紙に小さな切れ目を入れると、そこから簡単に破けます。金属の部品でも同じで、穴・溝・段・角のように形が急に変わる所では、まわりより応力がぐっと高くなります。これが応力集中です。このページでは、応力集中の意味、応力集中係数の式と代表的な値、計算例、くり返す力(疲労)とのかかわり、CAE で気をつけること、事故の例、設計で応力集中を小さくする工夫を、できるだけやさしく説明します。
ひとことで言うと
応力集中とは
応力集中は、穴・溝・段など形が変わる所で、局所的に応力が大きくなる現象です(ウィキペディア日本語版)。機械や構造物の疲労破壊やもろい壊れ方(脆性破壊)では、応力集中のある所が壊れる起点になることが多いとされています。
どれくらい集中するかは、応力集中係数(いちばん大きい応力 ÷ ふつうに計算した応力)で表します。広い板にあいた小さな円い穴なら、穴のふちの応力は離れた所の3倍になります(東京大学 泉聡志の資料)。

出典:東京大学 泉聡志をもとに AI(Claude)で作成
板を引っぱるとき、断面が一様なら応力は どこでも 力 ÷ 断面積 です。ところが円い穴があると、穴の左右のふちで応力が高くなり、穴から離れると元の応力に戻ります(泉聡志の資料)。平均の応力では安全に見えても、いちばん高い所から割れ始めるので、強度を考えるときに応力集中はとても大事です。世界大百科事典(コトバンク)も、形が急に変わる部分(切欠き)に周りより大きい応力が生じ、応力集中は構造の破壊の主要な原因だとしています。
応力のもとになる考え方は 基礎知識「応力とひずみ」にあります。応力集中は、ふつうの計算(力 ÷ 断面積、はりの曲げの式など)では出てこない「局所の上乗せ」と考えるとわかりやすくなります(編集部の解説)。
出典:応力集中|ウィキペディア日本語版、11. 応力集中係数と応力拡大係数(EASYσ の資料)|東京大学 泉聡志、応力集中(ブリタニカ国際大百科事典・百科事典マイペディア・世界大百科事典)|コトバンク
式:応力集中係数 α = 最大応力 ÷ 公称応力

出典:ウィキペディア日本語版、コトバンク、ウィキブックス、Wikipedia(英語)をもとに AI(Claude)で作成
応力集中の度合いは、応力集中係数 α = 最大応力 σmax ÷ 公称応力 σn で表します。記号は α や Kt を使い、形状係数とも呼びます(ウィキペディア日本語版)。公称応力は、応力集中がないとして計算したふつうの応力で、穴のあいた板なら「力 ÷ 穴で減った断面の面積」のように決めます。式を入れかえると、最大応力 = 公称応力 × 応力集中係数 です。
ウィキブックス「高等学校工業 機械設計」は、形状係数は材料には依存せず、切欠きの形(大きさや角度など)で決まるとしています。英語版ウィキペディアも、応力集中係数は形で決まり、大きさにはよらないとしています。つまり、相似な形で同じ力のかけ方なら、鉄でもアルミでも、大きい部品でも小さい部品でも、ほぼ同じ値です。ブリタニカ国際大百科事典(コトバンク)は、同じ形でも力のかけ方で値が違い、引張 > 曲げ > せん断 > ねじり の順に小さくなるとし、立体の問題ではポアソン比の影響を受けるがその影響は小さいとしています。
ウィキペディア日本語版は、公称応力の決め方には、穴などで減った断面の平均の応力を使う方法、切欠きの手前の一様な部分の応力(遠くの応力)を使う方法など、いくつかあるとしています。同じ形でも、公称応力の取り方で係数の数字が変わるので、表やグラフの値を使うときは、どの応力を基準にしているかを確かめます(編集部の解説)。
出典:応力集中|ウィキペディア日本語版、高等学校工業 機械設計/材料の強さ|ウィキブックス、Stress concentration|Wikipedia(英語)、応力集中(ブリタニカ国際大百科事典・百科事典マイペディア・世界大百科事典)|コトバンク
代表的な値:穴の形でこんなに変わる

