高周波・高速信号の伝送損失を減らしたい(低誘電材料)

多層基板の断面と差動の配線を伝わる信号の波形、断面の見える同軸ケーブル(AI で生成したイメージ)

基板の配線を伝わる高速・高周波の信号が、受け側で小さくなりすぎて読み取れない。今の基板のまま周波数を上げたら、伝送損失が規格の予算に入らなくなった。5G のミリ波やレーダーで、アンテナまでの損失を減らしたい。こうした困りごとは、信号が配線を伝わるあいだに、絶縁材料(誘電体)と銅の両方でエネルギーを失うことから起きます。

この記事では、今の方法(FR-4 などのガラスエポキシ基板と、ふつうの銅箔)の課題を確かめ、置き換え先の6つの候補(低損失の積層板、フッ素樹脂の基板、LCP、変性ポリイミド、低粗度の銅箔、低損失の同軸ケーブル)を、各社が公開している値で比べます。損失の計算例と、置き換えるときの注意、相談できる企業を紹介します。

目次

今の方法(FR-4 とふつうの銅箔)の課題

伝送損失は「誘電損失」と「導体損失」の和

AGC の技術資料では、伝送損失は誘電体損失と導体損失の複合要素に関係するとしています。誘電体損失は誘電体(絶縁材料)に生じる電界によって発生する損失、導体損失は導体を流れる電流に起因する損失で、導電率に依存し、周波数の平方根に比例して増えるとされます。さらに表皮効果により、導体の表面粗さが大きいと伝送損失が増えます(同)。福田金属箔粉工業の技報でも、高周波の基板の伝送損失を下げる要素を、導体損失と誘電体損失の2つに分けています。

基板の断面の模式図と、伝送損失を導体損失と誘電損失に分けた説明の図
図1 伝送損失は導体損失と誘電損失の和
出典:AGC Research Report 70・福田技報(2021年10月)をもとに AI(Claude)で作成

周波数が上がると、誘電損失はまっすぐ増える

誘電損失は、周波数 × 誘電正接(tanδ)× 比誘電率(εr)の平方根に比例し、周波数に対してまっすぐ増えます(RF Essentials の解説)。同じ解説では、FR-4 の tanδ は1GHz で0.015、10GHz で0.025 と、周波数とともに上がるとしています。FR-4 は数GHz までなら使いやすい材料ですが、周波数が10倍になると誘電損失は10倍以上になります(編集部の解説)。誘電率・誘電正接の意味は、技術の基礎知識「誘電率・誘電正接」で解説しています。

FR-4 の例と低損失材料の誘電損失を周波数ごとに計算したグラフ
図2 周波数と誘電損失の計算例
出典:編集部の計算と、RF Essentials・利昌工業・有沢製作所・AGC Research Report 70の値をもとに AI(Claude)で作成

表皮効果で、電流は銅の表面に集まる

福田金属箔粉工業の技報では、信号の周波数が上がると信号が導体の表面に集中し(表皮効果)、導体損失の増大を招くとしています。電流が集まる深さ(表皮深さ)は、3GHz で約1.1µm、30GHz で約0.36µm です。高周波用の銅箔の表面粗さは RzJIS 2.5µm 以下が主流になっています(同)。表皮深さが粗さより浅くなると、電流は凹凸に沿って流れ、損失が増えます(編集部の解説)。

銅の表皮深さを1GHz・3GHz・10GHz・30GHzで比べた棒グラフと銅箔の粗さの目安
図3 銅の表皮深さと銅箔の粗さの目安
出典:福田技報(2021年10月)と編集部の計算をもとに AI(Claude)で作成

規格で決まる損失の予算

高速の規格では、送り側から受け側までに許される損失(損失の予算)が決まっています。Teledyne LeCroy の解説では、PCI Express の公称のチャネル損失は、PCIe 5.0(32GT/s)で36dB、PCIe 6.0(64GT/s、PAM4)で32dB で、どちらもナイキスト周波数は16GHz です。この予算を、基板の配線、ビア、コネクター、パッケージで分け合います(編集部の解説)。

出典:高速高周波用フッ素系プリント基板用材料の開発動向(AGC Research Report 70、2020年)|AGC、レーザー顕微鏡を用いた高周波基板用銅箔の表面粗さの評価(福田技報 2021年10月)|福田金属箔粉工業、Dielectric Loss in PCB Substrates vs Frequency|RF Essentials、How PAM4 Signaling is Changing PCIe 6.0 Jitter Measurements|Teledyne LeCroy

