ガラスは、結晶にならずに固まった、原子の並びに規則性のない(非晶質の)固体です。設計で選ぶときは、ふつうの板ならソーダ石灰ガラス、熱や急な温度変化があればホウケイ酸ガラス、高温・紫外線・低膨張が要れば石英ガラスや結晶化ガラスが候補になります。割れにくさが要るときは、風冷強化・化学強化・合わせガラスの中から選びます。
この記事では、ガラスとは何か、種類ごとの組成と物性、条件からの選び方、強化ガラスのしくみ、割れ方と設計の注意、作り方、トラブル、企業をまとめます。
知りたいことから読む
- ガラスの種類の違いを一覧で見たい → 種類の比較表
- 条件から種類を選びたい → 条件からの選び方
- 熱や急な温度変化で割れないようにしたい → 耐熱と熱衝撃
- 紫外線や赤外線を通したい → 光を通す範囲
- 強化ガラスのしくみを知りたい → 風冷強化
- 薄いガラスを強くしたい → 化学強化
- 窓ガラスの熱割れを防ぎたい → 熱割れ
- 強化ガラスが突然割れた → 自然破損(NiS)
ガラスとは
原子の並びに規則性がない固体
Wikipedia「ガラス」は、ガラスを温度を上げるとガラス転移を示す非晶質(アモルファス)の物質と説明しています。結晶と同じくらい剛性が大きく、粘り(粘性)がとても高い物質です。水晶のような結晶は同じ形がくり返し並びますが、ガラスは原子のつながり方が似ていても、並びに規則性がありません。

出典:Wikipedia「ガラス」の、単独でガラスになる成分とならない成分の分類(並びは編集部の模式図)をもとに AI(Claude)で作成
ガラス転移点(Tg)
溶けた液体をゆっくり冷やすと、融点で結晶になります。速く冷やすと結晶にならないまま粘りが増え、ガラス転移点(Tg)を下回ると固体のガラスになります。Tg はガラスの種類で変わり、たとえば板のソーダ石灰ガラスは 564℃、SCHOTT のホウケイ酸ガラス BOROFLOAT 33 は 525℃と公表されています。くわしくは基礎知識:ガラス転移点(Tg)を見てください。

出典:Wikipedia「ガラス」のガラス転移の説明をもとに AI(Claude)で作成
骨格をつくる成分と、加える成分
Wikipedia「ガラス」は、単独でガラスの骨格(網目)をつくる酸化物として SiO2(ケイ酸)・B2O3(ホウ酸)・P2O5・GeO2 を挙げています。Li2O・Na2O・K2O・MgO・CaO・SrO・BaO は、単独ではガラスにならない成分としています。ふだん使うソーダ石灰ガラスは、SiO2 の骨格に Na と Ca を含みます。
どの成分をどれだけ入れるかで、膨らみやすさ(線膨張係数)、溶ける温度、薬品への強さ、光の通し方が変わります。これが次の章の「種類」の違いになります。
出典:ガラス|Wikipedia(日本語版)、Soda–lime glass|Wikipedia(英語版)、BOROFLOAT Technical Details|SCHOTT
ガラスの種類と特徴
種類の比較表
| 種類 | 主な成分と特徴 | 数値の例(出典) | よく使う場面 | 気をつけること |
|---|---|---|---|---|
| ソーダ石灰ガラス | SiO2 約73%・Na2O・CaO。作られるガラスの約9割 | 線膨張係数 約9.5×10-6/K、Tg 564℃(板。Wikipedia) | 窓、びん、ふつうのカバー | 膨らみやすく、急な温度変化に弱い |
| ホウケイ酸ガラス | SiO2 約80%・B2O3 約13% | 3.25×10-6/K(Pyrex 7740)。BOROFLOAT 33 は長時間 450℃まで | 理化学器具、耐熱の窓、照明 | 価格はソーダ石灰ガラスより高めになる(編集部の目安) |
| 石英ガラス | SiO2 ほぼ100%。天然原料の溶融石英と、化学合成の合成石英 | 0.55×10-6/K、軟化点 1,683℃(溶融石英。テクノクオーツ) | 半導体装置の部品、紫外線の窓、高温の管 | 価格と加工の条件をメーカーに確かめる(編集部の目安) |
| 無アルカリガラス | アルカリ(Na・K など)をほぼ含まない | 3.8×10-6/K、歪点 650℃(アルカリ酸化物 0.1 wt%以下の G-Leaf。日本電気硝子) | ディスプレイ・電子部品の基板 | ほかの材料との膨張の差を確かめる(編集部の目安) |
