樹脂の筐体や部品に UL94 V-0 を求められたが、今の材料では通らない。臭素系の難燃剤をやめたいが、置き換えると割れやすくなる。電池や電装品から火が出たとき、周りに燃え広がらないか心配だ。こうした悩みの多くは、材料が熱で分解して燃えるガスを出し、その炎の熱がまた材料を温める、という燃焼のサイクルが止まらないことが原因です。
燃えにくくする方法は、材料に難燃剤を入れる方法だけではありません。難燃剤を配合済みの材料に替える、シートやクロスで熱と炎を遮る、発泡する塗料で断熱する、という方法もあります。まずは次のマトリクスで、自分の課題に近いものと、使える技術を確かめてください。
課題と解決技術のマトリクス
| 課題(症状) | リン系難燃剤(ハロゲンフリー) | 金属水酸化物系難燃剤 | 難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンド | 耐火・断熱のシートやクロス | 発泡性の耐火塗料 |
|---|---|---|---|---|---|
| A樹脂やゴムの部品を、UL94 V-0 などの難燃規格に通したい | ○ | ○ | ◎ | ||
| B臭素系(ハロゲン系)難燃剤をやめたい・燃えたときの煙を減らしたい | ◎ | ◎ | ○ | ||
| C難燃剤を入れると、強度・成形性・電気特性が落ちる | ○ | △ | ◎ | ||
| D電池や電装品から出た火を、周りに燃え広がらせたくない | △ | ○ | ◎ | ||
| E鉄骨や設備を、火災の熱から守りたい | ○ | ◎ |
◎ 第一候補○ 有効△ 条件によって有効
※記号は一般的な傾向に基づく目安です。実際に使える方法は、材料(樹脂・ゴムの種類)、求める規格と等級、厚さ、色、ほかに必要な性能(強度・耐熱・電気特性)、コストによって異なります。金属水酸化物系の「△」は、難燃効果を出すのに多くの量を入れる必要があり、物性が変わりやすいこと、または耐トラッキング性の改善など用途が限られることを示します。
記号の理由と出典(14件)
マトリクスの記号ごとに、理由と出典をまとめました。出典が「編集部の解説」のものは、この記事の本文の説明をもとにした編集部の評価です。症状の記号を押すと、その症状の説明へ移ります。
| 症状 | 技術 | 記号 | 理由 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| A | リン系難燃剤(ハロゲンフリー) | ○ | 炭化層(チャー)で酸素と熱を遮り燃えを抑えるため、規格に通す手段の1つとして有効 | アイアール技術者教育研究所 |
| A | 金属水酸化物系難燃剤 | ○ | 分解で熱を吸い水を出すので燃えにくくなり、規格に通す手段の1つとして有効 | アイアール技術者教育研究所 |
| A | 難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンド | ◎ | UL94 V-0相当の難燃性を配合済みの材料で得られ、規格に通す第一候補になるため | 埼光ゴム |
| B | リン系難燃剤(ハロゲンフリー) | ◎ | ハロゲン系難燃剤の置き換え先として、ハロゲンフリーのリン系が第一候補になるため | 大八化学工業 |
| B | 金属水酸化物系難燃剤 | ◎ | ハロゲンを使わずに難燃化でき、燃えたときの煙も減らせる処方に使えるため | 神島化学工業 |
| B | 難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンド | ○ | ハロゲンフリーの原料で配合した材料に替える手もあるが、難燃剤そのものの選択ほど直接的ではないため | 埼光ゴム |
| C | リン系難燃剤(ハロゲンフリー) | ○ | 揮発・加水分解しにくい種類を選べば、にじみなどの不具合を抑えられるため | 編集部の解説 |
| C | 金属水酸化物系難燃剤 | △ | 多量に入れる必要があり樹脂の性質が変わりやすいため、表面処理品を選ぶなど条件つき | 日本信頼性学会誌(J-STAGE) |
| C | 難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンド | ◎ | 難燃性と強度・伸び・成形性の釣り合いをとった配合が設計済みで、物性低下を抑えやすいため | 編集部の解説 |
| D | 金属水酸化物系難燃剤 | △ | 耐トラッキング改善に使えるが、延焼防止の主役ではなく用途が限られるため | 神島化学工業 |
| D | 難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンド | ○ | 筐体や部品を難燃材料にすれば燃え移りにくくなるため | 編集部の解説 |
| D | 耐火・断熱のシートやクロス | ◎ | セルの間に入れて熱と炎を遮り、隣のセルへの熱の広がりを抑えられるため | 長瀬産業 |
| E | 耐火・断熱のシートやクロス | ○ | 火花を受け止めて周りの設備や資材への燃え移りを防げるが、鉄骨の耐火被覆そのものではないため | ニチアス |
| E | 発泡性の耐火塗料 | ◎ | 火災の熱で発泡して断熱層を作り、鉄骨の温度上昇を抑えて守れるため | 日本建設業連合会 |
課題の診断と解決策
樹脂やゴムの部品を、UL94 V-0 などの難燃規格に通したい
筐体や電装部品の材料に、UL94 V-0 が求められた。今の材料では燃焼試験で火が消えるまでに時間がかかる、または燃えながら滴り落ちる。

