熱応力

鋼の作業台の上で、両端を重い金具で固定した丸い鋼の棒の中央が熱でオレンジ色になって上に反り、左に一端を固定して上に曲がった2層のバイメタルの板、右手前にチップをはんだ付けした小さな基板、奥に棒の応力の色分けを映したノートパソコンを描いたイメージ(AI で生成)

真夏に、線路のレールが曲がってしまったというニュースを聞いたことはありませんか。物は温めると伸びますが、その伸びを止められると、材料の中に大きな力が生まれます。これが熱応力です。このページでは、熱応力の意味と式、材料ごとの計算例、急な温度変化で割れる熱衝撃、はんだ・溶接・配管での表れ方、熱応力を小さくする考え方を、図と計算でやさしく解説します。

目次

ひとことで言うと

熱応力とは

熱応力は、温度が変わって伸び縮みしようとするのを止められたときに、材料の中に生まれる応力です。ウィキペディア日本語版は、温度変化による自由な熱膨張(あるいは収縮)が拘束される場合に物体内に生じる応力を熱応力、ひずみを熱ひずみというとしています。

日本原子力研究開発機構の ATOMICA も、拘束された物体が加熱・冷却されたとき、自由な膨張と収縮が拘束されることで内部に発生する応力(圧縮応力・引張応力)と説明しています。

上に、自由に伸び縮みできる棒は温めると伸びるだけで力は生まれないこと(熱ひずみ=α×ΔT)、下に、両端を壁で固定した棒は温めても伸びられず、壁が押し返して棒の中が圧縮になること、温めると圧縮・冷やすと引張の熱応力になり、熱応力 σ=E×α×ΔT であることを示した図
図1 自由なら伸びるだけ。伸びを止めると熱応力が生まれる
出典:ウィキペディア日本語版、ATOMICA(日本原子力研究開発機構)、Wikipedia(英語)をもとに AI(Claude)で作成

英語版ウィキペディアは、材料が自由に動ける限り、応力を生まずに伸び縮みできるとし、固定されて動けないときに応力が生まれるとしています。外から止めなくても、部品の中の温度の差で生まれることもあります(後の節)。どれくらい伸びるかを表す線膨張係数は 基礎知識「線膨張係数(熱膨張)」、応力とひずみの考え方は 基礎知識「応力とひずみ」にあります。熱応力は、この2つをつなぐ話です(編集部の解説)。

出典:熱膨張率(熱応力の節)|ウィキペディア日本語版、熱応力(用語)|ATOMICA(日本原子力研究開発機構)、Thermal stress|Wikipedia(英語)

式と考え方:σ = E × α × ΔT

熱応力 σ=ヤング率E×線膨張係数α×温度の変化ΔT の式と、E は材料のかたさ(炭素鋼管 約192GPa)、α は1Kで何倍伸びるか(炭素鋼管 11.6×10のマイナス6乗/K)、ΔT は固定したときからの温度の変化で温度差が2倍なら熱応力も2倍、の3枚のカード。下に、自由なら伸びる量(熱ひずみ α×ΔT)を壁がゼロに押し戻すと考え、押し戻す力はひずみ×ヤング率なので σ=E×α×ΔT になること、温めたときは圧縮・冷やしたときは引張であることを書いた図
図2 熱応力の式:σ = E × α × ΔT
出典:ATOMICA(日本原子力研究開発機構)、Purdue University、日本製鉄をもとに AI(Claude)で作成

両端を固定した棒の熱応力は、σ = E × α × ΔT(E:ヤング率、α:線膨張係数、ΔT:温度の変化)で計算できます。ATOMICA は σ=E・εr=E・α・ΔT(εr:自由に膨張・収縮したときの熱ひずみ)と示しています。ウィキペディア日本語版は、σ=−αEΔT と符号つきで書いています(マイナスは、温めたときに圧縮になることを表します。編集部の解説)。

米国パデュー大学の材料力学の教材は、両端を固定した棒では全体のひずみがゼロになるので、0=σ/E+αΔT とおくと σ=−EαΔT になる、と導いています。温めた(ΔT が正の)ときはマイナス、つまり圧縮です。言いかえると、自由なら伸びるはずの熱ひずみ α×ΔT を、壁がゼロに押し戻している、と考えられます(編集部の解説)。