| アルミノシリケートガラス | アルカリを含むアルミノケイ酸ガラス。化学強化に向く | 約400℃の溶融カリウム塩で強化(Gorilla Glass。Wikipedia) | スマートフォンなどのカバー | 強化の条件は製品の仕様書で確かめる(編集部の目安) |
| 結晶化ガラス | ガラスの中に細かい結晶を出す | 0.1×10-6/K(ネオセラム N-0、30〜750℃) | ストーブの窓、精密機器、望遠鏡の鏡 | 製品ごとに膨張の値と温度範囲が違う(編集部の目安) |
※数値は、それぞれの出典の製品・測り方の値です。温度の範囲がそろっていないので、表の数値どうしは目安として比べてください。

出典:Wikipedia「Soda–lime glass」、日本電気硝子、Corning(Valley Design 掲載)、テクノクオーツの公表値をもとに AI(Claude)で作成
出典:Soda–lime glass|Wikipedia(英語版)、Borosilicate glass|Wikipedia(英語版)、Corning Pyrex 7740 の特性|Valley Design(Corning の資料の掲載)、BOROFLOAT Technical Details|SCHOTT、材料(石英ガラス)|テクノクオーツ、超薄板ガラス G-Leaf|日本電気硝子、Gorilla Glass|Wikipedia(英語版)、ネオセラム|日本電気硝子
ソーダ石灰ガラス(板ガラス・びん)
Wikipedia「Soda–lime glass」によると、組成は質量%で SiO2 約73〜74、Na2O 13〜14、CaO 9〜10.5 で、作られるガラスの約9割がソーダ石灰ガラスです。板ガラスの値として、密度 2.53 g/cm³、線膨張係数 約9.5×10-6/K(約100〜300℃)、ヤング率 約74 GPa(似た組成からの補間値)、ガラス転移点 564℃が挙げられています。
安くて大きな板が手に入りますが、膨らみやすいので、局所的に温めたり急に冷やしたりする用途には向きません。
出典:Soda–lime glass|Wikipedia(英語版)
ホウケイ酸ガラス(耐熱ガラス)
ホウ酸(B2O3)を加えたガラスです。Wikipedia「Borosilicate glass」は、実験用の組成を SiO2 約80%・B2O3 13%・Na2O/K2O 4%・Al2O3 2〜3%とし、線膨張係数はソーダ石灰ガラスの約3分の1と説明しています。
Corning の Pyrex 7740 は線膨張係数 32.5×10-7/℃(0〜300℃)、軟化点 821℃です。SCHOTT の BOROFLOAT 33 は、ガラス転移点 525℃、密度 2.23 g/cm³、ヤング率 64 kN/mm² で、最高使用温度を短時間(10時間未満)500℃、長時間(10時間以上)450℃としています。
出典:Borosilicate glass|Wikipedia(英語版)、Corning Pyrex 7740 の特性|Valley Design(Corning の資料の掲載)、BOROFLOAT Technical Details|SCHOTT
石英ガラス(溶融石英と合成石英)
SiO2 だけでできたガラスです。テクノクオーツは、天然の原料を溶かす「溶融石英」と、高純度の四塩化ケイ素から化学合成する「合成石英」に分けて説明しています。同社の溶融石英は、線膨張係数 5.5×10-7/℃(20〜320℃)、軟化点 1,683℃、徐冷点 1,215℃、歪点 1,120℃です。
オハラの合成石英ガラス SK-1300 シリーズは、線膨張係数 5.5×10-7/K 以下、軟化点 1,600℃、常用温度 900℃、最高温度 1,000℃、SiO2 純度 99.99%以上と公表しています。溶融石英の線膨張係数は、板のソーダ石灰ガラスの約17分の1です(温度範囲の違う値どうしの、編集部の計算による目安)。
出典:材料(石英ガラス)|テクノクオーツ、合成石英ガラス SK-1300 シリーズ|オハラ、Soda–lime glass|Wikipedia(英語版)
無アルカリガラス(ディスプレイ・電子部品の基板)
