真空ポンプや真空装置の仕様に出てくる「真空度」。真空度が高いほど、圧力は低いという、ことばと数字の向きが逆になるところでつまずきやすい用語です。このページでは、真空度とは何かを、区分・単位の換算・絶対圧とゲージ圧・測り方・使い道の順に説明します。
真空度とは:ひとことで言うと
真空度
真空の程度を、圧力で表したものです。単位はふつう Pa(パスカル)を使います。
中の気体を抜くほど圧力は下がり、「真空度が高い」=「圧力が低い」になります。

出典:Wikipedia「真空」をもとに AI(Claude)で作成
「真空」の定義
真空というと「何もない空間」を思い浮かべますが、JIS Z 8126-1 の定義は「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態」です。つまり、気体が少しでも残っていて、大気圧より低ければ真空です。Wikipedia「真空」によると、人工的に作れる真空の限界は約 10⁻¹¹ Pa で、それでも 1 cm³ に数千個の分子があります。
「高い・低い」を取り違えない
「真空度が高い」は圧力の数字が小さいことを指します。圧力の数字が大きくなると「真空度は下がる」ので、仕様を読むときは数字と言い方の向きが逆になることに気をつけます。
出典:JIS Z 8126-1:1999 真空技術-用語-第1部:一般用語(kikakurui.com の掲載ページ)、真空|Wikipedia
真空の区分:低真空から超高真空まで

出典:Wikipedia「真空」、JIS Z 8126-1:1999をもとに AI(Claude)で作成
| 区分 | 圧力の範囲 | 同じ気圧になる大気の高さ |
|---|---|---|
| 低真空 | 100 kPa〜100 Pa | 地上〜約60 km |
| 中真空 | 100 Pa〜0.1 Pa | 約60〜90 km |
| 高真空 | 0.1 Pa〜10⁻⁵ Pa | 約90〜250 km |
| 超高真空 | 10⁻⁵ Pa 以下 | 約250 km 以上 |
表は Wikipedia「真空」に載っている ISO 3529-1 による区分です。JIS Z 8126-1 の1999年版も同じ境目で、1 nPa(10⁻⁹ Pa)以下を極高真空と呼ぶこともあるとしています。
資料によって境目が違う
超高真空より先の呼び方は、資料によって違います。たとえば SFI 研修会資料32 は、超高真空を 10⁻⁵〜10⁻⁸ Pa、極高真空を 10⁻⁸ Pa 以下としています。JIS Z 8126-1 は2021年に改正され、2019年に改正された ISO 3529-1 に合わせたものです。厳密に区分を使うときは、最新の規格で確かめます。実務では、区分の名前より圧力の数字で伝えるほうが確実です。
出典:真空|Wikipedia、JIS Z 8126-1:1999 真空技術-用語-第1部:一般用語(kikakurui.com の掲載ページ)、SFI 研修会資料32「真空管と真空パック」(光和商事 掲載の PDF)、吉田肇「JIS Z 8126-1:2021 真空技術―用語―第1部:一般用語の改正」|表面と真空 65(8)(J-STAGE)
単位の換算:Pa・Torr・mbar

出典:Wikipedia「エヴァンジェリスタ・トリチェリ」、Wikipedia「トル」をもとに AI(Claude)で作成
真空の圧力は Pa で表すのが基本ですが、古い資料や海外の資料には Torr(トル)や mbar(ミリバール)が出てきます。1 気圧は 101325 Pa、760 Torrです。
| 単位 | Pa にすると | メモ |
|---|---|---|
| 1 atm(標準大気圧) | 101325 Pa | 1013.25 hPa、760 Torr |
| 1 kPa | 1000 Pa | |
| 1 hPa | 100 Pa | 天気予報の気圧の単位。1 mbar と同じ大きさ |
| 1 mbar | 100 Pa | 1 bar は 10⁵ Pa |
| 1 Torr | 約 133.322 Pa | 101325÷760。1 mmHg と数値が同じ |
換算してみる
1×10⁻³ Torr は、1×10⁻³ × 133.322 ≒ 0.13 Pa です(中真空)。1×10⁻³ mbar は、1×10⁻³ × 100 = 0.1 Pa です。Torr と mbar では、同じ数字でも約1.3倍の違いがあります。
Torr の名前の由来
Torr は、イタリアのトリチェリにちなむ単位です。トリチェリは1643年ごろ、水銀を満たしたガラス管を水銀の皿に立てる実験で、水銀柱が約76 cm で止まり、その上に真空ができることを示しました(実験の年は資料により1643年と1644年があります)。大気の圧力が水銀を押し上げている、という考え方につながりました。なお Wikipedia「トル」によると、日本の計量法でトルを使えるのは生体内の圧力の計量に限られます。
出典:気圧|Wikipedia、トル|Wikipedia、バール (単位)|Wikipedia、エヴァンジェリスタ・トリチェリ|Wikipedia
絶対圧とゲージ圧

