カメラやレーザーの光学系を、昼の屋外や車の中、装置の熱がこもる所で使うと、ピントが甘くなる、光軸がずれる、偏光の状態が変わる――。原因の多くは、レンズ・ミラー(ガラス)と、それを保持する鏡筒・ホルダー(金属・樹脂)の線膨張係数の差です。温度が変わると、保持する部品だけが大きく伸び縮みし、レンズの位置や、レンズにかかる力が変わります。
この記事では、鏡筒・ホルダーの材料(アルミ・ステンレス・チタン・インバー・樹脂)とガラスの膨張の差で、ピントがどれだけずれるか、すき間がどれだけ変わり、レンズにどれだけの応力(複屈折)がかかるかを、小さな計算例(編集部の試算)で示します。そのうえで、材料の組み合わせ・アサーマル設計・接着剤の選び方と厚み・押さえリング・3点支持・キネマティックマウントの対策と、相談できる企業を紹介します。
温度で起きる3つのずれ
温度の変化でレンズ・ミラーに起きることは、大きく3つに分けられます。

出典:編集部の整理をもとに AI(Claude)で作成
① ピントのずれ:鏡筒が伸び縮みしてレンズとセンサーの距離が変わり、レンズの焦点距離もわずかに変わります。② 光軸のずれ:温めると保持の穴が広がってすき間が増え、押さえが弱いとレンズが動きます。③ 応力:冷やすと金属のほうが大きく縮み、すき間がなくなるとレンズを締め付けます。応力は、光の偏光を変える複屈折や、面のゆがみ、割れの原因になります。
どれも、材料の線膨張係数の差から起きる熱応力・熱変形です。まず材料の値を並べます。

出典:SCHOTT「ZERODUR Technical details」・OHARA GmbH「CLEARCERAM-Z カタログ」・京セラ「低熱膨張ミラー」・黒崎播磨「NEXCERA」・Corning HPFS Fused Silica・新報国マテリアル「製品情報」・SCHOTT「Optical Glass Datasheets」・Upmet「Ti-6Al-4V ELI」・ステンレス協会「Q6」・Kaiser Aluminum「6061」・EPO-TEK 301-2 データシート・Corsetti ほか(NASA 技術報告サーバー)・SYLGARD 184 データシートをもとに AI(Claude)で作成
光学ガラスの N-BK7 は 7.1×10⁻⁶/K(−30〜+70℃)なのに対し、アルミ合金 A6061 は 23.6×10⁻⁶/K(20〜100℃)、ステンレス SUS304 は 17.3×10⁻⁶/K(0〜100℃)と、約2.4〜3.3倍伸びます。チタン合金はガラスに近く、インバーはガラスより小さく、低膨張のガラスセラミックス・セラミックスはほぼゼロです。アクリル(PMMA)などの樹脂はガラスの10倍ほどで、柔らかいシリコーンはさらに大きくなります。
似た課題・技術との違い
この記事は、レンズ・ミラーの「固定」と「温度によるずれ」に絞ります。反射防止の膜や光の向きの制御は「反射を抑えたい・光を制御したい」、照明の明るさのむらは「照明・バックライトの明るさのむらをなくしたい」、レンズの設計そのものは技術ページ「光学設計」で扱っています。

出典:編集部の整理をもとに AI(Claude)で作成
出典:SCHOTT Optical Glass Datasheets(N-BK7・N-SF6)|SCHOTT、6061 データシート|Kaiser Aluminum、ステンレスの物理的性質(Q6)|ステンレス協会、Ti-6Al-4V ELI データシート|Upmet、Corning HPFS Fused Silica(Corning の資料。Edmund Optics の掲載)、ZERODUR Technical details|SCHOTT、CLEARCERAM-Z カタログ|OHARA GmbH、低熱膨張ミラー|京セラ、NEXCERA|黒崎播磨、製品情報(低熱膨張合金)|新報国マテリアル、Corsetti ほか, Measurement of the thermo-optic coefficient and CTE of PMMA(NASA 技術報告サーバー)、EPO-TEK 301-2 データシート(シェフィールド大学の掲載)、SYLGARD 184 データシート(コーネル大学の掲載)
計算の考え方:伸びの差と、すき間と、応力
計算は3つの段に分けると見通しがよくなります。光軸の方向(ピント)、半径の方向(すき間と応力)、そして応力から複屈折です。
① ピントのずれ = 鏡筒の伸び − 焦点距離の変化
無限遠の物を写す単レンズでは、レンズからセンサーまでの鏡筒の長さは、ほぼ焦点距離 f と同じです。温度が ΔT 変わると、鏡筒は α_鏡筒 × f × ΔT 伸びます。一方、レンズの焦点距離も、ガラスの膨張(α_ガラス)と屈折率の温度係数(dn/dT)で変わります。アリゾナ大学の講義の報告(Irvin)では、薄い単レンズの焦点の移動を、ガラスの熱ガラス定数 TGC = (dn/dT)/(n−1) − α_ガラスと、鏡筒の線膨張係数で表しています。