ナトリウムやカリウムなどのアルカリ成分をほぼ含まないガラスです。日本電気硝子の超薄板ガラス G-Leaf の仕様表では、アルカリ酸化物 0.1 wt%以下で、線膨張係数 38×10-7/K(30〜380℃)、歪点 650℃と示されています。
アルミノシリケートガラス(化学強化用)
Wikipedia「Gorilla Glass」は、Corning の Gorilla Glass をアルカリ・アルミノシリケートの板ガラスとし、約400℃の溶融カリウム塩に浸して表面の Na を大きな K に置き換え、表面に高い圧縮応力の層をつくると説明しています。AGC の Dragontrail も同じ用途の製品として名前が挙がっています。
出典:Gorilla Glass|Wikipedia(英語版)
結晶化ガラス(低膨張・ゼロ膨張)
ガラスの中に細かい結晶を出して、膨らみを打ち消したガラスです。日本電気硝子のネオセラム N-0 は、線膨張係数 1×10-7/K(30〜750℃)、連続使用温度 750℃で、暖炉・ストーブの窓、高温焼成用の治具、オーブンレンジの庫内の底板などに使われています。
Wikipedia「Zerodur」は、SCHOTT の ZERODUR を、リチウムアルミノシリケートの結晶化ガラスとし、30〜50 nm の結晶の「縮む」膨張が、残りのガラスの「伸びる」膨張を打ち消すと説明しています。望遠鏡の鏡などに使われます。
出典:ネオセラム|日本電気硝子、Zerodur|Wikipedia(英語版)
ガラスの選び方
条件からの選び方
| 条件 | まず見る種類 | 見る数値 |
|---|---|---|
| 安く、ふつうの温度で使う平らな板 | ソーダ石灰ガラス | 厚み・大きさ・強化の要否 |
| お湯や熱、急な温度変化がある | ホウケイ酸ガラス | 線膨張係数、最高使用温度 |
| 数百℃を超える、または紫外線を通したい | 石英ガラス(紫外線なら合成石英) | 使用温度、透過する波長 |
| 温度が変わっても寸法を変えたくない | 結晶化ガラス、石英ガラス | 線膨張係数とその温度範囲 |
| 電子部品・表示パネルの基板 | 無アルカリガラス | 歪点、線膨張係数(ほかの材料との差) |
| 薄くて割れにくいカバー | 化学強化したアルミノシリケートガラス | 表面圧縮応力と圧縮層の深さ |
| 割れても破片を飛ばしたくない | 合わせガラス、強化ガラス | 割れたときの形 |
表は、この記事の出典をもとに編集部がまとめた目安です。最後はメーカーの仕様書の値で決めます。
耐熱と熱衝撃(急な温度変化)
ガラスが熱で割れるのは、多くの場合、温度そのものより場所による温度差で生まれる引張の力が原因です。Wikipedia「Thermal shock」は、熱衝撃に耐える温度差を、ガラスの強さ σf・ヤング率 E・線膨張係数 α を使って ΔT ∝ σf/(Eα) の形で表しています。ホウケイ酸ガラスは膨張が小さく熱衝撃に強く、溶融石英はさらに強いと説明しています。
同じ温度差 30℃ でできる応力を σ ≈ E × α × ΔT で比べると、ソーダ石灰ガラスは約21 MPa、ホウケイ酸ガラスは約6 MPa、溶融石英は約1.2 MPa です(編集部の試算)。

出典:Wikipedia「Thermal shock」の式と各資料の E・α(試算は編集部)をもとに AI(Claude)で作成
使える最高温度は種類で大きく違います。BOROFLOAT 33 は長時間 450℃、オハラの合成石英 SK-1300 は常用 900℃、ネオセラム N-0 は連続 750℃です(各社の公表値)。
出典:Thermal shock|Wikipedia(英語版)、Fused quartz|Wikipedia(英語版)、BOROFLOAT Technical Details|SCHOTT、合成石英ガラス SK-1300 シリーズ|オハラ、ネオセラム|日本電気硝子
光を通す範囲(紫外線・赤外線)
ふつうの窓ガラスは目に見える光を通しますが、紫外線の短い波長は通しにくくなります。紫外線を使う装置では石英ガラスを選びます。オハラの SK-1300 は 165〜2,600 nm、SK-1310 は 180〜3,400 nm の範囲で透過率 80%以上です。
Wikipedia「Fused quartz」は、紫外線用の合成石英は 1 cm の厚みで 170 nm の光を約50%通し、赤外線用のグレードは約3.6 μm まで通すと説明しています。Al・Ti などの不純物は紫外線の透過を下げ、OH 基は赤外線の透過を下げます。

