はさみで紙を切るとき、2枚の刃は紙を上下から押しながら、少しずれた位置ですれ違います。紙は「引きちぎられる」のではなく、面に沿ってずらされて切れるのです。このように、物の中のある面を横にすべらせようとする力の強さをせん断応力といいます。ボルトやピン、接着した部分、プレスの打ち抜き、モーターの軸など、ものづくりのあちこちで出てきます。このページでは、せん断応力とは何か、計算のしかた、せん断ひずみと横弾性係数、軸のねじり、せん断で壊れる・降伏する目安、打ち抜き加工、流体のせん断応力までを、図と計算例で順に解説します。
せん断応力とは:ひとことで言うと
せん断応力とは
せん断応力は、物体の内部のある面に平行な向きに、その面をすべらせるようにはたらく応力です(Wikipedia「せん断応力」)。面積 A の面に平行な力 F がかかるとき、平均のせん断応力は τ(タウ)= F / A で求めます。
単位は、ふつうの応力と同じ Pa(パスカル、N/m²)です(英語版 Wikipedia「Shear stress」)。機械の設計では、1 MPa = 1 N/mm² の MPa をよく使います(この一文は編集部の補足)。

出典:Wikipedia(英語版)、Wikipediaをもとに AI(Claude)で作成
応力には大きく2種類あります。考える面に垂直な力の成分による垂直応力(引張り・圧縮)と、面に平行な成分によるせん断応力です(英語版 Wikipedia「Shear stress」)。
| 力の向き | 記号と式 | 身近な例 | |
|---|---|---|---|
| 垂直応力 | 面に垂直(引きはなす・押しつける) | σ = F/A | 引っぱられるロープ、ボルトの軸方向 |
| せん断応力 | 面に平行(横にずらす) | τ = F/A | はさみ・パンチの刃、ピンの胴、接着面 |
表の「身近な例」は編集部がまとめました。垂直応力とひずみの基本は、技術の基礎知識「応力とひずみ」で解説しています。
出典:せん断応力|Wikipedia、Shear stress|Wikipedia(英語版)
せん断応力の計算:ピン・ボルトの一面せん断と二面せん断
いちばんよく使うのは、ピンやボルトに横向きの力がかかる場合です。重ねた2枚の板を1本のピンでつないで左右に引っぱると、ピンは板と板の境目の面でずらされます。この面をせん断面と呼び、ピンの断面積で力を割るとせん断応力が出ます。

出典:Wikipediaをもとに AI(Claude)で作成
計算例:直径 10 mm のピンに 10 kN
ピンの断面積は A = π × 10² ÷ 4 ≒ 78.5 mm² です。2枚の板を重ねただけの一面せん断なら、τ = 10,000 N ÷ 78.5 mm² ≒ 127 MPa です。
板を3枚にして、まん中の板をはさみこむ形(二面せん断)にすると、ピンは2つの面でずらされます。力を受ける面積が2倍の約157 mm² になるので、τ ≒ 64 MPa と半分になります。同じピンでも、つなぎ方を変えるだけで、せん断応力を下げられます。
この節の数値は、τ = F/A(Wikipedia「せん断応力」)を使った編集部の計算例です。実際の設計では、ピンの曲げ、穴の面がつぶれる力(面圧)、材料のばらつきも確かめ、安全率をかけます。ボルトの種類や強度区分は技術ページ「ねじ・ボルト・ナット・ワッシャー」、安全率の考え方は 技術の基礎知識「安全率」で解説しています。
せん断ひずみと横弾性係数 G

