ラボの条件を量産に移せない

ラボの反応容器と量産の撹拌槽のイメージ

ラボでは収率も品質も良かったのに、大きな反応器にすると収率が下がる、不純物が増える、温度が上がりすぎる、結晶や粒の大きさが変わる。回転数や時間をラボと同じにしても、同じ結果にならない。ラボの条件が量産に移らないのは、槽が大きくなると、混ざり方と熱の抜け方が変わるためであることが多いです(編集部の整理)。

収率・不純物なのか、熱なのか、粒の大きさなのか、条件の移し方なのか、確かめる手段がないのか。次のマトリクスで、自分の課題に近いものと、使える方法を確かめてください。

目次

課題と解決技術のマトリクス

課題(症状)撹拌の設計(相似則・翼の選定)熱と温度の管理(伝熱面・還流・冷やす速さ)連続化(フロー・マイクロリアクター・多槽式)段階を踏んだ試験(撹拌試験・ベンチ・パイロット・受託)測って予測する(反応熱量計・CFD・流れの測定)
A大きくすると収率が下がる・不純物が増える◎○○○
B大きくすると熱が抜けず、温度が上がりすぎる△◎◎○◎
C結晶・粒子・乳化の粒の大きさが変わる○◎○○△
D撹拌の回転数や条件を、どう移せばよいか分からない◎○○○
E量産設備を作る前に、確かめる手段がない○◎○

◎ 第一候補○ 有効△ 条件によって有効

※記号は一般的な傾向に基づく目安です。どの方法が合うかは、反応の速さと発熱の大きさ、液の粘度、作る量、設備の制約によって変わります。症状Aの「連続化」の「○」は、混ざりきらないうちに反応が進むと副生物ができやすいこと、フローでは界面を大きくして物質移動の律速を外し、収率を上げた例があること(触媒学会シニア懇談会の資料)、「段階を踏んだ試験」の「○」は、ベンチスケールで流動や伝熱の状況などのデータを集めること(ケムファク)、「測って予測する」の「○」は、槽の中の流れを測定と数値計算で確かめられること(佐竹マルチミクス)を示します。症状Bの「撹拌の設計」の「△」は、小型の装置の低粘度液では、回転数を上げても総括伝熱係数があまり上がらないとされること(住友重機械プロセス機器)、「段階を踏んだ試験」の「○」は、受託のプロセス開発に製造の安全性評価が含まれること(ナード研究所)を示します。症状Cの「撹拌の設計」の「○」は、微粒子・液滴の分散のように高いせん断力が要る場合に翼先端速度一定の基準を使うこと(新潟大学の講義資料)、「連続化」の「○」は、フローで粒子径のばらつきを小さくできるとする例(KRI)、「段階を踏んだ試験」の「○」は、試験槽や研究用の機械で晶析・乳化の条件を確かめられること(佐竹マルチミクス、プライミクス)、「測って予測する」の「△」は、プロセス分析(PAT)によるリアルタイムの管理が連続晶析で期待されていること(日本結晶成長学会誌の解説)を示します。症状Dの「熱と温度の管理」の「○」は、伝熱が律速なら、伝熱面積/液量を保つことをスケールアップの基準にするという考え方(住友重機械プロセス機器)、「段階を踏んだ試験」の「○」は、大きさの違う試験槽で条件を確かめられること、「測って予測する」の「○」は、数値計算を実機のスケールアップに使うこと(どちらも佐竹マルチミクス)を示します。症状Eの「連続化」の「○」は、ナンバリングアップで開発期間を短くできるとする説明(神鋼環境ソリューション)、「測って予測する」の「○」は、反応熱量計でプラントの設計に必要なデータを取れること(東ソー分析センター)を示します。◎は、業界の資料や企業の事例で、その症状に直接はたらくとされている方法、○は効果が期待できる方法、△は条件によって有効な方法を示します(記号の根拠は、下の「解決技術の詳細」と企業紹介の各出典です)。空欄は、その方法だけでは直接の対策になりにくいことを示します。

課題の診断と解決策

困っていること(収率・不純物、熱、粒の大きさ、条件の移し方、確かめる手段)から、使える方法の見当をつけられます。症状ごとの詳しい見方は、下のカードで確かめてください。

困っていることから量産へ移す方法を絞る早見図
困っていることから、量産へ移す方法を絞る早見図
出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成
A

