粘弾性とは(ばねとダッシュポット・クリープと応力緩和・tanδの見方)

鋼の円柱で押されてへこんだ黒いゴムのブロック、棒から垂れる琥珀色の粘い液体の皿、金属のコイルばねを並べたイメージ(AI で生成)

輪ゴムを引っぱって放すと、すぐに元の長さに戻ります。ところが、ゴムの部品を何日も押しつぶしたままにしておくと、外しても少し薄いまま戻らないことがあります。はちみつはゆっくり流れますが、卵白はかき混ぜた箸を抜くと少し跳ね返るように戻ります。こうした「ばねのように戻る性質」と「液体のように流れる性質」をあわせ持つことを粘弾性といいます。このページでは、粘弾性とは何か、ばねとダッシュポットで考えるモデル、クリープと応力緩和、固体か液体かを見分けるデボラ数、貯蔵弾性率・損失弾性率・tan δ の見方、ものづくりでどう効くかを、図で順に解説します。

目次

粘弾性とは:ひとことで言うと

粘弾性とは

粘弾性は、粘性(液体のように流れる性質)と弾性(ばねのように元に戻る性質)の両方を合わせた性質です。基本的にはすべての物質が持っていますが、プラスチックやゴムなどの高分子の材料で特にはっきり表れます(Wikipedia「粘弾性」)。

JFEテクノリサーチの資料は、力を加えたときに、ばねのように変形のエネルギーをためる性質(弾性項)と、内部で変形のエネルギーを失う性質(粘性項)が組み合わさった性質、と説明しています。

弾性・粘性・粘弾性の比較図:ばねは力を外すとすぐ戻り、ダッシュポットは流れたまま戻らず、ばねとダッシュポットを並べた粘弾性体はゆっくりのびてゆっくり戻る
図1 弾性・粘性・粘弾性の違い:力を加えて外したときの、のびの変化(模式図)
出典:Wikipedia、JFEテクノリサーチをもとに AI(Claude)で作成

ふつう、弾性は固体の性質、粘性は液体の性質と考えられています。固体は力がなくなると元に戻り、液体は戻りません(Wikipedia「粘弾性」)。図1の3つを並べると違いがわかります(グラフは編集部が説明のために描いた模式図)。

力を加えている間力を外したあと身近な例
弾性すぐにのびて、そのまますぐ元に戻る金属のばね
粘性流れて、のび続ける戻らない。加えたエネルギーは熱になるはちみつ・水あめ
粘弾性時間とともに、のびが変わるゆっくり戻る、または一部が戻らないゴム・プラスチック・卵白

表の「加えたエネルギーは熱になる」は、Wikipedia「粘弾性」の完全粘性体の説明によるものです。ほかの欄は、同じ記事と図1をもとに編集部がまとめました。

出典:粘弾性|Wikipedia、動的粘弾性測定による高分子材料の圧縮耐久性評価(PDF)|JFEテクノリサーチ

ばねとダッシュポットで考える:マクスウェルモデルとフォークトモデル

粘弾性は、ばね(弾性)と、油の入った筒の中をピストンが動くダッシュポット(粘性)を組み合わせた模型で考えると、わかりやすくなります。ばねの硬さを弾性率 E、ダッシュポットの動きにくさを粘度 η で表します(Wikipedia「粘弾性」)。

マクスウェルモデルとフォークトモデルの図:ばねとダッシュポットを直列につなぐと応力緩和を、並列に並べるとクリープを表す。どちらも時間の目安はη÷E
図2 ばね(E)とダッシュポット(η)の直列(マクスウェル)と並列(フォークト)
出典:Wikipedia、Wikipedia(英語版)をもとに AI(Claude)で作成
モデルつなぎ方表せる動き時間の目安
マクスウェルモデルばねとダッシュポットを直列応力緩和(のばしたまま止めると、力が抜けていく)緩和時間 τ = η/E
フォークトモデル(ケルビン・フォークトモデル)ばねとダッシュポットを並列クリープ(一定の力で、のびがゆっくり増えて止まる)遅延時間 τ = η/E
標準線形固体モデル上の2つを組み合わせる応力緩和とクリープの両方—

