、表面に金属のリチウムとして出てきます(リチウム析出)。出たリチウムの一部は元に戻らず、その分の容量が失われます。樹の枝のように伸びると、内部短絡の原因にもなります。
解決に使える技術
選ぶときの注意

どの温度で、どれだけの電流まで充電してよいかは、電池の種類と製品で違います。電池メーカーの仕様書の充電温度範囲と、充電電流の上限を守ります。

D

組電池の一部のセルだけが早く劣化し、使える容量が減る

直列につないだ電池パックで、1本だけ電圧の下がりが早い。パック全体として使える時間が、新品のときより大きく減った。

直列につないだ6本の円筒形セルのうち、1本だけ充電量が少なく、組電池として使える容量が減っているイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
直列の組電池は、いちばん充電量の少ないセルで放電を止め、いちばん多いセルで充電を止めます。セルごとの充電量(SOC)や劣化の度合いがばらつくと、組電池として使える容量が目減りします。パックの中の温度差も、セルごとの劣化の差を広げる原因です。
解決に使える技術
  • BMS・セルバランスセルごとの電圧を測り、充電量をそろえる
  • 温度管理冷却の方法と配置で、セルの間の温度差を小さくする
  • 劣化診断セルやモジュールごとに劣化の度合いを測り、入れ替えを判断する
選ぶときの注意

セルバランスで直せるのは、充電量(SOC)のずれです。容量そのものが減ったセルは、バランスをとっても元に戻りません。組む前にセルの特性をそろえる(選別する)ことも大切です。

E

劣化の度合いがわからず、交換の時期を決められない

まだ使える電池を早めに交換している、または突然使えなくなって困る。中古の電池の価値を決められない。

使った電池モジュールのセルに測定器のプローブを当て、劣化の度合いを調べているイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
劣化の度合いは、SOH(健全度。新品の満充電容量に対する、今の満充電容量の割合)で表します。満充電から空まで放電すれば容量はわかりますが、数時間かかります。内部抵抗やインピーダンスの測定、充電のときのデータの解析で、短い時間で推定する方法があります。
解決に使える技術
選ぶときの注意

推定の精度は、比べるためのデータ(同じ電池の劣化のデータ)がどれだけそろっているかに左右されます。電池の種類ごとに、診断の方法が合っているかを確かめます。

なぜ、電池は劣化するのか

使っても、使わなくても劣化する

充放電を繰り返す電池と、棚に置いたままの電池の、どちらでも負極の被膜が育つイメージ
サイクル劣化と保存劣化:使っても、置いておくだけでも劣化するイメージ(AI[ChatGPT]で生成)

リチウムイオン電池の劣化には2種類あります。充放電を繰り返すことで進む「サイクル劣化」と、使わなくても時間とともに進む「保存劣化(カレンダー劣化)」です(JARI「中古 LIB の劣化診断方法」)。パナソニックの解説では、一般的な車は1日の大部分を止まって過ごすため、EV の電池ではカレンダー劣化が支配的になりやすいとしています。待機の時間が長い製品ほど、保存劣化の対策が効きます。

劣化の中身:被膜の成長、正極の変化、リチウムの析出

電解液の中の黒鉛の粒の表面で被膜が厚くなり、その中にリチウムイオンが取り込まれているイメージ
被膜(SEI)の成長:負極の表面の被膜が育ち、動けるリチウムが減るイメージ(AI[ChatGPT]で生成)

黒鉛の負極では、はじめての充電のときに、電解液が分解してできた被膜(SEI)が表面にできます。SEI は電子を通さず、リチウムイオンは通すため、それ以上の電解液の分解を防ぎます(GS Yuasa Technical Report)。ただし、この被膜は、充放電の繰り返しや高温での保存で育ちます。高温で保存した電池の分析では、被膜ができるときに動けるリチウムが減ることが、容量が減る要因と考えられています(精密工学会誌 88(4))。

リチウムイオン電池の正極・セパレーター・負極の断面で、負極の被膜の成長、正極の表層の変化、リチウムの析出、電解液の分解の4つの劣化を示した概念図
リチウムイオン電池の中で起きる主な劣化
出典:GS Yuasa Technical Report、精密工学会誌 88(4)、東陽テクニカ「LIB の劣化要因」の説明をもとに AI(Claude)で作成(粒子・被膜の大きさは模式)