出典:オハラ「合成石英ガラス SK-1300 シリーズ」の透過波長をもとに AI(Claude)で作成
出典:合成石英ガラス SK-1300 シリーズ|オハラ、Fused quartz|Wikipedia(英語版)
電気を通さない・薬品に強い
Wikipedia「ガラス」は、ガラスの内部抵抗率を常温で 109〜1016 Ω·m としています。電気を通しにくいので、絶縁の部品や電子部品の基板に使われます。薬品への強さは組成で違うので、使う薬品と温度を決めてメーカーに確かめます。
強化ガラスと合わせガラス
ガラスを割れにくくする方法は、表面に圧縮の力を残す「強化」と、割れても破片をつなぎ止める「合わせ」に分かれます。強化には、熱で行う風冷強化(物理強化)と、イオンを入れ替える化学強化があります。

出典:Wikipedia「Tempered glass」「Gorilla Glass」の説明をもとに AI(Claude)で作成
風冷強化(物理強化)
ガラスを軟らかくなる手前まで加熱し、表面に空気を吹き付けて急に冷やします。表面が先に固まり、中が後から縮むので、表面に圧縮、中央に引張の応力が残ります。Wikipedia「Tempered glass」は、強化ガラスの強さはふつうのガラスの約4倍で、米国の規格(ASTM C1048)では 6 mm の板の表面圧縮応力を 69 MPa 以上(縁は 67 MPa 以上)としていると説明しています。
割れると全体が細かい粒になり、大きく鋭い破片になりにくいのも特徴です。強化したあとで切ったり穴をあけたりはできないので、加工はすべて強化の前に済ませます。
出典:Tempered glass|Wikipedia(英語版)
化学強化(イオン交換)
ガラスを約400℃の溶融カリウム塩に浸し、表面のナトリウムイオンを、大きなカリウムイオンに置き換えます。大きいイオンが詰め込まれて表面に圧縮が生まれます。熱の差を使わないので、風冷強化が難しい薄いガラスや形の複雑なガラスにも使えます(この一文は編集部の補足)。
出典:Gorilla Glass|Wikipedia(英語版)
合わせガラス
2枚以上のガラスを中間膜ではり合わせたものです。割れても中間膜が破片をつなぎ止めるので、破片が飛び散りにくく、貫通もしにくくなります。強度そのものを上げる方法ではないので、強さが要るときは強化ガラスと組み合わせます。
ガラスの割れ方と設計の注意
割れるのは表面の小さなきずから
Wikipedia「Strength of glass」は、ガラスの理論上の強さ(約17 GPa)に比べて実際の強さははるかに小さく、表面のきずが強さを大きく左右すると説明しています。NIST の解説は、きずで強さが決まることを確立したのが Griffith の1920年の仕事だとしています。
つまり、同じガラスでも、縁の切り口の仕上げや、使ううちについた傷で強さが変わります。強化ガラスは、表面の圧縮がきずを押さえるので割れにくくなります。

出典:Wikipedia「Strength of glass」と NIST の解説をもとに AI(Claude)で作成
出典:Strength of glass|Wikipedia(英語版)、Influence of Water on Crack Growth in Glass(Wiederhorn の仕事の解説)|NIST
時間がたってから割れる(遅れ破壊)
NIST の解説によると、ガラスは強さより小さい力でも、かけ続けると時間がたってから割れることがあり(静疲労・遅れ破壊)、湿度が高いほど弱くなります。き裂の先で水がガラスと反応してき裂を進めるためで、Wiederhorn が水蒸気の中でのき裂の進み方を測って整理しました。
設計では、短い時間の強さだけで決めず、長く力がかかる部分は余裕を大きく取ります。
出典:Influence of Water on Crack Growth in Glass(Wiederhorn の仕事の解説)|NIST
熱割れ
窓ガラスのように(この節は編集部の補足。式は Wikipedia「Thermal shock」)、中央が日射などで温まり、枠に入った縁が冷たいままだと、縁に引張の力がかかります。縁は切断のきずが残りやすいので、そこから割れます。ガラスに紙をはったり、すぐ後ろに熱をこもらせるものを置いたりすると、温度差が大きくなります。

