画像認識の AI で外観検査や部品の判別を始めた。立ち上げの評価では高い正解率が出たのに、ラインに置いたら、朝と夕方で結果が違う、新しい品種で良品が NG になる、ある日から急に外れる――。AI が外れる原因の多くは、AI そのものより、学習したときと今の画像の違いにあります。違いが撮像側(光・カメラ)から来ているのか、学習側(データ・品種)から来ているのかを切り分けると、打つ手が決まります。
この記事では、外れ方を5つに分け、流れに沿って原因を切り分け、撮像側の対策(遮光・照明の当て方と色・偏光・露光の固定・点検)と、学習側の対策(データの集め方・水増し・ドメインの違い・再学習と監視)を選びます。画像認識 AI のしくみと導入の進め方は技術ページ「画像認識AI」、カメラ・レンズ・照明の選び方は「外観検査装置」、レンズと照明の光学は「光学設計」、目視の検査を自動にする方法は課題「外観検査を自動化したい」で扱っています。
AI が外れる5つのパターンと、直す側
画像認識の AI は、学習に使った画像と似た画像なら当たりますが、学習の範囲から外れた画像では当てにならなくなります。外観検査の研究でよく使われるデータセット MVTec AD も、照明を厳密に管理した条件で撮影されています(Bergmann ら, 2019)。現場で外れるのは、多くの場合、照明・背景・品種・カメラのどれかが、学習したときから変わったときです。

出典:オプテックス・エフエー「画像処理用LED照明の基礎講座」・Geirhos ら(2020)・産総研「機械学習品質マネジメントガイドライン 第4版」と編集部の整理をもとに AI(Claude)で作成
A〜C は撮像の条件や置き方の変化、D は品種やロットの変化、E はカメラや設定の変化です。直す側は、A・B・E は主に撮像側、D は主に学習側、C は両方です。どれに当たるかを、次の流れで切り分けます。
出典:MVTec AD(CVPR 2019)|Bergmann ら、機械学習品質マネジメントガイドライン 第4版|産業技術総合研究所
外れた画像から、原因を切り分ける流れ
最初に、外れた画像と、学習に使った画像を並べて、人の目で見比べます。明るさ・色・影・ぼけ・映り込みが違って見えれば撮像側の変化、人の目では同じように見えるのに外れるなら、背景や品種など学習側の問題を疑います。