置き換え先の候補

損失を減らす方法は、どこで損失が出ているかで変わります。絶縁材料で失う誘電損失には基板の材料を、銅で失う導体損失には銅箔を、配線が長すぎるときは配線そのものを替えます。次の図は、公開情報をもとに編集部が整理した候補です。

伝送損失を減らす6つの置き換え先を、基板材料・銅箔・配線に分けた図
図4 置き換え先の6つの候補
出典:AGC Research Report 70・福田技報・利昌工業・山一電機・潤工社をもとに AI(Claude)で作成

低損失の積層板:リジッドの多層基板の材料を替える

利昌工業は「低伝送損失プリント配線板材料」として、10GHz で Dk 3.3〜3.6・Df 0.0018〜0.0041 の積層板を公開しています。たとえば CS-3379A は Dk 3.6・Df 0.0041 で高多層対応、CS-3379M は Dk 3.4・Df 0.0018 でミリ波帯での誘電特性に優れるとしています。CS-3379A・AD などは多層対応です。福田技報では、これまで基板に多く使われてきた熱硬化性のフェノール樹脂やエポキシ樹脂に代わり、熱可塑性の LCP、ポリフェニレンエーテル(PPE)、フッ素樹脂など、さまざまな誘電材料が高周波の基板に使われるようになっているとしています。

フッ素樹脂の基板:誘電率・誘電正接がとても小さい

AGC の資料では、フッ素樹脂は比誘電率と誘電正接が小さい材料として知られる一方、機械特性の点から基板の材料にはほかの材料との複合化が欠かせないのに、不活性な性質から接着・分散などの複合化が難しく、回路基板としては一部の用途への適用に限られてきたとしています。また接着性が低いため、銅箔は接着面の粗いものを使わなければならず、導体損失を下げるのが難しかったとされます。同社の EA-2000 は接着性を持たせたフッ素樹脂で、接着強度が0.8kN/m を超えるので低粗度の銅箔を使え、110GHz・室温で誘電率2.01・誘電正接0.001、2.5〜110GHz で周波数による変化がきわめて小さいとしています。有沢製作所は、フッ素樹脂とポリイミドの複合層の FPC 材料を、周波数28GHz 以上のミリ波帯に対応できるとしています。

LCP(液晶ポリマー):吸水が少なく、曲げられる

山一電機の YFLEX は、低損失の LCP を絶縁基材にした FPC で、同社は誘電正接0.0025(1GHz)、吸水率0.04%以下を公開しています。AGC の資料では、LCP はポリイミドより誘電正接の小さい材料として知られる一方、誘電正接の温度依存性が大きいという課題があるとしています。

変性ポリイミド(MPI):今のポリイミドの FPC の延長で使える

AGC の資料では、ポリイミドの低誘電率化・低誘電正接化・低吸水化を目的にした変性ポリイミド(MPI)の検討が盛んに行われているとしています。有沢製作所は、Df 0.003(5G 通信対応)の PKHW・PDS シリーズ、Df 0.004 の PRS シリーズを扱っています。一方で、ポリイミドは吸水率が大きく、市場の MPI は高温・高湿の条件で伝送損失が著しく悪化するとされます(AGC)。

低粗度の銅箔:導体損失を減らす

導体損失の改善には銅箔の低粗度化が必要です(福田技報)。同社は、ガラスエポキシの基材で誘電体損失をそろえ、12µm の銅箔・長さ100mm のマイクロストリップラインで20GHz の伝送損失を測り、表面粗さが低い品種ほど伝送損失(導体損失)が小さいことを示しています。粗さは、触針式の粗さ計の針の半径より細かくなってきたため、共焦点レーザー顕微鏡で三次元に測る方法(JPCA-KHS01)を紹介しています。

低損失の同軸ケーブル:長い配線を置き換える

潤工社は、PTFE を活用した柔軟な信号伝送線として、最大使用周波数26.5〜145GHz のマイクロ波・ミリ波同軸ケーブルを扱っています。精密計測用の0シリーズの標準挿入損失は、18.5GHz で1.6〜5.0dB/m です。基板の配線が長いときは、その区間をケーブルや FPC に替える方法も候補になります(編集部の解説)。

