断熱圧縮は、気体を、外との熱の出入りがない状態で圧縮することです。圧縮に使った仕事の分だけ気体の内部エネルギーが増え、温度が上がります。「圧縮断熱」と書かれることもあります。このページでは、温度が上がる理由、計算のしかた、ディーゼルエンジンや空気圧縮機、射出成形、高圧酸素のバルブなど、ものづくりで出てくる場面を順に説明します。
断熱圧縮とは:ひとことで言うと
断熱圧縮(だんねつあっしゅく)
外へ熱が逃げないまま気体を押し縮めると、気体の温度が上がるという変化です。逆に、熱の出入りなしで、外へ仕事をしながら気体が広がると温度が下がり、これを断熱膨張といいます。

出典:コトバンク「断熱変化」をもとに AI(Claude)で作成
「断熱」は、断熱材を巻いてあるという意味に限りません。熱力学では、外部との熱の出入りなしに起きる状態の変化を断熱変化と呼びます。ふつうの機械でも、圧縮がとても速ければ、熱が外へ逃げる時間がほとんどないので、断熱に近い変化になります。
身近な実験:ファイアピストン
筒の中に小さな綿を入れ、ピストンを急に押し下げると、中の空気が圧縮されて熱くなり、綿が発火します。大学の物理や化学の実験で、ファイアピストン(圧縮発火器)として紹介されています。テンプル大学の実験の解説は、ディーゼルエンジンの原理に似ているとしています。
出典:断熱変化|コトバンク(デジタル大辞泉・化学辞典 第2版・世界大百科事典ほか)、Fire Piston(I5-22)|メリーランド大学 物理学科、Fire piston|テンプル大学 化学デモ
なぜ温度が上がるのか:等温圧縮との違い

出典:コトバンク「断熱変化」をもとに AI(Claude)で作成
ピストンで気体を押すと、気体は外から仕事を受けて、そのぶんエネルギーが増えます。理想気体では、内部エネルギーは温度だけで決まるので、内部エネルギーが増えると温度が上がります。断熱圧縮では熱の逃げ道がないので、受けた仕事がそのまま内部エネルギーの増加になり、温度が上がります。
熱力学の第一法則で書くと、内部エネルギーの増加 ΔU は、もらった熱 Q と受けた仕事 W の和です(ΔU = Q + W)。断熱では Q = 0 なので、ΔU = W になります。
| 等温圧縮 | 断熱圧縮 | |
|---|---|---|
| 外との熱の出入り | 仕事の分を熱として外へ出す | なし |
| 気体の温度 | 変わらない | 上がる |
| 圧力と体積の関係 | PV = 一定 | PVγ = 一定 |
| 近い状況 | ゆっくり圧縮する、よく冷やす | 速く圧縮する |
等温圧縮と断熱圧縮は、どちらも考えやすくした理想の変化です。実際の機械の圧縮は、この2つのあいだになります。
出典:断熱変化|コトバンク(デジタル大辞泉・化学辞典 第2版・世界大百科事典ほか)
断熱圧縮の式

出典:コトバンク「断熱変化」をもとに AI(Claude)で作成
気体を理想気体と考えると、断熱変化では次の関係が成り立ちます。γ(ガンマ)は比熱比で、定圧比熱を定容比熱で割った値です。空気の比熱比は約 1.4 です。
| 求めるもの | 式 |
|---|---|
| 圧力と体積 | P1V1γ = P2V2γ |
| 温度と体積 | T1V1γ−1 = T2V2γ−1 |
| 温度と圧力 | T2 = T1 ×(P2 ÷ P1)(γ−1)/γ |
温度 T は、セ氏(℃)ではなく絶対温度(K)で入れます。世界大百科事典は、乾燥空気の (γ−1)/γ を約 0.286 としています。これは γ ≒ 1.4 にあたります(0.4 ÷ 1.4 ≒ 0.286)。
体積を4分の1にしたとき、等温なら圧力は4倍ですが、断熱なら 41.4 ≒ 7 倍です。温度も上がるぶん、同じ体積まで押すのに高い圧力が必要になります。
出典:断熱変化|コトバンク(デジタル大辞泉・化学辞典 第2版・世界大百科事典ほか)
計算例:20℃ の空気を 8 倍の圧力まで圧縮する