出典:ウィキペディア日本語版、東京大学 泉聡志、Wikipedia(英語)をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成
円い穴は 3
広い板(無限に広い板として計算)にあいた円い穴を遠くから一様に引っぱると、穴のふちの応力は遠くの応力の3倍になり、応力集中係数は3です。この値は穴の大きさによりません(ウィキペディア日本語版、泉聡志の資料)。
楕円の穴:1 + 2a/b
楕円の穴では、力と直角の向きの半径を a、力の向きの半径を b とすると、α = 1 + 2a/b です。穴のいちばんとがった所の丸みの半径 ρ(= b²/a)を使うと α = 1 + 2√(a/ρ) とも書けます(ウィキペディア日本語版、泉聡志の資料。英語版ではイングリスの式として紹介)。a=b なら円で3、力と直角に2倍長い楕円(a/b=2)なら5、力の向きに長い楕円(a/b=0.5)なら2です(編集部の計算)。泉聡志の資料は、ρ が小さくなると α が急に大きくなるとしています。
き裂は「無限大」
き裂は、楕円の b をゼロに近づけた形と考えられます。ウィキペディア日本語版は、き裂の先では応力が無限大になり、応力集中係数も無限大になるので、最大応力だけでは強さを議論できず、破壊力学の応力拡大係数という考え方が必要になるとしています。英語版も同じく、とがったき裂の先には応力集中係数を使えないとしています。
このほか、幅の決まった板(帯板)の円い穴では、穴が板の幅に比べて大きくなるほど α は3から下がり、穴の直径が板の幅に近づくと2になります(泉聡志の資料。穴で減った断面の応力を基準にした場合)。泉聡志の資料は、一般に応力集中係数は2〜5程度のことが多いとしています。

出典:東京大学 泉聡志をもとに AI(Claude)で作成
出典:応力集中|ウィキペディア日本語版、11. 応力集中係数と応力拡大係数(EASYσ の資料)|東京大学 泉聡志、Stress concentration|Wikipedia(英語)
計算例:穴のふちの応力と、細長いすき間

出典:東京大学 泉聡志、ウィキペディア日本語版をもとに編集部が計算し、AI(Claude)で作成
① 穴のふちの応力を出す
幅 50mm・厚さ 5mm の鋼の板の中央に、直径 10mm の穴があいているとします。10kN(10,000N)で引っぱると、穴で減った断面の面積は (50 − 10) × 5 = 200mm² なので、公称応力は 10,000 ÷ 200 = 50N/mm² です。穴の直径 ÷ 板の幅 = 0.2 なので、上の帯板のグラフから α は約2.5。穴のふちの最大応力は 50 × 2.5 ≒ 125N/mm² になります(編集部の計算。α はグラフからの読み取り)。
穴がない板なら、応力は 10,000 ÷ (50 × 5) = 40N/mm² です。穴で断面が減った分(40→50)よりも、応力集中による上乗せ(50→125)のほうがずっと大きいことがわかります(編集部の計算)。
② 同じ横幅でも、細長いすき間はずっと怖い
横幅(力と直角の向き)が同じ 10mm でも、円い穴(a=5mm、b=5mm)なら α = 1 + 2 × 1 = 3、高さ 2mm の細長いすき間(a=5mm、b=1mm の楕円とみなす)なら α = 1 + 2 × 5 = 11 です(広い板の楕円の式で比べた編集部の計算)。力と直角に細長い傷やすき間は、同じ大きさの円い穴の約3.7倍も応力を集中させることになります。小さな傷やき裂が危ないのはこのためです。
出典:11. 応力集中係数と応力拡大係数(EASYσ の資料)|東京大学 泉聡志、応力集中|ウィキペディア日本語版
くり返す力では「切欠き係数」で考える