潤工社の精密計測用の同軸ケーブル0シリーズの最大使用周波数での標準挿入損失の棒グラフ
図5 潤工社の0シリーズの標準挿入損失
出典:潤工社「0シリーズ 精密計測用位相安定タイプ」をもとに AI(Claude)で作成

出典:高速高周波用フッ素系プリント基板用材料の開発動向(AGC Research Report 70、2020年)|AGC、レーザー顕微鏡を用いた高周波基板用銅箔の表面粗さの評価(福田技報 2021年10月)|福田金属箔粉工業、電子材料(プリント配線板材料)|利昌工業、2層銅張り積層板・フッ素銅張り積層板|有沢製作所、YFLEX®|山一電機、High-speed transmission FPC|Yamaichi Electronics、0シリーズ 精密計測用位相安定タイプ|潤工社、計測・検査|潤工社

公開されている値で比べる

誘電正接(tanδ)

候補の材料の誘電正接を、各社の公開値で並べました。AGC の資料では、回路基板など伝送距離が短い場合は tanδ≦0.0005、アンテナなど伝送距離が長い場合は tanδ≦0.0002 が理想としています。測定の周波数と方法が違う値が混ざっているので、目安として見てください(編集部の解説)。

FR-4 と低損失材料の誘電正接を対数の目盛りで比べた横棒グラフ
図6 材料の誘電正接の比較
出典:RF Essentials・利昌工業・有沢製作所・山一電機・AGC Research Report 70をもとに AI(Claude)で作成

計算例:1m・10cm あたりの誘電損失

誘電損失は、おおよそ 27.3 × f × √εr × tanδ ÷ c(dB/m。f は周波数、c は光の速さ)で見積もれます(編集部の計算。均一な絶縁材料の中の線路の近似で、誘電正接は周波数によらず一定と仮定した概算)。比誘電率4.0・tanδ 0.025 の FR-4 の例では、10GHz で約45dB/m、28GHz で約127dB/m です。利昌工業の CS-3379M(Dk 3.4・Df 0.0018)なら10GHz で約3.0dB/m、AGC の EA-2000(誘電率2.01・誘電正接0.001)なら約1.3dB/m になります。

材料ごとの誘電損失を10GHzと28GHzで計算した表
図7 誘電損失の計算例
出典:編集部の計算と、RF Essentials・利昌工業・有沢製作所・AGC Research Report 70の値をもとに AI(Claude)で作成

PCIe 5.0 の36dB(16GHz)に当てはめると、誘電損失だけで予算を使い切る長さは、FR-4 の例で約0.5m、CS-3379M で約7.5m です。実際には導体損失、ビア、コネクター、パッケージも予算を使うので、使える配線はずっと短くなります(編集部の計算)。FR-4 の比誘電率4.0 は計算のための仮の値で、実際の値は品番と周波数で違います。表面に配線のあるマイクロストリップラインでは、電界の一部が空気を通るので、損失はこの計算より少し小さくなります。

PCIe 5.0 の損失の予算36dBを誘電損失だけで使い切る配線の長さを材料ごとに比べた横棒グラフ
図8 PCIe 5.0 の損失の予算と配線の長さ
出典:編集部の計算と、Teledyne LeCroy・RF Essentials・利昌工業・有沢製作所・AGC Research Report 70の値をもとに AI(Claude)で作成

出典:Dielectric Loss in PCB Substrates vs Frequency|RF Essentials、電子材料(プリント配線板材料)|利昌工業、2層銅張り積層板・フッ素銅張り積層板|有沢製作所、High-speed transmission FPC|Yamaichi Electronics、高速高周波用フッ素系プリント基板用材料の開発動向(AGC Research Report 70、2020年)|AGC、How PAM4 Signaling is Changing PCIe 6.0 Jitter Measurements|Teledyne LeCroy

目的と置き換え先の比較表

行が置き換えの目的、列が置き換え先の候補です。◎は第一候補、○は有効、△は条件によって有効を表します。目的の行をクリックすると、理由と出典を書いたカードに移ります。

課題(症状)低損失の
積層板
(リジッド)
フッ素樹脂
の基板
LCP
(液晶
ポリマー)
変性
ポリイミド
(MPI)
低粗度の
銅箔
低損失の
同軸
ケーブル
A多層基板の高速信号の損失を減らしたい◎△○○
Bミリ波(28GHz 以上)のアンテナ・レーダー○◎○△○
C曲げる配線・薄い配線(FPC)にしたい△○◎○○
D温度・湿度で特性を変えたくない◎○△△
E装置の中・装置間の長い配線の損失を減らしたい○◎