出典:Wikipedia、Wikipedia(英語版)をもとに AI(Claude)で作成
底を固定したブロックの上の面を横に押すと、ブロックは平行四辺形にゆがみます。このゆがみの角度をせん断ひずみ γ(ガンマ)といい、高さ h に対する横のずれ δ の比(δ/h)で表します(式は英語版 Wikipedia「Shear modulus」)。
せん断応力とせん断ひずみの比を横弾性係数 G(せん断弾性係数・剛性率)といいます(Wikipedia「剛性率」)。フックの法則により τ = G × γ の関係があります(Wikipedia「せん断応力」)。引張りのヤング率 E とポアソン比 ν がわかれば、G = E / 2(1 + ν) で求められます(Wikipedia「剛性率」)。
代表的な材料の横弾性係数
| 材料 | 横弾性係数 G | 出典 |
|---|---|---|
| 鉄鋼 | 78〜84 GPa(E 201〜216 GPa、ν 0.28〜0.30) | Wikipedia「剛性率」 |
| 鋼(Steel) | 79.3 GPa | 英語版 Wikipedia「Shear modulus」 |
| 銅 | 44.7 GPa | 同上 |
| 黄銅 C2600 | 41 GPa | Wikipedia「剛性率」 |
| チタン | 41.4 GPa | 英語版 Wikipedia「Shear modulus」 |
| アルミニウム | 25.5 GPa | 同上 |
| ゴム | 0.0006 GPa(0.6 MPa) | 同上 |
アルミの G は鋼のおよそ3分の1です。同じ形の軸や部品なら、アルミはねじれやすい、ということになります(表の値からの編集部の補足)。ヤング率とポアソン比は、技術の基礎知識「ヤング率」「ポアソン比」で解説しています。
出典:剛性率|Wikipedia、Shear modulus|Wikipedia(英語版)、せん断応力|Wikipedia
軸をねじったときのせん断応力

出典:Wikipedia(英語版)をもとに AI(Claude)で作成
モーターの軸やドライブシャフトのように、回す力(トルク)を伝える軸の断面には、せん断応力が生まれます。丸い軸では、せん断応力は中心で0、外側ほど大きくなり、表面で最大になります(英語版 Wikipedia「Torsion (mechanics)」)。
中身の詰まった直径 d の丸軸に、ねじりモーメント T がかかるとき、表面の最大せん断応力は τmax = 16T /(π d³)です(同)。設計の本では、これを τmax = T / Zp(Zp = π d³/16:極断面係数) と書くことが多く、中身は同じ式です。
計算例:直径 20 mm の軸に 100 N·m
Zp = π × 20³ ÷ 16 ≒ 1,571 mm³、T = 100 N·m = 100,000 N·mm なので、τmax ≒ 100,000 ÷ 1,571 ≒ 64 MPa です。式の中で直径は3乗で効くので、直径を2倍にすると、せん断応力は8分の1になります。この計算例は編集部によるものです。軸そのものの解説は 技術の基礎知識「シャフト(軸)」、トルクは 技術の基礎知識「トルク」にあります。
出典:Torsion (mechanics)|Wikipedia(英語版)
せん断で降伏する・壊れる目安

出典:Wikipedia(英語版)をもとに AI(Claude)で作成
材料のカタログには、ふつう引張りの降伏点(耐力)と引張強さが載っていて、せん断の強さは載っていないことが多くあります。そのときは、引張りの値から見積もります。金属の設計でよく使うミーゼスの条件では、純粋なせん断で降伏しはじめる応力は引張りの降伏応力の 1/√3(約0.577倍)です。トレスカの条件では 1/2 になります(英語版 Wikipedia「Von Mises yield criterion」)。
英語版 Wikipedia「Shear strength」は、鋼の「とてもおおまかな目安」として、せん断で壊れる強さ(極限せん断強さ)は引張強さの約0.75倍、せん断の降伏は引張りの降伏の約0.58倍、という値を挙げています。どれも目安なので、大事な部品では材料メーカーの値や試験で確かめます。
例えば、引張りの降伏点が 245 MPa の鋼なら、せん断で降伏しはじめるのは約141 MPa(ミーゼス)から約123 MPa(トレスカ)です(図の数値は編集部の計算例)。降伏点・耐力と引張強さの違いは 技術の基礎知識「降伏点・耐力と引張強さ」、弾性変形と塑性変形は 技術の基礎知識「弾性変形と塑性変形」で解説しています。
出典:Von Mises yield criterion|Wikipedia(英語版)、Shear strength|Wikipedia(英語版)
ものづくりでどう効くか:打ち抜き・締結・接着
プレスの打ち抜き:せん断で切り離す