式から、熱応力は棒の長さや太さには関係しないことがわかります。長い棒は伸びる量は大きくなりますが、ひずみ(伸び÷長さ)は同じだからです(編集部の解説)。ヤング率の意味は 基礎知識「ヤング率」にあります。

出典:熱応力(用語)|ATOMICA(日本原子力研究開発機構)、熱膨張率(熱応力の節)|ウィキペディア日本語版、Thermal strains and stresses(ME 323: Mechanics of Materials)|Purdue University

計算例:100K 変わると何 MPa になるか

両端を固定して100K温度が変わったときの熱応力の棒グラフ:炭素鋼(配管用SGP、E 192GPa・α 11.6)約223MPa、ステンレス鋼(SUS、E 189GPa・α 16.4)約310MPa、アルミナ(E 375GPa・α 7.0)約263MPa、ジルコニア(E 245GPa・α 8.9)約218MPa、炭化ケイ素(E 400GPa・α 3.8)約152MPa、窒化アルミ(E 320GPa・α 4.4)約141MPa、窒化ケイ素(E 285GPa・α 2.7)約77MPa。E と α のかけ算で決まり、かたくても α が小さい窒化ケイ素は小さく、伸びやすいステンレスは大きいことを添えた
図3 両端を固定して 100K 変わったときの熱応力(計算例)
出典:日本製鉄、フェローテックをもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

日本製鉄の配管の資料の値(炭素鋼管 SGP:α 11.6×10⁻⁶、縦弾性係数 1.96×10⁴ kgf/mm²=約192GPa)で、両端を固定した管の温度が 100K 上がると、熱応力は約 223MPaになります(編集部の計算)。ステンレス鋼管(α 16.4×10⁻⁶、1.93×10⁴ kgf/mm²=約189GPa)では約 310MPa です。どちらも縦弾性係数は20℃の値で計算しました。

フェローテックのファインセラミックスの特性表の値(ヤング率と、室温〜500℃の熱膨張係数)で同じ計算をすると、アルミナ(AM997)約 263MPa、ジルコニア約 218MPa、炭化ケイ素約 152MPa、窒化アルミ約 141MPa、窒化ケイ素約 77MPa になります(編集部の計算。値は同社の参考値で、保証値ではありません)。

セラミックスはヤング率が金属の約1.3〜2倍とかたいので、熱膨張が小さくても熱応力は小さくなるとは限りません。熱応力は E と α のかけ算で決まるので、窒化ケイ素のように α がとくに小さい材料は小さくなります(編集部の解説)。実際の部品は、壁のように完全には止められないことが多いので、この値は「完全に止めた、厳しい場合」の目安です。

出典:4.熱による鋼管の膨張と荷重(建設設備配管情報サービス)|日本製鉄、ファインセラミックス特性表|フェローテック

すき間(逃げ)があると小さくなる

長さ1mの炭素鋼の棒(E 約192GPa、α 11.6×10のマイナス6乗/K)の温度が100K上がり、自由なら1.16mm伸びるとき、すき間なしでは熱応力約223MPa、すき間0.5mmでは約127MPa、すき間1.2mmでは壁に届かず0になることを、壁と棒の絵で比べた図。σ=E×(自由な伸び−すき間)÷長さ
図4 すき間(逃げ)があると、熱応力は小さくなる(計算例)
出典:Purdue University、日本製鉄をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

パデュー大学の教材は、棒と壁の間にすき間がある場合も扱っています。すき間を詰めきるまでは自由に伸びるので力は生まれず、詰めきったあとの伸びだけが押し戻されて応力になります(編集部の解説)。

長さ 1m の炭素鋼の棒が 100K 上がると、自由なら 1.16mm 伸びます。すき間が 0.5mm あれば、押し戻されるのは残りの 0.66mm だけなので、熱応力は約 127MPa に下がります。すき間が 1.2mm あれば壁に届かず、熱応力は生まれません(編集部の計算)。伸びを逃がす場所を作ることが、熱応力を小さくする基本の方法です。レールや橋の継ぎ目のすき間も、この考え方です(基礎知識「線膨張係数」)。

反対に、すき間がないまま押され続けた細長い部材は、横に曲がって逃げることがあります(熱座屈。基礎知識「座屈」)。

出典:Thermal strains and stresses(ME 323: Mechanics of Materials)|Purdue University