◎ 第一候補○ 有効△ 条件によって有効

◎・○・△の理由と出典は、下の「目的ごとの選び方」の各カードに書いています。空欄は、その目的の根拠が今回の調べで見つからなかった候補です。記号は、各社の公開している値と技術資料をもとにした編集部の評価で、同じ目的の中での比較です。測定の方法と周波数が違うため、数値はそのまま比べられません。

目的ごとの選び方

目的(A〜E)ごとに、比べた結果、候補、置き換えるときの注意をまとめました。

A

多層基板の高速信号の損失を減らしたい

サーバー・通信機器の多層基板で、数十Gbps の信号の損失が予算に入らない。

比べた結果
利昌工業の低伝送損失の積層板は、10GHz で Df 0.0018〜0.0041 で、CS-3379A・AD は多層対応です(1GHz の値を示している CS-3376B も多層対応)。今のリジッドの多層基板の材料を替える形で使えます(編集部の解説)。銅箔を低粗度にすると導体損失が減り(福田技報)、福田金属箔粉工業は CF-T4X-SV の用途に伝送特性を重視するリジッド PCB を挙げています。基板の中の一部の配線を、山一電機の LCP の FPC に替える方法もあります。フッ素樹脂は損失が小さい一方、ほかの材料との接着・分散などの複合化が難しく、回路基板としては一部の用途に限られてきたとされます(AGC)。
候補
置き換えるときの注意

損失は材料だけでなく、配線の長さ・幅、ビア、コネクターでも決まります。まずどこで何dB 失っているかを計算かシミュレーションで分けてから、替える場所を決めます(編集部の解説)。

B

ミリ波(28GHz 以上)のアンテナ・レーダー

5G のミリ波や車載のミリ波レーダーで、アンテナと給電線の損失を減らしたい。

比べた結果
AGC の資料では、アンテナなど伝送距離の長い所では tanδ≦0.0002 が理想とされ、フッ素樹脂は比誘電率と誘電正接が小さい材料として知られ、ミリ波レーダー向けで実績があるとしています。同社の EA-2000 は110GHz で誘電率2.01・誘電正接0.001 です。有沢製作所のフッ素銅張り積層板は28GHz 以上のミリ波帯に対応でき、FC シリーズは Dk 2.5・Df≦0.002 です。利昌工業の CS-3379M(10GHz で Df 0.0018)はミリ波帯での誘電特性に優れるとされ、用途にレーダーを挙げています。山一電機は YFLEX をアンテナ基板の用途にも対応できるとしています。福田技報では、30GHz の表皮深さは約0.36µm で、銅箔の粗さの影響が大きくなります(編集部の解説)。
候補
置き換えるときの注意

ミリ波では、比誘電率が少し違うだけでアンテナの寸法や配線の幅が変わります。材料を替えるときは、使う周波数で測った値で設計し直します(編集部の解説)。測り方は、キーコムなどに相談できます。

C

曲げる配線・薄い配線(FPC)にしたい

スマートフォンや装置の中で、曲げて通す高速・高周波の配線の損失を減らしたい。

比べた結果
山一電機の YFLEX は、低損失の LCP を絶縁基材にした FPC で、28Gbps・56Gbps クラスの高速伝送に対応できるとしています。高速伝送 FPC は曲げることができ、長さは460mm までです。有沢製作所は FPC の材料として、フッ素樹脂とポリイミドの複合層の銅張積層板(Dk 2.5〜2.6・Df≦0.002)や、Df 0.003 の低誘電正接のポリイミドを扱っています。福田金属箔粉工業は CF-T4X-SV の用途に FPC を挙げ、圧延銅箔の超低粗度品もそろえています。利昌工業の接着シート AD-3379HG は、リジッドフレキ基板などを用途に挙げています。
候補
置き換えるときの注意

LCP のフィルムは、面の方向によって比誘電率が違う(面内の異方性がある)ことが報告されています(エレクトロニクス実装学会誌)。配線の向きで特性が変わらないか、試作で確かめます(編集部の解説)。