出典:CGKをもとに AI(Claude)で作成
板金のプレス加工で穴をあける「打ち抜き」は、パンチとダイで板をはさみ、切る線にそってせん断して切り離す加工です。必要な力(打抜き力)は、切る線の長さ × 板厚 × 材料のせん断抵抗で見積もります。
CGK は、打抜き圧力を P = K × τ × ℓ × t × 1/100(P は kN、ℓ は周長 mm、t は板厚 mm、τ は材料のせん断抵抗、K は打抜き条件による補正係数で上限1.25)としています。同じページの表では、せん断抵抗はアルミ(軟)7〜11、鋼板(軟)45〜50、ステンレス(軟)52などとなっています(表には単位の記載がありませんが、式の 1/100 で kN にしていることから、kgf/mm² の値と読めます。1 kgf/mm² は約9.8 MPa)。
この式で、直径 20 mm の穴を厚さ 2 mm の鋼板(軟、τ = 45)に K = 1 であけると、P = 45 × π × 20 × 2 ÷ 100 ≒ 57 kN(約5.8トン)、K = 1.25 なら約71 kN になります(編集部の計算例。式の 1/100 は単位換算を丸めた目安で、kgf/mm² から厳密に換算すると約2%小さくなります)。プレス機や金型を選ぶときは、この値に余裕を持たせます。プレス加工の種類は技術ページ「板金・プレス加工」、金型は技術ページ「金型」で解説しています。

出典:テクパルコの技術解説チャンネル(YouTube)
ボルト・ピン・リベットの締結
重ねた板をボルトやリベットでつなぎ、横に引っぱると、軸の胴にせん断応力がかかります。前の節のとおり、せん断面の数(一面か二面か)と断面積で応力が決まります。ボルトの場合は、ふつう締め付けた力による板どうしの摩擦で横の力を受け、ゆるむとボルトの胴にせん断がかかります(この段落は編集部の補足)。ゆるみの対策は課題ページ「ねじ・ボルトがゆるむのを防ぎたい」、かしめ・リベットは課題ページ「かしめ・リベットで部品をしっかり留めたい」にまとめています。
接着:重ね合わせの面にかかるせん断
2枚の板を重ねて接着し、左右に引っぱると、接着した面に沿ってせん断応力がかかります。接着剤の強さを比べるときに「せん断強さ」がよく使われるのはこのためです。接着は引きはがす向き(はく離)に弱く、せん断の向きに強いので、力が面に沿ってかかるように形を考えます(この段落は編集部の補足)。接着剤の選び方は技術ページ「接着剤」で解説しています。
流体のせん断応力:粘度との関係

出典:Wikipedia、Wikipedia(英語版)をもとに AI(Claude)で作成
せん断応力は、固体だけでなく、油や水などの流体の中にも生まれます。2枚の平らな板の間に流体を入れ、上の板を動かすと、流体は板に近いところほど速く動きます。このとき、流体の中のせん断応力は粘度 μ × 速度こう配(du/dy)に比例します。これをニュートンの流体摩擦法則(ニュートンの粘性法則ともいう)といいます(Wikipedia「粘度」)。
間隔 h の2枚の板を相対速度 U で動かす場合は、τ = μU/h になります。μ が一定の流体をニュートン流体、速度こう配によって μ が変わる流体を非ニュートン流体と呼びます(Wikipedia「粘度」)。すべり軸受の油膜や、配管の壁の摩擦は、この流体のせん断応力によるものです(最後の一文は編集部の補足)。粘度そのものは 技術の基礎知識「粘度」で解説しています。
出典:粘度|Wikipedia、Shear stress|Wikipedia(英語版)
せん断応力が出てくるページ
出典
- せん断応力|Wikipedia
- Shear stress|Wikipedia(英語版)
- 剛性率|Wikipedia
- Shear modulus|Wikipedia(英語版)
- Torsion (mechanics)|Wikipedia(英語版)
- Von Mises yield criterion|Wikipedia(英語版)
- Shear strength|Wikipedia(英語版)
- 参考(打抜き圧力の計算・せん断抵抗)|CGK
- 粘度|Wikipedia
※図は、出典の説明をもとに編集部がまとめた模式図です。計算例の数値は編集部によるものです。
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。
情報の確認日:2026年10月31日