出典:コトバンク「断熱変化」をもとに AI(Claude)で作成
T2 = 293.15 × 80.2857 ≒ 531 K で、セ氏にすると約 258℃ です。圧力比を変えて計算すると、次のようになります。

出典:コトバンク「断熱変化」をもとに AI(Claude)で作成
| 圧力比 P₂ ÷ P₁ | 圧縮後の温度(計算値) |
|---|---|
| 2 倍 | 約 84℃ |
| 4 倍 | 約 162℃ |
| 8 倍 | 約 258℃ |
| 16 倍 | 約 374℃ |
| 30 倍 | 約 502℃ |
はじめの温度を 20℃、γ = 1.4 とし、熱の出入りがない理想気体として計算した値です。ゆっくりした理想的な断熱変化の式で計算しています。実際の機械では熱が逃げるので、この値より低くなることが多くあります。
圧力比と圧縮比は別のもの
エンジンでは、圧力の比ではなく体積の比(圧縮比 ε)で表します。このときは T2 = T1 × εγ−1 を使います。同じ「16」でも、圧力比 16 倍なら約 374℃、圧縮比 16 なら約 615℃ で、意味が違います。どちらも 20℃ から計算した値です。
ものづくりで断熱圧縮が出てくる場面
断熱圧縮は、うまく使えば役に立ち、気づかないと不良や事故の原因になります。ディーゼルエンジンは熱を利用する例、ほかの多くは熱を抑えたい例です。
| 場面 | 起きること | 扱い方 |
|---|---|---|
| ディーゼルエンジン | 圧縮した空気の熱で軽油が自然に着火する | 利用する |
| 空気圧縮機 | 吐出する空気の温度が上がる | 冷却する、途中で冷やす |
| 射出成形 | 閉じ込められた空気で樹脂が焼ける | 空気の逃げ道を作る、射出を遅くする |
| 高圧酸素のバルブ | ガスケットなどが発火することがある | ゆっくり開ける、配管を清浄にする |
| 水素の充填 | タンクの中の温度が上がる(圧縮などによる) | 水素を先に冷やす |
| 油の中の気泡 | 気泡がつぶれて油が劣化する | 劣化の原因を調べる |
ディーゼルエンジン:圧縮の熱で着火する

出典:ウィキブックス「ディーゼル機関」をもとに AI(Claude)で作成
ディーゼル機関は、ピストンで空気を圧縮して高温高圧にし、そこへ燃料を噴射して自然に着火させます。高校の工業の教材をまとめたウィキブックスは、圧縮比を 12〜24、圧縮後の温度を 500〜600℃ としています。
圧縮比 16 を上の式に入れた約 615℃ は、吸気を 20℃ とし、熱が逃げない場合の計算値です。実際の温度は、吸気の温度や熱の逃げ方で変わります。
空気圧縮機:吐出空気が熱くなる

出典:J-Net21「省エネ Q&A」、コトバンク「圧縮機」をもとに AI(Claude)で作成
J-Net21 は、単段の汎用コンプレッサーで 20℃ の大気を吸って 0.7 MPaG まで上げる例を挙げています。圧縮比(圧力の比)は 7.9 で、計算では 256℃ ですが、実際には冷却があるので 170〜190℃ 程度です。
世界大百科事典は、多段の圧縮機では段のあいだに冷却器(中間冷却器)を付けて、気体の温度を下げ、駆動動力を減らすとしています。図は編集部が理想気体で計算した例で、実際の機械の値ではありません。この計算では、熱を逃がすほど必要な仕事は等温圧縮の値に近づきます。機種の選び方は技術:コンプレッサーで説明しています。
出典:省エネ Q&A(空気圧縮機の吸込み温度)|J-Net21(中小企業基盤整備機構)、圧縮機|コトバンク(世界大百科事典ほか)
射出成形:ガス焼け

