よく晴れた冬の朝、車のフロントガラスや屋根が真っ白に霜でおおわれていることがあります。夜のあいだに、地面や物の表面が熱を赤外線として空へ逃がして冷えたためで、これを放射冷却(ほうしゃれいきゃく)といいます。このページでは、放射冷却とは何か、よく冷える条件、しくみ(赤外線と大気の窓)、どれくらい冷えるかの計算例、昼間でも気温より冷える放射冷却素材、ものづくりで困ること(結露・霜)と使い道を、図で順に解説します。
放射冷却とは:ひとことで言うと
放射冷却とは
放射冷却は、地面や物の表面が、熱を赤外線(放射)として出して冷えることです。気象庁の予報用語では「地表面の熱が放射によって奪われ気温が下がること」とされています。福岡管区気象台の解説は、物体が熱を出して(放射)冷える(冷却)ことだと説明しています。
英語では radiative cooling です。

出典:福岡管区気象台、Wikipediaをもとに AI(Claude)で作成
物は、温度に応じた量の赤外線をいつも出しています。その量は表面の絶対温度の4乗に比例します(Wikipedia「放射冷却」。シュテファン=ボルツマンの法則)。昼は太陽の光を受けるので目立ちませんが、日が沈むと受ける熱が減り、出ていく熱のほうが多くなって表面が冷えていきます(この流れは編集部の補足)。
コトバンク(デジタル大辞泉)は、放射冷却を「晴れて風のない夜などに、地表から熱が放出されて地表付近の気温が下がる現象」とし、放射霧や遅霜、逆転層の原因になるとしています。
出典:予報用語「気温、湿度」|気象庁、はれるんマガジン「霜は晴れた日におりるのはどうして?」(2020年11月26日)|福岡管区気象台、放射冷却|コトバンク、放射冷却|Wikipedia

出典:でんじろう先生のはぴエネ!【公式】Mr. Denjiro's Happy Energy!(YouTube)
放射冷却が強くなる条件:晴れ・風が弱い・乾燥
放射冷却で冷え込みが強くなるのは、次のような夜です。
- 晴れている:雲や水蒸気は赤外線を吸収し、下向きに出し返して地面を暖める(Wikipedia「放射冷却」)。福岡管区気象台は、雲があると「布団をかけているときと同じように」地面が冷えにくいと説明している。ブリタニカ国際大百科事典(コトバンク)も、雲が多いと冷却は小さくなるとしている
- 風が弱い:風が吹くと、地面近くの冷えた空気がまわりの空気と混じり、冷え方が弱くなる(福岡管区気象台)
- 空気が乾いている:日本大百科全書(コトバンク)は、放射冷却は風が弱く晴れて乾燥した夜に特に著しいとしている
- 盆地:冷えた空気がたまるので冷却が強い(Wikipedia「放射冷却」)
冷え方は物によっても違います。熱容量や熱伝導率の小さい物、乾いた表土、新雪は強く冷えます(Wikipedia「放射冷却」)。近藤(2011)は、晴れた夜には気温と葉の表面の温度の差が最大5℃以上になりうるとしています。また福岡管区気象台によると、地上1.5mの気温が4℃くらいでも、地面の近くでは0℃以下になって霜がおりることがあります。気温の予報が0℃より高くても、上を向いた面は凍ることがあるわけです。
出典:放射冷却|Wikipedia、はれるんマガジン「霜は晴れた日におりるのはどうして?」(2020年11月26日)|福岡管区気象台、放射冷却|コトバンク、近藤純正「放射冷却―最低気温,結氷,夜露―」天気 2011年6月号|日本気象学会
霜・霧・逆転層との関係
放射冷却で地面や物の表面が0℃以下になると、車のフロントガラスや家の屋根、草などに霜がおります(福岡管区気象台)。また放射冷却が進むと、地表近くの空気が上空より冷たくなる逆転層ができ、放射霧も発生します(Wikipedia「放射冷却」)。気象庁の予報用語でも、逆転層には放射冷却などによるものがあるとしています。
霧が出ると、霧が赤外線を吸収するため、霧の下では放射冷却が弱まります(Wikipedia「放射冷却」)。農業では霜の害を防ぐために、煙で放射冷却を弱める、防霜ファンで風を起こす、水をまく、といった方法がとられます(福岡管区気象台)。
出典:はれるんマガジン「霜は晴れた日におりるのはどうして?」(2020年11月26日)|福岡管区気象台、放射冷却|Wikipedia、予報用語「気温、湿度」|気象庁
放射冷却のしくみ:赤外線と「大気の窓」