大きくすると収率が下がる・不純物が増える

ラボでは収率が高く不純物も少なかったのに、大きな反応器にすると収率が落ち、副生成物が増える。

大きな撹拌槽で、液面に滴下した原料が混ざりきらずに滴下の場所の近くに残り、副生成物ができているイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
大きな槽では、ラボと同じように混ざるとは限りません。MONOist の解説は、化学プラントでは混合不良が反応収率の低下や副反応の進行につながるとしています。触媒学会シニア懇談会の資料は、反応が速い場合、十分に混合しないうちに反応が進むと副生物が生じやすくなるとし、混合の速さと反応の速さの比が重要だとしています。熱がこもって温度が上がることも、副反応の原因になります(症状B)。
解決に使える技術
選ぶときの注意

収率が下がった原因が、混ざり方なのか、温度なのか、反応時間(滴下の時間・保持の時間)なのかを先に切り分けます。大きな槽では仕込みや昇温・冷却にかかる時間も長くなるので、同じ「反応時間」でも液が経験する条件は変わります(編集部の解説)。

B

大きくすると熱が抜けず、温度が上がりすぎる

ラボではジャケットの冷却で温度を保てた発熱反応が、大きな反応器では温度が上がり、冷やしきれない。

小さなラボの反応器は全体が冷えているが、大きな反応器では壁の近くしか冷えず、中心の液が熱くなっているイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
槽を相似形のまま大きくすると、液量は大きさの3乗、伝熱面積は2乗でしか増えません。住友重機械プロセス機器の解説は、槽の内径が10倍になると、液量あたりの伝熱面積は10分の1になるとし、反応で出る熱は液量に比例するので、除熱は大きくなるほど不利になるとしています。労働安全衛生総合研究所の報告は、冷却能力が不足していると、わずかな温度の上昇でも追随できずに反応暴走へと至ってしまう可能性が大きいとしています。
解決に使える技術
選ぶときの注意

暴走そのものより、温度が上がって起きる二次の反応(生成物や残った原料の熱分解)のほうが危険だとされています(労働安全衛生総合研究所)。量産の前に、冷却が止まったときにどこまで温度が上がるかを確かめておきます。

C

結晶・粒子・乳化の粒の大きさが変わる

晶析で取り出す結晶の大きさや形、乳化物の粒の大きさが、ラボと量産で違ってしまう。ろ過や乾燥にかかる時間も変わる。

大きな晶析槽で、冷えた壁の近くに細かい結晶がたくさんでき、中心には大きな結晶が少しだけあるイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
日本結晶成長学会誌の解説は、晶析では操作の少しの違いが、結晶の純度・多形・粒径分布・形態に影響するとしています。過飽和が高いところで核がたくさんできると粒径分布が悪くなります。大きな槽では冷え方もそろいにくくなります。みづほ工業の解説は、乳化槽の例で、仕込み量を10倍にすると槽の径は約2.15倍になり、槽の壁から遠い液ほどなかなか冷却されず、温度ムラが大きくなるとしています。
解決に使える技術
選ぶときの注意

ラボでよく使う「逆添加」(貧溶媒に溶液を加える方法)は、加えた直後から非常に高い過飽和を経験し、微細な結晶が出やすくなるとされています(日本結晶成長学会誌)。混ぜる向きによって、液が経験する過飽和は全く異なるとされています。量産で加え方が変わると、同じ液でも結果が変わることがあります(編集部の解説)。

D

撹拌の回転数や条件を、どう移せばよいか分からない

ラボでは300rpm で回していた。量産機でも同じ回転数にすべきか、どの値を合わせればよいのかが決められない。

大きな撹拌槽で、翼のまわりだけ細かい乱れが強く、槽全体はゆっくり大きく循環しているイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
幾何学的相似で回転数を同じにすると、乱流域では必要な動力が過大になります。住友重機械プロセス機器の解説は、ラボで300rpm だった条件を、単位動力一定の考え方なら65rpm 程度で運転できるとしています。一方で、どの基準を選んでも、ラボの状態をすべて保つことはできません。新潟大学の講義資料は、単位体積あたりの動力(P/V)一定が一般的な基準だが、循環させる作用と分散させる作用の比率に差が生じることが問題だとしています。
解決に使える技術
選ぶときの注意

住友重機械プロセス機器の解説は、ラボで翼の種類・邪魔板・回転数・動力の条件の幅を広く調べておくことが、実機の仕様を決めるのに重要だとしています。ラボで1つの条件しか試していないと、どの因子が効いているかが分からず、合わせる値を選べません(編集部の解説)。