出典:Wikipedia「Thermal shock」の式をもとに AI(Claude)で作成
出典:Thermal shock|Wikipedia(英語版)
設計のチェックポイント
- 使う温度の最高・最低と、場所による温度差(日射・ヒーター・冷たい流体)
- 急に温める・冷やす場面があるか(洗浄・殺菌・結露)
- 縁と穴の仕上げ(面取り・研磨)と、強化の前に加工を済ませるか
- 取り付けで金属が直接当たらないか(ゴム・樹脂の緩衝材)
- 長くかかる力(自重・ボルトの締め付け)と湿度
- 割れたときに破片が人に当たらないか(強化・合わせ・飛散防止)
チェックポイントは、この記事の出典をもとに編集部がまとめたものです。
ガラスの作り方と加工
板ガラスのつくり方(フロート法)
Wikipedia「Float glass」によると、フロート法は Pilkington 社の Alastair Pilkington と Kenneth Bickerstaff が1953〜1957年に開発し、1960年に本格的に売り出されました。約1,500℃で溶かし、約1,200℃にそろえたガラスを溶けたスズの浴に流して、スズの上に浮かべて平らにします。浴の中で約1,100℃から下げ、約600℃でローラーに引き上げて、そのあと長さ約100 m の徐冷炉でゆっくり冷やしてから切ります。浴の上は窒素と水素の雰囲気です。

出典:Wikipedia「Float glass」の工程と温度をもとに AI(Claude)で作成
石英ガラスの加工
石英ガラスの部品は、バーナーで溶かして形をつくる火加工、レーザー加工、研削で作ります。英興は、大口径の炉心管やチャンバーの火加工、CO2 3D レーザー加工(最小の穴 φ0.3 mm)、円筒研削を手がけています(企業紹介を参照)。
出典:石英ガラス製品|英興
トラブルと対策
強化ガラスが突然割れる(硫化ニッケルによる自然破損)
酒井(2024)のレビューは、強化ガラスの自然破損の原因を、ガラスの中にできた硫化ニッケル(NiS)の粒の α 相から β 相への相変化によるものとして、その対策の条件を整理しています。Wikipedia「Tempered glass」は、ステンレスの切りくずに由来する NiS の小さな粒が数年後に割れを起こすことがあり、「8の字」形の割れ模様になることが多いと説明しています。
対策は、強化したあとにガラスを加熱して、NiS を含む板を工場で先に割っておくヒートソーク試験です(この一文は編集部の補足)。同レビューの要旨は、260±10℃を最も信頼できる保持温度として紹介し、旧 EN 14179-1:2005 の条件は 290±10℃だったとしています。ISO 20657(2017年)の炉の温度の規定にも触れています。

出典:酒井(2024)のレビューと Wikipedia「Tempered glass」をもとに AI(Claude)で作成
出典:酒井千尋「最適なオフライン・ヒートソーク試験による安全な強化ガラス」Journal of the Ceramic Society of Japan 132巻 Supplement(2024年)、Tempered glass|Wikipedia(英語版)
鍋のふたや調理器具の強化ガラスが割れる
仙台市は、強化ガラス製の鍋のふたが煮込み中に割れてやけどをした例や、オーブントースターの前面ガラスが調理中に割れて破片が飛んだ例を紹介しています。原因として表面の細かい傷、熱しすぎや急に冷やすことを挙げ、研磨スポンジや金属たわしで洗わない、急な温度変化を避ける、ひびや欠けがあれば使わないよう呼びかけています。
製品の設計では、使う人が傷をつけにくい形と、取扱説明での注意をあわせて考えます。
出典:強化ガラス製の製品を使用するときはご注意ください|仙台市
よくあるトラブルと、まず見るところ
| トラブル | まず見るところ | 対策の例 |
|---|---|---|
| 温めたら縁から割れた | 温度差、縁の仕上げ | 膨張の小さいガラスに替える、縁を研磨する |
| お湯や洗浄で割れた | 急な温度変化の大きさ | ホウケイ酸・石英に替える、温度の変え方をゆるやかに |