出典:MONOistをもとに AI(Claude)で作成
くり返し力がかかる部品は、応力集中のある所から疲労き裂が生まれやすくなります(英語版ウィキペディア)。疲労を考えるときは、応力集中係数 α ではなく切欠き係数 β(切欠きのない部材の疲労強度 ÷ 切欠きのある部材の疲労強度)を使います。MONOist の連載(高橋良一)は、切欠き係数は実験でしか求められず、α とは同じ値にならないとしています。疲労の基本は 基礎知識「疲労限度(S-N曲線)」にあります。
同じ連載は、昔の実験の図をもとに、SS400 のような軟鋼では α が2以下なら α と β は一致するが、それより大きいと β は頭打ちになり、焼入れした合金鋼では α が3.5以上で頭打ちになるとしています。また、引張強さが大きい材料ほど β が大きくなることにも注目するよう書いています。つまり、強い材料ほど切欠きの影響を受けやすい(β が大きい)ということです。
このため、同じ連載は次のような注意を挙げています(例は筆者の図の読み取り)。
- 角の R を大きくして最大応力を 350MPa から 210MPa に下げ、α を5から3にしても、軟鋼では β がどちらも 2.4 なので、疲労破壊するという予測は変わらないことがありうる
- 疲労で壊れた部品を、形を変えずに焼入れした合金鋼に変えても、切欠きを考えた疲労強度は思ったほど上がらない(連載の例では1.38倍)。強度区分12.9のボルトでも破断することがある
- 疲労の安全率は「材料の疲労強度 ÷ β」と、応力集中を含まない応力(公称応力)で比べる。CAE の最大応力(応力集中を含む)と材料の疲労強度で比べると、結果として β の代わりに α を使ったことになり、過剰な設計(材料費の上昇)になる
出典:高橋良一「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(8)応力集中があるときの金属の疲労強度」2024年7月8日|MONOist、Stress concentration|Wikipedia(英語)
CAE で気をつけること:とがった角の応力特異点

出典:MONOistをもとに AI(Claude)で作成
CAE(有限要素法)で部品の応力を計算すると、角の応力がとても高く出ることがあります。MONOist の連載(高橋良一)は、角の R がゼロに近づくと応力集中係数が無限大に近づき、R がゼロの角は、要素を細かくするほど計算値が無限大に近づくとし、このような点を応力特異点と呼んでいます。固定した面の端(はりの根元など)でも同じことが起きるとしています。
このため、とがった角や固定端の最大応力の数字は、メッシュの細かさしだいで変わってしまい、そのまま強度の判断には使えません。実際の形に合わせて R を付けたモデルで計算するか、応力集中を含まない応力で評価します(編集部の解説)。同じ連載の第8回は、応力の分布をまっすぐに延ばして最大応力の位置での値を求める「ホットスポット応力」を公称応力の代わりに使い、切欠き係数で評価する方法を紹介しています。CAE の全体像は技術「CAE(構造解析・熱流体解析)」にあります。
出典:高橋良一「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(6)CAEソフトに仕掛けられた2つ目のトラップ『応力特異点』を解決する」2024年6月11日|MONOist、高橋良一「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(8)応力集中があるときの金属の疲労強度」2024年7月8日|MONOist
応力集中が事故の起点になった例

出典:Wikipedia(英語)をもとに AI(Claude)で作成
英語版ウィキペディアは、応力集中が大きな事故につながった例を挙げています。ジェット旅客機デ・ハビランド コメットでは、窓のまわりの打ち抜いたリベット穴による高い応力集中から疲労き裂が育ち、機体が壊れたとしています。四角い客室の窓も、予想より高い応力集中を持っていたことがわかったとしています。
リバティ船(第二次世界大戦中に大量に造られた輸送船。編集部の補足)では、大西洋の寒い冬の嵐の中で、ハッチ(荷の出し入れ口)の角からもろい割れ(脆性破壊)が起きたとしています。低い温度では材料のねばり強さ(靭性)が下がるので、角の形と材料の両方を考える必要があります(編集部の補足。靭性は 基礎知識「靭性(シャルピー衝撃試験)」)。
出典:Stress concentration|Wikipedia(英語)
ものづくりでどう効くか:応力集中を小さくする工夫