E

量産設備を作る前に、確かめる手段がない

いきなり量産の設備を作るのは不安だが、途中の大きさで試す設備も、試す人手もない。

フラスコ、ベンチの反応器、パイロットの反応器、商業プラントの反応器が大きさの順に並び、途中のパイロットの段階が強調されたイメージ
イメージ(AI[ChatGPT]で生成)
起きている現象
ケムファクの解説は、ラボ → ベンチ → パイロット → 商業プラントと段階を踏み、ベンチスケールから商業プラントへ直接スケールアップするには規模が違いすぎる場合に、商業プラントの1/10程度の規模のパイロット設備でデータを集めるとしています。それでも、試運転では苦労して条件を確立することがほとんどだとしています。
解決に使える技術
選ぶときの注意

受託先に頼むときは、ラボで試した条件の幅(温度・滴下時間・撹拌)と、分析のデータをそろえて渡します。条件を1点しか試していないと、受託先でも振り直しから始めることになります(編集部の解説)。

なぜ、ラボの条件は量産に移らないのか

容積は3乗で、伝熱面積は2乗でしか増えない

MONOist の解説(はじめての化学工学)は、長さが大きくなると伝熱面積は2乗で、容量は3乗で増えるので、スケールアップの倍率が上がるほど伝熱面積と容量の差が大きくなるとしています。住友重機械プロセス機器の解説は、槽の内径が10倍になると、液量は1000倍、伝熱面積は100倍にしかならず、液量あたりの伝熱面積は10分の1になるとしています。

槽を大きくすると液量あたりの伝熱面積が減ることを示す図
槽を相似形のまま大きくしたときの、液量あたりの伝熱面積
出典:住友重機械プロセス機器「撹拌講座」・MONOist「はじめての化学工学(9)」の説明をもとに AI(Claude)で作成(倍率は相似形での計算値)

新潟大学の講義資料は、工業反応装置では伝熱の重要性は加熱よりも除熱にあるとし、重合反応では反応が進むにつれ粘度が上がって熱がこもりやすいので、除熱の速さを大きく取る必要があるとしています。ラボのフラスコでは気にならなかった発熱が、量産では温度の上がりすぎや暴走につながります。

撹拌の条件は、すべてを同時には合わせられない

同じ回転数で回る小さな翼と大きな翼を上から見て、大きな翼のほうが先端の動く距離が長いイメージ
翼の先端の速さ:同じ回転数でも、大きな翼ほど速いイメージ(AI[ChatGPT]で生成)

撹拌翼の直径が大きくなると、同じ回転数でも翼の先端の速さ(周速)が変わります(MONOist)。そのため、何か1つの値を決めて、それを合わせる形でスケールアップします。新潟大学の講義資料は、代表的な基準を次のように整理しています。

  • 単位体積あたりの撹拌動力(P/V)一定:一般的によく使われる。ただし、循環させる作用と分散させる作用の比率に差が生じる
  • 翼先端速度一定:P/V 一定に次いでよく使われる。気泡・液滴・微粒子の分散など、高いせん断力が要る場合に使う
  • 回転数一定:混合時間をほぼ一定にできるが、P/V が大幅に大きくなり、かなり激しい撹拌が必要になる。経済面からあまり使われない
スケールアップの基準ごとの回転数と動力の比較表
合わせる値ごとの、量産機の回転数と動力
出典:新潟大学の講義資料・住友重機械プロセス機器の説明をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成(乱流域・幾何学的相似、混合時間は回転数に反比例として計算した目安)
形が同じ小さな撹拌槽と大きな撹拌槽で、大きな槽のほうが液が槽を一巡する経路が長いイメージ
一巡する時間:大きな槽ほど、液が槽を回るのに時間がかかるイメージ(AI[ChatGPT]で生成)

住友重機械プロセス機器の解説は、幾何学的相似の形を保っても、「液量と伝熱面積」や「液量と気液の界面の面積」のような物理的な相似は崩れているとしています。P/V を合わせれば混ざる強さは保てても、槽の中を液が一巡する時間は長くなります。反応が速い系ほど、この違いが収率や不純物に出ます(編集部の解説)。

原因の切り分け方

次は編集部の目安です。ラボと量産の記録を並べ、「温度の記録(最高温度・上がり方)」「滴下と保持の時間」「撹拌の回転数と動力」「不純物の種類と量」「粒の大きさの分布」を比べます。温度の上がり方が違えば熱、滴下の場所の近くで不純物が増えるなら混ざり方、冷却の途中で粒が変わるなら温度の下げ方が、まず疑う所です。

ラボと量産の記録を比べて原因を探す図
ラボと量産の記録を比べて、違いが出た所を探す
編集部の目安。AI(Claude)で作成

出典:撹拌動力計算とスケールアップ指標:はじめての化学工学(9)(1/3・3/3ページ、2025年)|MONOist、撹拌講座:スケールアップの基礎|住友重機械プロセス機器、撹拌講座:スケールアップの基礎の基礎|住友重機械プロセス機器、反応装置工学「スケールアップ」(令和4年改訂版)|新潟大学 三上貴司