| 強化ガラスが何もしないのに割れた | 割れの起点と模様(8の字) | ヒートソーク試験をした板を使う |
| しばらく使ったら割れた | 長くかかる力、湿度、傷 | 余裕を大きくとる、強化する |
| 取り付け部から割れた | 金属との直接の接触、締め付け | 緩衝材をはさむ、穴の位置を見直す |
表は、この記事の出典をもとに編集部がまとめた目安です。
研究からわかること
水がき裂を進める(Wiederhorn の測定)
Wiederhorn は、水蒸気の中でソーダ石灰ガラスのき裂の進み方を測りました(J. Am. Ceram. Soc., 1967年)。NIST の解説によると、き裂の速さは3つの領域に分かれ、力の小さい領域ではき裂の先で水がガラスと反応し、き裂の速さが力に強く左右されることが、遅れ破壊の説明と合っています。
出典:Influence of Water on Crack Growth in Glass(Wiederhorn の仕事の解説)|NIST
ヒートソーク試験の条件(酒井 2024)
酒井のレビューは、強化ガラスの自然破損を防ぐヒートソーク試験の条件を整理しています。NiS の α 相から β 相に変わる温度は、硫黄の量が 35.3 wt% を超えると 379℃ から 282℃ まで連続して下がると紹介しています。試験の温度が、NiS を確実に変えて割るための条件に関わります。
出典:酒井千尋「最適なオフライン・ヒートソーク試験による安全な強化ガラス」Journal of the Ceramic Society of Japan 132巻 Supplement(2024年)
企業紹介(ガラス技術)
ガラスの素材から加工まで、得意な種類が違う会社です。下の表の●は、各社の公式サイトで扱いを確認できた種類です。空欄は、扱っていないという意味ではありません。
日本電気硝子株式会社|無アルカリガラスと結晶化ガラスをつくる
日本電気硝子とは
日本電気硝子は、滋賀県大津市に本社を置く会社です。事業を「特殊ガラス製品の製造・販売およびガラス製造機械の製作・販売」としています。

出典:日本電気硝子「ネオセラム」の線膨張係数(試算は編集部)をもとに AI(Claude)で作成
日本電気硝子の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| ネオセラム N-0 | ゼロ膨張の結晶化ガラス。線膨張係数 1×10-7/K(30〜750℃)、連続使用温度 750℃ |
| セラピュア | 無色透明のゼロ膨張結晶化ガラス。-1×10-7/K(30〜750℃)。800℃からの急冷でも割れない耐熱衝撃性をうたう |
| 超薄板ガラス G-Leaf | アルカリ酸化物 0.1 wt%以下。線膨張係数 38×10-7/K(30〜380℃)、歪点 650℃ |
日本電気硝子が解決できる課題
- 高温で使う窓や治具の割れを減らしたい
- 温度が変わっても寸法を変えたくない
- 薄い無アルカリガラスの基板を探したい
公開されている実績・用途
- ネオセラム N-0:暖炉・ストーブの窓、高温焼成用のキャリア・治具、オーブンレンジ庫内の底板、半導体製造プロセス
出典:会社概要|日本電気硝子、ネオセラム|日本電気硝子、セラピュア|日本電気硝子、超薄板ガラス G-Leaf|日本電気硝子
株式会社オハラ|光学ガラス・合成石英・ゼロ膨張ガラスセラミックス
オハラとは
オハラは、神奈川県相模原市に本社を置く会社です。光学用と電子用のガラス材料の製造・販売を事業としています。
オハラの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 合成石英ガラス SK-1300 シリーズ | 線膨張係数 5.5×10-7/K 以下、常用 900℃・最高 1,000℃、SiO2 純度 99.99%以上。透過率80%以上の範囲は SK-1300 が 165〜2,600 nm |
| クリアセラム-Z | 広い温度範囲でゼロ膨張のガラスセラミックス。結晶を約70%析出させ、Na・K・B・F・Pb を含まない |
オハラが解決できる課題
- 紫外線を通す窓やレンズの材料を探したい
- 温度で寸法が変わらない鏡・基準の部品を作りたい
公開されている実績・用途