中と外の温度差でも生まれる:熱衝撃

左に急に冷やしたとき、表面が先に冷えて縮もうとして引張、まだ熱い内部は圧縮になり、ガラスやセラミックスは表面の引張で傷から割れやすい(熱衝撃)こと、右に急に温めたとき、表面が先に熱くなって伸びようとして圧縮、まだ冷たい内部は引張になり、厚い部品ほど中と外の温度差が大きくなりやすいことを示した図
図5 外から固定しなくても、中と外の温度差で熱応力が生まれる
出典:コトバンク、Wikipedia(英語)、ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成

熱応力は、壁で止めなくても生まれます。部品の中に温度の差があると、熱いところは伸びたいのに、まわりの冷たいところが止めるからです(編集部の解説)。改訂新版 世界大百科事典(強化ガラスの項)は、表面を冷却すると、表面と内部との温度差によって表面には引張応力、内部には圧縮応力が発生するとしています(ただし、ガラスが高温のうちは、この応力はすぐ緩和されるとも書いています)。

英語版ウィキペディアは、急な温度変化による熱衝撃でひびが入ったり砕けたりすることがあり、急に冷やすと表面が引張になって割れが起きやすく、セラミックスは熱衝撃を受けやすいことが多いとしています。ウィキペディア日本語版は、急速な非定常熱応力が生じる現象を熱衝撃というとしています。ガラスやセラミックスは、引張の力に弱く、表面の小さな傷から割れが広がりやすい材料です(編集部の解説)。ガラスの割れの対策は課題「ガラス部品を割れにくくしたい」にあります。

耐熱温度差:急な温度変化への強さ

耐熱衝撃温度差の例の棒グラフ:窒化ケイ素700K、窒化アルミ(ALN94)400K、炭化ケイ素300K、ジルコニア280K、アルミナ(ACM995)250K、アルミナ(AM997など)200K、電子レンジ用の耐熱ガラス120K以上。耐熱温度差はその温度から急に温めたり冷やしたりしても割れない温度差の目安で、耐えられる温度そのものではないこと、セラミックスはメーカーの参考値であることを添えた
図6 急な温度変化への強さ(耐熱衝撃温度差)の例
出典:フェローテック、HARIOをもとに AI(Claude)で作成

フェローテックの特性表は、耐熱衝撃 ΔT を、窒化ケイ素(SN606)700K、窒化アルミ(ALN94)400K、炭化ケイ素(SC902E)300K、ジルコニア(Z403)280K、アルミナ 200〜250K としています。前の節の計算で熱応力がいちばん小さかった窒化ケイ素が、いちばん大きな温度差に耐えることになります(比べたのは編集部。耐熱衝撃には強さやねばり強さも関係します)。

ガラスでは、HARIO が電子レンジ用ガラスの耐熱温度差を120℃以上としています。これは120℃に耐えられるという意味ではなく、そのときのガラスの温度から急に温めたり冷やしたりしたときの温度差が120℃以内なら割れない、という意味だとしています。オーブンで温めた耐熱ガラスを濡れ布巾で持ったり、水滴に触れたりすると、部分的に耐熱温度差を超えることがあるとも注意しています。

日本大百科全書(コトバンク)は、シリカガラス(石英ガラス)は熱膨張係数が1℃あたり1000万分の5〜6と最低なので急熱・急冷にもっとも強く、パイレックス級のホウケイ酸ガラスは1000万分の32と比較的小さいので熱衝撃に強いとしています。α が小さいほど、同じ温度差でも熱応力が小さくなるためです(編集部の解説)。

出典:強化ガラス(改訂新版 世界大百科事典)|コトバンク、Thermal stress|Wikipedia(英語)、熱膨張率(熱応力の節)|ウィキペディア日本語版、ファインセラミックス特性表|フェローテック、ガラスについて(「耐熱温度差」の「差」って何?)|HARIO、耐熱ガラス(日本大百科全書)|コトバンク

線膨張係数の違う材料を組み合わせると

左に、伸びやすい材料(α大)と伸びにくい材料(α小)はバラバラなら伸びる量が違い、貼り合わせるとお互いに引っぱり合って伸びにくい側(内側)へ反ること(バイメタル)、右に、伸びにくい部品(チップ)と伸びやすい板(基板)が反れないように固定されていると、接合部にずれ(せん断)の力がかかり、温度の上がり下がりのたびにくり返しかかって疲れて割れる(熱疲労)こと、例としてはんだ接合部・樹脂と金属の接合部・コーティングのはがれを挙げた図
図7 線膨張係数の違う材料を貼り合わせると、反り・ずれの力が生まれる
出典:コトバンク、ハリマ化成グループ、山梨大学をもとに AI(Claude)で作成