解決技術の詳細

ラボの条件を量産に移す方法は、大きく5つに分けられます。1つ目と2つ目は大きな槽での混ぜ方と熱の扱い方、3つ目は槽を大きくしない方法、4つ目と5つ目は量産の前に確かめる方法です。

撹拌の設計(相似則・翼の選定)

撹拌のスケールアップでは、目的に合わせて合わせる値を選びます。MONOist の解説は、P/V 一定は液体へのエネルギー投入の密度(せん断・混合の効率)を保てるので粘い液や懸濁の系に有効だが、モーターが大きくなり消費エネルギーが増えるとしています。翼先端速度一定は過剰なせん断を防げるが、中心付近の流れが悪くなり混合が不十分になる可能性があるとしています。

邪魔板のある透明な撹拌槽と、プロペラ翼・タービン翼・パドル翼の3種類の撹拌翼が並んでいるイメージ
翼と邪魔板:ラボで種類と条件の幅を広く調べておくイメージ(AI[ChatGPT]で生成)

住友重機械プロセス機器の解説は、ラボで翼の種類・邪魔板・回転数・動力の条件の幅を広く調べておくことが大切だとしています。スケールアップの後に何を保つかは、伝熱・ガス吸収・分散のうち、何がボトルネックかで決めます。撹拌翼にはパドル、タービン、プロペラ、アンカー、ヘリカルリボンなど多くの種類があり(MONOist)、粘度や目的に合わせて選びます。

熱と温度の管理(伝熱面・還流・冷やす速さ)

大きな槽で熱を抜くには、伝熱面を足すか、熱の出方を抑えます。MONOist の解説は、伝熱面積と容量の差について、槽の外側から加熱するジャケットではなく、内部に加熱コイルを入れる方式や外部の熱交換器を通しながら加熱する方式で問題を緩和できるとしています。化学反応の多くは発熱するので除熱対策が重要だとし、溶媒を蒸発させて上部で凝縮させる還流方式では、溶媒の潜熱が除熱の役割を果たすとしています。住友重機械プロセス機器は、伝熱がボトルネックで、粘度が低く混合性が悪くならないと判断される場合は、伝熱コイルを1重から2重にして伝熱面を増やすことが有効だとしています。

大きな槽で熱を抜く手段の模式図
大きな槽で熱を扱う手段と、熱の出方を抑える手段
出典:MONOist「はじめての化学工学(9)」・住友重機械プロセス機器・東ソー分析センターの説明をもとに AI(Claude)で作成(配置は模式)

発熱が大きい反応では、原料を少しずつ加える(滴下)ことで、熱の出る速さを冷却の能力に合わせます。東ソー分析センターは、反応熱量計で測った最大発熱速度から、プロセスに必要な冷却能力を決め、反応試薬の投入速度を検討できるとしています。

晶析では、温度の下げ方が粒の大きさを決めます。日本結晶成長学会誌の解説は、過飽和のピークを下げて粒径分布をよくするには、冷却速度を遅くするか、冷却の初めに種結晶を十分な量入れるとしています。装置の中の結晶が十分に増えてからは速く冷やしてもよく、懸濁量が少ないうちは遅く、増えたら速く冷やすのが回分晶析の冷却パターンの考え方だとしています。

晶析の冷却のしかたと過飽和の模式図
晶析の冷却のしかたと過飽和
出典:日本結晶成長学会誌 45巻4号(滝山、2018年)の説明をもとに AI(Claude)で作成(線の形は模式)

連続化(フロー・マイクロリアクター・多槽式)

槽を大きくする代わりに、小さな流路で連続して流す方法があります。化学工学誌の解説(2013年)は、マイクロ化学技術は従来のスケールアップに対して「小さいこと」を強調したもので、生産量は同じデバイスを並べるナンバリングアップで増やすとしています。伝熱がよくホットスポットができにくい、副生成物ができにくいといった特徴を挙げています。

スケールアップとナンバリングアップの比較図
スケールアップとナンバリングアップ
出典:化学工学 77巻11号(2013年)・住友重機械プロセス機器「スケールアップの基礎の基礎」の説明をもとに AI(Claude)で作成

触媒学会シニア懇談会の資料(2019年)は、相間移動触媒を使った反応で、バッチの収率26%に対し、フローで99%超(滞留時間2分)の例を紹介しています。一方で、発熱量が大きく反応が速い反応は除熱が難しく、内径500μm 以下のマイクロリアクターは工業化に向かないという指摘も紹介しています。化学工学誌の解説も、並べる数が多くなると、各流路へ原料を均一に分けるのが難しく、1つの流路が詰まると他の流路にも影響するとしています。