出典:編集部の整理(オプテックス・エフエー「画像処理用LED照明の基礎講座」・産総研「機械学習品質マネジメントガイドライン 第4版」)をもとに AI(Claude)で作成
撮像側の変化は、いつ起きたかで分けます。時間帯や季節で行ったり来たりするなら外乱光(A)、少しずつ進むなら照明の劣化や汚れ(B)、ある日から急に、あるいは1台のカメラだけなら汚れ・ずれ・設定の変化(E)です。学習側は、背景・治具・置き方が変わったか(C)、新しい品種・ロットか(D)で分けます。
外れ方ごとの見分け方と対策
外れ方(A〜E)ごとに、何が起きているか、使える対策、選ぶときの注意、相談できる企業をまとめました。
朝・昼・夜や季節で、当たったり外れたりする
窓ぎわのラインで、日勤と夜勤で結果が違う。晴れた日の午後だけ過検出が増える。夏に学習させた AI が、冬になると外れ始めた。
- 起きている現象
- 窓からの日光や天井の照明(外乱光)が検査用の照明に足されて、画像の明るさ・色・影が時間帯や季節で変わります。照明メーカーのオプテックス・エフエーは、外乱光の状態が変わると画像の明暗の度合いが変わり、OK・NG の判断の基準に影響する、と説明しています。
- 解決に使える技術
- 外乱光を入れない・負けない遮光・ストロボ・フィルター
- 露光と明るさを一定にするオートを切る
学習の画像を足して AI に覚えさせる前に、まず撮像側で外乱光を減らします。外乱光は明るさだけでなく、影や反射の位置も変えるので、明るさを変えた水増しだけでは同じ画像になりません(編集部の解説)。
導入のときは当たっていたのに、月日がたつと少しずつ外れが増える
立ち上げの評価では問題がなかった。半年、1年とたつうちに、見逃しや過検出がじわじわ増えてきた。何かを変えた覚えはない。
- 起きている現象
- LED の照明は長持ちしますが、使ううちに明るさが少しずつ下がります。オプテックス・エフエーの資料は、代表的には1万時間の点灯ごとに10%明るさが下がる、としています。レンズや照明の窓の汚れも少しずつたまります。画像の変化がゆっくりなので、気づかないうちに学習のときの画像から離れていきます。
- 解決に使える技術
- 露光と明るさを一定にする照明の明るさの管理
- 基準の画像で点検する明るさ・ピント・位置
照明が暗くなった状態の画像で再学習すると、劣化した状態に AI を合わせ込むことになります。先に照明・レンズを基準の状態に戻し、それでも外れるときに学習側を見直します(編集部の解説)。
置き方・背景・治具が変わると外れる、光沢の部品で外れる
治具を作り直したら判定が乱れた。トレーの色を変えたら、良品まで NG になった。金属や樹脂の光沢のある部品だけ、置く向きで結果が変わる。
- 起きている現象
- AI は、教えたかった特徴ではなく、学習の画像でたまたまいっしょに写っていた背景や治具を手がかりにすることがあります。研究では「ショートカット学習」と呼ばれ、草地で撮った牛の写真で学んだ AI が、草地以外の牛を見分けられなくなる例が示されています(Geirhos ら, 2020)。光沢のある面には、周りの照明や景色が映り込みます(キーエンス)。
- 解決に使える技術
- 照明の当て方と背景を決める同軸・ローアングル・ドーム
- 偏光で映り込みを減らす偏光板・偏光カメラ
- 条件をばらして集める背景・向き・位置
背景や治具は、変えない(固定する・隠す)か、わざとばらして学習させるかのどちらかに決めます。どちらでもないと、運用中の小さな変化で外れます(編集部の解説)。
新しい品種・ロット・材料の仕入れ先が変わると外れる
色違いの新製品を流したら、良品が NG になった。材料の仕入れ先が変わってから、表面の模様の違いを傷と判定する。
- 起きている現象
- 学習したときと、使っているときで、画像の分布が変わることをドメインの違いと呼びます。産業技術総合研究所(産総研)の「機械学習品質マネジメントガイドライン 第4版」は、データの分布が時間とともに変わる現象をコンセプトドリフトと呼び、学習ずみのモデルの精度が下がる主な原因の1つとしています。
- 解決に使える技術
- 新しい品種は追加学習と評価を分けるドメインの違い
- 水増しは、ラベルが変わらない範囲で明るさ・色・向き
- 運用を監視して再学習する手順を先に決める
品種を足すたびに全部を学習し直すと、前に当たっていた品種が外れることがあります。足す前と足したあとで、前の品種の評価の画像でも確かめます(編集部の解説)。
ある日から急に外れる、1台のカメラだけ外れる
週明けから急に NG が増えた。同じ AI を入れた2つのラインのうち、片方だけ外れる。設備の清掃やレイアウトの変更のあとから、おかしい。
- 起きている現象
- レンズの汚れ、ぶつけてずれたピントやカメラの向き、振動でゆるんだ絞り、何かの拍子に変わったカメラの設定などで、画像そのものが変わっていることが多い場合です。オプテックス・エフエーの資料も、振動でレンズの絞りが変わる、カメラの設定が変わる、といった運用中の課題を挙げています。
- 解決に使える技術
- 基準の画像で点検するピント・位置・明るさ
- 運用を監視して再学習する変化に早く気づく
急に外れたときは、AI を疑う前に、基準の画像と今日の画像を並べて見比べます。1台だけ外れるなら、そのカメラ・照明・取り付けを先に調べます(編集部の解説)。
なぜ、照明や背景が変わると AI は外れるのか
学習した範囲の外では、当てにならない
深層学習の画像認識は、学習の画像の範囲で正解率を上げるように作られます。Hendrycks と Dietterich(2019)は、ノイズ・ぼけ・霧・明るさ・コントラストなど15種類の画像の劣化を5段階でかけたデータセット(ImageNet-C)で、きれいな画像だけで学習したモデルを試しました。その結果、AlexNet から ResNet へとモデルが進んでも、劣化に対する相対的な強さはほとんど良くなっていなかったと報告しています。明るさは日光の強さで、コントラストは照明の条件で変わるものとして挙げられています。