出典:Irvin(アリゾナ大学 OPTI 521)・SCHOTT「TIE-19」をもとに AI(Claude)で作成
N-BK7 は、温めると屈折率が上がり(空気に対して +3.0×10⁻⁶/K、e線・+20〜+40℃)、レンズの曲がる力が強まります。そのため、膨張で焦点距離が伸びる分の大半が打ち消され、焦点距離の変化は 1.3×10⁻⁶/K 程度と小さくなります。Irvin の報告の表でも、BK7 の TGC は −1×10⁻⁶ です。dn/dT は、空気に対する値(相対値)と真空に対する値(絶対値)で 1.4×10⁻⁶/K ほど違うので、空気中のレンズでは相対値を使います(SCHOTT の TIE-19)。
② すき間と応力:Yoder の方法
半径の方向では、レンズと保持の穴の直径の差が、(α_金属 − α_ガラス)× D × ΔT だけ変わります。冷えてすき間がなくなると、金属がレンズを締め付けます。そのときにレンズの縁にかかる半径方向の応力は、光学機器の保持の設計で知られる Yoder の方法で見積もれます。アリゾナ大学のチュートリアル(Salek)の数値例から、すき間が0のときの式は次の形です。
σ_R =(α_金属 − α_ガラス)× |ΔT| ÷(1/E_ガラス + D ÷(2 × E_金属 × t_c))(E:ヤング率、D:レンズの直径、t_c:鏡筒の肉厚)
金属が硬く(E_金属 が大きく)、肉厚が厚いほど、レンズにかかる応力は大きくなります。Yoder の論文の要約(Onishi)では、複屈折が目立たない圧縮応力の目安として約500psi(約3.4MPa)を挙げています。
③ 応力から複屈折へ
ガラスに応力がかかると、偏光の向きで屈折率が変わる複屈折が生じます。SCHOTT の TIE-27 では、光路差 = 光弾性定数 K × 厚さ × 応力 で表し、N-BK7 の K は 2.76×10⁻⁶ mm²/N(SCHOTT のデータシート)です。許される複屈折の目安は、ISO 10110-2 の例として偏光・干渉計の機器で 2nm/cm 未満、精密光学・天文光学で 5nm/cm、写真・顕微鏡の光学で 10nm/cmが示されています。
④ どこまでのずれなら許されるか:焦点深度
ピントのずれが許されるかは、焦点深度と比べて判断します。回折で決まる光学系の目安としては、波面の誤差が4分の1波長になるピントのずれ ±2λF²(F:F ナンバー)がよく使われます。F2・波長0.55µm なら ±4.4µm、F4 なら ±17.6µm です。センサーの画素で決まる場合は、許容錯乱円の大きさから決めます。
出典:Irvin, Athermalization of optical systems(アリゾナ大学 OPTI 521 の報告)、TIE-19 Temperature Coefficient of the Refractive Index|SCHOTT、SCHOTT Optical Glass Datasheets(N-BK7・N-SF6)|SCHOTT、Mir Salek, Mounting lenses(アリゾナ大学 OPTI 521 のチュートリアル。Yoder の方法の数値例)、Onishi, Synopsis of Yoder “Lens Mounting Techniques”(アリゾナ大学 OPTI 521)、TIE-27 Stress in optical glass|SCHOTT(アリゾナ大学の掲載)、Romualdez ほか, SuperBIT(arXiv:1911.11210)の焦点深度の式
計算例:f=50mm のレンズを −20〜+60℃で使う
20℃で組み立てた単レンズのユニットを、−20〜+60℃(±40K)で使うとします。条件は仮の値で、編集部の試算です。材料の値は、それぞれのメーカーのデータシートなどの公表値(温度の範囲は出典ごとに違う)を使いました。自社の設計の値に置き換えて使ってください。
| 条件 | 値(仮の値) |
|---|---|
| レンズ | N-BK7 の単レンズ、焦点距離 f=50mm、直径 D=25mm(F2)、縁の厚さ5mm |
| ガラスの値 | α=7.1×10⁻⁶/K、dn/dT(空気に対して)=+3.0×10⁻⁶/K、n−1=0.519、E=82GPa、K=2.76×10⁻⁶ mm²/N |
| 鏡筒 | レンズからセンサーまで50mm。材料はアルミ A6061(α 23.6、E 68.3GPa)・SUS304(α 17.3、E 193GPa)・チタン合金(α 9.0)・インバー(α 1.5 以下)。肉厚 t_c=2mm |
| 温度 | 組み立て20℃、使う範囲 −20〜+60℃(ΔT=±40K) |
| 許されるピントのずれ | ±2λF²=±4.4µm(λ=0.55µm、F2) |
手順1:鏡筒の材料で、ピントのずれがどれだけ違うか
レンズの焦点距離の伸びは、50mm ×(7.1 − 3.0÷0.519)×10⁻⁶ × 40 ≒ +2.6µm です。アルミの鏡筒は 23.6×10⁻⁶ × 50mm × 40 ≒ 47.2µm 伸びるので、ピントのずれは 47.2 − 2.6 ≒ 44.6µm。許される ±4.4µm の約10倍で、温度が4℃ほど変わるだけで許容を超えます。