流路を並べて大きくした装置も実用になっています。神鋼環境ソリューションは、流路設計技術と拡散接合技術で、実生産に使える大容量の機器を作れるとしています。国内の金属メーカーにはレアメタル回収の抽出用に装置を納め、総処理流量60〜90L/h、抽出率95%、装置の大きさはミキサーセトラーの1/20、液の保持量は1/10としています。KRI は、マイクロリアクターで粒子径のばらつきが少ない微粒子を作れ、分級の工程が要らなくなるとしています。大きな槽の中を仕切って、流れを押し出し流れに近づける多槽式の反応装置もあります(関西化学機械製作)。

段階を踏んだ試験(撹拌試験・ベンチ・パイロット・受託)

ケムファクの解説は、スケールアップの段階を次のように説明しています。ラボスケールでは原料・触媒・操作条件のデータを取り、ベンチスケールでは品質や収率、操作条件、流動や伝熱の状況、装置への影響、経済性を調べます。パイロットスケールは商業プラントの1/10程度の規模で、設備構成やフロー、制御システムは商業プラントと変わらないとしています。

スケールアップの段階と集めるデータの図
スケールアップの段階と、それぞれで集めるデータ
出典:ケムファク「プロセス開発におけるスケールアップの基礎知識」をもとに AI(Claude)で作成(下段は企業紹介の各社)

自社で途中の大きさの設備を持てない場合は、撹拌機メーカーの試験槽や、受託の合成会社を使う方法があります。撹拌機メーカーには、10L〜2000L の試験槽を並べ、お客様の立ち会いのもとで試験できる研究所を持つ会社があります(佐竹マルチミクス)。受託の会社には、実験室の合成実績をもとに数百g〜数kg の合成を行い、工場スケールの製造の処方を作るところがあります(ナード研究所)。

測って予測する(反応熱量計・CFD・流れの測定)

量産の設備を決める前に、反応の熱を測っておく方法があります。労働安全衛生総合研究所の報告は、反応熱量計 RC1(メトラー・トレド社)を、化学プロセスの安全性の予測やスケールアップでの最適な条件の設定に使うために開発された装置と紹介しています。2L のガラス製の反応容器で、反応熱量、熱の出る速さ、比熱、総括伝熱係数、断熱温度上昇などが得られ、小さなバッチ反応器として実プロセスと同じような操作ができるとしています。

反応熱量計で測る値と量産設計での使い道の図
反応熱量計で測る値と、量産の設計での使い道
出典:産業安全研究所 特別研究報告 NIIS-SRR-NO.27(2002年)・東ソー分析センターの説明をもとに AI(Claude)で作成
透明な撹拌槽にレーザーの光の面を当て、照らされた粒子で流れを見て、正面のカメラで撮るイメージ
流れの測定:レーザーの光の面で、槽の中の流れを見るイメージ(AI[ChatGPT]で生成)

槽の中の流れは、測定と数値計算で確かめられます。撹拌機メーカーには、LDV(レーザードップラー流速計)や PIV で流れを測り、CFD の計算モデルを3D プリンターで実物にして、同じモデルで数値計算と検証実験を行うところがあります(佐竹マルチミクス)。晶析では、プロセス分析(PAT)でリアルタイムに管理できるようになれば、規格外の製品を最小にできる可能性があるとされています(日本結晶成長学会誌)。

出典:撹拌動力計算とスケールアップ指標:はじめての化学工学(9)(2025年)|MONOist、撹拌講座:スケールアップの基礎|住友重機械プロセス機器、カクハンラボ:スケールアップ理論を考えてみよう(冷却編)|みづほ工業、原薬の分離精製のための晶析操作(日本結晶成長学会誌 45巻4号、2018年)|滝山博志、生産ツールとしてのマイクロ化学技術の最近の動向と今後の展望(化学工学 77巻11号、2013年)|武藤明徳、ものづくりの武器にすべき FLOW 技術(触媒懇談会ニュース No.133、2019年)|触媒学会シニア懇談会、SMCR の特徴(マイクロフローによる連続生産)|神鋼環境ソリューション、SMCR の適用事例|神鋼環境ソリューション、マイクロリアクターによる機能性粒子の連続フロー合成技術|KRI、プロセス開発におけるスケールアップの基礎知識|ケムファク、化学プロセスにおける反応暴走危険性の評価手法について(特別研究報告 NIIS-SRR-NO.27、2002年)|産業安全研究所(現 労働安全衛生総合研究所)、反応熱量計|東ソー分析センター、撹拌技術研究所|佐竹マルチミクス