- 起きている現象
- UL94 の垂直燃焼試験では、試験片に炎を当てて離したあと、火が消えるまでの時間と、滴り落ちたもので下の綿が燃えるかを見ます。V-0 は、1回の接炎後10秒以内に消え、滴下物で綿が着火しないことが条件で、V-1・V-2 より厳しい等級です。
- 解決に使える技術
- 難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンド難燃剤を配合済みの材料に替える。求める等級と物性を示して配合から相談する
- リン系難燃剤(ハロゲンフリー)炭化層(チャー)を作って燃え広がりを抑える。少ない量で効く種類もある
- 金属水酸化物系難燃剤分解するときに熱を吸い、水蒸気を出して燃えにくくする
UL94 の等級は、材料の種類だけでなく試験片の厚さによって変わります。材料のデータを見るときは、自分の部品の肉厚と同じか薄い厚さで等級が取れているかを確かめます。色を変えると難燃性が変わることもあるので、色も含めて材料を決めます。
臭素系(ハロゲン系)難燃剤をやめたい・燃えたときの煙を減らしたい
取引先から、ハロゲンフリーの材料を求められた。臭素系難燃剤の規制が気になる。電線やケーブルが燃えたときの煙も減らしたい。

- 起きている現象
- 臭素系の難燃剤のうち、PBB・PBDE は RoHS 指令で含有量が制限され、デカブロモジフェニルエーテルやヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)は、化審法の第一種特定化学物質に指定されています。電子部品の分野では、臭素と塩素の含有量でハロゲンフリーを定義する規格があります。
- 解決に使える技術
- リン系難燃剤(ハロゲンフリー)リン酸エステル系・縮合リン酸エステル系などに置き換える
- 金属水酸化物系難燃剤水酸化マグネシウム・水酸化アルミニウムを使う。煙を抑える(LSZH)処方にも使われる
- 難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンドハロゲンフリーの原料で配合した材料に替える
臭素系から置き換えると、同じ難燃等級を得るのに必要な量や、成形条件、物性が変わります。難燃性だけでなく、強度・耐熱・電気特性・外観を、置き換え後の材料で試験し直す必要があります。規制の内容は、PFAS・鉛を使わずに作りたいの課題ページも参考になります。
難燃剤を入れると、強度・成形性・電気特性が落ちる
難燃剤を入れたら難燃性は上がったが、割れやすくなった、流れが悪くなった、表面に液がにじみ出てきた。

- 起きている現象
- 金属水酸化物系の難燃剤は、効果を出すのに多くの量(おおよそ40〜70wt%)を入れる必要があり、樹脂の性質が変わりやすくなります。赤リン系の難燃剤では、水と反応してできたリン酸がにじみ出し(ブリードアウト)、絶縁が下がってトラッキングを起こした例が報告されています。
- 解決に使える技術
- 難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンド難燃性と物性の両方を満たすように配合を設計した材料を使う
- リン系難燃剤(ハロゲンフリー)揮発・加水分解しにくい縮合型などを選ぶ
- 金属水酸化物系難燃剤表面処理したグレードを選び、樹脂へのなじみや強度・伸びを改善する
難燃剤の種類と量を変えると、難燃性と物性の釣り合いが変わります。高温・高湿の環境で使う部品は、吸湿や加水分解による変化も試験で確かめます。紫外線や薬品による劣化も気になる場合は、紫外線・薬品で劣化するの課題ページも参考になります。
電池や電装品から出た火を、周りに燃え広がらせたくない
リチウムイオン電池や電装品が発火したとき、周りの電池や部品、保管している場所に燃え広がるのが心配。