出典:Hendrycks・Dietterich(ICLR 2019)・Bergmann ら「MVTec AD」と編集部の解説をもとに AI(Claude)で作成
外観検査のデータセットも同じ課題に向き合っています。MVTec AD は照明を厳密に管理して撮影し、変動を増やすために一部の種類だけ照明を変えていました。後継の MVTec AD 2(2025年)は、照明の条件を変えたテストの場面で、手法の強さを評価するようにしています(Heckler-Kram ら)。
背景や治具を手がかりにしてしまう
AI は、人が教えたつもりの特徴ではなく、正解と一緒に出てくる別の手がかりで判断することがあります。Geirhos ら(2020)は、これをショートカット学習と呼び、草地で撮った牛の写真で学んだ AI が草地以外の牛を見分けられない例や、肺炎の X 線画像の AI が病院ごとの金属のタグを手がかりにして、別の病院の画像では性能が下がった例を挙げています。

出典:Geirhos ら(2020)と編集部の解説をもとに AI(Claude)で作成
工場に置きかえると、NG 品のサンプルだけ別のトレーで撮った、良品は午前・不良品は午後に撮った、といった集め方で、トレーの色や明るさが「NG の目印」になってしまうことがあります(編集部の解説)。学習の画像を集めるときは、良品と不良品を同じ条件で撮ることが大切です。
使っている間に、データが変わる
産総研のガイドラインは、運用を始めたときの品質を、運用の期間中ずっと保つことを「運用時品質の維持性」と呼び、外の環境の変化と、AI に画像を入れる側のシステムの状態の変化に追従できることを求めています。そのために、運用中の監視が要るとしています。総務省・経済産業省の「AI 事業者ガイドライン(第1.1版)」も、さまざまな状況で性能を保つこと(堅牢性)と、導入後に活用状況を監視して必要な措置をとることを挙げています。
出典:Benchmarking Neural Network Robustness to Common Corruptions and Perturbations(ICLR 2019)|Hendrycks・Dietterich、MVTec AD(CVPR 2019)|Bergmann ら、The MVTec AD 2 Dataset|Heckler-Kram ら、Shortcut learning in deep neural networks(2020)|Geirhos ら、機械学習品質マネジメントガイドライン 第4版|産業技術総合研究所、AI 事業者ガイドライン(第1.1版)|総務省・経済産業省
撮像側の対策:画像そのものを変えない
撮像側の対策は、学習のときと同じ画像が、いつでも撮れるようにすることです。AI の学習を変えるより先に、ここを固めると、学習側の対策も効きやすくなります。カメラ・レンズ・照明の選び方の全体は、技術ページ「外観検査装置」で解説しています。
外乱光を入れない・負けない:遮光・ストロボ・フィルター
外乱光の対策は、①入れない、②負けない、③撮らない、の3つです。①は、カバーや暗幕で検査する場所を囲う遮光です。②は、照明を強くしてシャッターの時間を短くし、外乱光の割合を小さくする方法で、外乱光を上回る強い光を短い時間だけ当てるストロボ(オーバードライブ)が使われます(レイマック)。③は、照明の色(波長)だけを通すフィルターをレンズに付ける方法です。

出典:レイマックのストロボ照明のコラム・オプテックス・エフエー「画像処理用LED照明の基礎講座」・デルフトハイテック「Midopt バンドパスフィルター」をもとに AI(Claude)で作成

出典:シーシーエス(YouTube)
オプテックス・エフエーは、外乱光を防ぎにくいときは、赤色の照明と、レンズに付ける赤のフィルターを組み合わせれば、カメラに赤の波長だけを取り込み、外乱光の影響を小さくできる、と解説しています。照明の波長の前後だけを通すバンドパスフィルターには、屋外など環境光の影響が大きい用途向けの、通す帯域の狭いもの(Midopt の BN シリーズ。デルフトハイテックが取り扱い)もあります。キーエンスは、光沢のあるフィルム越しの印字検査の例で、暗くする減光フィルターは全体が暗くなるだけで効果がない、と説明しています。外乱光だけを減らすには、照明の波長に合わせたフィルターを使います(編集部の解説)。
照明の当て方と色を決める:同軸・ローアングル・ドーム
照明は、見たい特徴が背景より目立つように当てます。キーエンスの解説では、光沢のある平らな面の傷は、同軸落射の照明では暗く写り、ローアングルの照明では正反射の光がカメラに入らず傷が明るく浮かびます。光沢のある球や円筒は、直接の照明だと反射がまだらになり、間接の照明で全体を均一に写せます。凹凸のある部品には、拡散する面で包むように照らすドーム照明が使われます(オプテックス・エフエー)。