正極でも、充放電を繰り返すと、結晶の表面の構造が変わり、界面の抵抗が増えて容量が下がることが報告されています(同)。低温や大電流での充電では、リチウムが負極に入りきれず、金属として出てきます(リチウム析出。東陽テクニカ「LIB の劣化要因」)。こうした変化の結果、容量が減り、内部抵抗が増えて、電圧が下がりやすく、発熱も増えます。

温度:10℃上がると、劣化は約2倍

劣化の化学反応は、温度が高いほど速く進みます。電池の寿命を温度で加速して評価するときは、アレニウス則に基づく「10℃2倍則」(試験温度が10℃高いと、半分の時間で同じ劣化が起きる)という近似が使われます(JFEテクノリサーチ「リチウムイオン二次電池の寿命評価試験」)。加地らの実験では、25℃から50℃に上がると、保存劣化の速さがおよそ5倍になり、劣化の速さへの影響は SOC より温度のほうが大きいことが示唆されました。

10℃2倍則による温度と劣化の速さの目安(25℃で1倍、35℃で2倍、45℃で4倍)と、25℃から50℃で保存劣化の速さが約5倍になった実験例
温度と劣化の速さ
出典:JFEテクノリサーチ「リチウムイオン二次電池の寿命評価試験」の近似と、加地ほか、自動車技術会論文集 44(2)の実験結果をもとに AI(Claude)で作成

低温では、別の劣化が問題になります。日本自動車研究所(JARI)の試験では、45℃では充電を始めるときの SOC が高いほど容量の低下が速かった一方、0℃では逆に、SOC 0% から充電を始める条件で、容量の低下と内部抵抗の増加が速くなりました。温度によって、劣化を速める使い方が変わることに注意が必要です。

充電状態(SOC):満充電で置くと速く、幅が広いほど速い

加地らの実験では、25℃・50℃のどちらでも、SOC が高い状態で保存するほど劣化が速くなりました。また、充放電のときの SOC の変動幅が0〜100%のときの劣化速度は、変動幅20%のときの2.6〜6.4倍程度でした。満充電のまま長く置かないこと、使う SOC の幅を絞ることが、劣化を抑える運用の基本になります。

SOC の変動幅20%と0〜100%の比較、および保存するときの SOC が高いほど劣化が速い傾向を示した概念図
SOC の幅と保存の SOC による劣化の違い
出典:加地ほか、自動車技術会論文集 44(2)の記載をもとに AI(Claude)で作成(右の棒の高さは模式)

出典:中古 LIB の劣化診断方法(PDF)|JARI Research Journal、EV バッテリーは何年もつ?|パナソニック、リチウム二次電池の電解液開発動向(PDF)|GS Yuasa Technical Report、リチウムイオン二次電池の試作と劣化解析技術|精密工学会誌 88(4)、LIB の劣化要因|東陽テクニカ、リチウムイオン二次電池の寿命評価試験(PDF)|JFEテクノリサーチ、リチウムイオン電池の劣化のモデル化に関する研究|自動車技術会論文集 44(2)、1/3C サイクル試験におけるリチウムイオン電池の劣化機構(PDF)|JARI Research Journal

解決技術の詳細

電池の劣化を抑える技術は、電池を置く環境を整える(温度管理)、使い方を決める(充電の制御、BMS・セルバランス)、今の状態を知る(劣化診断)、電池そのものを選ぶ(長寿命の電池)に分かれます。まず、困りごとから候補を絞ります。

電池の劣化の5つの困りごとから、使える技術を選ぶ早見図
電池の劣化の困りごとから技術を選ぶ早見図
出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成

温度管理(冷却・加温・均熱)

電池には、劣化が遅く、性能も出る「ちょうどよい温度」の範囲があります。高すぎると被膜の成長や電解液の分解が進み、低すぎると充電でリチウムが析出しやすくなります(東陽テクニカ)。冷やす、温める、パックの中の温度差を減らす、の3つで、この範囲の中に保ちます。

電池の温度が低すぎる・ちょうどよい・高すぎる範囲と、それぞれで起きる劣化、範囲の中に保つ3つの方法を示した概念図
電池の温度の範囲と劣化
出典:東陽テクニカ、GS ユアサの解説をもとに AI(Claude)で作成(範囲の温度は電池の種類による)
角形セルの熱が、下の熱伝導シートを通って液冷の冷却板へ逃げ、セルの温度がそろっているイメージ
液冷:角形セルの底面を、熱伝導シートを介して冷却プレートに当てるイメージ(AI[ChatGPT]で生成)