出典:三菱エンジニアリングプラスチックス「成形加工ガイド」、府中プラ「射出成形 ガス焼け対策ガイド」をもとに AI(Claude)で作成
金型の中の空気が逃げられないと、流れてくる樹脂に押されて圧縮され、高温になります。三菱エンジニアリングプラスチックスの資料は、最終充填部や盲ボス、リブにガスがたまり、断熱圧縮で樹脂が焼けるとし、高速で充填するときに特に起きやすいとしています。
対策は、空気の逃げ道(エアーベント)を設けることです。同じ資料は、金型の合わせ面に深さ 0.01〜0.03 mm 程度の細い空気抜きを付ける例を挙げています。府中プラの解説は、充填の終盤に射出速度を落として、ガスが抜ける時間を作るとしています。ほかの外観不良も含めた対策は課題:射出成形の外観不良を減らしたいで説明しています。
出典:ユーピロン/ノバレックス 成形加工ガイド|三菱エンジニアリングプラスチックス、射出成形 ガス焼け対策ガイド|府中プラ
高圧酸素:バルブの急開による発火

出典:大陽日酸技報 No.27をもとに AI(Claude)で作成
高圧の酸素でバルブを急に開けると、バルブの下流にあったガスが、上流の高圧ガスに押されて、行き止まりの部分などで断熱的に圧縮され、ガスケットなどが自然に発火することがあります。大陽日酸技報は、高圧酸素の発火事故は公表されている事例だけで毎年数件あるとしています。
神奈川県の事故事例では、充塡圧 14.7 MPa の酸素ボンベの元バルブが硬く、力を入れたところ急に開いて、圧力調整器のあたりから火花が出ました。作業者はやけどを負いました。原因は、圧力調整器の入口のフィルター部での、断熱圧縮による温度上昇と、切粉などの可燃物の衝突エネルギーと考えられています。
| 実験・事例からわかる対策 | 内容 |
|---|---|
| ゆっくり開ける | PCTFE のガスケットの実験では、3秒以上かけて開けると発火が減った(Nylon66 は 10 秒でも、15 MPa で約2割が発火した) |
| 下流に先に圧力をかける | バルブの下流の配管に先に圧力をかけておくと、発火が大きく減った |
| 異物を取り除く | 配管に有機材料の異物を入れると発火の頻度が大きく上がった |
実際の作業は、ガスのメーカーの説明書と事業所の決まりに従ってください。バルブの種類については技術:バルブで説明しています。
出典:土屋茂「高圧酸素供給における安全技術の確立」大陽日酸技報 No.26(2007)、「高圧酸素供給における安全技術の確立(第2報)」大陽日酸技報 No.27(2008)、高圧ガス事故事例情報シート H30-47 酸素ボンベ用圧力調整器破損事故|神奈川県
燃料電池車の水素充填:タンクの温度が上がる
燃料電池車のタンクに水素を急いで入れると、タンクの中の水素の温度が急に上がります。充填のあいだ、タンク内のガスは 85℃ を超えないようにする決まりがあります。そこで、水素を先に冷やして(プレクール)から入れます。ここで挙げた出典は、この温度上昇を「断熱圧縮」とは呼んでいません。タンクの中のガスの圧縮のほかに、流れ込むガスが持ち込むエネルギーも効くためです。
JRC の報告は、速く入れるほど温度が上がるとし、充填の国際的な基準(SAE J2601)の入口温度の例に −40℃ を挙げています。水素エネルギー協会の記事は、近年のステーションが 70 MPa・−40℃ 程度で充填する傾向にあるとしています。
出典:Effect of pre-cooled inlet gas on temperature evolution during refuelling(2014)|欧州委員会 共同研究センター(JRC)、水素ステーションにおけるプレクール装置の出口温度・圧力の推定(熱工学コンファレンス 2010)|日本機械学会、海外の水素ステーション(水素エネルギーシステム 35巻3号、2010年)|水素エネルギー協会
油の中の気泡:マイクロディーゼル
潤滑油などに混ざった小さな気泡が、低圧の部分から高圧の部分へ移ると、急につぶれて高温になることがあります。これをマイクロディーゼルと呼びます。業界誌の Precision Lubrication Magazine は、5 μm 未満の気泡で理論上 1000℃ を超えうるとし、油の黒ずみやスラッジの原因に挙げています。ただし同じ記事は、タービン油では消泡剤の分解が根の原因で、マイクロディーゼルはその結果だと述べています。油の管理については技術:潤滑油で説明しています。
出典:Microdieseling in Turbine Oils|Precision Lubrication Magazine
逆の変化:断熱膨張で温度が下がる