出典:SCHOTT「Optical Glass Datasheets」・Kaiser Aluminum「6061」・ステンレス協会「Q6」・Upmet「Ti-6Al-4V ELI」・新報国マテリアル「製品情報」・SuperBIT(arXiv:1911.11210)をもとに編集部が仮の条件で試算し、AI(Claude)で作成
SUS304 でも 32.0µm、チタン合金でも 15.4µm で、F2 のレンズでは足りません。インバー(1.5×10⁻⁶/K 以下)なら伸びは 3.0µm 以下で、レンズの焦点距離の伸びとほぼ打ち消し合い、ずれは 0.4µm です。鏡筒の伸びとレンズの焦点距離の変化がつり合う材料を選ぶのが、単純なアサーマル(無熱化)設計の方法のひとつです。F4 のように暗いレンズなら焦点深度は ±17.6µm に広がり、チタンでも収まります。
手順2:プラスチックレンズでは、レンズ自体が大きく動く
同じ計算を、アクリル(PMMA)のレンズで行います。NASA の技術報告サーバーで公開されている測定(632.8nm、5〜35℃)では、PMMA の線膨張係数は 74.9×10⁻⁶/℃、dn/dT は −99.7×10⁻⁶/℃(屈折率1.490)です。ガラスとは逆に、温めると屈折率が下がります。

出典:SCHOTT「Optical Glass Datasheets」・Corsetti ほか(NASA 技術報告サーバー)をもとに編集部が仮の条件で試算し、AI(Claude)で作成
焦点距離の変化は 50mm ×(74.9 + 99.7÷0.490)×10⁻⁶ × 40 ≒ +557µm と、N-BK7 の約200倍です。鏡筒の材料を選ぶだけでは打ち消せないので、プラスチックレンズのユニットでは、ガラスのレンズと組み合わせたり、温度で焦点を動かす機構を入れたりして補う設計になります。
手順3:冷やしたときのすき間と応力
D=25mm のレンズとアルミの鏡筒では、直径の差の変化は(23.6 − 7.1)×10⁻⁶ × 25mm × 40 ≒ 16.5µm(半径で約8µm)です。20℃で直径のすき間を16.5µm より小さくしておくと、−20℃でレンズに当たります。

出典:SCHOTT「Optical Glass Datasheets」・Kaiser Aluminum「6061」をもとに編集部が仮の条件で試算し、AI(Claude)で作成
すき間が0のまま −40K 冷やすと、上の式で応力は アルミで約6.4MPa、SUS304 で約9.2MPa です。ステンレスは膨張の差が小さいのに、硬いので応力はアルミより大きくなります。どちらも、目安の約3.4MPa を超えます。