冷却には、空冷と液冷があります。GS ユアサの解説では、空冷は構成をシンプルにしやすく、液冷はより高い冷却能力を出しやすいとしています。同社は、角形のセルの底面を、熱伝導シートを介して冷却プレートに当てる構成を紹介しています。セルの広い側面は充放電で膨らんだり縮んだりしやすく、冷却プレートとの間にすき間ができると、空気の断熱で冷えにくくなるためです。

充電の制御(範囲・電流・保管)

充電のしかたを変えるだけで、劣化を抑えられることがあります。満充電で長く置かない、使う SOC の幅を絞る、温度に合わせて充電の電流を変えるの3つが基本です。パナソニックは、EV では満充電のまま放置すると劣化が進むため、出発の直前に充電を終えるのがよいとしています。

満充電で長く置かない、使う SOC の幅を絞る、温度に合わせて電流を変える、の3つの工夫を示した図
充電のしかたで劣化を抑える工夫
出典:加地ほか、パナソニック、東陽テクニカの解説をもとに AI(Claude)で作成

範囲を絞ると、1回の充電で使える容量は減ります。どこまで絞れば何年もつかは、電池と使い方で変わるため、使い方に近い条件での寿命試験で確かめます。

BMS・セルバランス

BMS(電池管理システム)は、セルごとの電圧、電流、温度を測り、過充電・過放電を防ぎ、充電の条件を決めます。多くのセルを直列につなぐ組電池では、セルの充電量をそろえる「セルバランス」も BMS の役割です。直列につないだセルは、パック内の温度差や、セルごとのインピーダンス・自己放電率・負荷の違いによって、充電量(SOC)が少しずつずれていきます。バランスをとらないと、そのずれは時間とともに大きくなります。また、劣化の進み方もセルごとに違い、いちばん容量の小さいセルが組電池の使える時間を決めます(EDN Japan、アナログ・デバイセズの解説)。

パッシブ方式(抵抗で熱にして捨てる)とアクティブ方式(多いセルから少ないセルへ移す)のセルバランスの比較図
パッシブ方式とアクティブ方式のセルバランス
出典:EDN Japan(アナログ・デバイセズ)の解説をもとに AI(Claude)で作成(セルの充電量は模式)
直列につないだ4本のセルのうち、充電量の多い1本の分を抵抗で熱にして捨てるパッシブ方式のセルバランスのイメージ
パッシブ方式:充電量の多いセルの分を、抵抗で熱にして捨てるイメージ(AI[ChatGPT]で生成)

セルバランスには、充電量の多いセルの分を抵抗で熱にして捨てる「パッシブ方式」と、多いセルから少ないセルへ電気を移す「アクティブ方式」があります。パッシブ方式は簡単で安く、アクティブ方式は効率がよい一方で回路が複雑になります。

劣化診断(インピーダンス・SOH)

劣化の度合いは、SOH(健全度)で表します。東陽テクニカの解説では、SOH を、新品の満充電容量を100%としたときの、劣化したときの満充電容量の割合としています。JARI の解説では、SOH を調べる方法として、満充電から空までの電気量を測る方法(最も正確だが数時間かかる)、充電の一部の挙動から推定する方法、電圧の差から内部抵抗を求める方法、交流インピーダンス法(数秒〜数分で測れる)を挙げています。

交流インピーダンス法のナイキスト線図と、dQ/dV 解析の山の変化を、新品と劣化後で比べた模式図
交流インピーダンス法と dQ/dV 解析
出典:東陽テクニカ、JARI、電力中央研究所の解説をもとに AI(Claude)で作成(線の形は模式で実測値ではない)
電池に小さな交流の信号を流し、測定器でインピーダンスを測っているイメージ
交流インピーダンス法:小さな交流の信号を流し、その応答から劣化を見分けるイメージ(AI[ChatGPT]で生成)

交流インピーダンス法では、周波数を変えながら小さな交流の信号を流し、その応答から、電解液の抵抗、電極の反応の抵抗、拡散などを分けて見ます(東陽テクニカ「電気化学インピーダンス法によるリチウムイオン電池の非破壊分析」)。充放電のデータを電圧で微分する dQ/dV 解析では、山の位置と高さの変化から、正極と負極のどちらがどう劣化したかを推定できます。どちらも電池を分解せずに調べられ、原因を確かめるときは、解体して断面や成分を調べる解析と組み合わせます。

長寿命の電池を選ぶ(LFP・LTO)