出典:キーエンス「画像処理 理解度テスト」をもとに AI(Claude)で作成

出典:VS Technology Corporation(YouTube)
色は、カラーカメラなら白色の照明、白黒のカメラなら、見たいものに合わせて補色や波長を選びます(キーエンス)。照明の当て方で特徴をはっきりさせておくと、少しの外乱光や背景の変化では、AI の判断が揺れにくくなります(編集部の解説)。背景は、ワークと違う色の無地にするか、ワーク以外を画像から切り落とします(編集部の解説)。
偏光で、映り込みとてかりを減らす
光沢のある金属・樹脂・ガラスでは、照明や周りの景色が表面に映り込み、細かい傷が埋もれます(キーエンス)。照明側とレンズ側に偏光板を付け、向きを組み合わせると、表面で正反射した光を切って、映り込みやてかりを減らせます(キーエンス・オプテックス・エフエー)。偏光板を通すと明るさが半分ほどになるので、ふつうより明るい照明が要ります(オプテックス・エフエー)。

出典:キーエンス「画像処理 理解度テスト」・オプテックス・エフエー「照明の写り込み」・ソニーセミコンダクタソリューションズ「偏光イメージセンサー」をもとに AI(Claude)で作成

出典:Sony (Japan)(YouTube)
ソニーセミコンダクタソリューションズの偏光イメージセンサー(Polarsens)は、画素ごとに4方向の偏光子をつくり込み、1回の撮影で4方向の偏光の画像を得られます。反射の向きが置き方で変わる部品でも、撮ったあとで偏光の向きを選んで処理できます(編集部の解説)。反射を抑える光学部品の選び方は、課題「反射を抑えたい・光を制御したい」で扱っています。
露光・ゲイン・色と、照明の明るさを一定にする
ホワイトバランスは、撮影の環境の光の色の影響を補正して、白を白く写す機能です(キーエンスの用語集)。明るさを自動で調整する機能もあります。こうした自動の機能は人が見る写真には便利ですが、AI の検査では、部品そのものの明るさや色の違いまで打ち消してしまうことがあります(編集部の解説)。検査では、露光の時間・ゲイン・ホワイトバランスを決めた値に固定し、その値を記録しておくのが基本です(編集部の解説)。

出典:オプテックス・エフエー「画像処理用LED照明の基礎講座」をもとに AI(Claude)で作成
照明の明るさも変わります。オプテックス・エフエーの資料は、LED の劣化の主な原因を、熱で封止材(シリコーン)の透過率が下がることとし、代表的には1万時間の点灯ごとに10%明るさが下がる、点灯を始めてから温度が落ち着くまで(高い明るさで点けっぱなしなら約30分)明るさが変わる、としています。撮るときだけ点灯して劣化を抑える、定期的に照度を測る、などの管理ができます(同社)。パナソニックは、LED 照明器具の寿命の目安を、光の量が初めの70%に下がるまでの時間などで示しています。
基準の画像で、明るさ・ピント・位置を点検する
「今の画像が、学習のときと同じか」を確かめるには、基準になる画像を持っておきます。立ち上げのときに、基準のワーク(良品の見本)と、明るさ・色を測るためのグレーや白の板を撮っておき、決めた頻度で同じものを撮って比べます。明るさの平均、ピントの鋭さ、ワークの位置、色の値が、決めた幅に入っているかを見ます(編集部の解説)。