- クリアセラム-Z:JAXA の超低高度衛星「つばめ」(2017年発表)、京都大学の望遠鏡「せいめい」(2019年発表)に採用
出典:Company Profile|オハラ、合成石英ガラス SK-1300 シリーズ|オハラ、クリアセラム-Z|オハラ、「つばめ」にクリアセラム-Z が採用(2017年12月25日)|オハラ、望遠鏡「せいめい」にクリアセラム-Z が採用(2019年2月20日)|オハラ
信越石英株式会社|石英ガラスの素材と加工品をつくる
信越石英とは
信越石英は、東京都品川区に本社を置く石英ガラスの会社です。光学用石英ガラス、シリコン単結晶の引き上げに使う石英るつぼ、光ファイバ用の合成石英ガラス、石英ガラス加工品、ランプ用石英ガラスを主な製品としています。
信越石英の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 石英ガラスの素材 | 光学用、光ファイバ用の合成石英、ランプ用 |
| 石英るつぼ | シリコン単結晶の引き上げ用 |
| 石英ガラスの加工品 | 石英ガラスの加工品 |
信越石英が解決できる課題
- 半導体・光ファイバ向けの石英ガラスの素材を探したい
- 石英るつぼや加工品を相談したい
テクノクオーツ株式会社|半導体製造装置の石英部品をつくる
テクノクオーツとは
テクノクオーツは、東京都中野区に本社を置く会社です。半導体製造装置用の反応管・キャリアボート・ベルジャー・リングなどの石英製品や、理化学機器用の石英ガラスセルなどを手がけています。

出典:テクノクオーツとオハラの公表値をもとに AI(Claude)で作成
テクノクオーツの得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 溶融石英ガラス | 線膨張係数 5.5×10-7/℃(20〜320℃)、軟化点 1,683℃、徐冷点 1,215℃、歪点 1,120℃ |
| 合成石英ガラス | 高純度の四塩化ケイ素から化学合成する |
| 製品 | 反応管、キャリアボート、ベルジャー、リング、シリコン電極、石英ガラスセル |
テクノクオーツが解決できる課題
- 半導体装置の石英部品を作りたい
- 溶融石英と合成石英のどちらを使うか決めたい
出典:会社概要|テクノクオーツ、材料(石英ガラス)|テクノクオーツ
英興株式会社|石英ガラスとホウケイ酸ガラスの特注加工
英興とは
英興は、京都市伏見区に本社を置く、1947年創業の会社です。石英ガラス・工業用ガラス材料の加工販売、工業用セラミックスの加工販売、洗浄槽や電気炉の製造販売を行っています。

英興の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 扱う材料 | 透明石英(天然水晶を溶融)・不透明石英(珪石を溶融)・合成石英(四塩化ケイ素から合成) |
| 火加工 | 大口径の炉心管・チャンバー、大型ベルジャー(700×1,500 mm など) |
| CO2 3D レーザー加工 | 対応ワークサイズ 1,000×900×500 mm、最小の穴 φ0.3 mm |
| 研削 | 円筒研削など |
英興が解決できる課題
- 石英ガラスの大きな管やチャンバーを特注したい
- 石英ガラスに細かい穴をあけたい
松浪硝子工業株式会社|顕微鏡用のカバーガラスと精密加工ガラス
松浪硝子工業とは
松浪硝子工業は、大阪府岸和田市に本社を置く会社です。顕微鏡用のカバーガラス・スライドガラス、医療・理化学用のガラス、ディスプレイ用の基板ガラス、光学部品用の精密加工ガラス、化学強化品などを手がけています。FAQ では、生産は岸和田市の本社工場だけで行うとしています。
松浪硝子工業の得意技術
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 角カバーグラス | 素材はホウケイ酸ガラス。屈折率 ne 1.5255±0.0015、アルカリ溶出 0.2 mg(Na2O)以下、平面度 0.010 mm 以下 |
| 加工 | 光学部品用の精密加工ガラス、化学強化品、熱処理加工品 |
松浪硝子工業が解決できる課題
- 薄いガラスの精密な加工品を探したい
- 顕微鏡・理化学用のガラスを探したい
出典:会社概要|松浪硝子工業、角カバーグラス|松浪硝子工業、よくあるご質問|松浪硝子工業
よくある質問
- ガラスはなぜ透明なのですか?