出典:Salek(アリゾナ大学 OPTI 521)・Onishi(アリゾナ大学 OPTI 521)・SCHOTT「Optical Glass Datasheets」・Kaiser Aluminum「6061」・ステンレス協会「Q6」・SCHOTT「TIE-27」をもとに編集部が仮の条件で試算し、AI(Claude)で作成
6.4MPa が5mm の厚さにかかると、光路差は 2.76×10⁻⁶ × 6.4 × 5 ≒ 88nm(176nm/cm)で、写真・顕微鏡の目安 10nm/cm を大きく超えます。ただし、縁の全周に均一にかかる圧縮では、中心を通る光の複屈折はずっと小さくなります。押さえが片寄ると、この程度の大きさの複屈折が出うる、という目安と考えます(局所に力が集まれば、さらに大きくなることもあります)。
逆に、すき間を大きくすると、+60℃ではすき間がさらに約16.5µm 広がり、押さえが弱ければレンズが半径で8µm 程度まで動けます。すき間を詰めれば応力、広げれば偏心という板ばさみを、次の対策でほどきます。
手順4:接着剤の層の厚みで打ち消す
すき間に、膨張の大きい柔らかい接着剤(エラストマー)を全周に入れ、その厚みを「金属とガラスの膨張の差を打ち消す厚み」にする考え方があります。Bayar(1981)が示し、Yoder の本でも使われている式(アリゾナ大学の講義資料)で、厚み t = D ×(α_金属 − α_ガラス)÷{2 ×(α_接着剤 − α_金属)}です。

出典:Blanchard(アリゾナ大学 OPTI 521)・SYLGARD 184 データシート・EPO-TEK 301-2 データシート・Kaiser Aluminum「6061」・ステンレス協会「Q6」をもとに編集部が仮の条件で試算し、AI(Claude)で作成
シリコーン(SYLGARD 184 の旧データシートで 310×10⁻⁶)とアルミの鏡筒なら 約0.72mm、SUS304 なら約0.44mm です。硬いエポキシ(EPO-TEK 301-2 の Tg 以下で 37×10⁻⁶)では約15mm となり、現実的ではありません。硬い接着剤を薄く使うと、温度でレンズを押す・引くことになります。この式は接着剤の層の伸び方の前提を単純にしたもので、軸方向や周方向の拘束を考えた修正式もあります(アリゾナ大学の講義資料)。
出典:SCHOTT Optical Glass Datasheets(N-BK7・N-SF6)|SCHOTT、6061 データシート|Kaiser Aluminum、ステンレスの物理的性質(Q6)|ステンレス協会、Ti-6Al-4V ELI データシート|Upmet、製品情報(低熱膨張合金)|新報国マテリアル、Irvin, Athermalization of optical systems(アリゾナ大学 OPTI 521 の報告)、Corsetti ほか, Measurement of the thermo-optic coefficient and CTE of PMMA(NASA 技術報告サーバー)、Mir Salek, Mounting lenses(アリゾナ大学 OPTI 521 のチュートリアル。Yoder の方法の数値例)、Onishi, Synopsis of Yoder “Lens Mounting Techniques”(アリゾナ大学 OPTI 521)、TIE-27 Stress in optical glass|SCHOTT(アリゾナ大学の掲載)、M. Bayar, Lens barrel optomechanical design principles, Optical Engineering 20(2), 1981、Blanchard, Lens Mounting with Elastomeric Bonds(アリゾナ大学 OPTI 521)、Monti, Athermal Bonded Mounts(アリゾナ大学 OPTI 521 のスライド)、SYLGARD 184 データシート(コーネル大学の掲載)、EPO-TEK 301-2 データシート(シェフィールド大学の掲載)
温度でずれない固定のしかた
計算例のとおり、1つの対策で3つのずれ全部を解決するのは難しく、組み合わせて使います。

