小麦粉、セメント、薬、化粧品、電子部品の材料。身の回りの多くのものは、作る途中で粉の状態を通ります。粉の大きさや流れ方を調べ、うまく扱う方法を考える学問が粉体工学です。このページでは、はじめて粉体を学ぶ人に向けて、粉の歴史と恩恵、基礎物性、特性、使われる分野、トラブルと対策の順に、計算例をまじえて説明します。
粉体工学をひとことで言うと
粉は、固体なのに液体のように流せて、表面積が大きいので溶けたり反応したりしやすい材料の形です。
一方で、壁にくっつく、詰まる、かたよる、舞って爆発するといった、粉ならではの困りごとがあります。粉の性質を数値でつかむと、良さを使い、困りごとを防げます。
「粉体」は、細かく分かれた固体の粒の集まりです。粒の大きいものを粒体、小さいものを粉体と呼び分けることもありますが、区別せずに粉体と呼ぶことも多くあります。気体や液体と違って、粉は粒ごとに大きさや形がばらばらです。そのため、同じ材料でも粒の状態が変わると、ふるまいが変わります。
粉体工学は、大きく3つの柱でできています。粉そのものの性質を調べる「粉体物性論」、流体の中などでの粉の動きを調べる「粉体運動論」、粉砕・ふるい分け・混合・焼結などの処理を扱う「粉体単位操作論」です。
出典:三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学
1. 粉の歴史とその恩恵
人は昔から、ものを粉にしてきた

出典:ホソカワミクロン「粉砕」No.57、コトバンク「製粉」、Grace’s Guide「Joseph Aspdin」、粉体工学会「沿革」をもとに AI(Claude)で作成
粉作りの歴史は長く、旧石器時代にはすでに、叩き石や磨石(すりいし)といった粉砕機の原型が使われていました。粉の技術は、人の暮らしとともに続いてきたものです。
歴史をたどりやすいのが、穀物を粉にする製粉です。はじめは人や家畜の力で石臼を回していました。紀元前450〜前400年ごろには水車形式の製粉工場が設計され、後600年ごろには風車も発明されたとされます。17世紀には、何回か別の石臼にかけ、そのたびにふるい分ける「段階式」の製粉が始まりました。1784年にはイギリスで蒸気機関を使った石臼製粉工場が設立され、1870年ごろにはロール式製粉機が実用化されて、石臼から置きかわっていきました。
工業の材料でも、粉は欠かせません。陶磁器、セメント、ガラスを作る窯業(ようぎょう)では、鉱物を砕いてふるい分けた粉を混ぜ、形にして焼き固めます。古代の土器づくりも、基本の工程は同じです。今のセメントの原型とされるポルトランドセメントの特許は、1824年にイギリスのジョセフ・アスプディンが取りました。
学問としては、日本では1956年の中部粉体工学研究会に続いて1957年に粉体工学研究会が発足し、1978年に粉体工学会と名前を変えています。
出典:猪ノ木雅裕「微粒子の高機能化に対応した最新の粉体技術」粉砕 No.57|ホソカワミクロン、製粉(日本大百科全書)|コトバンク、三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学、Joseph Aspdin|Grace’s Guide to British Industrial History、小林孝一「ポルトランドセメントの200年とこれから」|土木学会、沿革|一般社団法人 粉体工学会
粉にすると、なぜ便利なのか