壁で止めなくても、線膨張係数の違う材料をつなぐと、お互いの伸びを止め合うので熱応力が生まれます(編集部の解説)。デジタル大辞泉(コトバンク)は、バイメタルを熱膨張率の異なる2種の金属板をはり合わせたものとしています。温めると2枚の伸びが違うので反り、この動きが温度計や温度で動くスイッチに使われます(基礎知識「線膨張係数」)。

反ることができないように固定されていると、つなぎ目にずれ(せん断)の力がかかります。温度が上がり下がりするたびにこの力がくり返しかかり、少しずつき裂が進む現象を熱疲労といいます(編集部の解説)。樹脂と金属、アルミと鉄のように違う材料をつなぐときの対策は、課題「樹脂と金属をしっかり接合したい」・「アルミと鉄など異種金属をしっかり接合したい」にあります。

出典:バイメタル(デジタル大辞泉・日本大百科全書 ほか)|コトバンク

例:電子部品のはんだ接合部

Siチップ(α 2.62×10のマイナス6乗/K)とプリント配線板(α 16.0×10のマイナス6乗/K)がはんだでつながり、基板のほうが多く伸び縮みするので、はんだ接合部にくり返しずれ(せん断)がかかってき裂が進んで切れる(熱疲労)ことを示した絵。右に、長さ10mmで−40℃〜125℃(ΔT 165K)のとき伸びの差は約0.022mm(約22μm)になる計算例。下に、車の置き場所による温度の上限・下限の例(車室内80℃/−30℃、エンジンルーム110℃/−30℃、エンジン直載125℃/−40℃)の表
図8 はんだ接合部:チップと基板の伸びの差(計算例)
出典:山梨大学、ハリマ化成グループをもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

山梨大学の研究紹介は、はんだ接合部のまわりの材料(Si チップとプリント配線板)の線膨張係数の違いによる変位のずれで、はんだ接合部が周期的なせん断の負荷を受け、熱疲労で壊れると説明しています。Si チップの α は 2.62×10⁻⁶/K、プリント配線板は 16.0×10⁻⁶/K としています。

長さ 10mm の範囲で、温度が −40℃ から 125℃ まで変わる(ΔT 165K)と、チップと基板の伸びの差は(16.0−2.62)×10⁻⁶ × 10mm × 165K ≒ 0.022mm(約 22μm)になります(編集部の計算)。とても小さな量ですが、はんだの接合部は小さいので、この差がくり返し大きなひずみとしてかかります(編集部の解説)。

ハリマ化成グループの技術レポートは、セラミック基板のチップ抵抗(熱膨張係数 6〜7ppm/℃)とガラスエポキシの回路基板(14〜16ppm/℃)は熱膨張係数が大きく異なり、その間のずれがせん断応力としてはんだ接合部に加わり、耐えられないとクラックが発生し、くり返し加わることでクラックが成長して破断に至るとしています。高温の環境でチップ抵抗のサイズが大きいほど熱膨張差は拡大するとし、車の中の置き場所ごとの温度の上限・下限の例(車室内 80℃/−30℃、エンジンルーム 110℃/−30℃、エンジン直載 125℃/−40℃、機電一体 150℃/−40℃)を挙げています。

はんだ付けの不良とその対策は課題「はんだ付け不良(ボイド・クラック・ブリッジ)を減らしたい」、温度の上がり下がりで割れる話は課題「繰り返し荷重・熱サイクルで割れる」と 基礎知識「疲労限度(S-N曲線)」にあります。

出典:林丈晴 教授の研究紹介(はんだ・熱疲労寿命評価・有限要素解析)|山梨大学、石川俊輔「耐熱疲労特性に優れた鉛フリーはんだ合金の開発」HARIMA TECHNOLOGY REPORT|ハリマ化成グループ