- 結晶の境目(粒界)がなく、光を散らすものが少ないためと説明されます。ただし、通す波長は組成で違い、ふつうのガラスは紫外線の短い波長を通しにくくなります。
- 耐熱ガラスとふつうのガラスの違いは?
- 耐熱ガラスの多くはホウケイ酸ガラスで、線膨張係数がソーダ石灰ガラスの約3分の1です。温度差で生まれる力が小さいので、急な温度変化で割れにくくなります。
- 石英ガラスの溶融石英と合成石英の違いは?
- 溶融石英は天然の原料を溶かして作り、合成石英は高純度の原料から化学合成します。紫外線を通す用途には合成石英が使われます。
- 強化ガラスは割れないのですか?
- 割れます。表面の深い傷や、硫化ニッケルの粒、熱しすぎ・急な冷却で割れることがあります。割れると細かい粒になるのが特徴です。
- 強化ガラスは切れますか?
- 強化したあとは切ったり穴をあけたりできません。加工は強化の前に済ませます。
- 化学強化と風冷強化はどう選びますか?
- 一般には、厚い板は風冷強化、薄い板や形の複雑なものは化学強化が向くとされます。化学強化はイオンの入れ替えなので、熱の差を使わずに強化できます。
- ガラス転移点(Tg)とは?
- 冷やしていった液体が固体のガラスになる温度です。種類で違い、板のソーダ石灰ガラスは 564℃、BOROFLOAT 33 は 525℃と公表されています。
- 温度で寸法を変えたくない部品には?
- 結晶化ガラス(ネオセラム、クリアセラム-Z、ZERODUR など)や石英ガラスが候補です。線膨張係数とその温度範囲を仕様書で比べます。
回答は、このページの出典をもとに編集部がまとめたものです。
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出典・確認日
- ガラス|Wikipedia(日本語版)
- Soda–lime glass|Wikipedia(英語版)
- BOROFLOAT Technical Details|SCHOTT
- Borosilicate glass|Wikipedia(英語版)
- Corning Pyrex 7740 の特性|Valley Design(Corning の資料の掲載)
- 材料(石英ガラス)|テクノクオーツ
- 超薄板ガラス G-Leaf|日本電気硝子
- Gorilla Glass|Wikipedia(英語版)
- ネオセラム|日本電気硝子
- 合成石英ガラス SK-1300 シリーズ|オハラ
- Zerodur|Wikipedia(英語版)
- Thermal shock|Wikipedia(英語版)
- Fused quartz|Wikipedia(英語版)
- Tempered glass|Wikipedia(英語版)
- Strength of glass|Wikipedia(英語版)
- Influence of Water on Crack Growth in Glass(Wiederhorn の仕事の解説)|NIST
- Float glass|Wikipedia(英語版)
- 石英ガラス製品|英興
- 酒井千尋「最適なオフライン・ヒートソーク試験による安全な強化ガラス」Journal of the Ceramic Society of Japan 132巻 Supplement(2024年)
- 強化ガラス製の製品を使用するときはご注意ください|仙台市
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※製品名・会社名は各社の商標または登録商標です。写真は出典を示した会社のものです。そのほかの図と文章は、各社の資料の数値と事実を要約して編集部が作成しました。
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情報の確認日:2026年11月6日 本ページの内容は一般的な情報です。数値はカタログや出典の例で、実際の選定と設計は最新の規格と仕様書で確かめてください。