出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成
粉の大きな特徴は、同じ量でも表面積が大きくなることです。計算してみましょう。1辺 1 cm の立方体の表面積は、1 cm² の面が6つで 6 cm² です。これを1辺 1 µm(1 mm の1000分の1)の立方体に砕くと、1辺あたり1万個に分かれるので、個数は 10,000 × 10,000 × 10,000 = 10¹² 個です。1個の表面積は 6 µm² なので、合計は 6 × 10¹² µm²、つまり 6 m² になります。体積は同じなのに、表面積は1万倍です(編集部の計算)。
溶ける、反応するといった変化は、物の表面で起きます。砂糖のかたまりより粉砂糖のほうが早く溶けるのも、水にふれる面が広いからです。
| 粉にして得られること | どう役立つか | 例 |
|---|---|---|
| 表面積が大きくなる | 反応や溶解が速くなる | 薬の原薬 |
| 流せるようになる | 固体でも管や容器の中を流体のように運べる | 原料の貯蔵と供給 |
| 形にしやすくなる | 混ぜて練り、形にしてから焼き固められる | 陶磁器、ファインセラミックス |
| ばらばらに広げられる | 粉砕の目的のひとつに分散性の向上がある(細かすぎると逆に凝集する。3章を参照) | 化粧品の微粉体、顔料 |
かたまりの石では、練って固めることも流すこともできません。粉にすることで、はじめてできる加工があります。
出典:猪ノ木雅裕「微粒子の高機能化に対応した最新の粉体技術」粉砕 No.57|ホソカワミクロン、三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学
2. 粉体の基礎物性
粉を扱う第一歩は、その粉を数字で表すことです。大きさ、大きさのばらつき、密度、表面積、形の順に見ていきます。
粒子径:粒の大きさの表し方

出典:新潟大学「粉体工学」講義資料をもとに AI(Claude)で作成
球なら、粒の大きさは直径で決まります。しかし実際の粒は、きれいな球ではありません。そこで基準を決めて、形のわかるものに置きかえた大きさを「代表粒子径」として使います。主なものは次のとおりです。
| 名前 | 決め方 | どんなときに出てくるか |
|---|---|---|
| 体積相当径 | 体積が同じ球の直径 | 粒の体積や質量を考えるとき |
| 表面積相当径 | 表面積が同じ球の直径 | 表面積を考えるとき |
| ヘイウッド径(面積相当径) | 投影面積が同じ円の直径 | 粒の写真から測るとき |
| 周長相当径 | 投影した輪郭の長さが同じ円の直径 | 粒の写真から測るとき |
| ストークス径 | 液体の中を沈む速さが同じ球の直径 | 沈降法で測るとき |
| フェレー径 | 投影した粒を平行な2本の線ではさんだ間隔 | 粒の写真から測るとき |
| ふるい目開き径 | 通ったふるいの目の大きさ | ふるい分けで測るとき |
大切なのは、同じ粒でも、どの定義で測るかによって値が変わることです。たとえば 1×1×10 µm の細長い直方体では、体積相当径は約 2.7 µm、周長相当径は約 7.0 µm です。粒子径の数字を比べるときは、測り方もあわせて確かめます。
出典:三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学
粒度分布:大きさのばらつきを表す
粉の粒は、大きさがそろっていません。どの大きさの粒がどれだけあるかを示したものが粒度分布(粒子径分布)です。ふるい分けの例で、数字の読み方を見てみましょう。
| ふるいの目開き | そのふるいに残った割合 | ふるい上の積算 |
|---|---|---|
| 2,360 µm | 1.20% | 1.20% |
| 1,700 µm | 2.90% | 4.10% |
| 1,180 µm | 18.8% | 22.9% |
| 850 µm | 28.8% | 51.7% |
「残った割合」が頻度にあたり、上から足していったものが積算です。850 µm の行の 51.7% は、850 µm より大きい粒が全体の 51.7% あるという意味です。100% から引いた 48.3% は、850 µm より小さい粒の割合(ふるい下の積算)になります。

出典:新潟大学「粉体工学」講義資料、堀場製作所「粒度分布とは」をもとに AI(Claude)で作成
分布をひとつの数字で代表させるときは、次の3つをよく使います。分布が左右対称なら3つは同じ値になり、かたよっていると違う値になります。
| 代表の値 | 意味 |
|---|---|
| メディアン径(D50) | 粒全体を半分に分ける粒子径。積算が 50% になる値 |
| モード径 | 頻度がいちばん多い粒子径。グラフの山の頂上 |
| 平均径 | 粒子径と頻度を掛けて合計した値 |
もうひとつ気をつけたいのが、数えているのが個数か、質量かです。ふるいや沈降の測定は質量の割合になり、顕微鏡で数えると個数の割合になります。同じ材料の球なら、直径 10 µm の粒1個の質量は、直径 1 µm の粒1,000個分です(編集部の計算)。同じ粉でも、個数で見ると小さい粒が多く見え、質量で見ると大きい粒が多く見えます。
分布を式で表すこともあります。粉砕した粉には、ロジン・ラムラー分布の式 R = exp[−(D/Dₑ)ⁿ] が簡単で使いやすいとされます。R はふるいの上に残る割合、D は粒子径です。D = Dₑ を入れると R = exp(−1) ≒ 0.368 になるので、Dₑ はふるい上が 36.8% になる粒子径を表します。n(均等数)が大きいほど、分布は狭くなります。
出典:三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学、粒度分布とは|堀場製作所
密度:3つの呼び方