出典:編集部の整理(オプテックス・エフエー「画像処理用LED照明の基礎講座」)をもとに AI(Claude)で作成
照明の明るさを照明の中のセンサーで測って保つ製品もあります(オプテックス・エフエーのセンシング照明)。昼と夜で明るさの設定を変えた複数の検査の設定を切り替えて使う機能を持つ画像センサーもあります(キーエンス IV3 の自動プログラム切換。判定が NG のとき別の設定でも判定し、どれかが OK なら OK とする)。この場合は見逃しが増えないかを評価の画像で確かめます(編集部の解説)。ただし、こうした機能は撮像の変化を補うもので、原因をなくすものではありません。遮光と点検を先に行います(編集部の解説)。
出典:ストロボ照明のコラム|レイマック、画像処理用LED照明の基礎講座|オプテックス・エフエー、LED照明で解決!照明の写り込み|オプテックス・エフエー、Midopt バンドパスフィルター|デルフトハイテック、画像処理 理解度テスト|キーエンス、目的に合ったレンズ・照明の選定|キーエンス、反射・光沢・透明ワークの外観検査を成立させる方法|キーエンス、偏光イメージセンサー|ソニーセミコンダクタソリューションズ、IV3 操作ガイド(自動プログラム切換)|キーエンス、用語集|キーエンス、LED の寿命|パナソニック
学習側の対策:変化を学ばせ、変化に気づく
撮像側を固めても、品種・ロット・置き方の変化は残ります。学習側の対策は、起こりうる変化を学習の画像に入れておくことと、運用中の変化に気づいて学び直すことの2つです。学習データの作り方と精度の評価の全体は、技術ページ「画像認識AI」で解説しています。
条件をばらして集め、評価の画像を分けておく
学習の画像は、運用中に起こる変化の範囲をカバーするように集めます。時間帯(朝・昼・夜)、季節、置く向きと位置、治具、ロット、作業者、カメラが複数あるならそれぞれのカメラ、を記録しながら集めます。良品と不良品は同じ条件で撮ります(ショートカット学習を避けるため。編集部の解説)。

出典:Shorten・Khoshgoftaar(2019)と編集部の解説をもとに AI(Claude)で作成
評価に使う画像は、学習に使わずに分けておきます。しかも、学習と違う日・違うロットの画像で評価すると、運用でどれだけ当たるかに近い数字が出ます(編集部の解説)。照明や背景を変えた画像だけを集めた評価の組も作っておくと、どの変化に弱いかがわかります。
水増しは、ラベルが変わらない範囲で
学習の画像の明るさ・色・向き・位置をコンピューターで少しずつ変えて枚数を増やすのが、データの水増し(データ拡張)です。Shorten と Khoshgoftaar(2019)の総説は、水増しには変えたあとも正解(ラベル)が保たれるかという「安全性」があり、たとえば回転や反転は犬と猫の区別では安全でも、数字の6と9の区別では安全でない、と説明しています。外観検査なら、色むらが不良の目印のときに色を変える水増しをすると、不良を良品として教えることになります(編集部の解説)。
シミュレーションで描いた画像の背景・色・照明をわざと大きくばらして学習させる「ドメインランダマイゼーション」という方法もあります。Tobin ら(2017)は、写実的でないランダムな模様のシミュレーション画像だけで学習した物体の位置の検出器が、実際の世界で約1.5cm の精度で使えたと報告しています。水増しもランダマイゼーションも、撮像側で減らせる変化を減らしたうえで、残った変化に使うのが効率的です(編集部の解説)。
新しい品種・ロットは、追加学習と評価を分けて
新しい品種や材料のロットで外れるのは、学習のときと今の画像の分布が違う(ドメインの違い)ためです。少ない枚数の新しい画像で追加学習する、元のデータで学んだ表現を新しい条件に合わせ込む(ドメイン適応)、などの方法があります。少ない良品の画像から始めて、追加学習で精度を上げる外観検査の AI もあります(HACARUS は良品 20〜60点ほどを目安としている)。
追加学習のあとは、新しい品種だけでなく、前の品種の評価の画像でも確かめます。新しい品種に合わせたことで、前の品種が外れるようになることがあるためです(編集部の解説)。品種ごとに AI を分けるか、1つの AI でまとめて学習させるかも、この評価で決めます。
運用を監視して、再学習の手順を先に決める
産総研のガイドラインは、モデルの更新のしかたを、必要なときに開発の環境に戻して入れ直す方法と、運用の環境で自動で更新する方法の2つに分け、どちらでも運用中の監視が要るとしています。データの分布の変化(ドリフト)を見つける手法は、運用中の画像に正解を付けるかどうかで分けて整理されています。