ラボの条件を量産に移す技術を持つ企業

各企業が解決できる課題と技術の内容を、企業が公開している情報をもとに紹介します。混ぜ方、熱、連続化、途中の大きさでの試験、測定のどこで困っているかによって、合う相談先が変わります。

企業解決できる課題種類何ができるか合う症状
佐竹マルチミクス撹拌機メーカー10L〜70t の試験槽と数値計算で、ラボの撹拌条件を実機の大きさで再現できるかを確かめる。A 大きくすると収率が下がる・不純物が増える
C 結晶・粒子・乳化の粒の大きさが変わる
D 撹拌の回転数や条件を、どう移せばよいか分からない
E 量産設備を作る前に、確かめる手段がない
住友重機械プロセス機器撹拌機メーカー何を保つか(伝熱・分散など)を決めてから、実機の回転数と撹拌槽を設計する。B 大きくすると熱が抜けず、温度が上がりすぎる
D 撹拌の回転数や条件を、どう移せばよいか分からない
ナード研究所受託合成ラボの合成を数百g〜kg に増やし、バッチで難しい反応はフロー合成に切り替える。A 大きくすると収率が下がる・不純物が増える
B 大きくすると熱が抜けず、温度が上がりすぎる
E 量産設備を作る前に、確かめる手段がない
プライミクス乳化・分散機メーカー乳化・分散の条件を、データを取れる試験機で量産の前に確かめる。C 結晶・粒子・乳化の粒の大きさが変わる
東ソー分析センター分析反応熱量計で発熱を測り、量産に要る冷却能力と滴下の速さを決める。B 大きくすると熱が抜けず、温度が上がりすぎる
E 量産設備を作る前に、確かめる手段がない
関西化学機械製作化学装置メーカー混合室と熟成室を積んだ多槽式の反応装置で、反応・抽出を連続で行う。A 大きくすると収率が下がる・不純物が増える
企業名を押すと各社の紹介へ、症状を押すと上の症状の説明へ移ります(各社の公開情報をもとに編集部で整理。課題の絵は AI[ChatGPT]で生成したイメージ)

佐竹マルチミクス株式会社|10L〜70t の試験槽と数値計算で、撹拌の条件を実機へ移す

佐竹マルチミクスとは

佐竹マルチミクスは、埼玉県戸田市に本社がある撹拌機のメーカーです(1920年創業、1938年設立)。化学・食品・水処理・製剤・培養などの機械・装置を製造・販売しています。1987年に撹拌を専門に研究する「撹拌技術研究所」を設け、2016年に実機のスケールアップを確かめるための大型試験槽などを加えています。

佐竹マルチミクスの得意技術

技術内容
大きさの違う試験槽撹拌技術研究所には、70t の試験槽と、流れが見える6t のアクリル槽がある。別のテストヤードには10L〜2000L のタンクが7個あり、すべての撹拌試験装置にトルク測定器が入っている。伝熱や晶析の試験のための温調・スチーム設備を持つステンレスタンクもある
お客様の液での試験撹拌機の最適化やスケールアップを目的とした試験を、お客様の立ち会いのもとで行えるテストヤードがある(強力な排気設備と防火区画を備える)
流れの測定と数値計算LDV(レーザードップラー流速計)・PIV・PTV で槽の中の流れを測る。CFD で作った計算モデルを3D プリンターで実物にし、同じモデルで数値計算と検証実験を行う。受託の数値計算は、研究・製品開発・実機のスケールアップ/ダウンなどに使うとしている

佐竹マルチミクスが解決できる課題

  • ラボの撹拌条件を、実機の大きさでどう再現するかを確かめたい
  • 実機に近い大きさの槽で、流れや混ざり方を見たい
  • 伝熱・晶析の条件を、試験槽で確かめたい
  • 撹拌槽の中の流れを、数値計算で予測したい
佐竹マルチミクスの撹拌技術研究所の設備の図
佐竹マルチミクスの撹拌技術研究所の設備と、測定・計算の流れ
出典:撹拌技術研究所|佐竹マルチミクス・受託数値計算をもとに AI(Claude)で作成(槽の形は模式)

出典:会社情報|佐竹マルチミクス、撹拌技術研究所|佐竹マルチミクス、受託数値計算|佐竹マルチミクス

住友重機械プロセス機器株式会社|撹拌槽を、何を保つかを決めてから設計する

住友重機械プロセス機器とは

住友重機械プロセス機器は、東京都品川区に本社がある会社です(1987年設立)。撹拌槽、蒸留・抽出装置などの化学機械、塔槽・圧力容器、コークス炉移動機械などの設計・製造を行っています。公式サイトの「撹拌講座」で、スケールアップの考え方を解説しています。