D

温度・湿度で特性を変えたくない

車載や屋外で、温度や湿度が変わっても損失が増えないようにしたい。

比べた結果
AGC の資料では、ポリイミドは吸水率が大きく、温度・湿度によって比誘電率や誘電正接が変動し、市場の MPI は高温・高湿の条件で伝送損失が著しく悪化するとしています。LCP はポリイミドより誘電正接が小さい一方、誘電正接の温度依存性が大きいという課題があるとされます(同)。山一電機の LCP の FPC は吸水率0.04%以下、有沢製作所の FC シリーズは低吸水(<0.2%)です。RF Essentials の解説では、FR-4 の tanδ は25℃から125℃で約50%上がることがあり、PTFE のような極性のない材料は5%未満の変化としています。AGC は、ポリイミドに同社のフッ素樹脂 EA-2000 を混ぜた複合体で、誘電率・誘電正接の温度依存性が小さくなったとしています。測定器までの配線の位相のずれを抑えたい場合は、潤工社が曲げや温度で位相が変わりにくい同軸ケーブルを扱っています。
候補
置き換えるときの注意

カタログの値は、ふつう常温・乾いた状態で測った代表値です。使う温度と湿度に置いたあとの値を、試験片で測って確かめます(編集部の解説)。AGC の資料では、85℃・85%RH に72時間置いて比べています。

E

装置の中・装置間の長い配線の損失を減らしたい

基板の配線が長く、材料を替えても損失の予算に入らない。測定器までの配線の損失も減らしたい。

比べた結果
基板の長い配線を、損失の小さいケーブルに置き換える方法があります(編集部の解説)。潤工社の精密計測用の同軸ケーブル(0シリーズ)は、PTFE を活用した信号伝送線で、標準挿入損失は18.5GHz で1.6〜5.0dB/m です。山一電機は、光モジュールから CPU までの56Gbps クラスのジャンパーケーブルの用途に YFLEX を挙げています。
候補
置き換えるときの注意

ケーブルにすると、コネクターの損失と反射が加わります。コネクターを含めた損失で、基板の配線と比べます(編集部の解説)。

出典:銅層形成誘電体基板のマイクロ波・ミリ波評価(小林禧夫、エレクトロニクス実装学会誌 Vol.18 No.5、2015年)|エレクトロニクス実装学会

置き換えるときの注意

低誘電材料に替えるときは、損失の予算を決め、どこで失っているかを分け、同じ周波数の値で候補を絞り、試作して測り、量産の条件を決める、という順に進めます。次の図は、この記事の内容をもとに編集部が整理した進め方です。

低誘電材料に置き換えるときの5つの手順
図9 低誘電材料に置き換えるときの進め方
出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成

カタログの値は、測り方と周波数で変わる

同じ材料でも、誘電率・誘電正接の値は測定の方法と周波数で変わります。利昌工業の表でも、品番によって1GHz の値と10GHz の値が混ざっています。キーコムは、空洞共振器・円板共振器・開放型共振器などの共振法と、周波数変化法を使い分け、100Hz〜330GHz の受託測定を行っています。候補を比べるときは、同じ方法・同じ周波数で測った値にそろえます(編集部の解説)。

キーコムのTM空洞共振器で誘電率を測定している様子の写真
図10 TM 空洞共振器での誘電率の測定(実例)
出典:キーコム「誘電率の受託測定」

銅箔の粗さと密着のかね合い

福田技報では、誘電特性に優れる材料は金属との接着性が低い傾向があり、配線の幅が年々細くなる中で、銅箔と誘電体の密着の確保が課題になっているとしています。AGC の資料でも、フッ素樹脂は接着性が低く、粗い銅箔を使うしかなかったため導体損失を下げにくかったとしています。低粗度の銅箔に替えるときは、はがれの強さ(ピール強度)と、はんだ付けの熱のあとの密着を確かめます(編集部の解説)。

粗い銅箔と低粗度の銅箔の断面と、損失と密着の利点・欠点の図
図11 銅箔の粗さと、損失・密着の関係
出典:福田技報(2021年10月)・AGC Research Report 70をもとに AI(Claude)で作成

吸湿と温度で値が動く

ポリイミドは吸水率が大きく、温度・湿度で比誘電率や誘電正接が変動します(AGC)。FR-4 の tanδ も温度で上がるとされます(RF Essentials)。屋外や車載で使う製品は、高温・高湿に置いたあとの損失を測って比べます(編集部の解説)。