出典:新潟大学「粉体工学」講義資料をもとに AI(Claude)で作成
密度は「質量 ÷ 体積」ですが、粉ではすきまをどこまで体積に入れるかで値が変わります。
| 呼び名 | 体積に入れるもの | 使う場面の例 |
|---|---|---|
| 真密度 | 固体の部分だけ(粒の中の孔は入れない) | 材料そのものの比較 |
| 粒子密度 | 粒の中の孔や割れ目も入れる | 粒の沈みやすさの計算 |
| かさ密度 | 粒の中の孔に加えて、粒どうしのすきま、容器との間のすきまも入れる | 容器や袋に入る量の計算 |
粒子密度 ρp とかさ密度 ρb は、空隙率 ε(全体の体積に対するすきまの割合)を使って ρb = ρp(1 − ε) と結びつきます。粒子密度 2.65 g/cm³、空隙率 0.4 の粉なら、ρb = 2.65 × (1 − 0.4) ≒ 1.59 g/cm³ です(編集部の計算例)。同じ材料でも、すきまが多いほどかさ密度は小さくなります。
かさ密度は、詰め方でも変わります。容器にゆるく入れたときと、容器をたたいて詰めたとき(タップ密度)とでは値が違います。この差は、あとで説明する流れやすさの目安に使います。
出典:三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学、粉体の流動性(公開資料)|医薬品医療機器総合機構(PMDA)
比表面積:表面積の多さを表す
比表面積は、重さあたり(または体積あたり)の表面積です。単位は m²/kg、m²/g、cm²/g などを使います。粒が細かいほど大きくなります。
球の粒なら、比表面積 Sw は密度 ρ と直径 D を使って Sw = 6/(ρD) で計算できます。密度 2,650 kg/m³ の球で計算すると、直径 10 µm で約 226 m²/kg(0.226 m²/g)、直径 1 µm で約 2,260 m²/kg(2.26 m²/g)です(編集部の計算)。直径が10分の1になると、比表面積は10倍になります。
出典:三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学
粒の形:同じ大きさでも流れ方が変わる
粒の大きさが同じでも、球に近いほうが流れやすく、運びやすくなります。ふるいで大きさはある程度そろえられますが、形まではそろえられません。
形を数字で表す指標のひとつが円形度です。写真に写った粒と同じ面積の円の周の長さを、粒の輪郭と同じ長さの円の周の長さで割ります。1に近いほど円に近い形です。ほかに、長さと幅の比(長短度。大きいと針状)、幅と厚みの比(扁平度。大きいと板状)も使います。
出典:三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学
測り方と規格

出典:日鉄テクノロジー「レーザー回折式粒子径分布測定法の解説」をもとに AI(Claude)で作成
粒子径の測り方はいくつかあり、それぞれ測っている「大きさ」の意味が違います。レーザ回折・散乱法は、気体や液体の中に分散させた粉に光を当て、粒の大きさによって光の広がる角度が変わることを利用します。角度ごとの光の強さを測り、計算で粒度分布を求めます。測れる範囲は装置によって違い、10 nm〜3.5 mm という機種の例があります。
| 測るもの | 方法 | しくみ | 関係する JIS |
|---|---|---|---|
| 粒子径 | ふるい分け | 目の大きさの違うふるいに通し、残った質量を量る | JIS Z 8815、Z 8801-1(試験用ふるい) |
| 粒子径 | レーザ回折・散乱法 | 光の広がる角度から求める | JIS Z 8825 |
| 粒子径 | 沈降法 | 液体の中を沈む速さから求める | JIS Z 8822 |
| 粒子径・形 | 画像解析法 | 粒の画像から求める | JIS Z 8827-1 |
| 比表面積 | ガス吸着 | 粉の表面に吸着した気体の量から求める | JIS Z 8830 |
| 密度 | ガスピクノメータ法 | 気体を使って粒の体積を求める(骨格密度) | JIS Z 8837 |
出典:レーザー回折式粒子径分布測定法の解説と測定例|日鉄テクノロジー、三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学、粉体関連の JIS 一覧(2025年12月時点)|日本粉体工業技術協会
3. 粉体の特性
粉は、気体や液体とも、かたまりの固体とも違うふるまいをします。粉の難しさの多くは、粒どうしがくっつく力と、粒のすきまから生まれます。
くっつく:小さい粒ほど重力に勝つ