電池そのものを、劣化しにくい材料のものに替える方法です。正極にリン酸鉄リチウム(LFP)を使う電池や、負極にチタン酸リチウム(LTO)を使う電池は、サイクル寿命の長さを特長にした製品があります。東芝は、LTO 負極の電池 SCiB について、低温で充電しても金属リチウムが析出しないため、-30℃の低温環境で充放電を繰り返せるとしています。

黒鉛の負極では低温・大電流の充電でリチウムが析出し、チタン酸リチウムの負極では析出しないことを比べた概念図
黒鉛の負極とチタン酸リチウムの負極
出典:東芝「SCiB について」、東陽テクニカの解説をもとに AI(Claude)で作成(析出の形は模式)

一方で、電池の電圧やエネルギー密度(同じ大きさ・重さで貯められる量)は、電池の種類によって違います。寿命だけでなく、容量、大きさ、重さ、コスト、使う温度の範囲を合わせて比べます。

出典:リチウムイオン電池の冷却技術(PDF)|GS ユアサ、LIB の劣化要因|東陽テクニカ、EV バッテリーは何年もつ?|パナソニック、リチウムバッテリーの寿命を最大限に延ばす方法|EDN Japan、SOC、SOH とは何ですか?|東陽テクニカ、中古 LIB の劣化診断方法(PDF)|JARI Research Journal、電気化学インピーダンス法によるリチウムイオン電池の非破壊分析|東陽テクニカ、SCiB について|東芝

電池の劣化を抑える技術を持つ企業

各企業が解決できる課題と技術の内容を、企業が公開している情報をもとに紹介します。劣化の進み方を試験で確かめたいのか、今の電池の劣化を短い時間で診断したいのか、組電池を管理したいのか、長寿命の電池に替えたいのかによって、相談先が変わります。

企業解決できる課題種類何ができるか合う症状
東洋システム試験装置・受託試験充放電評価装置 TOSCAT などの試験装置を提供し、電池の受託試験・分析評価で、寿命や保存劣化の進み方、劣化した電池の中で起きたことを調べる。A 充放電を繰り返すと、容量が早く減る
B 使っていない(保管・待機)だけで劣化する
C 寒いとき・急速充電のあとに劣化が進む
E 劣化の度合いがわからず、交換の時期を決められない
ゴイク電池診断装置・BMS電池の劣化を約1秒で診断する装置と BMS を開発・販売し、中古電池の仕分けや、組電池のセルの充電量をそろえる用途に対応する。B 使っていない(保管・待機)だけで劣化する
D 組電池の一部のセルだけが早く劣化し、使える容量が減る
E 劣化の度合いがわからず、交換の時期を決められない
日置電機計測器メーカー電池の内部抵抗やインピーダンスを測るバッテリーテスターで、分解せずにセルごとの劣化やばらつきを見つける。D 組電池の一部のセルだけが早く劣化し、使える容量が減る
E 劣化の度合いがわからず、交換の時期を決められない
エリーパワー電池メーカーリン酸鉄系の大型リチウムイオン電池と蓄電システムを開発・製造し、毎日の深い充放電でも容量が減りにくい電池を提供する。A 充放電を繰り返すと、容量が早く減る
東芝電池メーカー負極にチタン酸リチウムを使ったリチウムイオン電池 SCiB を提供し、寒い場所や急速充電をくり返す用途での劣化を避ける。A 充放電を繰り返すと、容量が早く減る
C 寒いとき・急速充電のあとに劣化が進む
企業名を押すと各社の紹介へ、症状を押すと上の症状の説明へ移ります(各社の公開情報をもとに編集部で整理。課題の絵は AI[ChatGPT]で生成したイメージ)

東洋システム株式会社|電池の寿命試験と劣化の解析

東洋システムは、福島県いわき市に本社工場を置く、1989年設立の会社です(資本金1億円、社員142名。2026年1月現在)。2026年1月から、いわき本社工場と横浜本社の2拠点の体制にしています。二次電池の試験装置として、充放電評価装置 TOSCAT などを提供し、電池の受託試験・分析評価も行っています。

東洋システムの得意技術

技術内容
寿命試験・特性試験の受託寿命試験、各種特性試験、環境温度特性試験、カレンダー試験(保存試験)を行う。xEV や ESS 向けには、走行パターンのシミュレーション(WLTC、JC08、LA4、NEDC など)にも対応する
解体調査と成分分析電池の解体調査、不具合解析、成分分析に対応する。X線CTで電池の内部を非破壊で観察し、EDX 分析で元素のマップを作る。電解液の溶媒・添加物の成分や、発生したガスの成分を同定・定量できるとしている
充放電評価装置 TOSCATサイクル試験や特性試験に使う充放電評価装置。微小電流(100mA)のタイプから、大型電池向けの30〜500A、パック向けの0〜500V まで。走行シミュレーションにも対応する