出典:新報国マテリアル「製品情報」・京セラ「低熱膨張ミラー」・Irvin(アリゾナ大学 OPTI 521)・Blanchard(アリゾナ大学 OPTI 521)・Slocum(1992)と編集部の整理をもとに AI(Claude)で作成
材料の組み合わせ:鏡筒をガラスに近づける
鏡筒・ホルダーの線膨張係数をガラスに近づけると、ピントのずれも、すき間の変化も、応力も小さくなります。チタン合金(約9×10⁻⁶/K)は軽くガラスに近く、インバー(1.5×10⁻⁶/K 以下)・スーパーインバー(1.0×10⁻⁶/K 以下)はさらに小さくできます。新報国マテリアルは、快削性を付けたスーパーインバー IC-36FS の用途に光学レンズ部品を挙げています。インバーは重く、ステンレスより加工・コストの負担が大きいので、温度で効く部品(センサーまでの距離を決める筒など)だけに使うこともできます。
天文・半導体装置・測定機のミラーのように、さらに温度の影響をなくしたいときは、ミラーと支持の構造を、膨張がほぼゼロの同じ材料でそろえる方法があります。京セラは、ユニット全体をファインコージライトで作れることを、アサーマルデザインの利点として挙げています。黒崎播磨は、NEXCERA で JAXA との契約により大型ミラーを試作しています。オハラの CLEARCERAM-Z(熱膨張係数を0〜50℃で保証した極低膨張のガラスセラミックス)も、低膨張の材料の例です。
アサーマル(無熱化)設計:伸びどうしを打ち消す
手順1のように、鏡筒の伸びとレンズの焦点距離の変化がつり合うように材料と長さを選ぶのが、受け身の(パッシブな)アサーマル設計です。1つの材料で合わなければ、膨張の違う2つの材料の筒を組み合わせ、伸びの差でレンズを動かす方法もあります。レンズが複数枚なら、各レンズの熱ガラス定数とパワーの組み合わせで焦点の移動を打ち消します。SCHOTT の TIE-19 は、屈折率の温度係数が負のガラス(N-PK51 など)も挙げています。プラスチックレンズを使うユニットでは、この打ち消しが特に大事です。
接着剤の選び方と厚み
接着で固定するときは、①硬化のときの縮み(硬化収縮)でレンズを動かさない、②温度で押さない(柔らかい層を、打ち消す厚みで)、③使う温度の範囲に Tg(ガラス転移点)が入らない、の3つを確かめます。Tg をまたぐと、線膨張係数などが大きく変わります(EPO-TEK 301-2 では Tg 以下 37×10⁻⁶/℃、Tg 以上 118×10⁻⁶/℃)。
協立化学産業は、鏡筒・センサ基板の高精度な調整固定に、UV と熱の両方で硬化する高 Tg・低収縮の接着剤(5100 シリーズ)を出しています。真空中や宇宙で使う光学系では、接着剤から出るガス(アウトガス)が光学面を曇らせないかも確かめます(「真空機器・宇宙機器のアウトガスを減らしたい」)。接着剤の種類と選び方は技術ページ「接着剤」「エポキシ樹脂」で解説しています。
押さえリング:がたを止め、力を片寄らせない
ねじ込みの押さえリング(押え環)で、レンズを鏡筒の当たり面に軸方向から押しつけると、温めてすき間が広がっても、レンズは摩擦で止まります。気をつけるのは、押す力(予圧)が温度で変わることです。アルミの鏡筒は冷えるとレンズより大きく縮むので、軸方向の力が強まります。当たり面とリングを、レンズの面に合った形(鋭い角ではなく、面で当たる形)にし、緩衝材で局所の力をやわらげます。中央精機は、押え環と緩衝材のジュラコンリングをセットで出しています。

出典:押え環セット|中央精機
3点支持とキネマティックマウント
ミラーや大きなレンズを、面全体や多くの点で押さえると、取付面のゆがみや温度による伸びの差が、そのまま光学面に移ります。3点で受けると、3点は必ず面に当たるので、無理な力がかかりにくくなります。中央精機の同軸レンズホルダ C-357 は、3本の支持棒でレンズを固定し、中心がずれないとしています。
キネマティックマウントは、球と円すい・V溝・平面の組み合わせなどで、6つの動きの向き(並進3・回転3)をちょうど1回ずつ拘束する保持のしかたです。拘束が重ならないので、温度で部品が伸びても溝に沿って逃げ、外したり付け直したりしても同じ位置に戻ります(Slocum, 1992)。中央精機のキネマティック角型ミラーホルダ MHA-S25 も、三点支持式で、止めねじと当てで素子を固定します。