出典:新潟大学「粉体工学」講義資料をもとに AI(Claude)で作成
粉が壁につくことを付着、粒どうしがくっついてかたまりになることを凝集といいます。くっつける力には、分子間力(ファンデルワールス力)、液架橋力、静電気力の3つがあります。

出典:新潟大学「粉体工学」講義資料、ホソカワミクロン「粉砕」No.59をもとに AI(Claude)で作成
なぜ小さい粒ほどくっつくのでしょうか。粒にかかる重力は粒の体積に比例するので、粒子径の3乗で変わります。一方、ファンデルワールス力を考えると、付着力は粒子径の1乗に比例します。粒子径が10分の1になると、重力は1000分の1になりますが、この付着力は10分の1にしかなりません。そのため粒が小さくなるほど重力より付着力のほうが大きくなり、落ちずに壁にくっつきます。
この2つがつり合う粒子径を、平衡粒子径といいます。付着力を F = kD、球の重さを W = (π/6)ρgD³ として F = W を解くと、D = √(6k/(πρg)) です。粒子密度 2.65 g/cm³、k = 1.80×10⁻⁵ kg/s² の場合、約 36 µm になります。粉と粒に厳密な境目はありませんが、付着しやすさに注目すると、境目は 30 µm 程度とされています。
小さい粒どうしは接触する点の数も増えるので、微粉のほうが強く凝集します。いったんできた凝集のかたまりをほぐすときも、小さい粒でできたものほど分散しにくくなります。付着の力は、まわりの雰囲気(湿度など)、表面の粗さ、置いた時間などによっても変わります。
出典:三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学、後藤邦彰「粒子分散技術と粉体の付着性に関する一考察」粉砕 No.59|ホソカワミクロン、付着・凝集性|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
流れる:流れやすさを数字で比べる