- 起きている現象
- 電池パックでは、1つのセルの異常な発熱が周りのセルに広がる「熱伝播」を抑えることが重要とされています。電気製品では、プラグやコネクターにたまったほこりと湿気で起きるトラッキング(放電による発火)も、発火の原因になります。
- 解決に使える技術
- 耐火・断熱のシートやクロスセルの間や、電池・機器の周りに置いて、熱と炎を遮る
- 難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンド筐体や部品を難燃材料にして、燃え移りにくくする
- 金属水酸化物系難燃剤耐トラッキング性の改善に使われるグレードもある
シートやクロスは、耐えられる温度、厚さ、電気絶縁、つぶれたときの性能を確かめて選びます。電池の保管の方法は、消防法や所管の消防署の判断が関わるので、事前に確認します。電池そのものの熱暴走の防ぎ方は、電池の熱暴走・発火を防ぎたいの課題ページで詳しく紹介しています。
鉄骨や設備を、火災の熱から守りたい
工場や倉庫の鉄骨に耐火被覆が要る。吹付けの被覆では見た目や粉じんが気になる。溶接の火花で周りが燃えないようにもしたい。

- 起きている現象
- 鉄骨は燃えませんが、火災で温度が上がると強度が下がり、建物が崩れるおそれがあります。このため、耐火が必要な建物では、鉄骨を耐火被覆で覆って温度の上昇を抑えます。
- 解決に使える技術
- 発泡性の耐火塗料火災の熱で発泡して断熱層を作る。薄い塗膜で鉄骨の見た目を活かせる
- 耐火・断熱のシートやクロス溶接・溶断の火花を受け止め、周りの設備や資材を守る
耐火塗料は、火には強い一方で水に弱く、上塗りで主材を守る必要があります。必要な耐火時間と部材の形状によって膜厚が変わるので、国土交通大臣の認定の範囲で設計・施工します。
なぜ、樹脂は燃え続けるのか
樹脂は、分解して出たガスが燃えている
ものが燃えるには、「可燃物」「酸素」「熱」の3つがそろう必要があります。これを燃焼の3要素といいます。燃焼で出た熱が、まだ燃えていない可燃物と酸素に伝わり、反応が次々に続きます。

樹脂の場合、固体のまま燃えているのではありません。樹脂が熱で分解してできたガスが可燃物になり、樹脂の表面からおよそ10〜20mm離れた空間で燃えています。着火に使った火がなくなっても、ガスが燃えるときの熱が樹脂をさらに分解し、燃えるガスを出し続けます。難燃化とは、この燃焼のサイクルのどこかを断ち切ることです。

出典:日本信頼性学会誌の解説をもとに AI(Claude)で作成
断ち切る場所は、難燃剤の種類によって違います。ハロゲン系の難燃剤は、分解してできたハロゲン化水素が、燃焼を進めるラジカルを捕まえます。赤リン系などのリン系は、樹脂の表面に炭化層(チャー)を作り、酸素と熱を遮ります。金属水酸化物系は、分解するときに熱を吸い、水を出して、燃えるもとを減らします。
燃えにくさの物差し:UL94 と酸素指数
樹脂の燃えにくさでよく使われるのが、UL94 の燃焼性の等級です。水平に置いた試験片の燃える速さを見る HB と、垂直に吊るした試験片に炎を当てて、消えるまでの時間と滴下物を見る V-0・V-1・V-2 があります。V-0 は、10秒の接炎のあと10秒以内に消え、5本の合計が50秒以内で、滴下物で下の綿が着火しないことが条件です。より強い炎を当てる 5VA・5VB もあります。