出典:コトバンク「断熱変化」、仙台管区気象台「雲ができる仕組み」をもとに AI(Claude)で作成
気体が広がるときは、外へ仕事をしたぶん内部エネルギーが減って、温度が下がります。これが断熱膨張です(くわしくは基礎知識:断熱膨張)。空気が上昇すると周りの気圧が下がるので膨張して冷え、水蒸気が水や氷のつぶになって雲ができます。仙台管区気象台の教材は、持ち上げられた空気は 100 m で約 1℃ 冷えるとしています。世界大百科事典は、乾燥断熱減率を 100 m で約 1℃、湿潤断熱減率を 100 m で約 0.5℃ としています。水蒸気が水になるときに熱を出すので、雲の中では冷え方がゆるくなります。
出典:断熱変化|コトバンク(デジタル大辞泉・化学辞典 第2版・世界大百科事典ほか)、雲ができる仕組み|仙台管区気象台
エアコン:圧縮と膨張を組み合わせる

出典:MONOist「カーエアコンの冷房はなぜ冷えるのか」をもとに AI(Claude)で作成
エアコンの冷媒は、圧縮機で高温高圧になり、凝縮器で熱を捨てて液体になります。そのあと膨張弁の小さな穴を通って急に広がり、低温低圧になって、蒸発器でまわりの熱を吸います。圧縮機の側は、圧縮で温度が上がる例です。膨張弁の側は、圧力が下がって冷媒の一部が蒸発することで温度が下がるので、気体が仕事をして冷える断熱膨張とは少し違います。冷媒は途中で液体と気体のあいだを変わるので、空気の計算式はそのまま使えません。しくみの続きは基礎知識:ヒートポンプで説明しています。
宇宙機の再突入:圧縮で空気が熱くなる
高速で飛ぶ物体の前では、空気が圧縮されて温度が上がり、物体の表面を加熱します。これを空力加熱といいます。大気圏に再び入る宇宙機が熱くなるのは、この現象です。辞典には圧縮のほかに摩擦の作用を挙げるものもあるので、圧縮だけが原因というわけではありません。
出典:空力加熱|コトバンク(デジタル大辞泉・世界大百科事典ほか)
断熱圧縮の話が出てくるページ
出典
- 断熱変化|コトバンク(デジタル大辞泉・化学辞典 第2版・世界大百科事典ほか)
- Fire Piston(I5-22)|メリーランド大学 物理学科
- Fire piston|テンプル大学 化学デモ
- 高等学校工業 原動機/ディーゼル機関|ウィキブックス
- 省エネ Q&A(空気圧縮機の吸込み温度)|J-Net21(中小企業基盤整備機構)
- 圧縮機|コトバンク(世界大百科事典ほか)
- ユーピロン/ノバレックス 成形加工ガイド|三菱エンジニアリングプラスチックス
- 射出成形 ガス焼け対策ガイド|府中プラ
- 土屋茂「高圧酸素供給における安全技術の確立」大陽日酸技報 No.26(2007)
- 「高圧酸素供給における安全技術の確立(第2報)」大陽日酸技報 No.27(2008)
- 高圧ガス事故事例情報シート H30-47 酸素ボンベ用圧力調整器破損事故|神奈川県
- Effect of pre-cooled inlet gas on temperature evolution during refuelling(2014)|欧州委員会 共同研究センター(JRC)
- 水素ステーションにおけるプレクール装置の出口温度・圧力の推定(熱工学コンファレンス 2010)|日本機械学会
- 海外の水素ステーション(水素エネルギーシステム 35巻3号、2010年)|水素エネルギー協会
- Microdieseling in Turbine Oils|Precision Lubrication Magazine
- 雲ができる仕組み|仙台管区気象台
- カーエアコンの冷房はなぜ冷えるのか|MONOist
- 空力加熱|コトバンク(デジタル大辞泉・世界大百科事典ほか)
※図は、出典の説明をもとに編集部がまとめた模式図です。計算の値は、空気を理想気体として編集部が計算したものです。
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品・装置ではありません。
情報の確認日:2026年11月4日