出典:Wikipedia「圧力」をもとに AI(Claude)で作成
圧力には、ゼロの決め方が2通りあります。絶対圧は完全な真空をゼロ、ゲージ圧は大気圧をゼロとします。Wikipedia「真空」も、真空度の仕様を見るときは、どちらの書き方かを確かめるよう注意しています。絶対圧なら数字が小さいほど真空度が高くなります。ゲージ圧ではマイナスの数字で表すことが多く、マイナスが大きいほど真空度が高くなります(正の数で「ゲージ圧真空度」と書く場合もあります)。
計算してみる(標準大気圧 101.3 kPa の場合)
ゲージ圧 −90 kPa の絶対圧は、−90 + 101.3 = 11.3 kPa です。ゲージ圧 −101.3 kPa が、絶対圧 0 kPa(完全な真空)に当たります。
大気圧はいつも同じではありません。Wikipedia「気圧」によると、富士山頂の気圧は計算上、約0.7気圧です。ゲージ圧の読みが同じでも、場所や天気で絶対圧は変わるので、低い圧力を正しく扱うには絶対圧で考えます。
出典:圧力|Wikipedia、真空|Wikipedia、気圧|Wikipedia
圧力を下げると、何が変わるのか

出典:大岩烈の資料(日本表面真空学会のサイトに掲載)をもとに AI(Claude)で作成
分子が次の分子にぶつかるまでに飛ぶ距離の平均を、平均自由行程といいます。圧力に反比例するので、圧力が半分になると約2倍に伸びます。日本表面真空学会のサイトに掲載されている資料の値は次のとおりです(いずれも目安の桁です)。
| 圧力 | 1 cm³ の分子数 | 平均自由行程 | 表面の第一層が気体分子で覆われるまで |
|---|---|---|---|
| 大気圧 | 約10¹⁹ 個 | 約0.1 μm | — |
| 10² Pa | 10¹⁶ 個 | 0.1 mm | — |
| 10⁻³ Pa | 10¹¹ 個 | 1 m | 1 秒 |
| 10⁻⁷ Pa | 10⁷ 個 | 10 km | 約10⁴ 秒(約3時間) |
平均自由行程が、粒子を飛ばす距離(たとえば真空蒸着の蒸発源から基板まで)より十分長くなると、飛ばした粒子が途中で気体分子にぶつかりにくくなります。また圧力を下げるほど、きれいな表面が気体分子で覆われるまでの時間が延びます。真空蒸着で高い真空度が求められる理由の1つが前者、表面分析で超高真空が使われる理由の1つが後者です。なお Wikipedia「平均自由行程」は大気圧の値を約68 nm としており、表の 0.1 μm は桁の目安です。資料によって数倍の差があります。
出典:大岩烈「表面分析技術者のための超高真空技術基礎」(日本表面真空学会 掲載の PDF)、平均自由行程|Wikipedia
真空度の測り方:真空計