出典:タキゲン製造、日本信頼性学会誌の解説をもとに AI(Claude)で作成
もう1つの物差しが、酸素指数(OI、LOI)です。材料が燃え続けるのに必要な最低の酸素の濃度で、数値が大きいほど燃えにくい材料です。酸素指数が、空気中の酸素の濃度(約21%)に近い22以下の樹脂は、一般に燃えやすいとされます。代表的な値は、ポリエチレン・ポリプロピレンが17.4、ABS が18.3〜18.8、ポリカーボネートが26.0〜28.0です。繊維の分野では、酸素指数が26以上なら難燃性があるといわれます。
臭素系の難燃剤は、規制とハロゲンフリーの流れがある
臭素系の難燃剤は、少ない量でよく効くため、広く使われてきました。一方で、一部の物質は規制の対象になっています。RoHS 指令では、PBB と PBDE の含有量が0.1wt%(1,000ppm)以下に制限されています。デカブロモジフェニルエーテルは2017年にストックホルム条約の廃絶の対象に加わり、日本では2018年に化審法の第一種特定化学物質に指定されました。HBCD も2014年に第一種特定化学物質に指定されています。
電子部品の分野では、臭素900ppm未満、塩素900ppm未満、合計1,500ppm未満を「ハロゲンフリー」とする IEC 61249-2-21 の基準が使われています。規制される物質だけでなく、取引先がハロゲンフリーを求めるかどうかも、材料選びの条件になります。
難燃剤を入れると、ほかの性能が変わる
難燃剤は、樹脂にとっては「異物」です。金属水酸化物系の難燃剤は、効果を出すのにおおよそ40〜70wt%を入れる必要があります。ポリプロピレンで UL94 V-0(1/8インチ)を得るには、水酸化マグネシウムを57〜60重量%配合する必要があるという報告もあります。これだけ入れると、強度や伸び、成形のしやすさが変わります。
赤リン系の難燃剤は、添加量がおおよそ2〜10wt%と少ない一方で、水と反応してリン酸ができることがあります。リン酸は電気を通すため、絶縁が下がり、エレクトロケミカルマイグレーションやトラッキングを引き起こして発火した例が報告されています。難燃性だけを見て材料を選ぶと、別の不具合を生むことがあるので、使う環境での長期の変化も確かめます。
出典:ものはなぜ燃えるのか|消防庁 消防研究センター、樹脂成形品の難燃剤による品質問題とその対応|日本信頼性学会誌(J-STAGE)、3分でわかる 難燃剤の種類と作用機構|アイアール技術者教育研究所、難燃性UL94規格|タキゲン製造、燃焼性試験(酸素指数法試験)について|あいち産業科学技術総合センター、RoHS指令とは|オーミヤ、ストックホルム条約の附属書改正に係る化審法に基づく追加措置について(第二次答申)|環境省、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)の第一種特定化学物質指定について|環境省、Halogen-free|Renesas、水酸化マグネシウムの技術動向|日本ゴム協会誌(J-STAGE)
解決技術の詳細
燃えにくくする方法は、大きく2つに分けられます。1つは材料そのものを燃えにくくする方法(難燃剤、難燃グレードの材料)、もう1つは外からの熱と炎を遮って守る方法(耐火・断熱のシートやクロス、耐火塗料)です。ここでは、代表的な5つの技術を説明します。

出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成
リン系難燃剤(ハロゲンフリー)
リン系の難燃剤は、燃えるときに樹脂の表面に炭化層(チャー)を作り、酸素と熱を遮って、燃えるガスが出るのを抑えます。一部のリン系難燃剤は、炎の中でラジカルを捕まえる働きもあるとされています。日本難燃剤協会は、リン系難燃剤の種類として、芳香族リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類、赤リン系、インテュメッセント(発泡)系などを挙げています。
リン酸エステル系は、樹脂を柔らかくする可塑剤の働きも持つため、塩化ビニルやエンジニアリングプラスチックの難燃性可塑剤として使われます。揮発しやすさや、水による分解(加水分解)のしにくさは種類によって違い、大八化学工業は、縮合型の製品を TPP・TXP より低揮発としています。使う温度と湿度に合わせて、揮発や加水分解しにくい種類を選ぶことが、長期の品質につながります。