出典:SPACECOOL、スタンフォード大学をもとに AI(Claude)で作成
物が出す熱放射の量は、黒体(理想の物体)なら σT⁴ で、σ は約5.67×10⁻⁸ W/(m²・K⁴)です(コトバンク「シュテファン=ボルツマンの法則」)。実際の物はこれに放射率 εをかけた εσT⁴ を出します。放射率のくわしい意味と値は技術の基礎知識「放射率」で解説しています。
常温の物が出す熱放射は、おもに目に見えない赤外線です。ウィーンの変位則(ピークの波長 ≒ 2898μm・K ÷ 絶対温度)で計算すると、27℃(300K)の物の赤外線は約9.7μmでいちばん強くなります(編集部の計算)。
ここで大事なのが「大気の窓」です。空気中の水蒸気や二酸化炭素は多くの波長の赤外線を吸収しますが、波長8〜13μmの範囲は大気をよく通りぬけます。SPACECOOL の解説はこの範囲を「大気の窓」と呼び、2014年の Nature 論文も 8〜13μm の大気の透明な窓を使っています。常温の物がいちばん強く出す10μm前後の赤外線は、この窓を通って宇宙まで出ていけるので、晴れた夜はよく冷えるのです(この結びつけは編集部の補足)。
出典:シュテファン=ボルツマンの法則|コトバンク、SPACECOOLの技術|SPACECOOL、Raman ほか「Passive radiative cooling below ambient air temperature under direct sunlight」Nature 515(2014)|スタンフォード大学
どれくらい冷えるか:計算例

出典:コトバンク、日本気象学会、スタンフォード大学をもとに AI(Claude)で作成
10℃(283K)の面で、放射率を0.95とすると、出ていく赤外線は 0.95 × 5.67×10⁻⁸ × 283⁴ ≒ 約346W/m² です(編集部の計算)。ただし、空(大気)からも赤外線が返ってくるので、実際に失う熱はその差になります。
近藤(2011)によると、晴れた夜に地表面が失う正味の放射は60〜100W/m²程度で、大気が乾いていれば大きく、湿っていれば小さくなり、薄曇りでも小さくなります。上の例にあてはめると、空から返ってくるのは約250〜290W/m²です(出ていく量から正味の量を引いた編集部の計算)。
実際には、まわりの空気からは熱が伝わってくるので、表面の温度は気温より少し低いところで落ち着きます。近藤(2011)は、夜の地上の気温は地表面の温度よりおおよそ1〜3℃高いとしています。空気から伝わる熱の大きさは技術の基礎知識「熱伝達率」で解説しています。
出典:シュテファン=ボルツマンの法則|コトバンク、近藤純正「放射冷却―最低気温,結氷,夜露―」天気 2011年6月号|日本気象学会
昼間の放射冷却:放射冷却素材

出典:スタンフォード大学、SPACECOOLをもとに AI(Claude)で作成
放射冷却は夜だけのものではありません。太陽の光をほとんど反射し、大気の窓の赤外線をよく出す表面をつくれば、日なたでも気温より低くできます。
2014年に Nature に載ったスタンフォード大学の研究(Raman ほか)は、酸化ハフニウムと二酸化ケイ素を重ねた多層の膜で、入ってくる太陽光の97%を反射し、大気の窓で熱を出しました。850W/m²をこえる直射日光の下、屋上の実験で、気温より4.9℃低くなり、気温と同じ温度での冷却の能力は40.1W/m²でした。
こうした素材はフィルムや塗料として製品になっています。たとえば SPACECOOL 株式会社は、太陽光の反射率と放射率がともに〜95%(同社の技術ページ)の素材を「ゼロエネルギーで外気より低温にする新素材」として販売しています。同社の解説では、日射を反射する塗料を塗った鉄板でも、温度は外気温より10〜20℃高くなるとしています。
計算例:なぜ反射率が大事か
日射850W/m²のとき、反射率97%なら吸う熱は 850 × 0.03 ≒ 約26W/m²、90%なら約85W/m²、80%なら約170W/m²です(編集部の計算。図3の右)。論文の素材の正味の冷却は40.1W/m²でしたから、反射率が数%下がるだけで、吸う熱が冷やせる量と同じくらい増えてしまいます。昼間の放射冷却素材が、日の光を極端に高い割合で反射するようにつくられているのはこのためです(この読み取りは編集部の補足)。
出典:Raman ほか「Passive radiative cooling below ambient air temperature under direct sunlight」Nature 515(2014)|スタンフォード大学、SPACECOOLの技術|SPACECOOL、SPACECOOL 公式サイト|SPACECOOL
ものづくりと放射冷却:困ることと使い道