つなぎ方と表せる動きは Wikipedia「粘弾性」、時間の目安の式は英語版 Wikipedia の「Maxwell material」「Kelvin–Voigt material」によります。

マクスウェルモデル:ずっと引くと流れる

マクスウェルモデルは、典型的な液体の性質を示す、いちばん簡単な粘弾性のモデルです。急にのばしてそのまま止めると、ばねの力(応力)は緩和時間 τ = η/Eくらいの時間で抜けていきます。逆に一定の力をかけ続けると、のびは時間に比例して増え続けます。小さな力でも長くかけると大きく元に戻らない変形が残るので、液体のようにふるまいます(英語版 Wikipedia「Maxwell material」)。

フォークトモデル:ゆっくりのびて、ゆっくり全部戻る

フォークトモデルは、ゴムのような性質を示す、いちばん簡単なモデルです。一定の力 σ₀ をかけると、のびは ε(t) = (σ₀/E)(1 − e−t/τ) と増えていき、最後はばねだけのときと同じ σ₀/E に落ち着きます。τ = η/E は遅延時間と呼ばれます。力を外すと、時間はかかりますが変形はすべて戻るので、固体のようにふるまいます(英語版 Wikipedia「Kelvin–Voigt material」)。

本物のゴムや樹脂は、このような単純なモデル1つでは表しきれません。ばねとダッシュポットをたくさん組み合わせたモデルや、次の節の測定で性質を調べます(この一文は編集部の補足)。

出典:粘弾性|Wikipedia、Maxwell material|Wikipedia(英語版)、Kelvin–Voigt material|Wikipedia(英語版)

時間で変わる:クリープと応力緩和

クリープと応力緩和のグラフ:力を一定にするとのびがじわじわ増え(クリープ)、のびを一定にすると力がじわじわ減る(応力緩和)
図3 クリープと応力緩和:何を一定にして、何が変わるか(模式図)
出典:Wikipedia、Wikipedia(英語版)をもとに AI(Claude)で作成

粘弾性の材料では、応力を一定に保つと、ひずみが徐々に大きくなります。完全な弾性体なら、応力とひずみは比例し、応力を一定にすればひずみは変わりません(Wikipedia「粘弾性」)。この「同じ力のまま、のびが増えていく」現象がクリープです。

反対に、のばした長さ(ひずみ)を一定に保つと、力(応力)がだんだん小さくなります。これが応力緩和です(英語版 Wikipedia「Maxwell material」)。ゴムのパッキンやシール、樹脂の締め付け部品で、時間がたつと押す力が弱まるのは、この性質が関係しています(この例は編集部の補足)。

一定にするもの時間とともに変わるものよく似たモデル
クリープ力(応力)のび(ひずみ)が増えるフォークトモデル
応力緩和のび(ひずみ)力(応力)が減るマクスウェルモデル

金属でも、高い温度で長く力をかけるとクリープが起きます。高い温度での金属のクリープは、技術の基礎知識「クリープ」で解説しています(この一文は編集部の補足)。

出典:粘弾性|Wikipedia、Maxwell material|Wikipedia(英語版)

固体か液体かは「時間」で決まる:デボラ数

デボラ数の図:緩和時間÷観察する時間。ピッチはハンマーでたたくと割れるが何年もかけて垂れる、氷は手に持つと固いが氷河は長い年月で流れる
図4 デボラ数:同じ物でも、見る時間で固体にも液体にも見える
出典:Wikipediaをもとに AI(Claude)で作成

ある物が粘性体か、弾性体か、粘弾性体かは、ひずみを一定にしたときに応力が抜けるまでの緩和時間と、観察する時間を比べて決めます。緩和時間が観察時間より短ければ粘性体(液体)、長ければ弾性体(固体)、同じくらいなら粘弾性体として扱います。この比をデボラ数と呼びます(Wikipedia「粘弾性」)。