出典:この記事の内容をもとに AI(Claude)で作成
金属水酸化物系難燃剤

水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムは、加熱されると分解して水を出します。この分解は熱を吸う反応で、樹脂の温度が上がるのを抑えます。出てきた水は、燃えるガスを薄めます。不燃物を多く入れることで、燃えるもとの樹脂の割合が減る効果もあります。ハロゲンを含まず、燃えたときの煙も少ないので、電線の被覆などで使われます。
分解する温度は、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムで違います。水酸化マグネシウムは、約340〜410℃の範囲で分解すると報告されています。水酸化アルミニウムは、より低い温度から分解が始まります。樹脂を成形する温度で分解しない種類を選ぶ必要があり、成形温度の高い樹脂では、分解温度の高い水酸化マグネシウムが選ばれます。多く入れる必要があるため、表面処理で樹脂へのなじみを良くしたグレードも使われています。
難燃グレードの樹脂・ゴムコンパウンド
難燃剤を自分で配合するのではなく、難燃剤を配合済みの樹脂やゴムの材料(コンパウンド)を使う方法です。材料メーカーやコンパウンドメーカーが、難燃性と強度・伸び・成形性の釣り合いをとった配合を設計しています。求める規格(UL94 の等級、ハロゲンフリー、RoHS・REACH への適合)と物性を示して、既存のグレードから選ぶか、配合から相談します。
UL94 の等級は、試験片の厚さによって変わります。部品の最も薄い部分と同じか、それより薄い厚さで等級が取れている材料を選びます。自動車の内装材には、燃える速さが毎分102mm以下であることなどを求める FMVSS 302 のような、UL94 とは別の基準もあります。どの規格の、どの等級を、どの厚さで満たす必要があるのかを、最初にはっきりさせます。
耐火・断熱のシートやクロス

材料そのものを燃えにくくするのではなく、燃えるおそれのある物の周りを、燃えない無機材料のシートやクロスで囲んで、熱と炎を遮る方法です。電気自動車などの電池パックでは、セルとセルの間にマイカ(雲母)のシートを入れて、1つのセルの異常な発熱が周りに広がるのを抑えます。マイカは、数百〜1000℃級の高温でも性能を保ちやすい材料です。

溶接や溶断の現場では、飛び散る火花を受け止める耐火クロスが使われます。リチウムイオン蓄電池を保管するときに、耐火性のある布で覆う使い方もあります。選ぶときは、耐えられる温度と時間、厚さ、電気絶縁、押しつぶされたときの性能を確かめます。
発泡性の耐火塗料
発泡性の耐火塗料は、ふだんは薄い塗膜ですが、火災の熱を受けると大きく膨らんで、断熱の層を作ります。日本建設業連合会の資料によると、主材は火災時に約250℃で数十倍に発泡し、断熱材の役割を果たして鉄骨を火災から守ります。薄い被覆で、鉄骨の見た目を活かせるのが特長です。
一方で、耐火塗料は火には強いものの水に弱く、水分を含むと分解して耐火性能が下がります。このため、下塗り・主材・上塗りの3層で構成し、上塗りで主材を守ります。膨れ・割れ・剥がれを防ぐ施工と、上塗りの維持管理が、耐火性能を保つ条件です。