例:溶接で残る応力とひずみ

溶接中は溶接部が熱くなって伸びようとし、まわりの冷たい部分が止めるので圧縮、冷えるときは溶接部が縮もうとするのをまわりが止めて引張、冷えたあとは溶接部の近くに引張の残留応力が残り板が変形(ひずみ)することを3段階で示した図。下に、加熱した所としていない所の温度差による熱応力が冷えたあとも残ったものが残留応力で、焼なまし(応力除去)や溶接の順番・拘束のしかたで小さくすること、疲れや応力腐食割れの原因にもなることを添えた
図9 溶接:局部的に熱くなった所の伸び縮みが止められ、残留応力とひずみが残る
出典:JFEテクノリサーチ、ATOMICA(日本原子力研究開発機構)をもとに AI(Claude)で作成

JFEテクノリサーチは、溶接では局部的な温度上昇にともなう不均一な熱膨張と熱収縮が起き、加熱部と非加熱部の温度差によって溶接部の近くに残留応力が発生し、変形を引き起こすとしています。ATOMICA は、高温の溶接部が冷えるときに縮んで周りの金属を引っぱるので、溶接後に引張の残留応力が残るとしています。

ATOMICA は対策として、残留応力を圧縮にするような溶接法や、溶接部を誘導加熱して引張の残留応力を下げる方法などを挙げています。熱応力は、温度が戻れば消えるとは限らず、途中で材料が塑性変形すると、冷えたあとも残留応力として残ります(編集部の解説。基礎知識「残留応力」)。溶接のゆがみの対策は課題「溶接・成形で歪む・反る」、溶接の方法は技術「溶接」にあります。焼入れで急に冷やすときの割れ・ゆがみも、中と外の温度差による熱応力が関係します(課題「熱処理で歪む・割れる」)。

出典:溶接時の変形・残留応力解析|JFEテクノリサーチ、残留応力(用語)|ATOMICA(日本原子力研究開発機構)

例:温かい液体を流す配管

長さ10mの炭素鋼管SGPを20℃から80℃(ΔT 60K)にすると、自由なら11.6×10のマイナス6乗×60K×10,000mm≒7.0mm伸び、両端を固定すると熱応力約134MPa(圧縮)になる計算例。右に日本製鉄の資料の式(伸び ΔL=α×(t2−t1)×L、熱応力 σ=α×(t2−t1)×E、反力 P=A×σ)と炭素鋼管の値。下に伸びを逃がす方法の例として、伸縮継手(蛇腹などで吸収)、曲がり・ループ(曲がりのたわみで逃がす)、支え方(固定する所とすべらせる所を決める)の3枚のカード
図10 配管:温かい液体を流すと伸びる。止めると大きな力になる(計算例)
出典:日本製鉄をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成

日本製鉄の配管の資料は、熱による伸びを ΔL=α×(t2−t1)×L、伸びを止めたときの熱応力を σ=α×(t2−t1)×E、そのとき管が押す力(反力)を P=A×σ(A:管の断面積)で示しています。炭素鋼管(SGP)の α は 11.6×10⁻⁶、ステンレス鋼管は 16.4×10⁻⁶ としています。

長さ 10m の炭素鋼管を 20℃ から 80℃ にすると、自由なら約 7.0mm 伸びます。両端を固定して伸びを止めると、熱応力は約 134MPaになります(編集部の計算。縦弾性係数は20℃の値)。この力は、管だけでなく、つないでいる機器や支える金具にもかかります(編集部の解説)。

このため配管では、蛇腹などの伸縮継手、配管の曲がり、固定する所とすべらせる所を分けた支え方などで、伸びを逃がします(編集部の整理)。同資料は一般的な情報提供が目的で設計用マニュアルではないとしているので、実際の設計ではメーカーの資料や規格の値を使います。保温・保冷の話は課題「配管・装置の保温・保冷を効率よくしたい」にあります。

出典:4.熱による鋼管の膨張と荷重(建設設備配管情報サービス)|日本製鉄

熱応力を小さくする考え方

熱応力を小さくする考え方を6枚のカードで並べた図:温度の変化ΔTを小さく(ゆっくり温める・冷ます、断熱・冷却で温度の幅を狭く)、αの差を小さく(貼り合わせる材料の線膨張係数をそろえる、間の値の材料をはさむ)、止めない(すき間・長穴、伸縮継手・曲がり、固定点を1か所に)、やわらかい材料で受ける(ヤング率の小さい接着剤・ゴム・アンダーフィル)、割れにくい材料にする(熱衝撃に強いセラミックス・耐熱ガラス)、残ったものを抜く(焼なましで残留応力を下げる)
図11 熱応力を小さくする考え方(編集部の整理)
出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成