出典:PMDA「粉体の流動性」をもとに AI(Claude)で作成
粉の流れやすさは、安息角、圧縮度・ハウスナー比、オリフィスからの流出、せん断セルの4つの方法がよく使われます。ここでは簡単な2つを紹介します。安息角は、粉を積んでできた山の斜面の角度です。圧縮度とハウスナー比は、ゆるく入れたときの体積 V₀ と、たたいて詰めたあとの体積 Vf から、次の式で求めます。
- 圧縮度(%)= (V₀ − Vf) ÷ V₀ × 100
- ハウスナー比 = V₀ ÷ Vf
たとえば 100 mL の粉をたたいて 80 mL になったなら、圧縮度は 20%、ハウスナー比は 1.25 です(編集部の計算例)。下の表では「やや良好」にあたります。圧縮度は、粒子径、形、含水率、付着性などの影響を総合した尺度とされています。
| 流れやすさ | 安息角 | 圧縮度 | ハウスナー比 |
|---|---|---|---|
| 極めて良好 | 25〜30° | 10%以下 | 1.00〜1.11 |
| 良好 | 31〜35° | 11〜15% | 1.12〜1.18 |
| やや良好 | 36〜40° | 16〜20% | 1.19〜1.25 |
| 普通 | 41〜45° | 21〜25% | 1.26〜1.34 |
| やや不良 | 46〜55° | 26〜31% | 1.35〜1.45 |
| 不良 | 56〜65° | 32〜37% | 1.46〜1.59 |
| 極めて不良 | 66°超 | 38%超 | 1.60超 |
これは医薬品の分野の目安です。安息角が 50° を超えると、製造に向かないことが多いとされています。また、これらは粉そのものに固有の値ではなく、測り方によって変わります。比べるときは同じ方法で測ります。
ほかに、安息角・圧縮度など4つの測定値を点数にして合計するカーの流動性指数や、粉にかかる圧力と固まりの強さの関係を表すフローファンクションがあります。フローファンクションは、ホッパーの出口を設計するジェニケの方法に使います。
出典:粉体の流動性(公開資料)|医薬品医療機器総合機構(PMDA)、カーの流動性指数|粉体工学用語辞典(粉体工学会)、フローファンクション|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
ためる:深くても底の圧力は増え続けない
液体をためた容器では、深いほど底の圧力は高くなります。粉は違います。高く積んでも、底の圧力は粉の重さより小さい一定の値に近づき、積んだ高さによらなくなります。19世紀末にヤンセンが見いだした現象で、壁との摩擦が関わります。ヤンセンの式は、粉をためる構造物の圧力の計算に広く使われています。
出典:Discrete element simulations of floor pressure due to granular material in a cylindrical vessel|New Jersey Institute of Technology、A Review of Analytical Methods for Calculating Static Pressures in Bulk Solids Storage Structures|KONA Powder and Particle Journal
固まる:置いておくとかたまりになる
粉を置いておくと、かたまりになることがあります。これが固結です。貯蔵や供給で問題になる主な原因は、吸湿です。水に溶ける粒が吸湿すると粒の接触点に液体の橋ができ、乾くときに結晶になって、固体の橋に変わります。
固結は、いつも悪者とは限りません。熱で粒をつなげる焼結や、セメントがコンクリートになる変化、造粒・打錠は、同じ現象を積極的に使っています。
4. さまざまな分野で使われる粉粒体

出典:村田製作所 Metamorphosis No.19、新潟大学「粉体工学」講義資料、Amazemet「Laser Powder Bed Fusion Technology」をもとに AI(Claude)で作成
粉の大きさは、使う分野によって大きく違います。それぞれの分野で、粉のどの性質を使っているのかを見ていきます。
| 産業 | 粉の例 |
|---|---|
| 鉱業・鉄鋼 | 鉄鉱石、石灰石 |
| 窯業・建設 | ケイ砂、アルミナ、セメント、砂 |
| 食品 | 小麦粉、でんぷん、砂糖、食塩 |
| 医薬品 | 原薬、顆粒剤、散剤 |
| 化粧品 | タルク、マイカ、シリカ、酸化チタン |
| 電子材料 | チタン酸バリウム、フェライト、金属粉 |
| 塗料・印刷 | 粉体塗料、顔料、トナー |
出典:三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学
食品:小麦粉
小麦の製粉は、ロール機で何回も挽き、そのたびにふるい分ける段階式で行います。粉砕とふるい分けを組み合わせた、粉の処理の身近な例です。
建設:セメント
セメントの細かさ(比表面積)は、品質の項目として規格で決められています。JIS R 5210 は比表面積の下限を、普通ポルトランドセメントで 2,500 cm²/g、早強で 3,300 cm²/g、超早強で 4,000 cm²/g と定めています。
出典:JIS R 5210:2019 ポルトランドセメント(kikakurui.com の掲載ページ)
医薬品:原薬と錠剤
薬の有効成分である原薬は、溶解度などの特性に応じて、吸収をよくするために細かく砕くことがあります。表面積を増やす恩恵の例です。ただし、細かい粉は工程の途中でフィルターから抜けたり、フィルターを詰まらせたりして、成分の含量が下がることがあります。良さと困りごとは表裏の関係にあります。
出典:流動層造粒乾燥工程 バリデーションの考え方と実施例|大阪府
化粧品:ファンデーション
人が触ってザラつきを感じる下限は約 30 µm とされます。ファンデーションの微粉体は、これより小さく調製しないとザラザラした触感が出ます。砂糖の結晶の粒も同じです。
出典:三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学
電子部品:チタン酸バリウム
チタン酸バリウムは、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の材料です。村田製作所の研究報告では、約 10 nm の粒子の作り方を研究し、30 nm を超える粒で強誘電性を確認しています。粒を小さくすると、材料の性質そのものが変わることがある例です。同じ報告で絶縁劣化の観察に使った MLCC の誘電体層の厚さは 3.8 µm でした。
電池:正極の材料
リチウムイオン電池の正極活物質を小さくして表面積を増やし、イオンの動く距離を短くする研究があります。ただし、電池の特性は粒子径だけでなく、電極の厚さや空隙率にも左右されます。
出典:山木準一ほか「LiCoO2 ナノ粒子の合成とリチウム二次電池への応用展開」粉砕 No.52|ホソカワミクロン
ものづくり:金属3Dプリンターの粉
レーザーで金属の粉を固めていく金属3Dプリンターでは、細かい形を作る場合に 15〜45 µm の粉がよく使われます。粉を薄く均一に敷くために、流れやすさや球に近い形が求められます。