出典:主要難燃剤の種類と用途|日本難燃剤協会、3分でわかる 難燃剤の種類と作用機構|アイアール技術者教育研究所、水酸化アルミニウムの技術動向|日本ゴム協会誌(J-STAGE)、水酸化マグネシウムの技術動向|日本ゴム協会誌(J-STAGE)、FMVSS 302燃焼試験|化学物質評価研究機構、xEV向けマイカ材料の用途と課題|長瀬産業、電源プラグ トラッキング現象で発火|NITE(製品評価技術基盤機構)、耐火塗料の適切な設計・施工・維持管理について|日本建設業連合会、ハロゲンフリー系難燃剤|大八化学工業
燃えにくくする技術を持つ企業
各企業が解決できる課題と技術の内容を、企業が公開している情報をもとに紹介します。難燃剤を探しているのか、配合済みの材料を探しているのか、周りを守る材料を探しているのかによって、相談先が変わります。
| 企業 | 解決できる課題 | 種類 | 何ができるか | 合う症状 |
|---|---|---|---|---|
| 大八化学工業 | 難燃剤メーカー | ハロゲンフリーのリン酸エステル系難燃剤で、エンジニアリングプラスチックやエポキシ樹脂、ポリエステル繊維を難燃化する。 | A 樹脂やゴムの部品を、UL94 V-0 などの難燃規格に通したい B 臭素系(ハロゲン系)難燃剤をやめたい・燃えたときの煙を減らしたい C 難燃剤を入れると、強度・成形性・電気特性が落ちる | |
| 神島化学工業 | 難燃剤(水酸化マグネシウム) | 難燃剤用の水酸化マグネシウム「マグシーズ」で、電線・ケーブルの被覆をハロゲンを使わずに難燃化し、燃えたときの煙を減らす処方に使える。 | A 樹脂やゴムの部品を、UL94 V-0 などの難燃規格に通したい B 臭素系(ハロゲン系)難燃剤をやめたい・燃えたときの煙を減らしたい C 難燃剤を入れると、強度・成形性・電気特性が落ちる D 電池や電装品から出た火を、周りに燃え広がらせたくない | |
| 埼光ゴム | ゴムコンパウンド | UL94 V-0相当・ハロゲンフリーの難燃ゴムコンパウンドを配合設計し、耐候性・耐オゾン性も合わせて持たせる。 | A 樹脂やゴムの部品を、UL94 V-0 などの難燃規格に通したい B 臭素系(ハロゲン系)難燃剤をやめたい・燃えたときの煙を減らしたい C 難燃剤を入れると、強度・成形性・電気特性が落ちる | |
| ニチアス | 耐火・断熱材メーカー | 耐火クロスで、リチウムイオン蓄電池の保管場所の延焼や、溶接・溶断の火花の燃え移りを防ぐ。 | D 電池や電装品から出た火を、周りに燃え広がらせたくない E 鉄骨や設備を、火災の熱から守りたい | |
| 菊水化学工業 | 耐火塗料メーカー | 水系の発泡性耐火塗料「ウェスタ」で、鉄骨を見せるデザインのまま、粉じんを出さずに耐火被覆をする。 | E 鉄骨や設備を、火災の熱から守りたい |
大八化学工業株式会社|ハロゲンフリーのリン酸エステル系難燃剤
大八化学工業とは
大八化学工業は、大阪市中央区に本社を置く、可塑剤・難燃剤を主とする有機化学薬品のメーカーです(従業員数273名、子会社への出向社員を含む)。2019年に創業100周年を迎えました。

出典:ハロゲンフリー系難燃剤|大八化学工業の公開情報をもとに AI(Claude)で作成
大八化学工業の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| リン酸エステル系難燃剤 | CDP、TCP、TPP、TXP など。塩化ビニル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、各種エンジニアリングプラスチックスの難燃性可塑剤として使われる |
| 縮合リン酸エステル系難燃剤 | CR-733S、CR-741、PX-200。縮合型で、TPP・TXP より低揮発。CR-741 は耐加水分解性・耐熱性にすぐれ、高絶縁性を与えるとしている。PX-200 は粉体で取り扱いやすい |
| 繊維用の難燃剤 | PX-110 は、ポリエステル繊維の内部に含浸しやすく、含浸後はブリードしにくいとしている。ポリエステル繊維の同浴処理用 |
同社のハロゲンフリー系難燃剤のページでは、各製品の特性と用途を、化学名・構造式とあわせて公開しています。
大八化学工業が解決できる課題
- 臭素系などのハロゲン系難燃剤を、ハロゲンフリーの難燃剤に置き換えたい
- エンジニアリングプラスチックやエポキシ樹脂を、揮発やブリードの少ない難燃剤で難燃化したい
- ポリエステル繊維を難燃化したい
出典:ハロゲンフリー系難燃剤|大八化学工業、会社概要|大八化学工業、沿革|大八化学工業
神島化学工業株式会社|難燃剤用の水酸化マグネシウム「マグシーズ」
神島化学工業とは
神島化学工業は、大阪市中央区に本社を置く、1946年設立(創業1917年)のメーカーです(従業員681名、2026年4月末現在)。不燃建材、マグネシウム化合物などの化成品、透明セラミックスを手がけています。