出典:産総研「機械学習品質マネジメントガイドライン 第4版」・ABEJA の大手化学メーカーの事例・ブレインズテクノロジー「Impulse 外観検査」と編集部の整理をもとに AI(Claude)で作成
工場では、NG と判定された画像と、判定の確からしさ(スコア)の分布、画像の明るさの平均などを日ごとに記録し、決めた幅を外れたら知らせるようにします(編集部の解説)。人が見直して正解を直した画像を、次の再学習に回す仕組みも使われています(ABEJA の配管の腐食の判定の事例)。ブレインズテクノロジーは、画像の明るさと AI が取り出した特徴を見える化して、装置側の問題か製品側の変化かを切り分けた事例を紹介しています。再学習した AI は、入れ替える前に、前の AI と同じ評価の画像で比べます。
出典:A survey on Image Data Augmentation for Deep Learning(2019)|Shorten・Khoshgoftaar、Domain Randomization for Transferring Deep Neural Networks from Simulation to the Real World(2017)|Tobin ら、機械学習品質マネジメントガイドライン 第4版|産業技術総合研究所、HACARUS Check|HACARUS、Impulse 外観検査|ブレインズテクノロジー、大手化学メーカーの事例|ABEJA
外れたときの確かめ方
AI が外れたと報告が来たら、次の順で確かめます。先に撮像側、あとで学習側の順にすると、再学習のむだが減ります(編集部の解説)。

出典:編集部の整理(オプテックス・エフエー「画像処理用LED照明の基礎講座」・ブレインズテクノロジー「Impulse 外観検査」)をもとに AI(Claude)で作成
①外れた画像を、日時・カメラ・品種・ロットと一緒に保存する。②基準の画像と並べ、明るさ・色・ピント・位置を比べる。③同じワークを撮り直し、結果が変わるか(再現するか)を見る。④撮像側に違いがなければ、外れた画像が学習の画像に含まれていない条件(背景・品種・ロット)かを調べる。⑤学習側の原因なら、評価の画像の組を作ってから追加学習し、前の AI と比べて入れ替える。再現しない不具合の調べ方は、課題「再現しない不具合の原因を突き止めたい」で扱っています。
照明・偏光・AI の運用を相談できる企業
各企業が解決できる課題と技術の内容を、公開している情報をもとに紹介します。撮像側(照明・偏光センサー・フィルター)と、学習側(少ないデータの AI・再学習・運用の仕組み)の両方から挙げました。
株式会社レイマック|外乱光に負けないストロボ照明と偏光板
レイマックとは
レイマックは、滋賀県守山市に本社を置く、画像処理用の LED 照明の会社です(1993年に有限会社イマックとして設立、2019年に今の社名)。リング・バー・ドーム・同軸などの照明と、偏光板などのオプションを作っています。
レイマックの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| ストロボ照明 | 天井の蛍光灯・LED 照明や日光などの外乱光で画像の明るさが変わる問題に対し、外乱光を上回る強い光を短い時間だけ当てる(オーバードライブ)ことで影響を小さくする、と解説している |
| 偏光板 | 照明とレンズの両方に偏光板を付けて、ワークのぎらつきや表面の反射を減らす偏光板 IKR-PL シリーズがある |
| 赤外の照明 | バー照明 IDBA シリーズに、赤外の 850nm・1200nm・1450nm のモデルがある。光沢のあるワークには拡散板・偏光板の併用を勧めている |
レイマックが解決できる課題
- 窓の光や天井の照明で、時間帯によって画像の明るさが変わるのを抑えたい
- 光沢のある部品のぎらつき・映り込みを減らしたい