出典:Wikipedia(英語)、ウィキペディア日本語版をもとに AI(Claude)で作成
英語版ウィキペディアは、応力集中を小さくする方法として、内側の角に丸み(フィレット)を付ける、補助の穴を加えて力の流れの変わり方をゆるやかにする、ねじの部分の手前に逃げ(アンダーカット)を付ける、き裂の先に穴をあけて先の丸みを大きくする(き裂止めの穴)、穴のまわりに強い材料のリングを貼って補強する、穴の形を円から楕円に変える(できるかどうかの検討が要る)、などを挙げています。
角の R はできるだけ大きく
楕円の式 α = 1 + 2√(a/ρ) が示すように、とがった所の丸みの半径 ρ が小さいほど α は大きくなります(ウィキペディア日本語版)。段付きの軸や板、キー溝、溝の底では、ほかの部品と当たらない範囲で角の R を大きくとると、応力集中を下げられます。ただし、上で見たように、R を大きくしても疲労に対する強さがそれほど上がらないことがあるので、効果は切欠き係数や試験で確かめます(編集部の解説、MONOist の連載)。
穴や溝を、応力の高い所に置かない
穴や溝、刻印などは、曲げの応力がいちばん大きい所や、くり返し力がかかる所を避けて置くと、上乗せされた応力が小さくすみます。力と直角に細長い傷は特に危ないので、表面の傷や加工の跡にも気をつけます(編集部の解説。表面の仕上げは 基礎知識「表面粗さ(Ra・Rz)」)。
壊れた部品の調べ方にも
割れた部品は、多くの場合、穴・角・溝・段などの応力集中のある所から割れ始めます(ウィキペディア日本語版の「破壊の起点になることが多い」をもとにした編集部の解説)。壊れた原因を調べるときは、まず起点の位置と形を見ます(課題「壊れた原因を知りたい」・「繰り返し荷重・熱サイクルで割れる」)。軽くするために肉を削るときも、角や穴の応力集中が強度を決めることが多くなります(課題「薄く軽くすると強度が足りない」)。
出典:Stress concentration|Wikipedia(英語)、応力集中|ウィキペディア日本語版、高橋良一「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(8)応力集中があるときの金属の疲労強度」2024年7月8日|MONOist
似ている言葉との違い

出典:ウィキペディア日本語版、MONOistをもとに AI(Claude)で作成
ひずみ集中係数は、最大ひずみ ÷ 公称ひずみです。ウィキペディア日本語版は、弾性の範囲では応力集中係数と等しいが、材料が降伏して塑性変形すると違ってきて、塑性で応力集中はゆるむが、ひずみ集中はゆるまないとしています。応力拡大係数は、き裂の先の応力の強さを表す破壊力学の量で、応力集中係数が無限大になるき裂のときに使います(同)。切欠き係数は、疲労強度の下がり方を表す、試験で決まる値です(MONOist の連載)。
安全率とのかかわり:静かな力で、伸びのある材料(延性材料)の部品なら、局所的に降伏して応力集中がゆるむので、平均の応力で考えることもあります。一方、もろい材料や、くり返し力がかかる部品では、応力集中を考えに入れる必要があります(編集部の解説)。安全率と許容応力は 基礎知識「安全率」にあります。
出典:応力集中|ウィキペディア日本語版、高橋良一「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(8)応力集中があるときの金属の疲労強度」2024年7月8日|MONOist
応力集中が出てくるページ
出典
- 応力集中|ウィキペディア日本語版
- 11. 応力集中係数と応力拡大係数(EASYσ の資料)|東京大学 泉聡志
- 応力集中(ブリタニカ国際大百科事典・百科事典マイペディア・世界大百科事典)|コトバンク
- 高等学校工業 機械設計/材料の強さ|ウィキブックス
- Stress concentration|Wikipedia(英語)
- 高橋良一「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(8)応力集中があるときの金属の疲労強度」2024年7月8日|MONOist
- 高橋良一「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(6)CAEソフトに仕掛けられた2つ目のトラップ『応力特異点』を解決する」2024年6月11日|MONOist
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品ではありません。
情報の確認日:2026年10月8日