出典:難燃剤用水酸化マグネシウム|神島化学工業の公開情報をもとに AI(Claude)で作成
神島化学工業の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| マグシーズ(難燃剤用水酸化マグネシウム) | 海水法による難燃剤用の水酸化マグネシウム。ノンハロゲン難燃剤として、エコ材料に幅広い実績があるとしている。抑煙効果も高く、LSZH(ロースモーク・ゼロハロゲン)処方の難燃剤としても使われている |
| 表面処理の違う4つのグレード | X(表面処理なし、分散性にすぐれる)、S(シランカップリング剤処理。高強度・架橋配合など高難燃化・高物性処方向け)、N(脂肪酸処理。伸びが出やすく加工性にすぐれる)、EP(耐水・耐酸性の特殊処理。プリント基板・エポキシ封止材向け) |
| 用途 | エコ電線・機器用電線・自動車電線の被覆材、塩化ビニル・熱硬化樹脂の難燃剤、壁紙・床材、プリント基板、エポキシ封止材・接着剤、PE発泡断熱材、抑煙化(LSZH難燃)剤、耐トラッキング改善剤 |
平均粒子径は1.0〜2.9μm(グレードによる。同社の品質特性例)です。
神島化学工業が解決できる課題
- 電線・ケーブルの被覆を、ハロゲンを使わずに難燃化したい
- 燃えたときの煙を減らしたい(LSZH の処方にしたい)
- 水酸化マグネシウムを入れると強度や伸びが落ちるので、表面処理したグレードを選びたい
出典:難燃剤用水酸化マグネシウム「マグシーズ」|神島化学工業、会社概要|神島化学工業
埼光ゴム株式会社|UL94 V-0相当・ハロゲンフリーの難燃ゴムコンパウンド
埼光ゴムとは
埼光ゴムは、茨城県猿島郡五霞町に本社を置く、1972年(昭和47年)設立のゴムコンパウンドの混練加工メーカーです(従業員数35名)。CR、フッ素ゴム、色物バッチなど特殊ゴムの混練りに取り組み、豊富なデータと経験をもとに配合設計を行うとしています。

出典:製品技術開発|埼光ゴムの公開情報をもとに AI(Claude)で作成
埼光ゴムの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 難燃性SFRシリーズ | 同社のマレーシア工場が開発した、難燃性にすぐれた EPDM ゴムコンパウンド。UL94 V-0相当の難燃性 |
| ハロゲンフリー | ハロゲンフリーの原料を使い、RoHS および REACH 規制に適合できるとしている |
| 物性の例 | 引張 8.1MPa、破断時伸び 644%、比重 1.395g/cm³、加硫条件 160℃×10分。耐候性・耐オゾン性にすぐれる |
特殊ゴムは汎用ゴムと異なり、固有の厳しい物性が要求されると同社は説明しています。難燃性と物性の両方が必要なゴム部品で、配合から相談できる相手です。
埼光ゴムが解決できる課題
- ゴム部品を UL94 V-0 相当まで難燃化したい
- ハロゲンを使わずに、RoHS・REACH に適合する難燃ゴムにしたい
- 難燃性に加えて、屋外で使える耐候性・耐オゾン性も欲しい
出典:製品技術開発(難燃グレード)|埼光ゴム、会社概要|埼光ゴム
ニチアス株式会社|リチウムイオン蓄電池の保管用・溶接火花受けの耐火クロス
ニチアスとは
ニチアスは、東京都中央区に本社を置く、1896年設立の断熱材・シール材などのメーカーです(従業員数 連結6,424名、2026年3月末現在)。