出典:東京都立産業技術研究センター(YouTube)
出典:Laser Powder Bed Fusion Technology|Amazemet
印刷:トナー
プリンターのトナーは、高画質のために粒を小さくする流れがあります。砕いて作る方法は、粒を小さくするほどコストが上がります。一方、樹脂を重合して作る方法は、コストが粒の大きさにほとんどよらないため、広がってきました。
出典:大柴知美ほか「重合トナー Digital Toner 2000 の電子写真特性」|コニカミノルタ
関連:粉末冶金・MIM、金属3Dプリンター、粉体塗装・電着塗装
5. 粉体に関するトラブルの実態と対策
粉のトラブルは、大きく分けると、流れない、かたよる、爆発する、吸い込むの4つです。順に、なぜ起きるのか、どう防ぐのかを説明します。
流れない:ブリッジとラットホール

出典:粉体工学用語辞典「架橋現象」、同「ラットホール」、同「粒子偏析」をもとに AI(Claude)で作成
ブリッジ(架橋)は、容器の中で粉がアーチを作り、重力で出ていく流れを止める現象です。付着する力がほとんど働かない粗い粉でも、出口が粒に比べて小さいと起きます。こうした粉では、経験的に出口の大きさが粒子径の5倍以上なら詰まらないとされますが、粒の形や分布にも影響されるので、あくまで参考値です。
ラットホールは、出口の真上だけが抜けて円筒状の穴があき、まわりの粉が残る現象です。容器の中の流れ方と関係があります。

出典:粉体工学用語辞典「マスフロー」、同「ファネルフロー」をもとに AI(Claude)で作成
粉が全部動く流れ方をマスフロー、出口の上の粉だけが動き、壁ぎわの粉が止まっている流れ方をファネルフローといいます。マスフローになるかどうかは、ホッパーの壁の傾きと、粉と壁の摩擦に左右されます。
対策は、まず形から考えます。出口を大きくする、ホッパーの傾斜を改善する、壁面をなめらかにするといった方法です。それでも防げない付着性の強い粉には、空気を吹き込む、振動を与える、かき混ぜるなどしてアーチを崩す装置(アーチブレーカー)を使います。
対策の選び方は、課題ページ「粉体がホッパーで詰まる・流れないのを防ぎたい」で詳しく説明しています。
出典:架橋現象|粉体工学用語辞典(粉体工学会)、閉塞限界寸法|粉体工学用語辞典(粉体工学会)、ラットホール|粉体工学用語辞典(粉体工学会)、マスフロー|粉体工学用語辞典(粉体工学会)、ファネルフロー|粉体工学用語辞典(粉体工学会)、アーチブレーカー|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
止まらない:フラッシング
詰まりとは逆に、粉が気体を含むと急に流れやすくなり、粘りの少ない液体のように流れることがあります。これがフラッシングです。容器の中のアーチが衝撃で崩れたときにも起きます。いったん起きると、ロータリーバルブやスクリューフィーダーでも流れを止められません。
かたよる:偏析
大きさや密度などの違う粒を混ぜた粉は、流れている間に分かれて、場所によって成分がかたよることがあります。これが偏析です。容器に入れるときや出すときの、粉を落とす点の近くなどで起きます。気体や液体と違い、粉は均一には混ざりきらないので、せっかく混ぜても、運ぶ途中で分かれることがあります。
出典:粒子偏析|粉体工学用語辞典(粉体工学会)、三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学
固まる:固結
水に溶ける粉では、固結の主な原因は湿気です。湿度と温度の変化、かかる圧力、置いておく時間を見直します。詳しいしくみは「3. 粉体の特性」のとおりです。
爆発する:粉じん爆発