出典:レイマックのストロボ照明のコラム・レイマック「IKR-PL シリーズ」・レイマック「IDBA シリーズ」をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|レイマック、ストロボ照明のコラム|レイマック、IDR 用偏光板 IKR-PL シリーズ|レイマック、IDBA シリーズ|レイマック
オプテックス・エフエー株式会社|明るさを自分で測って保つ照明
オプテックス・エフエーとは
オプテックス・エフエーは、京都府京都市下京区に本社を置く、画像処理用の LED 照明と画像センサーの会社です(2002年設立)。照明の基礎講座の資料を公開し、外乱光・照明の明るさの変化への対策を解説しています。
オプテックス・エフエーの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| センシング照明 | 照明の基板の中のフォトダイオードで光の量を測り、外乱光の影響を受けにくいしくみ、と説明している。温度による明るさの変化を抑える機能(FALUX)もある |
| 外乱光の対策の解説 | 外乱光を防ぎにくいときは、赤色の照明と、カメラのレンズに付ける赤のフィルターを組み合わせて、赤の波長だけを取り込み、影響を小さくできる、と解説している |
| 偏光と強い発光 | 偏光板とレンズの偏光フィルターで正反射を切れるが、明るさが半分ほどになる。ストロボで明るさを3倍にできる電源(OPPF シリーズ)で補える、としている |
オプテックス・エフエーが解決できる課題
- LED 照明の経年や温度で、明るさが変わるのを抑えたい
- 外乱光が避けられない場所でも、検査の画像を安定させたい

出典:オプテックス・エフエー「画像処理用LED照明の基礎講座」・オプテックス・エフエー「照明の写り込み」をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|オプテックス・エフエー、画像処理用LED照明の基礎講座|オプテックス・エフエー、LED照明で解決!照明の写り込み|オプテックス・エフエー
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社|4方向の偏光を1回で撮るセンサー
ソニーセミコンダクタソリューションズとは
ソニーセミコンダクタソリューションズは、神奈川県厚木市に本社を置く、イメージセンサーなどの半導体の会社です(2015年設立)。産業用に、偏光の向きを画素ごとに捉える偏光イメージセンサー Polarsens を出しています。
ソニーセミコンダクタソリューションズの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 偏光イメージセンサー | 画素ごとのフォトダイオードの上に4方向の偏光子をつくり込み、1回の撮影で4方向の偏光の画像を得る(Polarsens) |
| 製品の例 | IMX250MZR/MYR(約507万画素)、IMX264MZR/MYR・IMX253MZR/MYR(どちらも約1237万画素)。画素の大きさは 3.45µm |
| 撮像の機能 | グローバルシャッター・ROI・外部トリガーによる露光の制御を備える |
ソニーセミコンダクタソリューションズが解決できる課題
- ガラスや金属の映り込み・てかりを、撮像の段階で減らしたい
- 透明・光沢のある部品の傷を見やすくしたい

出典:ソニーセミコンダクタソリューションズ「偏光イメージセンサー」をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|ソニーセミコンダクタソリューションズ、偏光イメージセンサー|ソニーセミコンダクタソリューションズ
デルフトハイテック株式会社|照明の波長だけを通すバンドパスフィルター
デルフトハイテックとは
デルフトハイテックは、神奈川県川崎市中原区にある、マシンビジョンのカメラ・レンズ・フィルターなどを扱う会社です(1989年設立)。Midopt 社のフィルターを取り扱っています。
デルフトハイテックの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| バンドパスフィルター | Midopt のバンドパスフィルターを取り扱う。一般のマシンビジョン向けの BP、屋外など環境光の影響が大きい用途向けの狭い帯域の BN、レーザーなど向けの Bi がある |
| 型番の例 | BN850(840〜865nm)、BN940(928〜955nm)、BP660(640〜680nm)など。特長に「不要な外光を遮断」を挙げている |
| 近赤外の使い方 | 室内の光や太陽光の下では、近赤外の帯域を通すフィルターを使わないと、多くの場合コントラストが下がる、と説明している |
デルフトハイテックが解決できる課題
- 照明の波長だけを通して、窓や天井の光を切りたい
- 屋外や窓ぎわでも、画像のコントラストを保ちたい

出典:デルフトハイテック「Midopt バンドパスフィルター」をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|デルフトハイテック、Midopt バンドパスフィルター|デルフトハイテック
株式会社HACARUS|少ない良品画像で始めて追加学習で育てる AI
HACARUSとは
HACARUS(ハカルス)は、京都府京都市中京区に本社を置く、AI の会社です(2014年設立)。少ないデータで学ぶ AI の技術をもとに、外観検査の AI「HACARUS Check ZERO」などを提供しています。
HACARUSの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 少ない良品で始める | スパースモデリングを源流とする AI で、良品 20〜60点ほどを目安に学習して外観検査を立ち上げられる、としている |
| 追加学習 | 導入後に、良品・不良品の画像に印を付けて追加で学習させ、精度を上げる機能(デュアルチューニング、10点から)がある |
| 導入の例 | ダイカストの会社(旭工精)の事例で、検査員6人が必要だった作業が2人で済むようになった、と紹介している |
HACARUSが解決できる課題
- 不良品の画像が集まらないうちから、外観検査の AI を始めたい
- 新しい品種や見逃しが出たときに、少ない枚数の追加学習で直したい