式 σ=E×α×ΔT から、熱応力を小さくするには、E・α・ΔT のどれかを小さくするか、伸びを止めないようにすることになります(編集部の整理)。

  • 温度の変化を小さく:ゆっくり温める・冷ますと、中と外の温度差が小さくなります。断熱や冷却で、使うときの温度の幅を狭くするのも同じ考え方です。放熱の話は課題「小型化で部品の温度が上がる」にあります。
  • 線膨張係数の差を小さく:つなぐ材料の α をそろえるか、間の値の材料をはさんで、差を段階的にします。
  • 止めない:すき間や長穴、伸縮継手で伸びを逃がします。固定する所を1か所にして、ほかはすべらせるのも方法です。
  • やわらかい材料で受ける:ヤング率の小さい接着剤やゴムで、伸びの差を受け止めます。電子部品では、すき間を樹脂で埋めて力を分ける方法もあります(接着の材料は技術「エポキシ樹脂」)。
  • 割れにくい材料にする:急な温度変化がある所には、熱衝撃に強い材料を選びます(技術「ファインセラミックス」)。
  • 残ったものを抜く:溶接や成形のあとに焼なましをして、残留応力を下げます。

形が複雑な部品や、温度が場所によって違う部品の熱応力は、手計算ではむずかしいので、温度の分布と応力をまとめて計算する CAE(熱応力解析)を使います(編集部の解説。技術「CAE(構造解析・熱流体解析)」)。

似ている言葉との違い

熱応力のまわりの言葉の早見表:熱ひずみ(温度の変化で自由に伸び縮みする割合 α×ΔT)、熱応力(その伸び縮みが止められて材料の中に生まれる力 E×α×ΔT)、線膨張係数(1Kで長さが何倍伸びるか)、熱衝撃(急な温度変化で生まれる熱応力、ガラス・セラミックスが割れる)、熱疲労(温度の上がり下がりで熱応力がくり返しかかりき裂が進む)、残留応力(加熱・冷却や加工のあと外から力がなくても残る応力)、熱座屈(伸びを止められた細長い部材が押されて横に曲がる)
図12 熱応力のまわりの言葉の早見表
出典:ウィキペディア日本語版、ATOMICA(日本原子力研究開発機構)、Wikipedia(英語)をもとに AI(Claude)で作成

熱ひずみと熱応力:ウィキペディア日本語版は、拘束されたときに生じる応力を熱応力、ひずみを熱ひずみとしています。自由に伸び縮みできれば熱ひずみはあっても熱応力はない、と覚えておくと区別しやすくなります(編集部の解説)。

熱応力と残留応力:熱応力は、止められた状態で温度が変わっているあいだ(または部品の中に温度の差があるあいだ)に生まれる力で、温度が元に戻れば消えます。途中で材料が塑性変形すると、温度が戻っても応力が残り、これが残留応力です(編集部の解説。基礎知識「残留応力」)。

出典:熱膨張率(熱応力の節)|ウィキペディア日本語版、熱応力(用語)|ATOMICA(日本原子力研究開発機構)

出典

  1. 熱膨張率(熱応力の節)|ウィキペディア日本語版
  2. 熱応力(用語)|ATOMICA(日本原子力研究開発機構)
  3. Thermal stress|Wikipedia(英語)
  4. Thermal strains and stresses(ME 323: Mechanics of Materials)|Purdue University
  5. 4.熱による鋼管の膨張と荷重(建設設備配管情報サービス)|日本製鉄
  6. ファインセラミックス特性表|フェローテック
  7. 強化ガラス(改訂新版 世界大百科事典)|コトバンク
  8. ガラスについて(「耐熱温度差」の「差」って何?)|HARIO
  9. 耐熱ガラス(日本大百科全書)|コトバンク
  10. バイメタル(デジタル大辞泉・日本大百科全書 ほか)|コトバンク
  11. 林丈晴 教授の研究紹介(はんだ・熱疲労寿命評価・有限要素解析)|山梨大学
  12. 石川俊輔「耐熱疲労特性に優れた鉛フリーはんだ合金の開発」HARIMA TECHNOLOGY REPORT|ハリマ化成グループ
  13. 溶接時の変形・残留応力解析|JFEテクノリサーチ
  14. 残留応力(用語)|ATOMICA(日本原子力研究開発機構)

※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。

情報の確認日:2026年10月19日

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