出典:中央精機「C-357」・中央精機「押え環セット HR-20」・Slocum(1992)と編集部の整理をもとに AI(Claude)で作成

出典:キネマティック角型ミラーホルダ MHA-S25|中央精機
試験で確かめる
計算は単純化した目安なので、試作したユニットを温度を変えて評価します。高温・低温・温度サイクル(ヒートショック)の試験で、ピント・光軸・MTF の変化と、冷えて戻したあとに元へ戻るか(ずれが残らないか)を見ます。応力による複屈折は、偏光を使ったひずみ検査で確かめられます。試験の種類と選び方は「製品の耐環境性を温湿度・塩水噴霧の試験で確かめたい」で解説しています。
出典:製品情報(低熱膨張合金)|新報国マテリアル、低熱膨張ミラー|京セラ、CLEARCERAM-Z カタログ|OHARA GmbH、NEXCERA|黒崎播磨、Irvin, Athermalization of optical systems(アリゾナ大学 OPTI 521 の報告)、TIE-19 Temperature Coefficient of the Refractive Index|SCHOTT、EPO-TEK 301-2 データシート(シェフィールド大学の掲載)、WORLD ROCK 5100 シリーズ|協立化学産業、押え環セット HR-20|中央精機、同軸レンズホルダ C-357|中央精機、キネマティック角型ミラーホルダ MHA-S25|中央精機、A. H. Slocum, Design of three-groove kinematic couplings, Precision Engineering, 1992
レンズ・ミラーの温度によるずれの対策を相談できる企業
各企業が解決できる課題と技術の内容を、公開している情報をもとに紹介します。低膨張の材料(インバー・ガラスセラミックス・セラミックス)、保持の部品、光学用の接着剤、レンズユニットの受託開発を挙げました。
新報国マテリアル株式会社|鏡筒・ホルダーに使えるインバー・スーパーインバー
新報国マテリアルとは
新報国マテリアルは、埼玉県川越市に本社を置く、低熱膨張合金(インバー)などの素材メーカーです。鋳物のほか、鍛鋼材・圧延品も扱っています。
新報国マテリアルの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| スーパーインバー IC-36FS | 熱膨張係数 1.0ppm/℃以下(25〜100℃)。快削性を付けたスーパーインバーで、同社で最も多く素材を持ち、小ロット・短納期に対応できる、としている。用途に半導体製造装置・FPD製造装置・光学レンズ部品を挙げる |
| スタンダードインバー IC-36・ゼロ膨張合金 | IC-36 は1.5ppm/℃以下(25〜100℃)。IC-ZX・IC-LTX・IC-DX は0ppm/℃ をうたうゼロ膨張合金(物性表では温度範囲つきで IC-ZX 0±0.15、IC-LTX ≦0.1、IC-DX ≦0.3)。IC-LTX は −100℃まで、IC-DX は −269℃まで使え、天体観測衛星・赤外線望遠鏡・次世代超大型望遠鏡の観測装置などに向ける |
同社の表では、比べる相手の SUS304 は17.3ppm/℃(25〜100℃)です。
新報国マテリアルが解決できる課題
- アルミやステンレスの鏡筒で、温度でピントがずれる
- 光学ベンチ・治具の寸法を、温度で変えたくない
- 低温(冷却・宇宙)で使う光学系の保持部品の材料を選びたい

出典:新報国マテリアル「製品情報」をもとに AI(Claude)で作成
出典:製品情報(低熱膨張合金)|新報国マテリアル、会社概要|新報国マテリアル
株式会社オハラ|極低膨張ガラスセラミックス CLEARCERAM-Z
オハラとは
オハラは、神奈川県相模原市に本店を置く光学ガラスのメーカーです。光学ガラスのほか、極低膨張のガラスセラミックス CLEARCERAM-Z を作っています。
オハラの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| CLEARCERAM-Z(Regular・HS) | 熱膨張係数を0〜50℃で保証し、Regular は 0.0±1.0×10⁻⁷/℃、HS は 0.0±0.2×10⁻⁷/℃。Regular は広い温度範囲で、HS は室温付近で低膨張、としている |
| 機械的な性質と大きさ | ヤング率 90GPa(Regular)・92GPa(HS)、ポアソン比0.25。直径1.5m を超えるガラスブランクや、EUVL 用のマスクサブストレートの写真を載せている |
公式サイト(ohara-inc.co.jp)は、確認した2026年10月23日にはメンテナンス中でした。数値はグループ会社 OHARA GmbH が公開しているカタログ(2016年版)によります。
オハラが解決できる課題
- 温度で寸法・形が変わらない、極低膨張の基板・ブランクを使いたい
- 大きなガラスブランクや、軽くする加工をした部品が欲しい