出典:ホソカワミクロン「粉砕」No.61をもとに AI(Claude)で作成
プラスチックのように燃える材料は、かたまりなら火をつけても燃えるだけです。積もった粉は火がつきやすくなりますが、爆発はしません。ところが、空気中に舞った粉(粉じん雲)に火がつくと、炎が粉じん雲の中を速く広がり、爆発します。小さな粉は炎の熱で速くガスになることなどが、炎の広がりを助けます。

出典:CCPS「Process Safety Beacon」、ホソカワミクロン「粉砕」No.61をもとに AI(Claude)で作成
爆発の条件は、可燃性の粉じん、空気中に浮くこと、酸素など、閉じた空間、着火源の5つです。粉じん雲、着火源、酸素の3つにまとめて説明することもあり、この3つのどれかを欠けば爆発は起きません。閉じた空間は、圧力の上がりやすさに関わります。
危険の大きさは、爆発の「起きやすさ」と「激しさ」に分けて数値で評価します。
| 分類 | 特性値 | 意味 |
|---|---|---|
| 起きやすさ | 爆発下限界濃度(JIS Z 8818) | 爆発する最も薄い粉じんの濃度 |
| 起きやすさ | 最小着火エネルギー(JIS Z 8834) | 火をつけるのに必要な最小のエネルギー |
| 起きやすさ | 限界酸素濃度 | これより酸素が少ないと爆発しない濃度 |
| 激しさ | 最大爆発圧力(JIS Z 8817) | 密閉容器の中で圧力がどこまで上がるか |
| 激しさ | 圧力上昇速度・爆発指数(JIS Z 8817) | 圧力がどれだけ速く上がるか |
爆発下限濃度は、一般に 20〜60 g/m³ とされています(1969年の資料)。同じ材料でも粒が小さいほど下限濃度は低く、爆発が起きやすくなります。これらの値は測定の条件によって変わるので、実際の現場との条件の違いも考えて使います。
事故が多い工程と対策は次のとおりです。
| 工程 | なぜ危ないか | 防止の例 |
|---|---|---|
| 集じん | 粉じんが濃くなる。バグフィルタでの事故が多い | 帯電防止のろ布、アース、堆積物の清掃 |
| 粉砕 | 金属片の混入や摩擦熱で着火する | 異物の混入防止、装置の中の堆積防止 |
| 乾燥 | 高温の熱源があり着火しやすい | 供給量の制御、過熱防止、窒素パージ |
| 輸送・貯蔵 | 可動部の不具合による高温や静電気で着火する。バケットエレベータや貯蔵ビンでの事故が多い | 保守、異常の感知、突起物をなくす |
爆発は速いので、起きてから対応しても間に合いません。そのため、起こさない対策に加えて、起きたときの被害を小さくする設備を前もって用意します。
| 被害を小さくする方法 | 内容 |
|---|---|
| 放散 | 破裂板などが開いて圧力を逃がす |
| 抑制 | 爆発を瞬時に検出し、水や消火剤を吹き込んで止める |
| 伝ぱの遮断 | 高速遮断弁などで、隣の装置へ広がるのを防ぐ |
| 耐圧の構造 | 爆発の圧力で壊れない装置にして、中に封じ込める |
酸素を減らす方法では、窒素などで置きかえて限界酸素濃度より下げます。酸素を完全になくす必要はありません。効果は大きいものの、コストがかかります。
怖いのは、最初の爆発の爆風で積もっていた粉が舞い上がり、2回目の爆発につながることです。ふだんの清掃が大切な理由のひとつです。2008年に米国ジョージア州の Imperial Sugar の製糖工場で起きた爆発では、大量に積もっていた砂糖の粉が燃料となり、14人が亡くなり、38人が負傷しました。
防爆の機器については「防爆エリアで電気機器を安全に使いたい」、静電気については「静電気のトラブルを防ぎたい」で説明しています。
出典:可燃性粉塵の危険性はいたるところにある!(Process Safety Beacon 2021年6月号)|CCPS(AIChE)、爆発(安全衛生キーワード)|職場のあんぜんサイト(厚生労働省)、産業安全研究所 技術資料 RIIS-TN-69-1(1969年)|労働安全衛生総合研究所、土橋律「粉じん爆発の危険性とその対策」粉砕 No.61|ホソカワミクロン、Imperial Sugar Company Dust Explosion and Fire|米国化学物質安全性委員会(CSB)
吸い込む:じん肺
粉じんを長い期間、大量に吸い込み続けると、肺の組織が線維化して硬くなる「じん肺」になることがあります。日本では粉じん障害防止規則(昭和54年労働省令第18号)などの対策が進み、じん肺の新規有所見労働者は、昭和55年の 6,842 人から平成28年の 122 人へ減りました。粉を扱う作業では、法令に沿った対策が必要です。
出典:第9次粉じん障害防止総合対策の推進について(基発0209第3号)|厚生労働省、じん肺、じん肺健康診断、じん肺管理区分について|奈良労働局
粉体の話が出てくるページ
出典
- 三上貴司「粉体工学」講義資料(概要・基本物性)|新潟大学