出典:Wikipedia「ピラニ真空計」、Wikipedia「電離真空計」、伯東の製品紹介をもとに AI(Claude)で作成
Wikipedia「真空計」によると、1台で大気圧から高真空まで測れる真空計はありません。そのため、方式の違うものを組み合わせた製品があります。
| 方式 | しくみ | 測れる範囲の例 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| ブルドン管・隔膜など(機械式) | 圧力そのものを測る | 製品により異なる | 読みが気体の種類によらない。高真空の領域では使えないものがある |
| ピラニ真空計 | 細い金属線の熱が気体に奪われる量から測る | 約0.1 Pa〜2 kPa(解説の例) | 気体の種類で読みが変わる |
| 電離真空計 | 気体を電離させ、流れる電流から測る | 熱陰極で約1 Pa〜10⁻⁵ Pa(解説の例) | 気体の種類で読みが変わる。圧力が高いとフィラメントの消耗が早い |
測れる範囲は製品で違います。たとえばピラニ真空計の下限は、解説の例では約0.1 Pa、製品の例では 10⁻² Pa です。カタログの値を確かめ、気体の種類で読みが変わる方式では、測る気体に注意します。
出典:真空計|Wikipedia、ピラニ真空計|Wikipedia、電離真空計|Wikipedia、真空計(デジライン)の製品紹介|伯東(イプロス)、SFI 研修会資料32「真空管と真空パック」(光和商事 掲載の PDF)
ものづくりでどう使うか

出典:SFI 研修会資料32をもとに AI(Claude)で作成
圧力の差を使う:吸着・包装
真空パッドで部品をつかむ搬送では、パッドの中の圧力を外より低くして、外の圧力でパッドを押し付けます。パッドの内外の圧力の差が大きいほど、保持する力は大きくなります。真空包装も低真空の使い道です。
沸点が下がるのを使う:乾燥・熱処理
液体は、飽和蒸気圧がまわりの圧力と等しくなる温度で沸騰します。そのため圧力を下げると沸点が下がります。Wikipedia「真空」によると、気圧の低い富士山頂では水は約88 ℃で沸騰します。フリーズドライは、凍らせたあとに減圧し、氷を液体にせず水蒸気に変えて(昇華)乾かします。
| 圧力 | 水の沸点 |
|---|---|
| 2 気圧程度 | 120 ℃ 程度(圧力鍋の原理) |
| 1 気圧 | 約 100 ℃ |
| 70 kPa | 約 90 ℃ |
衝突を減らす:薄膜
真空蒸着では、10⁻³〜10⁻⁴ Pa 程度の真空度が必要とされています(資料によっては、一般に 10⁻² Pa とするものもあります)。蒸発した材料の分子が、基板に届く前に残った気体の分子にぶつかるのを防ぐためです。SFI 研修会資料32 は、超高真空を半導体の回路の製造に、極高真空を表面分析に必要なものとして挙げています。
熱を伝えにくくする:魔法瓶
魔法瓶は、二重の壁の間を真空にして、気体による熱の移動を抑えています。ガラス製は真空側を鏡面にして、熱放射も反射します。
出典:ロボットによる吸着把持の原理と仕組み いまさら聞けない 真空吸着搬送(前編)|MONOist、SFI 研修会資料32「真空管と真空パック」(光和商事 掲載の PDF)、沸点|Wikipedia、真空|Wikipedia、フリーズドライ|Wikipedia、真空蒸着|Wikipedia、魔法瓶|Wikipedia
真空度の話が出てくるページ
出典
- JIS Z 8126-1:1999 真空技術-用語-第1部:一般用語(kikakurui.com の掲載ページ)
- 真空|Wikipedia
- SFI 研修会資料32「真空管と真空パック」(光和商事 掲載の PDF)
- 吉田肇「JIS Z 8126-1:2021 真空技術―用語―第1部:一般用語の改正」|表面と真空 65(8)(J-STAGE)
- 気圧|Wikipedia
- トル|Wikipedia
- バール (単位)|Wikipedia
- エヴァンジェリスタ・トリチェリ|Wikipedia
- 圧力|Wikipedia
- 大岩烈「表面分析技術者のための超高真空技術基礎」(日本表面真空学会 掲載の PDF)
- 平均自由行程|Wikipedia
- 真空計|Wikipedia
- ピラニ真空計|Wikipedia
- 電離真空計|Wikipedia
- 真空計(デジライン)の製品紹介|伯東(イプロス)
- ロボットによる吸着把持の原理と仕組み いまさら聞けない 真空吸着搬送(前編)|MONOist
- 沸点|Wikipedia
- フリーズドライ|Wikipedia
- 真空蒸着|Wikipedia
- 魔法瓶|Wikipedia
※図は、出典の説明をもとに編集部がまとめた模式図です。換算と計算の例は編集部によるものです。
※アイキャッチ画像は、AI(ChatGPT)で生成したイメージです。実在の製品・装置ではありません。
情報の確認日:2026年11月2日