全部の層を替えずに、高周波の層だけ替える

低損失材は FR-4 より高価なことが多いので、高い周波数の信号が通る層だけを低損失材にし、残りの層は今の材料のままにするハイブリッドの多層という考え方があります(編集部の解説)。利昌工業の接着シート AD-3379HG は、フッ素樹脂や MPI と接着し、多層にできるとしています。材料ごとに膨張や硬化の条件が違うので、反りと層間のはがれは、基板メーカーと試作で確かめます。

高周波の層だけを低損失材にしたハイブリッド多層基板の断面の模式図
図12 高周波の層だけを替えるハイブリッド多層の例
出典:利昌工業「低伝送損失プリント配線板材料」と編集部の整理をもとに AI(Claude)で作成

出典:誘電率の受託測定|キーコム、電子材料(プリント配線板材料)|利昌工業、レーザー顕微鏡を用いた高周波基板用銅箔の表面粗さの評価(福田技報 2021年10月)|福田金属箔粉工業、高速高周波用フッ素系プリント基板用材料の開発動向(AGC Research Report 70、2020年)|AGC、Dielectric Loss in PCB Substrates vs Frequency|RF Essentials

低誘電材料・低損失の配線を相談できる企業

各企業が解決できる課題と技術の内容を、企業が公開している情報をもとに紹介します。基板の材料、銅箔、FPC、ケーブル、測定の会社を挙げました。

利昌工業株式会社|10GHz の Dk・Df を公開している、低伝送損失のプリント配線板材料

利昌工業とは

利昌工業は、大阪市北区に本社がある、電気絶縁材料とプリント配線板材料の会社です。プリント配線板材料の中に「低伝送損失プリント配線板材料」の分類があり、品番ごとの Dk(比誘電率)・Df(誘電正接)・Tg・用途を公開しています。

利昌工業の得意技術

技術内容
10GHz で Df 0.0018〜0.0041CS-3379A(Dk 3.6・Df 0.0041)、CS-3379AD(3.3・0.0032)、CS-3379M(3.4・0.0018)、接着シートの AD-3379HG(3.0・0.0016)。いずれも10GHz の値。CS-3379M は「ミリ波帯での誘電特性に優れる」としている
多層化と接着シートCS-3379A・AD・CS-3376B は多層対応。AD-3379HG は「フッ素樹脂や MPI と接着し、多層化可能」で、リジッドフレキ基板などを用途に挙げている
用途5G アンテナなどの通信インフラ、レーダー、アンプ、基地局アンテナ、半導体検査基板など。高誘電率・低誘電正接・高熱伝導率の CS-3396(1GHz で Dk 11.3・Df 0.0030)もある

画像は、同社の製品ページに材料の写真や特性の図がないため、公開されている値をもとに編集部が表にしました。

利昌工業が解決できる課題

  • FR-4 の多層基板の高速信号の損失を、作り方を大きく変えずに減らしたい
  • 5G のアンテナ・レーダーの基板を、ミリ波帯で損失の小さい材料にしたい
  • フッ素樹脂や MPI の層と、ほかの層を貼り合わせて多層にしたい
利昌工業の低伝送損失プリント配線板材料の品番ごとのDk・Df・Tg・特長の表
図13 利昌工業の低伝送損失プリント配線板材料の公開値
出典:利昌工業「電子材料」をもとに AI(Claude)で作成

出典:企業概要|利昌工業、電子材料(プリント配線板材料)|利昌工業

株式会社有沢製作所|ミリ波に対応するフッ素樹脂の銅張積層板など、FPC の材料

有沢製作所とは

有沢製作所は、新潟県上越市に本社がある、電子材料・産業用構造材料などの会社です。FPC(フレキシブルプリント配線板)の材料として、2層・3層の銅張積層板やフッ素銅張り積層板を扱っています。

有沢製作所の得意技術

技術内容
フッ素銅張り積層板絶縁層に「フッ素樹脂とポリイミド樹脂の複合層」を使い、周波数28GHz以上のミリ波帯にも対応できるとしている。低粗度銅箔(Rz≦0.8µm)とも優れた接着性を持つ。絶縁層の厚さは50µm 以上
FC・FU シリーズFC シリーズは Dk 2.5・Df≦0.002、低粗度銅箔との接着性≧10N/cm、低吸水(<0.2%)。FU シリーズは Dk 2.6・Df≦0.002 で、UV-YAG レーザーで加工できる
低誘電正接のポリイミド2層銅張り積層板に、Df 0.003(5G 通信対応)の PKHW・PDS シリーズ、Df 0.004 の PRS シリーズがある