- 猪ノ木雅裕「微粒子の高機能化に対応した最新の粉体技術」粉砕 No.57|ホソカワミクロン
- 製粉(日本大百科全書)|コトバンク
- Joseph Aspdin|Grace’s Guide to British Industrial History
- 小林孝一「ポルトランドセメントの200年とこれから」|土木学会
- 沿革|一般社団法人 粉体工学会
- 粒度分布とは|堀場製作所
- 粉体の流動性(公開資料)|医薬品医療機器総合機構(PMDA)
- レーザー回折式粒子径分布測定法の解説と測定例|日鉄テクノロジー
- 粉体関連の JIS 一覧(2025年12月時点)|日本粉体工業技術協会
- 後藤邦彰「粒子分散技術と粉体の付着性に関する一考察」粉砕 No.59|ホソカワミクロン
- 付着・凝集性|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- カーの流動性指数|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- フローファンクション|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- Discrete element simulations of floor pressure due to granular material in a cylindrical vessel|New Jersey Institute of Technology
- A Review of Analytical Methods for Calculating Static Pressures in Bulk Solids Storage Structures|KONA Powder and Particle Journal
- 固結|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- JIS R 5210:2019 ポルトランドセメント(kikakurui.com の掲載ページ)
- 流動層造粒乾燥工程 バリデーションの考え方と実施例|大阪府
- Research of nanoparticle fabrication and nanoscale characterization on dielectrics(Metamorphosis No.19)|村田製作所
- 山木準一ほか「LiCoO2 ナノ粒子の合成とリチウム二次電池への応用展開」粉砕 No.52|ホソカワミクロン
- Laser Powder Bed Fusion Technology|Amazemet
- 大柴知美ほか「重合トナー Digital Toner 2000 の電子写真特性」|コニカミノルタ
- 架橋現象|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- 閉塞限界寸法|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- ラットホール|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- マスフロー|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- ファネルフロー|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- アーチブレーカー|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- フラッシング|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- 粒子偏析|粉体工学用語辞典(粉体工学会)
- 可燃性粉塵の危険性はいたるところにある!(Process Safety Beacon 2021年6月号)|CCPS(AIChE)
- 爆発(安全衛生キーワード)|職場のあんぜんサイト(厚生労働省)
- 産業安全研究所 技術資料 RIIS-TN-69-1(1969年)|労働安全衛生総合研究所
- 土橋律「粉じん爆発の危険性とその対策」粉砕 No.61|ホソカワミクロン
- Imperial Sugar Company Dust Explosion and Fire|米国化学物質安全性委員会(CSB)
- 第9次粉じん障害防止総合対策の推進について(基発0209第3号)|厚生労働省
- じん肺、じん肺健康診断、じん肺管理区分について|奈良労働局
※図は、出典の説明をもとに編集部がまとめた模式図です。
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品・装置ではありません。
情報の確認日:2026年11月2日