出典:耐火クロス TOMBO No.8300|ニチアスの公開情報をもとに AI(Claude)で作成
ニチアスの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 耐火クロス TOMBO™ No.8300 | 耐火性・遮炎性にすぐれた無機繊維のクロスで、基材が燃焼する心配がないとしている。耐火クロスS(厚さ0.65mm)と、片面に特殊樹脂加工をした耐火クロスSW(厚さ0.70mm)がある |
| リチウムイオン蓄電池の保管用 | リチウムイオン蓄電池を保管するときの火災延焼防止、安全対策に使う。サイズや形状に合わせた個別設計・縫製加工ができる |
| 溶接火花受け | JIS A 1323 A種同等の試験で、厚さ9mmの鋼板を溶断した火花に対し、試験中(約48秒間)の発炎と防火上有害な貫通孔がなかったとしている |
同社のカタログでは、令和4年12月26日付けの消防庁の通知(消防危第295号)を引き、特定防火設備(1時間耐火)と同等以上の耐火性能を持つ布で車載用リチウムイオン蓄電池を覆うと、一般倉庫での保管が可能になると説明しています。詳しい運用の可否は、所管の消防署への確認が必要としています。
ニチアスが解決できる課題
- リチウムイオン蓄電池を保管する場所で、火災が燃え広がらないようにしたい
- 溶接・溶断の火花が飛んで、周りの設備や資材に燃え移るのを防ぎたい
- 機器を火や熱から保護・養生したい
出典:リチウムイオン蓄電池貯蔵用クロス、溶接火花受けクロス|ニチアス、耐火クロス TOMBO No.8300 カタログ|ニチアス、会社概要|ニチアス
菊水化学工業株式会社|水系の発泡性耐火塗料「ウェスタ」
菊水化学工業とは
菊水化学工業は、名古屋市中区に本社を置く、1959年設立の建築仕上塗材・特殊機能性材料のメーカーです。防火・耐火被覆材や、外装・内装の仕上材を手がけています。

菊水化学工業の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| ウェスタ(水系発泡性耐火塗料) | 同社が日本初とする水系の発泡性耐火塗料。火災の熱で10〜20倍に発泡して断熱層を作り、鉄骨の温度上昇を抑えて崩壊から守る |
| 認定 | 1時間耐火・2時間耐火(柱・はり)の認定、建築基準法施行令第70条に基づく30分防火(柱)の認定を取得している |
| 薄い被覆 | 被覆は1〜5mmで、鉄骨の意匠を活かしたデザインと、仕上げとしての色が選べる。ホルムアルデヒド放散等級 F☆☆☆☆ |
同社は用途として、ビル・工場・倉庫・物流センターなど耐火が必要な建築物のほか、鉄骨を見せたい建物や、粉じんがなくクリーンな環境を保ちたい建物を挙げています。膜厚や設計価格は、要求される耐火時間や部材の形状によって異なるとしています。
菊水化学工業が解決できる課題
- 工場や倉庫の鉄骨を、火災の熱から守りたい
- 鉄骨を見せるデザインのまま、耐火被覆をしたい
- 吹付けの耐火被覆のような粉じんを出したくない
公開されている実績
- 施工事例として、岐阜県議会議事堂のエントランスを紹介している
出典:ウェスタ|菊水化学工業、耐火被覆材・防火材 特集|菊水化学工業、会社概要・沿革|菊水化学工業
選ぶ前に確かめる条件
メーカーに相談する前に、次の条件を整理しておくと、話が早くなります。
- 燃えにくくしたい部品や場所と、今起きていること(規格に通らない、発火が心配、燃え広がりが心配など)
- 求められている規格と等級:UL94(HB、V-2、V-1、V-0、5VB、5VA)、FMVSS 302、建築の耐火・防火の認定など
- 部品の材料(樹脂・ゴムの種類)と、最も薄い部分の厚さ、色
- ハロゲンフリーや RoHS・REACH への適合が必要か。取引先の化学物質の基準
- 難燃性のほかに必要な性能:強度、伸び、耐熱、電気絶縁、耐トラッキング性、外観
- 使う環境:温度、湿度、屋外か屋内か、薬品や油にふれるか
- 成形・加工の方法と温度(押出、射出、混練、塗装など)
- 数量と時期:試作の数、量産の時期、既存の材料からの切り替えか
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※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。
情報の確認日:2026年9月29日