出典:HACARUS「HACARUS Check」をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|HACARUS、HACARUS Check|HACARUS
ブレインズテクノロジー株式会社|精度の低下を装置側か製品側か切り分けて再学習
ブレインズテクノロジーとは
ブレインズテクノロジーは、東京都港区に本社を置く、AI のソフトウェアの会社です(2008年設立)。AI のソフトウェア「Impulse」で、外観検査や設備の異常検知を提供しています。
ブレインズテクノロジーの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 運用中の変化への対応 | 運用中に撮像の環境が変わる例として明るさの変化・位置ずれ・切り出す大きさの変化を挙げ、精度が下がったときの再学習のしやすさを、選ぶときの要点としている |
| 原因の切り分け | セラミック製品の事例で、画像の明るさと AI が取り出した特徴を見える化し、装置側の問題か製品側の変化かを切り分けられるようにし、精度の向上に役立つ学習データを自動で抽出して再学習の効率化につなげた、と紹介している |
| 立ち上げの目安 | 検証に要る枚数の目安は、良品 約20枚+不良品 1枚から、としている。既存の検査システムに入れる不良品の画像を、過去の不良品の画像から作った事例もある |
ブレインズテクノロジーが解決できる課題
- 運用中に精度が落ちたとき、装置側か製品側かを切り分けたい
- 再学習に使う画像を、効率よく選んで集めたい

出典:ブレインズテクノロジー「外観検査を選ぶときのポイント」・ブレインズテクノロジー「Impulse 外観検査」をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|ブレインズテクノロジー、外観検査を選ぶときのポイント|ブレインズテクノロジー、Impulse 外観検査|ブレインズテクノロジー
株式会社ABEJA|人の修正を再学習に回す運用の仕組み
ABEJAとは
ABEJA(アベジャ)は、東京都港区に本社を置く、AI の会社です(2012年設立)。AI を業務に組み込み、運用しながら育てるための基盤「ABEJA Platform」を提供しています。
ABEJAの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 再学習と版の管理 | 環境の変化や新しい課題に合わせて、モデルの再学習とバージョンの管理を体系立てて行い、デプロイ・更新する(MLOps)、としている |
| 人の修正を学習に回す | 化学メーカーの配管の腐食の判定の事例で、AI が腐食の度合いを判定し、保守員が最終の判定と修正を行い、その内容で AI が再学習する仕組みをつくった、と紹介している |
| 効果の例 | 同じ事例で、撮影・画像の選定などの点検の人手を約50%減らした。データが足りない段階では人の判断を前提にする考え方をとった、としている |
ABEJAが解決できる課題
- 現場で見つかった AI の間違いを、人の修正から再学習に回す仕組みをつくりたい
- データが足りない段階でも、人の判断と組み合わせて運用を始めたい

出典:ABEJA「ABEJA Platform」・ABEJA の大手化学メーカーの事例をもとに AI(Claude)で作成
出典:会社概要|ABEJA、ABEJA Platform|ABEJA、大手化学メーカーの事例|ABEJA
選ぶ前に確かめる条件
照明やカメラの会社、AI の会社に相談する前に、次のことを整理しておくと話が早く進みます。
- 外れ方:いつから、どのくらいの割合で、見逃しか過検出か。時間帯・季節・カメラ・品種で違うか
- 外れた画像と学習の画像:両方を、日時・カメラ・品種・ロットと一緒に用意できるか
- 撮像の条件:照明の種類と当て方、露光・ゲイン・ホワイトバランスが固定か自動か、窓や天井の照明の位置
- 置き方と背景:治具・トレー・向き・位置が決まっているか、変わることがあるか
- 学習のデータ:枚数、良品と不良品を同じ条件で撮ったか、評価の画像を分けてあるか
- 運用:判定の結果とスコアを記録しているか、再学習をだれがどの手順で行い、どう確かめて入れ替えるか
関連する課題
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※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品・設備ではありません。
情報の確認日:2026年10月23日