住友重機械プロセス機器の得意技術

技術内容
何を保つかを決めるラボで翼の種類・邪魔板・回転数・動力の条件の幅を広く調べておくことが、実機の仕様を決めるのに重要だとしている。スケールアップ後に保つ因子は、伝熱・ガス吸収・分散など、何がボトルネックになるかで選ぶ
回転数の決め方幾何学的相似で回転数を同じにすると、乱流域では必要な動力が過大になる。解説の例では、ラボで300rpm だった条件を、単位動力一定の考え方で65rpm 程度で運転できるとしている
伝熱に着目した設計槽の内径が10倍になると、液量は1000倍、伝熱面積は100倍にしかならず、液量あたりの伝熱面積は10分の1になる。伝熱がボトルネックで、粘度が低く混合性が悪くならない場合は、伝熱コイルを1重から2重に変えて伝熱面を増やすのが有効としている

住友重機械プロセス機器が解決できる課題

  • ラボの回転数を、実機でどう決めればよいか分からない
  • 大きくすると除熱が追いつかない
  • 伝熱係数を上げたいが、回転数を上げても効かない
伝熱コイルを1重から2重にする模式図
伝熱がボトルネックのとき、伝熱コイルを1重から2重にする
出典:撹拌講座:スケールアップの基礎|住友重機械プロセス機器をもとに AI(Claude)で作成(形は模式)

出典:企業概要|住友重機械プロセス機器、撹拌講座:スケールアップの基礎|住友重機械プロセス機器、撹拌講座:撹拌槽の伝熱性能とは?|住友重機械プロセス機器

株式会社ナード研究所|ラボの合成を、数百g〜kg とフロー合成で量産の処方にする

ナード研究所とは

ナード研究所は、兵庫県尼崎市に本社がある会社です(1972年設立)。化合物の受託合成・受託研究を行い、神戸研究所を持っています。グループ会社のナードケミカルズが cGMP 対応のスケールアップ製造を行っています。

ナード研究所の得意技術

技術内容
スケールアップ合成実験室での合成実績をもとに数百g〜数kg スケールの合成を行い、工場スケールの製造の処方を作る。医薬品の開発段階に合わせて、反応機20L スケールの GLP サンプル合成、スケールアップファクターの調査、製造の安全性評価などを行う
不純物の調査原料やプロセスに由来する類縁物質の構造を調べ、類縁物質を合成する。反応の追跡と類縁物質の調査に合った分析法も調べる
フロー合成2007年からフロー合成の研究を始め、条件検討 → スケールアップ検討 → 連続送液試験 → キログラム製造の順で対応する。多段 CSTR(Coflore ACR-100)による二相系のクロスカップリングの事例では、生産量 1.3kg/day。爆発性の試薬を使う反応を、バッチでは難しい高温条件でキログラム製造した事例もある

ナード研究所が解決できる課題

  • ラボの合成を、数百g〜kg に増やしたい
  • 不純物(類縁物質)の構造を調べたい
  • バッチでは危ない・難しい反応を、フロー合成に切り替えたい
ナード研究所のスケールアップ合成の反応設備
スケールアップ合成のページに掲載されている反応設備(出典:プロセス研究・スケールアップ合成・製造|ナード研究所)
多段CSTR Coflore ACR-100
多段 CSTR の Coflore ACR-100(出典:フロー合成・マイクロリアクター|ナード研究所)

出典:会社概要・沿革|ナード研究所、プロセス研究・スケールアップ合成・製造|ナード研究所、フロー合成・マイクロリアクター|ナード研究所

プライミクス株式会社|乳化・分散の条件を、データを取れる試験機で確かめる

プライミクスとは

プライミクスは、兵庫県淡路市に本社がある会社です(1927年創業、1949年設立)。液体・粉粒体の乳化・分散・混練・微粒化の機器を製造・販売し、乳化・分散のハードとソフトの研究と新製品の開発を行っています。

プライミクスの得意技術

技術内容
データを取れる試験機研究用の乳化・分散機「ラボ・リューション」は、スケールアップのための正確なデータ取りが可能としている。フィードバック方式で負荷が変わっても回転数を一定に保ち、回転数・撹拌の負荷・温度を SD カードに記録する(最高回転数は撹拌部によって異なり、最高22,000r/min)
連続式の乳化・分散機ホモミックラインフローは、ホモミクサーの撹拌部を特殊な容器に組み込んだ連続式の機械で、処理液をポンプで送るため、バッチタイプのような大型槽が要らず、大量処理でも据え付け面積が小さくて済むとしている