東洋システムが解決できる課題

  • 使い方に近い条件で、電池が何年・何回もつかを試験で確かめたい
  • 保管の温度や SOC を変えたときの、保存劣化の進み方を知りたい
  • 劣化した電池を分解し、中で何が起きたかを調べたい
東洋システムの X 線 CT 装置で電池の内部構造を観察した例(4つの断面像)
X線CT装置による電池の内部構造の観察例(出典:受託・分析評価|東洋システム)

出典:受託・分析評価|東洋システム、充放電評価装置 TOSCAT|東洋システム、会社概要|東洋システム

ゴイク電池株式会社|約1秒で劣化を診断する装置と BMS

ゴイク電池とは

ゴイク電池は、大阪市淀川区に本社を置く、2014年設立の会社です(資本金5,000万円)。電池診断装置の開発、BMS の開発・販売、急速充電池と電池応用技術の開発・販売を行っています。郵送や訪問の窓口は、大阪府吹田市のテクノロジーセンターです。

ゴイク電池の得意技術

技術内容
電池診断装置 Battery Artz電池を取り外して診断機につなぐと、約1秒で、容量・残量を5%の誤差で得られるとしている。充放電は不要。CHAdeMO に対応した EV は約30秒で診断できる。リチウムイオン電池に対応する
動的内部抵抗による解析電池方程式「高岡理論」を基にした独自の解析(Dir:動的内部抵抗)で、SOC(残量)と SOH(健康状態)を求める。BMS に組み込んで、充電の制御に使うこともできる
BMS(g-BMS)リチウムイオン電池(公称3.2〜3.8V)用。1枚の基板で3〜15セル、最大32枚をデイジーチェーンでつなげる。パッシブバランス方式で、バランスの電流は1ch あたり180mA、電圧の分解能は2mV 以下

三菱マテリアルと、2019年から車載用リチウムイオン電池の劣化度の診断技術の開発・実証を進めているとしています。

ゴイク電池が解決できる課題

  • 電池の劣化の度合いを、充放電せずに短い時間で知りたい
  • 中古・使用済みの電池を、再利用できるか仕分けたい
  • 組電池のセルの電圧を監視し、充電量をそろえたい
ゴイク電池の BMS(g-BMS)の基板
BMS(g-BMS)の基板(出典:BMS/BMU|ゴイク電池)

出典:電池診断装置|ゴイク電池、BMS/BMU|ゴイク電池、MMC Acceleration Program 採択のお知らせ|ゴイク電池、会社概要|ゴイク電池

日置電機株式会社|電池のインピーダンスを測る測定器

日置電機とは

日置電機は、長野県上田市に本社・工場を置く、1952年設立(創業1935年)の電気計測器のメーカーです(資本金32億9,946万円、従業員1,153名。2025年12月31日現在)。電気計測器の開発、生産、販売・サービスを行い、電池の内部抵抗やインピーダンスを測るバッテリーテスターを手がけています。

日置電機の得意技術

技術内容
バッテリインピーダンスメータ BT4560-60電池の交流インピーダンス(EIS)を0.01Hz〜10.00kHz で測り、ナイキストプロットで表示する。低い周波数では電荷移動抵抗と拡散抵抗、高い周波数では電解液の抵抗や溶接の抵抗を測れるとしている。交流をかけたときの充放電を防ぐ機能がある
バッテリハイテスタ BT3563A など内部抵抗(交流の方式、AC-IR)と開放電圧を同時に測る。xEV 向けの大型セルから300V のパックまで。短い時間で測れるため、出荷検査や受入検査に向く
多チャネルの測定スイッチメインフレームと組み合わせて、多くのセルを切り替えて測れる

日置電機が解決できる課題

  • 電池を分解せずに、どこが劣化したか(電解液・電極の反応・拡散)を見分けたい
  • セルごとの内部抵抗を測り、ばらつきや劣化したセルを見つけたい
  • 出荷・受入のときに、電池の状態を短い時間で検査したい
交流インピーダンスの測定の3つの手順と、周波数ごとに測れる抵抗を示した図
交流インピーダンスの測定で劣化の場所を見分ける流れ
出典:日置電機 BT4560-60、BT3563Aの製品情報と、東陽テクニカの解説をもとに AI(Claude)で作成