有沢製作所が解決できる課題

  • スマートフォンなどの FPC で、ミリ波のアンテナや高速信号の配線の損失を減らしたい
  • 低粗度の銅箔を使いたいが、絶縁層との密着が心配
  • ポリイミドの FPC から、低誘電の材料へ段階的に移りたい
有沢製作所のフッ素銅張り積層板の構成(銅箔とフッ素樹脂+ポリイミド複合層)の図
図14 有沢製作所のフッ素銅張り積層板の構成
出典:有沢製作所「2層銅張り積層板・フッ素銅張り積層板」

出典:会社概要|有沢製作所、2層銅張り積層板・フッ素銅張り積層板|有沢製作所

山一電機株式会社|LCP(液晶ポリマー)を基材にした高速伝送の FPC

山一電機とは

山一電機は、東京都大田区に本社がある、半導体の検査用ソケットやコネクタの会社です。低損失の液晶ポリマー(LCP)を絶縁基材にしたフレキシブル配線板「YFLEX」と、それを使った高速伝送の FPC を扱っています。

山一電機の得意技術

技術内容
YFLEX低損失の LCP を絶縁基材にしたフレキシブル配線板。5G・通信・ミリ波レーダーの市場で求められる28Gbps・56Gbps クラスの高速伝送やアンテナ基板の用途に対応できるとしている
高速伝送 FPC40Gbps/ch の高速伝送、125℃の高温環境に対応。FPC の長さは460mm まで。同社の YFLEX と組み合わせると56G PAM4 の伝送ができるとしている
材料の値誘電正接 0.0025(1GHz、ブリッジ法)、吸水率 0.04%以下(23℃・24時間)、熱膨張係数 17ppm(同社の英語の製品ページ)

山一電機が解決できる課題

  • 光モジュールから CPU までなど、装置の中の高速信号のジャンパーを損失の小さい FPC にしたい
  • 曲げて通す配線を、高い周波数でも損失が小さく、湿気で値が変わりにくいものにしたい
  • 低損失・低クロストークに合わせた配線を設計してほしい
山一電機の高速伝送FPC(LCPを基材にしたフレキシブル配線板)の写真
図15 山一電機の高速伝送 FPC(実例)
出典:山一電機「High-speed transmission FPC」

出典:会社概要|山一電機、YFLEX®|山一電機、High-speed transmission FPC|Yamaichi Electronics

福田金属箔粉工業株式会社|超低粗度の電解銅箔・圧延銅箔

福田金属箔粉工業とは

福田金属箔粉工業は、京都市山科区に本社がある、金属箔と金属粉の会社です。電解銅箔・圧延銅箔に、高周波の基板に向けた低粗度の品種があり、技報で高周波用銅箔の粗さの測り方と伝送損失の関係を報告しています。

福田金属箔粉工業の得意技術

技術内容
超低粗度電解銅箔 CF-T4X-SV超低粗度の両面光沢の原箔「SV」に、独自の微細な粗化処理「T4X」を施し、超低粗度でありながら高い投錨効果(密着)を出すとしている。厚さ6〜35µm。粗化処理をした電解銅箔としては最小レベルの粗度としている
ほかの品種超低粗度無粗化処理電解銅箔 CF-T9DA-SV、低粗度・高信頼性電解銅箔 V9 series、超低粗度圧延銅箔 RCF-T4X など
粗さと損失の評価技報(2021年10月)で、高周波用銅箔の粗さを共焦点レーザー顕微鏡で三次元に測る方法(JPCA-KHS01)を紹介し、20GHz の伝送損失(導体損失)が表面粗さ Sa と相関があることを確かめたとしている

画像は、同社のサイトのご利用についてで、非営利かつお客様の内部でのみ使用・複製できるとされているため、公開情報をもとに編集部が図にしました。

福田金属箔粉工業が解決できる課題

  • 導体損失を減らすために、銅箔を低粗度のものに替えたい
  • 低粗度の銅箔で、樹脂との密着も確保したい
  • リジッド基板・FPC のどちらにも使える高周波向けの銅箔を選びたい
福田金属箔粉工業の高周波向けの銅箔の品種と技報の評価をまとめた図
図16 福田金属箔粉工業の高周波向けの銅箔
出典:福田金属箔粉工業「超低粗度電解銅箔 CF-T4X-SV」・同「製品一覧」・福田技報(2021年10月)をもとに AI(Claude)で作成