出典:福岡管区気象台、日本気象学会、SPACECOOLをもとに AI(Claude)で作成
困ること:晴れた夜の結露・霜
放射冷却で表面の温度が空気の露点より下がると、空気中の水蒸気が表面に水滴になってつきます。近藤(2011)は、湿度の高い夜は水蒸気が葉の表面に結露し(夜露)、0℃より低ければ霜になるとしています。風がまったくないと結露はほとんどなく、風が強いと表面が冷えないので、適度な風の夜に結露が最も多くなるとも書いています。
同じことは、屋外に置いた機器の箱、配管、屋根、車のガラスなど、空に向いた面でも起きます(車のガラス・屋根の霜は福岡管区気象台。機器・配管への当てはめは編集部の補足)。屋外の機器の結露・霜を防ぐには、上をおおって空が直接見えないようにする(雲が布団になるのと同じ考え方)、保温・断熱する、ヒーターで表面温度を露点より上に保つ、といった方法が考えられます(編集部の補足)。露点の求め方は技術の基礎知識「露点」、対策は課題「機械・配管・金型の表面の結露を防ぎたい」と課題「制御盤・筐体の中の結露を防ぎたい」で解説しています。
出典:近藤純正「放射冷却―最低気温,結氷,夜露―」天気 2011年6月号|日本気象学会、はれるんマガジン「霜は晴れた日におりるのはどうして?」(2020年11月26日)|福岡管区気象台
使い道:電気を使わずに温度上昇を抑える
昼間の放射冷却素材は、電気を使わずに日なたの温度上昇を抑えられるので、屋外の設備で使われ始めています。SPACECOOL は用途として、分電盤・空調室外機・制御盤などの屋外機器、倉庫・工場・事務所、ユニットハウス・コンテナ、トラック・バス、テント・日傘を挙げています。
2024年には北海道ガスが、屋外の遠隔監視制御盤に SPACECOOL を採用し、既存の約350か所の制御盤に取り付けると発表しました。夏場の高温アラートや装置の停止を避けるねらいです(イプロス)。
出典:SPACECOOL 公式サイト|SPACECOOL、北海道ガスの屋外遠隔監視制御盤に SPACECOOL を採用(2024年7月4日)|イプロスものづくり
似ている言葉:遮熱・断熱との違い
| 言葉 | 何をするか | 気温より冷えるか |
|---|---|---|
| 放射冷却 | 赤外線(おもに大気の窓の波長)で熱を空へ出す | 冷えることがある(夜は自然に。昼は放射冷却素材で) |
| 遮熱(日射反射) | 太陽の光を反射して、受ける熱を減らす | ふつうは気温より下がらない(日射反射塗料の鉄板も外気温より10〜20℃高い:SPACECOOL) |
| 断熱 | 熱が伝わりにくい材料で、熱の出入りを遅くする | 冷やす働きはない(温度差を保つ) |
表は、SPACECOOL の解説と、このサイトの断熱のページをもとに編集部がまとめたものです。放射冷却素材は、遮熱(反射)と、大気の窓での放射の両方を組み合わせたものといえます。断熱材の種類は技術「断熱材」で解説しています。
放射冷却が出てくるページ
出典
- 予報用語「気温、湿度」|気象庁
- はれるんマガジン「霜は晴れた日におりるのはどうして?」(2020年11月26日)|福岡管区気象台
- 放射冷却|コトバンク
- 放射冷却|Wikipedia
- 近藤純正「放射冷却―最低気温,結氷,夜露―」天気 2011年6月号|日本気象学会
- シュテファン=ボルツマンの法則|コトバンク
- SPACECOOLの技術|SPACECOOL
- Raman ほか「Passive radiative cooling below ambient air temperature under direct sunlight」Nature 515(2014)|スタンフォード大学
- SPACECOOL 公式サイト|SPACECOOL
- 北海道ガスの屋外遠隔監視制御盤に SPACECOOL を採用(2024年7月4日)|イプロスものづくり
※図は、出典の説明をもとに編集部がまとめた模式図です。
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。
情報の確認日:2026年10月30日