出典:OHARA GmbH「CLEARCERAM-Z カタログ」をもとに AI(Claude)で作成
出典:CLEARCERAM-Z カタログ(2016年版)|OHARA GmbH、有価証券報告書(本店の所在の場所)|オハラ(EDINET)
京セラ株式会社|ファインコージライト製の低熱膨張ミラー
京セラとは
京セラは、京都市に本社を置く電子部品・ファインセラミックスなどのメーカーです。天文・宇宙向けに開発した高機能コージライトを「ファインコージライト」の名前で展開しています。
京セラの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| ファインコージライト製の低熱膨張ミラー | 熱膨張 0±20ppb/K(CO720O)。ヤング率 145GPa と低熱膨張ガラスより高く、自重によるたわみを減らし、リブ構造で薄く軽くできる、としている |
| アサーマルデザイン | ユニット全体をファインコージライトで作れるので、周りの温度の変化に強いアサーマルデザインで設計できる、としている。用途の例は望遠鏡用ミラー・半導体製造装置用ミラー・三次元測定機用ミラー |
京セラが解決できる課題
- 温度で形が変わらない、軽くて硬いミラーが欲しい
- ミラーと支持の構造を同じ材料にして、温度の影響をなくしたい

出典:京セラ「低熱膨張ミラー」をもとに AI(Claude)で作成
出典:低熱膨張ミラー|京セラ
黒崎播磨株式会社|低熱膨張・高剛性のセラミックス NEXCERA
黒崎播磨とは
黒崎播磨は、福岡県北九州市に本社を置く耐火物のメーカーで、セラミックス事業も持っています。コーディエライト系の低熱膨張セラミックス NEXCERA を開発しています。
黒崎播磨の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| NEXCERA | 線膨張係数 0.03×10⁻⁶/K、ヤング率 143GPa。低熱膨張ガラス(LTEG。0.02×10⁻⁶/K、90GPa)より比剛性が高く、熱的安定性(熱伝導率÷線膨張係数)も高い、としている |
| 使われ方の例 | 宇宙開発の光学望遠鏡の高精度ミラーへの適用が期待される素材として、JAXA との契約で大型ミラー(φ724 の球面ミラー、R1200)を試作。半導体製造装置向けの部品として実用化されているとし、露光装置のステージを軽くして省電力にできることを利点に挙げている |
黒崎播磨が解決できる課題
- 大きなミラーを、軽く・硬く・温度で変わらない材料で作りたい
- 高速で動くステージの部品を、軽くて熱で伸びない材料にしたい

出典:黒崎播磨「NEXCERA」をもとに AI(Claude)で作成
中央精機株式会社|三点支持のミラーホルダ・押え環などの光学の保持部品
中央精機とは
中央精機は、東京都千代田区に本社を置く、精密ステージユニット・光学関連機器のメーカーです(生産本部は福島県白河市)。研究・実験用のミラーホルダ・レンズホルダ・押え環などをそろえています。
中央精機の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| キネマティック角型ミラーホルダ MHA-S25 | 三点支持式のミラーホルダで、止めねじと当てで光学素子を固定する。25×25mm・厚さ2mm 以上の素子用で、調整範囲は ±6° |
| 同軸レンズホルダ C-357・押え環セット | C-357 は3本の支持棒でレンズを固定するので、中心がずれない、としている(φ5〜φ35 用)。押え環セット HR-20 などは、押え環と緩衝材のジュラコンリングのセット |
製品ページには、ホルダーの材質や使える温度の範囲は書かれていません。温度の変わる所で使うときは、問い合わせて確かめます。
中央精機が解決できる課題
- 試作・実験の光学系で、ミラーやレンズの位置と角度を合わせて固定したい
- レンズを押え環で押さえるとき、局所に力がかからないようにしたい