出典:会社概要|福田金属箔粉工業、超低粗度電解銅箔 CF-T4X-SV|福田金属箔粉工業、製品一覧|福田金属箔粉工業、福田技報(2021年10月)レーザー顕微鏡を用いた高周波基板用銅箔の表面粗さの評価|福田金属箔粉工業

株式会社潤工社|PTFE を使ったマイクロ波・ミリ波の同軸ケーブル

潤工社は、茨城県笠間市に本社がある、ポリマー製品の会社で、フッ素ポリマーなどを使った電線・ケーブル・チューブを扱っています。無線・通信の分野では、フッ素ポリマーの電気絶縁の特性を活かし、非常に高い周波数で動くケーブルやインターコネクトを開発しているとしています。

潤工社の得意技術

技術内容
マイクロ波・ミリ波同軸ケーブルPTFE を活用した柔軟な信号伝送線で、位相の安定性・耐久性が高いとしている。ベクトル・ネットワーク・アナライザー(VNA)と使う精密計測向け
0シリーズの挿入損失最大使用周波数26.5〜145GHz の7種類。標準挿入損失は18.5GHz で1.6〜5.0dB/m、最大使用周波数で2.0dB/m(MWX021、26.5GHz)〜28.1dB/m(MWX004、145GHz)
ほかの品ぞろえ高速信号伝送用の同軸ケーブル、極細同軸ケーブル、PTFE のフラットケーブルなど

潤工社が解決できる課題

  • 基板の長い配線や、装置と測定器のあいだの配線の損失を減らしたい
  • ミリ波(100GHz を超える周波数)まで測れるケーブルがほしい
  • 曲げや温度で位相が変わりにくいケーブルで測りたい
潤工社の精密計測用の同軸ケーブルアセンブリの写真
図17 潤工社の精密計測用の同軸ケーブルアセンブリ(実例)
出典:潤工社「0シリーズ 精密計測用位相安定タイプ」

出典:会社概要|潤工社、0シリーズ 精密計測用位相安定タイプ|潤工社、計測・検査|潤工社、無線・通信|潤工社

キーコム株式会社|誘電率・誘電正接の測定装置と受託測定

キーコムとは

キーコムは、東京都豊島区にある、比誘電率・比透磁率の測定装置の会社です。フレキシブル基板用、マイクロ波・ミリ波基板用などの測定システムを開発し、誘電率の受託測定も行っています。誘電率測定装置の JIS 化の委員に選ばれているとしています。

キーコムの得意技術

技術内容
受託測定測定できる周波数は100Hz〜330GHz で、±1%の高精度、0.1µm の極薄膜にも対応するとしている。年間1000サンプルを超える誘電率の測定の経験があり、通常の納期は1週間としている
測り方を選べるTM 空洞共振器(200MHz〜10GHz)、TE 空洞共振器(10〜40GHz)、円板共振器(3〜70GHz)、開放型共振器(20〜330GHz)などの共振法と、フリースペース周波数変化法(2.6〜325GHz)などの周波数変化法がある
測れる試料固体、薄膜、極薄膜(フィルム)、多層構造体、液体、粉体など

キーコムが解決できる課題

  • 材料のカタログ値と、自社で使う周波数の値が合っているか確かめたい
  • 候補の材料を、同じ方法・同じ周波数でそろえて比べたい
  • 吸湿や温度で誘電率・誘電正接がどう変わるか知りたい
キーコムの誘電率・誘電正接の測定方法ごとの周波数の範囲の横棒グラフ
図18 キーコムの測定方法と周波数
出典:キーコム「誘電率の受託測定」をもとに AI(Claude)で作成

出典:会社案内|キーコム、誘電率の受託測定|キーコム

選ぶ前に確かめる条件

材料や配線を相談する前に、次のことを整理しておくと、候補の絞り込みと試作が進めやすくなります。

  • 信号の速さ(Gbps)と周波数(ナイキスト周波数、搬送波の周波数)
  • 規格の損失の予算と、配線の長さ
  • 誘電損失と導体損失のどちらが大きいか(計算・シミュレーション)
  • 基板の層数・板厚、リジッドか FPC か、曲げるか
  • 使う温度と湿度(車載・屋外か)
  • 比べたい材料の値を、同じ方法・同じ周波数で測れるか
  • 基板メーカーの加工の実績(穴あけ・積層・めっき)と、コストの上限

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※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。

情報の確認日:2026年10月20日

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