出典:バッテリインピーダンスメータ BT4560-60|日置電機、バッテリハイテスタ BT3563A|日置電機、会社概要|日置電機

エリーパワー株式会社|リン酸鉄系の長寿命の大型リチウムイオン電池

エリーパワーは、東京都品川区に本社を置く、2006年設立の会社です(投入資本額501億5,040万円(2023年11月30日現在)、従業員346名(2026年4月1日現在))。大型リチウムイオン電池と蓄電システムの開発、製造、販売を行っています。

エリーパワーの得意技術

技術内容
リン酸鉄(LFP)の正極正極材にリン酸鉄を使う。リン酸鉄は熱安定性が高く熱暴走しにくい性質を持つが、それだけで安全な電池になるわけではなく、電池全体を最適化しているとしている
長いサイクル寿命15年間くり返しフル充放電(約17,000回)しても、電池容量の保持率70%(室温25℃、1C、1日3サイクル、放電深度100%の電池セル単体の予測値)
広い作動温度-20℃から60℃まで作動する(蓄電システムの動作保証温度範囲とは異なる)。設置環境によっては冷却設備が不要としている

エリーパワーが解決できる課題

  • 毎日の充放電で、蓄電池の容量が早く減るのを抑えたい
  • 放電深度を深く(0〜100%)使っても、長くもつ電池がほしい
  • 発火のリスクを抑えた、大型の電池を使いたい
エリーパワーの電池セルの寿命データ。サイクル数が約17,500回で放電容量維持率が約70%になるグラフ
電池セル寿命実測データ(出典:キーテクノロジー|エリーパワー)

出典:キーテクノロジー|エリーパワー、会社概要|エリーパワー

株式会社東芝|チタン酸リチウム負極のリチウムイオン電池 SCiB

東芝は、神奈川県川崎市に本店を置く、1875年創業の電機メーカーです(資本金2,014億4,900万円)。負極にチタン酸リチウムを使ったリチウムイオン二次電池「SCiB」を提供しています。

東芝の得意技術

技術内容
チタン酸リチウムの負極負極にチタン酸リチウムを使い、安全性、長寿命、低温性能、急速充電、高入出力などの特長を持つとしている
長いサイクル寿命20,000回を超えるサイクル寿命(セルの種類や使用条件により特性は異なる)。大容量タイプは、過酷な条件で20,000回充放電したあとも70%以上の容量を維持。高入出力タイプは、過酷な大電流で40,000回以上充放電しても80%以上の容量を維持するとしている
低温と急速充電低温で充電しても金属リチウムが析出しないため、-30℃の低温環境で充放電を繰り返せる(セルの種類によって使用温度範囲は異なる)。6分間で80%以上を充電でき(大容量タイプの例。セルの種類や使用条件で異なる)、SOC 0〜100%を使える

東芝が解決できる課題

  • 寒い場所や冷凍倉庫で、充電による劣化を避けたい
  • 急速充電をくり返しても、長くもつ電池がほしい
  • 充放電の回数が多い用途で、電池の交換を減らしたい
SCiB のサイクル寿命、低温での充電、急速充電と SOC の特長をまとめた図
SCiB の劣化に関わる特長
出典:東芝「SCiB について」、大容量タイプ・高入出力タイプの製品情報の記載をもとに AI(Claude)で作成

出典:SCiB について|東芝、SCiB 大容量タイプ|東芝、SCiB 高入出力タイプ|東芝、会社概要|東芝

選ぶ前に確かめる条件

メーカーや試験会社に相談する前に、次の条件を整理しておくと、話が早くなります。

  • 電池の種類(正極・負極の材料、形状、容量、公称電圧)と、何本を直列・並列につないでいるか
  • 求める寿命(何年、何回)と、寿命の判定基準(容量が何%まで下がったら寿命とするか)
  • 使う温度と保管の温度(最低・最高、屋内・屋外、冷却や加温の有無)
  • 充電のしかた(電流、急速充電の有無、1日の回数、満充電で置く時間)
  • 使う SOC の範囲(何%から何%まで使っているか)と、容量に余裕があるか
  • 今の困りごと(容量の減り、出力の低下、発熱、セルのばらつき)と、劣化した電池が手元にあるか
  • BMS の有無と、記録できるデータ(セルごとの電圧・電流・温度)
  • 数量、納期、予算

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※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。

情報の確認日:2026年9月30日

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