Wikipedia「デボラ数」は、緩和時間を物質の粘性と剛性率の比で表し、デボラ数がとても小さい(De ≪ 1)と液体、とても大きい(De ≫ 1)と固体とみなせる、と説明しています。名前は、旧約聖書の預言者デボラが「山々が主の前に流れた」と歌ったとされることに由来します。

ピッチ、氷河、マントルの例

物ふだん長い時間で見ると数値(Wikipedia「デボラ数」)
コールタールのピッチハンマーで割れる固体に見える漏斗から少しずつ垂れる1927年に始めた実験で、2000年までに垂れたのは8滴。粘度は約108 Pa·s
氷固体氷河は流れるように見える粘度 約1014 Pa·s、剛性率 約109 Pa、緩和時間 約105秒〜約1日
地球のマントル岩石(固体)数億年の単位では液体とみなせる粘度 約1020〜1022 Pa·s、剛性率 約100 GPa

ものづくりでも同じ考え方を使えます。一瞬の衝撃にはかたく、長くかかる力には流れるように変形するのが粘弾性の材料です。どのくらいの時間で力がかかる部品なのかを考えることが、材料選びの出発点になります(この段落は編集部の補足)。

出典:粘弾性|Wikipedia、デボラ数|Wikipedia

ゆらして測る:貯蔵弾性率・損失弾性率・tan δ

動的粘弾性の図:正弦波でゆらしたとき、のびと力の波がずれる角度δ。複素弾性率を貯蔵弾性率E′と損失弾性率E″に分け、tanδ=E″/E′
図5 動的粘弾性:ゆらしたときのずれ δ と、E′・E″・tan δ
出典:Wikipedia、滋賀県 北部産業技術共創センター、JFEテクノリサーチをもとに AI(Claude)で作成

粘弾性は、材料を正弦波で小さくゆらし、のび(ひずみ)と力(応力)の波のずれ(位相差 δ)から調べられます。これを動的粘弾性測定(DMA)といいます(JFEテクノリサーチ)。完全な弾性体では、ひずみと応力の位相は一致し、完全な粘性体では位相差が π/2(90°)になります。粘弾性体はその間です(Wikipedia「粘弾性」)。

量表すもの見方
貯蔵弾性率 E′弾性(ばねの成分)大きいほど、変形のエネルギーをためて戻す。硬さの目安
損失弾性率 E″粘性(ダッシュポットの成分)大きいほど、変形のエネルギーを内部で失う
損失正接 tan δ = E″/E′粘性と弾性の割合大きいほど粘性の側が強い

表の「表すもの」と式は、滋賀県 北部産業技術共創センターの解説によります。「見方」は、JFEテクノリサーチの弾性項・粘性項の説明をもとに編集部がまとめました。Wikipedia「粘弾性」は、複素弾性率の実部を貯蔵弾性率、虚部を損失弾性率と呼ぶことがある、と説明しています。

温度を変えて測ると、ガラス転移がわかる

PETの動的粘弾性の模式図:貯蔵弾性率は50℃付近から下がり90℃を超えると大きく下がる。損失弾性率は約110℃、tanδは約120℃で山になる
図6 温度を変えて測った PET の E′・E″・tan δ(模式図)
出典:滋賀県 北部産業技術共創センターをもとに AI(Claude)で作成

滋賀県 北部産業技術共創センターは、PET を温度を変えながら測った例を紹介しています。E′ は50℃付近から下がり始め、90℃を超えると大きく下がります。この変わり目を E′ のガラス転移点とします。E″ は110℃程度で山になり(E″ のガラス転移点)、tan δ は120℃付近で山になります(tan δ のガラス転移点)。同じ材料でも、どの値で読むかで「ガラス転移点」の数字が変わるので、カタログや報告書の値を比べるときは、どの方法の値かを確かめます(最後の一文は編集部の補足)。