出典:中央精機「MHA-S25」・中央精機「C-357」・中央精機「押え環セット HR-20」をもとに AI(Claude)で作成
出典:キネマティック角型ミラーホルダ MHA-S25|中央精機、同軸レンズホルダ C-357|中央精機、押え環セット HR-20|中央精機、会社概要|中央精機
協立化学産業株式会社|鏡筒の調整固定やレンズの接合に使う光学用接着剤
協立化学産業とは
協立化学産業は、東京都千代田区に本社を置く接着剤のメーカーです。光学・電子部品向けの接着剤を WORLD ROCK のブランドで出しています。
協立化学産業の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 5100 シリーズ(UV+熱硬化) | 鏡筒・センサ基板の高精度な調整固定を1液で行える、UV と熱の両方で硬化する接着剤。高 Tg・低収縮・高弾性で、用途に車載カメラのフォーカス調整、LiDAR の MEMS ミラーなどの高精度固定を挙げる |
| 9200 シリーズ・5500 シリーズ | 9200 は主成分がエポキシで、硬化収縮が小さく、耐薬品性・耐熱性に優れる、としている(光学デバイス・車載デバイスの高精度部品固定)。5500 はレンズの接合用で、高透明かつ低弾性率 |
公式ページには、硬化収縮率・弾性率・線膨張係数の数値は文字では書かれていません。温度の範囲と合わせて、技術資料で確かめます。
協立化学産業が解決できる課題
- 車載カメラなどで、レンズと鏡筒・センサーの位置をずれないように固定したい
- 光学部品の固定で、硬化のときの縮みによるずれを小さくしたい
- 材質の違うレンズどうしを、透明な接着剤で貼り合わせたい

出典:協立化学産業「5100 シリーズ」・協立化学産業「9200 シリーズ」・協立化学産業「5500 シリーズ」をもとに AI(Claude)で作成
出典:WORLD ROCK 5100 シリーズ|協立化学産業、WORLD ROCK 9200 シリーズ|協立化学産業、WORLD ROCK 5500 シリーズ|協立化学産業、会社概要|協立化学産業
ジュラロン工業株式会社|鏡筒を含めたプラスチックレンズのユニットの受託開発と温度の試験
ジュラロン工業とは
ジュラロン工業は、大阪府交野市に本社を置く、プラスチックレンズ・精密部品のメーカーです。レンズユニットの光学設計から製造・組立まで一貫して受けています。
ジュラロン工業の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| レンズユニットの受託開発・製造 | 光学性能・組立誤差を考えたレンズユニットの設計を行い、光学設計だけでなく鏡筒を含めた機構設計まで提案できる、としている |
| 性能評価・信頼性試験 | 高温・低温・高温高湿・ヒートショックなどの信頼性試験に対応。プラスチックレンズの使われる環境がさまざまなため、試験装置をそろえている、としている |
ジュラロン工業が解決できる課題
- プラスチックレンズのユニットを、鏡筒まで含めて設計・製造してほしい
- 温度の変化でピントや性能が変わらないかを、試験で確かめたい

出典:ジュラロン工業「レンズユニットの受託開発・製造」・ジュラロン工業「性能評価・信頼性試験」をもとに AI(Claude)で作成
出典:レンズユニットの受託開発・製造|ジュラロン工業、性能評価・信頼性試験|ジュラロン工業、会社概要|ジュラロン工業
選ぶ前に確かめる条件
材料や保持のしかたを相談する前に、次のことを整理しておくと話が早く進みます。
- 使う温度の範囲と、組み立てるときの温度(保管・輸送の温度、温度が変わる速さも)
- 許されるずれ:ピント(焦点深度・F ナンバー)、光軸の偏心・傾き、波面・複屈折の許容(偏光を使うか)
- レンズ・ミラーの材料(光学ガラス・石英・プラスチック)と大きさ・厚さ
- 鏡筒・ホルダーの材料の候補と、重さ・加工・コストの制約
- 固定の方法:押さえリング・接着・3点支持のどれか。接着なら硬化の方法・Tg・アウトガス・やり直しの可否
- 確かめ方:温度を変えた試験(高温・低温・ヒートショック)で何を測るか
関連する課題
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※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品・設備ではありません。
情報の確認日:2026年10月23日