プライミクスが解決できる課題

  • 乳化・分散の条件を、量産の前に数値で残しておきたい
  • 大きなバッチ槽を置かずに、乳化・分散の量を増やしたい
プライミクスの研究用乳化分散機と量産の選択肢の図
研究用の乳化・分散機で条件を記録し、量産の条件を検討する
出典:ラボ・リューション・ホモミックラインフローの製品ページをもとに AI(Claude)で作成

出典:会社情報|プライミクス、ラボ・リューション|プライミクス、ホモミックラインフロー|プライミクス

株式会社東ソー分析センター|反応熱量計で、量産に要る冷却能力を測る

東ソー分析センターとは

東ソー分析センターは、山口県周南市に本社がある分析・評価の会社です(1999年設立)。反応熱量計による測定を受託しています。

東ソー分析センターの得意技術

技術内容
反応熱量計の測定ヒートフロー方式の反応熱量計(メトラー・トレド製)で、比熱、反応熱量、最大発熱速度、未反応物の蓄積量、断熱温度上昇値などを測る。容量400mL〜1L、〜200℃、〜1MPa、試薬の滴下は〜700mL/h(最小滴下量200µL)
プラントの設計と安全性の評価最大発熱速度からプロセスに必要な冷却能力を決め、反応試薬の投入速度を検討できるとしている。反応熱量や断熱温度上昇値からは、冷却能力を失ったときに熱暴走の温度に達しないかといった安全性の評価ができるとしている

東ソー分析センターが解決できる課題

  • 量産の反応器に、どれだけの冷却能力が要るかを知りたい
  • 滴下の速さをどこまで上げてよいかを決めたい
  • 冷却が止まったときに、暴走しないかを確かめたい
ヒートフロー方式の反応熱量計の模式図
ヒートフロー方式の反応熱量計
出典:反応熱量計|東ソー分析センターをもとに AI(Claude)で作成(装置の形は模式)

出典:会社概要|東ソー分析センター、反応熱量計|東ソー分析センター

関西化学機械製作株式会社|混合室と熟成室を積んだ多槽式の反応装置で、連続化する

関西化学機械製作とは

関西化学機械製作は、兵庫県尼崎市に本社・工場がある会社です(1948年創立、従業員67名)。蒸留・蒸発・抽出などの分離技術とバイオ分野を中心に、プラントの設計・製造・販売を行っています。

関西化学機械製作の得意技術

技術内容
多槽式の連続反応装置並流式多槽混合反応装置「MS リアクター」は、混合室と熟成室を高さ方向に積み重ね、各槽の間の逆止弁で逆混合をできるだけ防ぐ。1つの混合槽では完全混合に近いため反応転化率や分離度が高くならないが、槽列のように押し出し流れに近づけて、最終出口での転化率や分離度を高くする
混ざりにくい液どうしの反応固液・液液・気固液の混相の反応や抽出に使う。同社は反応速度、転化率や分離度を大きく上げられたとし、互いに混ざりにくい液液の場合に特に効果的としている。途中の槽に原料や触媒を加える中間供給ノズルも設けられる

関西化学機械製作が解決できる課題

  • 1つの混合槽では、転化率や分離度が上がらない
  • 混ざりにくい液どうしの反応・抽出を、連続で行いたい
MSリアクターの混合室と熟成室の構造図
MS リアクターの構造
出典:並流式多槽混合反応装置 MS リアクター|関西化学機械製作の図1(7室の例)をもとに AI(Claude)で作成

出典:会社概要|関西化学機械製作、並流式多槽混合反応装置 MS リアクター(技術資料)|関西化学機械製作

選ぶ前に確かめる条件

相談する前に、次の条件を整理しておくと、話が早くなります。

  • ラボの条件(仕込み量、温度、滴下の時間、保持の時間、撹拌翼の形と回転数)と、そのときの結果
  • 量産で使う予定の設備(容量、撹拌翼、ジャケット・コイルの有無、冷媒の温度)
  • 反応の発熱の大きさ(反応熱・断熱温度上昇が分かっていれば、その値)
  • 液の粘度と、その変化(反応の途中で粘くなるか)
  • 収率・不純物・粒の大きさなど、ラボと量産で違った項目と、その値
  • ラボで条件の幅を振った結果(1点だけでなく、効く因子が分かるか)
  • 必要な生産量と、量産までの期間

この課題に関係する分野・技術・製品のページ

※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。

情報の確認日:2026年9月30日

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次