温度を変えながら1回の測定でグラフにできるので、試料どうしの傾向を比べるのに向いている、とされています(同センター)。JFEテクノリサーチは、DMA でガラス転移温度や架橋密度を確かめ、そこから高分子材料の制振性・防音性・劣化状態などを評価できる、と説明しています。ガラス転移点そのものは 技術の基礎知識「ガラス転移点(Tg)」で解説しています。

出典:粘弾性のいろは(2)ー弾性編ー|滋賀県 北部産業技術共創センター、動的粘弾性測定による高分子材料の圧縮耐久性評価(PDF)|JFEテクノリサーチ、粘弾性|Wikipedia

ものづくりでどう効くか

粘弾性が効く場面の図:制振材が揺れを熱に変える、くり返し圧縮で架橋ゴムEPDMは7.6%、非架橋のウレタンは14.1%薄くなった、塗料の塗りやすさと垂れにくさ
図7 粘弾性がものづくりで効く3つの場面
出典:日本特殊塗料、JFEテクノリサーチ、滋賀県 北部産業技術共創センターをもとに AI(Claude)で作成

揺れを熱に変えて止める:制振材

日本特殊塗料は、自動車の制振材を、アスファルトを主な原料にしたシート状の粘弾性樹脂として紹介しています。車体の鋼板に直接貼ると、振動で伸び縮みする鋼板の動きを粘性減衰(ダンピング)で抑え、振動を熱エネルギーに変えて車内の騒音を減らします。制振材と防振ゴムの選び方は、技術ページ「防振ゴム・制振材」で解説しています。

ゴム・樹脂のへたり

JFEテクノリサーチは、厚さ3mm の試験片を 0.5mm と 1.5mm の間でくり返し圧縮(0.002Hz で518回、3日間)した事例を示しています。架橋ゴムの EPDM は 3.00mm から 2.77mm(−7.6%)、架橋していないウレタンエラストマーは 3.18mm から 2.73mm(−14.1%)に薄くなりました。同社は、架橋していない材料では分子どうしの滑りが進んだためと推察しています。ゴム部品のへたりの対策は、課題ページ「ゴム部品がへたる・硬くなる(圧縮永久ひずみ)を防ぎたい」にまとめています。

塗る・混ぜる・触る

滋賀県 北部産業技術共創センターは、塗料では塗りやすさと垂れにくさのために粘度の評価が早くから重視されてきたこと、食品や化粧品では人の触った感じを数値にする手段として粘弾性が使われていることを紹介しています。ヨーグルトを動的に測った例では、一般的なヨーグルトは大きな力まで形を保ち、崩れ始めると一気に粘度が下がるのに対し、カスピ海ヨーグルトは崩れ始めても粘度が少しずつ下がる、という違いが数値で見えています。

同センターは「粘弾性のいろは(2)ー弾性編ー」で、ゴム・プラスチック・食品は加工したあとも粘性と弾性の両方が表れやすく、金属やセラミックは加工するときは粘性が、製品になってからは弾性が主に表れるとして、それぞれの段階で粘弾性の性質をつかむことが大切だとまとめています。

出典:制振とは|日本特殊塗料、動的粘弾性測定による高分子材料の圧縮耐久性評価(PDF)|JFEテクノリサーチ、粘弾性のいろは(1)ー粘性編ー|滋賀県 北部産業技術共創センター、粘弾性のいろは(2)ー弾性編ー|滋賀県 北部産業技術共創センター

出典

  1. 粘弾性|Wikipedia
  2. 動的粘弾性測定による高分子材料の圧縮耐久性評価(PDF)|JFEテクノリサーチ
  3. Maxwell material|Wikipedia(英語版)
  4. Kelvin–Voigt material|Wikipedia(英語版)
  5. デボラ数|Wikipedia
  6. 粘弾性のいろは(2)ー弾性編ー|滋賀県 北部産業技術共創センター
  7. 制振とは|日本特殊塗料
  8. 粘弾性のいろは(1)ー粘性編ー|滋賀県 北部産業技術共創センター

※図は、出典の説明をもとに編集部がまとめた模式図です。

※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。

情報の確認日:2026年10月31日

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